ジャージは国木田に持ってきてもらった。
ハルヒには、腹痛で保健室に行った、心配する必要はないと伝えてもらって。



「はい、キョン」
「サンキュ。明日昼飯奢るわ」
「これだけでいいの?ラッキーだな」
「次もサボるから頼むわ」
「夜はちゃんと寝た方がいいよ」




いまだに俺が眠すぎてサボっていると思われているらしい。





「ほらよ、古泉」
「ありがとう、ございます。ちゃんと洗濯をして返します」
「明日体育あるから、持ってきてくれよ」
「はい、勿論です」


地肌にジャージか・・・と思うと変な感じがする。
とりあえず今日はとっとと帰れ、その姿だと目立つだろう。







頼まれて裏門までは送って、
俺は一人、部室に戻る。
何をどう考えればいいのか分からない。あれは事実だった。
俺はどうしたらいいんだ。


あいつを、助けられるのか?
助けたいのか?
分からない。
しばらく様子を見よう、
なんてのは都合のいい言葉で結局は何もしないということだ。
けど今は分からない、すまん、古泉。






Player -2





次の日、坂の下で俺を待っていた古泉は、
青空のごとく爽やかな笑顔でジャージを渡してきた。
ご丁寧にクリーニングに出されている。
よかったな、マイジャージ。
こんなことがなければあと1ヶ月はそのままだったぜ。
昨日はさすがにずっと顔を赤くして伏せ目がちだったが、
今日はもう大丈夫そうだな。


さて、
今日くらいは真面目に、授業を受けるか。











昼休み、
生徒会室に呼ばれた。
知らない生徒が、ハルヒが食堂へ走ったのを確かめた後に呼びに来たのだ。
古泉の携帯に電話をかけても繋がらず、
とてつもなくいやな予感がしたが、
昼飯も食わずに向かった。




会長の話を聞いた以上の後悔をする事になろうとは予想もしていなかったんだ。








「会長、連れてきました」
「入りたまえ」



予感は大きくなるばかりで、
生徒会室の扉が壊れて開かなければいいのに、
そう思ったのも束の間で、扉が開き・・・




背中を押されて鍵をかけられる、
俺は今すぐに逃げ出したくなった。



やめてくれ。
こんな古泉を、
見たくない。



「ようこそ、歓迎しよう。ほら古泉、特別ゲストのお出ましだ」



教卓よりもでかい生徒会長用の机に、
上半身だけを乗せて、
その顔は涙で濡れてぐちゃぐちゃになっていた。
後ろには見たことのない男子生徒がいる。
何をしているかなんて一目瞭然だった。
会長は古泉の髪を掴んで顔を上げさせ、俺に向けた。



古泉はうつろな目を少しだけ開いて、
それまで以上に涙を流した。



「見な、いで・・・見ないでくださいっ・・・!!」




見たくないんだ、俺も。
だけど両手を捕まえられて、首まで固定されちまってるんだ、いつの間にか。



「昨日古泉が逃げ出したらしくてな。もう一度教えてやっているよ、
 こいつだって楽しんでいることを」




楽しんでる?
これが?
後ろから乱暴に犯されて、泣きながら涎を垂らしているこいつが?




「やめてくれ、見ていられない」
「そう言うな。これからだ」



後ろの男が離れる。
会長は髪を引いて古泉を俺の前まで連れてきた。



「いや、いやです、この人にだけは、見せないで・・・!」
「でも感じるんだろう?古泉。さあ、続けろ」
「い、や、あっ、あうぅぅっ!」



床に両手と膝をついた古泉にまた、先ほどの男が覆い被さる。




「見えるだろ?古泉の体が。先ほどのでは見難かっただろうからな」




楽しそうに俺に問いかけてくる、

見たくない、

見たくなんかなかった。


古泉。
確かに古泉の体は、こんなことをされているのに、反応していた。



「み、ないで、みないで、おねがい、ですっ・・・」
「さっさとイかせてやれ」
「やめ、やめて、ぼ、く、っく・・・!
 あ、や、やあっ・・・ああう、ん、ふ、あああっ」




男の動きが早まる。
上げられた古泉の目は、もう俺を写していない。






何も言えない、
こんな状況で俺が何を言ったって無駄だ。
後になれば、この時大声を出して誰かを呼べばよかったとか、
誰かに気付かれないとしても古泉の意識を戻してやればよかったとか、
思う、けど、
この時は何も考えられなかったんだ。




