古泉の意識が戻るのを待っていると、テーブルの上の携帯が震えた。
俺のじゃない。
古泉の、を、
咄嗟に手に取り、誤って通話ボタンを押してしまう。



『古泉?』
「あ、いえ、違います」
『その声は・・・』



電話の相手には思い当たる節があった。
森、園生さん。
古泉が属する機関の一人。
あっちもすぐに分かったらしい。
どうしてここにいるか、
それも大体、理解しているような反応だ。



『古泉が迷惑をおかけして、すみません』
「いや・・・迷惑、ってことは・・・」
『意識が戻り次第折り返すようメモを残してもらえますか。
 それだけで構いません。新川をそちらにやるので、家まで送らせます』
「ちょっと、待ってください。古泉が目を覚ますまでは見てるつもりです」
『・・・そうですか・・・』







機関に逆らえないと古泉は言っていた。
それなら、俺が頼み込むしかない。
森さんなら俺も何度か話したことがあるし、
古泉とも親しそうに見えた。
聞いてくれるかもしれない、そんな、望みをかけて。



古泉が目を覚まさないようにいったん外に出てから森さんとの会話を続ける。
どうせ会長に直接文句を言いに行ったって、何にもならない。
仮に奴一人を説得出来ても他を抑制するには至らないだろう。
根本的に解決するためには、
組織の中に古泉の味方を作らなければ。







Last Player











「お久しぶりですね」
「はい」
「どうぞ。車に乗ってください。誰かに聞かれると困りますから」
「それは・・・」
「ここからは動きません。ご心配なく」



アパートの前まで来た森さんの車の助手席に乗り込む。
部屋に残したままの古泉が気になるが、
何かあればすぐに行けるから、まずは、森さんとの話からだ。



「単刀直入に聞きますけど」
「どうぞ」
「古泉が北高で何をされているか、知ってますよね」
「はい。把握しています」
「・・・何か、して、やらないんですか」
「彼らは私たちの協力者です。協力してもらうためには代償が必要になる。
 今回はそれが古泉なんです」







それは一番、聞きたくない言葉だった。
言い方も、
表情も、
古泉がそうであることを覆そうという雰囲気が、ない。






「古泉は納得しているんです。話し合った結果ですから。
 あなたに甘えているのは、やめさせなければいけないんですが。
 迷惑をかけているでしょう? ごめんなさい」





笑いもせずに淡々と事実だけを言ってくる。


知っていて何も出来ないが、止めようという気持ちはある、
それを願っていた。
俺に出来ることなどたかが知れているが、
力を合わせればどうにか出来るかもしれないと淡い期待を抱いていたんだ。


だが現実はこうだ。
この人は、あれを、容認している。




SOS団に古泉を加入させた時からそれは決まっていた。








「超能力だけじゃなく、あの子は生まれつき、才能があるようですから」







俺が、
古泉を助けようとこれ以上思わせないように、なのか、
森さんは、聞きたくない話を、聞かせてきた。











古泉に両親がいない理由も。
その"才能"が、発覚した事件も。
それからの、機関での扱われ方も。
会長に聞かされたのよりもずっとひどかった。



















「・・・目が覚めたみたいですね」



重たい頭を上げると、
ドアから古泉が顔を覗かせているのが見える。
この車はちょうど見えにくい場所にあるから、
俺の姿は確認できない。
髪も、顔も、ぐちゃぐちゃのまま、必死に何かを探している。


たぶん、俺を。











目が覚めたのは、
古泉のことを言っているのか、
それとも俺か。












古泉を助けてやれる望みがあるとしたら、
他には・・・本当に、最後の手段しかない。
ハルヒ、しか。
だが、
これをあいつに言えるか?
この事実を受け止められるか?
あいつは古泉を大事に思っている、それは、疑いようがない。
しかし・・・それとこれとは、次元が違う。
受け止めるには重すぎる。
古泉を助けられずに、
下手をすると古泉がいたことすら、なかったことにされたら。


そんな博打には乗れない。


























「家まで送りましょうか」
「・・・・・・」
「もう関わらなくて結構です。彼女がいる時さえ接してもらえれば」




























何も言わずに車を降りた。




かけてやる言葉もないのに、部屋に戻る。
まだ鞄は部屋の中だ。




それに、




















「あ・・・・・・・・・」


















誰が何を言ったって、
古泉が、お前らの前では納得したようにしたって、
どんな事情があったって、



俺はこいつが傷ついてるのは知ってる。



















「おかえり、なさい」















毎日、一人で泣いてるのも。































結局今日は泊まることにした。
狭いベッドに男二人で横になる。
何かしないといけないのではと指を伸ばしてくる古泉を抱き締めて。



「・・・・!!!!」




これは同情だ。
雨に濡れている子犬を連れてきた経験が、
俺にも妹にもある。
そのたびに連れ戻す羽目になったが。
同じような感情を、古泉に抱いているにすぎない。




「・・・・・・っ、う・・・・・・」






腕の中で驚いて体を強張らせた後は、
ただただ、小さな声で泣いていた。

半端な同情が古泉のためにならないと知っていても、
ただこの瞬間だけでも慰められるなら、
少しでも安心させられるなら、
俺に出来るのは、そのくらいしかないから、そうする。










賭けに出てお前がいなくなるのは困る。
お前とこれ以上関わらなくないなんて選択肢は端からない。 

























「いつまでかかる?」
「え・・・?」
「お前の任務はいつまでなんだ」
「卒業まで、とは・・・聞いています」



あと一年半か。
長いな。
一年半後の俺がどうなっているかなんて想像もつかん。
だが今の俺の気持ちだけで言おう、













それまではそばにいる。

お前が辛くなったらこうする。

他にもしてほしいことがあって、

俺が出来るなら、してやる。



お前の人生に踏み込んだ、その代償に。











「そ、そんな・・・申し訳、ないです、そこまで、していただくような」
「うるさい。嫌なのかよ」
「まさか・・・、嬉しいに、きまって、ます」
「ならそうしろ。大したことをするわけじゃない」







他の奴にめちゃくちゃにされるのを、許せる自信はない。
持つ権利もない独占欲で、
お前に苛つく日も、あるかもしれない。

駄目になったらその時だ。
過度な期待はしないでくれ、所詮は凡人だ。
けど、駄目にならなかったなら。




卒業と同時にお前をかっさらって、
どこへでも連れて行ってやるよ。
その時お前がまだ、
俺に対して今抱いている気持ちを持っていれば、
俺も、そうなら。
その時ようやく、互いにこの想いを言えばいい。
















これしかできない無力な自分が情けないのに、
古泉は、嬉しそうに、泣いた。
礼を言いながら。




















お前を助けたい、
守ってやりたい、
この気持ちが、
どうか消えないように、願う。









そして最後にただ一人残るプレイヤーが、俺であるようにと。









thank you !


お、終わらせたー!
もっとひどい話にするつもりだったんだけどな・・・
キョンと古泉がくっつき出すと第三者にひどいことさせられない(´・∀・`)

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