「気持ち良いんだろう、古泉」
「あ、あ、あぁっ、あううっ」
「見られてても感じるんだよな?」
「や、いや、あ、んああっ」
「ほら、イくときの顔を見せてやるといい」





ただただ、後ろからそうされているだけで、
俺から見たって乱暴にしか見えない行為で、
顔を真っ赤にして泣きながら俺の目の前で、



「あっ、あ、あ、あああうっ・・・!!」



古泉は、射精した。
床に落ちた白濁の液体は、古泉の体から糸を引いて垂れている。








腕の力をなくした古泉はその場に突っ伏して、
それを見た会長は喉の奥を鳴らして笑った。



「分かったかね?古泉が楽しんでいるということを」



無力だった、
何もできない、
頷くしか、なかった。



「理解してもらえて嬉しいよ。君の理解が得られなければ、
 涼宮に来てもらおうかと思っていたんだ。
 貴重な昼休みを潰してすまなかったな、下がっていい」




腕を引かれたまま生徒会室を追い出され、
鍵が閉まる音がした。

その部屋からまた古泉の悲鳴がかすかに聞こえた、

確かに、

助けて、

と。







なのに俺は今、教室にいる。
二日連続でサボれない、今日ほど具合が悪い日もないのに。


寝てるフリをしてハルヒの呼びかけを無視した。
授業なんか何も聞いていなくて、
教科書の音読を三回指示されてやっと気付いた。
いつ読み終わったかも分からない。
ただ終わった後に、


無性に、泣きたくなった。









「古泉くん、遅いわ。副団長としてなってないわね、無断で遅刻なんて」
「掃除当番とかじゃないんですか?」
「9組の清掃は終了していた」
「でしょ?学校中を掃除したってこんなには遅くならないわ」



放課後の部室、

先に言ってやれば良かった、
あいつが帰った理由ならいくつだって作れるのに。


今日は来ないだろう、そしてハルヒはこの不機嫌具合だ、
閉鎖空間だって発生しちまう。
分からない分からない。
もう何も考えられない。









「遅くなってすみません」


予想に反して、古泉が、来た。
なんで、来るんだ。
反射的にドアの方向を見ると、いつもの笑顔で古泉が頭を下げている。


「バイト先から電話がありまして、突然、今日来て欲しいと。
 僕としては部活動を優先したい旨、お伝えしていました」
「そうだったのね、それなら許すわ!
 今日は古泉くんにお願いしたいことがあったのよ」
「何なりとお申し付けください」
「もうすぐ梅雨じゃない。あたしはじめじめしたのが嫌いなの!
 だから梅雨のない・・・」
「ははあ・・・なるほど・・・」





いつもと、同じだ。
何も、違わない。


あんな姿を俺に見られたのに、
ショックじゃないのか?
いくら演技だって、あの後に笑ったりできるものなのか?
涙のあとも見えない。
ただ前髪が少しだけ濡れている。
目を冷やすために水をつけたんだろう。
あれは確かに、あったのに、
どうして、笑うんだ。







お前、
まさか、
本当に、
楽しんでるのかよ。










毎日古泉は笑顔だった。
あれ以来メールは来ない。
二人きりにもなっていない。なろうと思わない。
そして俺は古泉を直視できなくなった。
目を合わせるなんて無理だ。
ゲームもしていない、
古泉は弱いから相手にならないと、長門に付き合わせている。
逆に強すぎて相手にならなかったが、古泉とやるよりはましだ。
話しかけられても目を逸らしてすぐに打ち切った。




そんな不自然な状況を、団長が見過ごすわけも、なかったんだが。


「あんたたち、喧嘩でもしてるの?」


俺と古泉を交互に見てハルヒは声を張り上げた。
そして俺に指を突きつける。


「特にキョン!いつも古泉くんを無視してるでしょ」
「なんだよ、別に、してねーよ」
「誤魔化す気?そうはいかないわ。どう見てもおかしいもの」
「あ、あたしも気になってましたあ・・・」


ついハルヒに向けた目線をそのまま朝比奈さんに向けてしまった。
睨まれた朝比奈さんは泣きそうな顔をして震える、
ああ、すみません、そんなつもりでは。


「涼宮さん、本当に喧嘩なんてしていませんよ」
「ダメよ。仲直りしなさい。みくるちゃん、有希、帰るわよ!
 二人は仲直りするまで帰っちゃダメ!」



朝比奈さんと長門の腕を引いて出ようとするハルヒを見て、
俺は慌てて椅子から立ち上がった。



「ハルヒ、待て!」
「何よ」
「いや・・・その、勘弁、してくれ」
「バカなこと言わないで!SOS団の秩序は守らなきゃダメなんだからっ」
「だけどな、」
「言い訳は聞かないわ!じゃあね!」






強く閉まった扉、
遠ざかる足音。
にぎやかだった部室にあっという間に静寂が訪れた。
立ち上がったまま、動けない。
古泉と話すことなんて何もないし、
古泉を見ることすらできる自信がない。


帰りたい、のに、
鞄は古泉がいるほうに置いてある。
国木田に借りた映画のDVD、今夜妹に見せると話していたから、
持って帰らないわけにはいかない。




「あの、」




話しかけるな。
何も言わないでくれ。
俺はお前と、話したくないんだ。




「少しだけ、話せませんか」




椅子を引く音。
二つ分聞こえる。
無理だ無理だ。
話せない。
向かい合うこともできない。
できない。




そのまま首を強く、横に振った。




空気が震える。
古泉の、小さな声が聞こえる。
何か言ってるわけじゃない。
泣いて、いるんだ。




足音がかすかに近付いてくる、



「こっちに来るな!」




強く制すると、足音が、止まる。




何だって、俺は、こんな。




拳を握る力をさらに強めて、意を決して振り向いた。
さっさと鞄を持って、帰りたい。
そう思って。



ぼろぼろと涙を零している古泉がこちらを見てくる、
その顔を視界に捉えると何とも言いようのない感情が広がる。
見ないでくれ。
そんな顔で、見るな。



古泉の横を無言で通り過ぎて鞄に手をかけようとして、
もう片方の袖を掴まれた。



「す、こしで、いいですから、はな、しをっ・・・」



震えた声、そんなの、聞かせるな。
話なんてできない、
何を聞いたって、
俺はお前に何もできないんだよ。





「・・・離せ」
「僕、あ、のっ」
「離せよ!」



焦燥感にかられてほぼ無意識に古泉を突き飛ばした。
予想外に軽いその体は簡単にぐにゃりと曲がって、
本棚に激突して、その拍子に落ちてきた本が、古泉に降りかかった。



「あ、っう・・・!」
「古泉っ!」




駆け寄ったときにはもう遅くて、赤く腫れた手で、
頭を抱えている。
どうして無駄に厚い本ばかりあるんだ、ここには。



「古泉、頭、大丈夫か」



血は、出ていない。
大丈夫、だろうか、




「・・・っ!」



頭を抱えていた腕が伸びてきて、
俺の首に、絡まる。



「こ、いずみっ、手、離、」
「嫌わないで、嫌わないで、嫌わないで・・・」





肩に顔をうずめて、泣いている。




古泉の声を聞いたら、押し返そうとした腕に力が入らなくなった。
なんて言えばいいかずっと考えてるんだ、
俺は何をどうしたらいいのか、
何をどうしたいのか、ずっと考えてたんだ。



俺・・・・・は。




「なあ・・・・古泉」
「はいっ・・・はい」
「お前さ、」



息を飲む。
鼓動が、早まる。









「俺とも、やれるのか?」




震えていた古泉の体がぴたりと止まった。





これで古泉が、俺を味方だと思うことを諦めれば、
それでいいと思った。
俺は何も、できないから。
お前を本気で助けようという気持ちに、なれないから。
わけもわからない奴らに立ち向かえるほど、
強い気持ちが持てないから。
お前を嫌いなわけじゃない。
そうじゃないんだ。

俺はただの、人間なんだよ。





首に絡まっていた腕がほどけていく。
その手はするりと、ネクタイへと伸びた。


少しだけ涙を拭って、
無理やり笑って、



「できますよ」



笑って。
ネクタイを外して、俺の目にあててきた。



「なんだ、よ」
「見ないほうがいいと思いますから」
「なんで・・・」
「力を抜いて、横になっていてください」




ベルトが外される。
手は自由なのに、動けない。
俺が言い出したことなのに、
こうなることも、
心のどこかでは、予想できていたはず、なのに。




「・・・っく・・・!」



暖かい、舌の感触を下腹部に感じる。
本やDVDでしか、見たことがない。他の人間に触られたことすらない。
いきなり、舌かよ。
まとわりつくようなその動きに、体がすぐに反応した。


「こい、ずみっ」



何をさせてるんだ、俺は。古泉だぞ、相手は。
だけ、ど、
気持ち、いい。



舐める音の他に、違う水音が聞こえる。
何をしているのかは、見えないから分からない。
たまに、離れた口から、吐息が漏れるのが分かるくらいだ。




丁寧に舐め続ける古泉の口の中に、出してしまいそうになって、
そのときに唇が離れていって、俺も息を吐いた。


「おい、古泉・・・」
「は、い・・・すぐ、ですから・・・」



古泉が上に乗ってくるのを感じる。
そしてすぐ後に、何かに、押し当てられる感覚を。



「あ、うっ・・・!!!」
「こ、いっ・・ず、み」



体の中に入る、感触だ。
何かでぬるぬるとしている入り口は、少しきつくて、
入る瞬間、痛みを感じた。でもすぐに、消える。
そこから力が抜けて、何度も何度も、
熱くて、たまらなく気持ちがいい場所へ、
出し入れを繰り返された。



「う、く、っう・・・!」
「は、ああ、あうう、ん、あああっ」




さっきだって直前だったんだ、我慢なんか、できるか。
腕で上体を起こして、座るような姿勢に変えた。
そして頭の後ろで結ばれているネクタイも解く。
見えないことで余計に、おかしくなりそうだったから。


最初に見えたのは繋がっている部分で、
信じられないことに、一番根元まで、古泉の体の中に入り込んでいた。



「み、みちゃ、だめ、ですっ、は、あ、ああっ」




出しそうになって、古泉の顔を見て、一瞬思いとどまった。
頬も耳も真っ赤に染めて、涎を垂らして、
泣きながら、必死に喘いでいる。






楽しそうなんかじゃない。
体が反応していたって、
苦しそうにしか、見えない。






それなのに、俺は、駄目だ。
理性でそう思っても、体に感じる刺激で、もう、我慢できない。



「こい、ずみ、俺、」
「は、いっ、ぼく、も・・・僕も、もう、」



ずるり、と引き抜いて、古泉は俺に背を向けて、
ひざをついた。




「向かい、合っていると、かけて、しまいますから・・・
 後ろから、してください・・・」
「俺、やり方、わかんねえよ」
「大丈夫、ここに、入れて、動けば、いいですから」



言われたとおりにあてがうと、するりと俺を受け入れた。
動物的本能なのか、動き方もなんとなく分かって、
細い、白い腰を掴んで、
乱暴に体を打ち付ける。
聞こえてくる声は、どうしようもなく、刺激的だった。



「ああっ、ん、んうっ、も、だ、だめですっ・・・!!」



ひときわ高い声で、言うと、
古泉の体が一気に硬直して、締め付けられた。
さすがにその刺激には勝てるわけもなく、
俺もそのままの状態で、出した。
腰に、指の痕がつくくらい、強く掴んで。












しばらくは頭がぼんやりしたまま、
机上のティッシュペーパーで体を拭いてベルトを締めてから、
後ろから、箱ごと古泉に向けた。



「拭いた方が、いいぞ」


結構ひどい格好に、なってる。




古泉は座り込んだまま動かない。
近寄ると、口を手で強くおさえて、
声が出ないように堪えながら、泣いているのが分かった。
乾いていた木製の床は、
零れ落ちた大量の涙で濡れている。







俺は古泉を、裏切った。
たぶんこいつは俺を、信頼していたのに。
一番ひどいやり方で、傷つけた。

だけど今更謝ったり、できない。
何をしても何を言っても意味はない。




「古泉、平気か」



平気なわけがないだろうと、自分でも思う。
ほかに何かかける言葉は、なかったのか。


なのに古泉はこくこくと何度も頷いた。




しばらく隣で黙ったまま座っていて、
ようやく泣き止んだ頃に、
もう一度ティッシュを差し出した。
顔も体も自分で拭いて制服を整えてから、
古泉はまた無理やり、笑顔を作り、
途切れ途切れの声で、言った。






「明日からは、普通に、話してくだ、さい・・・」 






ああ、



俺は何となく、
古泉があいつらに気に入られている理由が、分かった、気がした。







thank you !

とことん駄目展開ですみません。変態的で・・・。
会長もキョンも駄目ですみません。

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