HB









着せ替え人形なんか、興味ないわ。
つまらないもの。
ただ綺麗に着飾るだけの女の子と、
きらきらした目の、どこかの王子様。
どうせいつか飽きちゃうか、壊れちゃうか、どちらかでしょ。



夜な夜な化け物と闘ってるとか、
そんな、特別な力を持っているなら、話は別だけど。





Doll

「今……なんて?」 囲碁を箱にしまい、蓋をかぶせようとした手を止め、 古泉はきょとんとした表情で俺を見ている。 対する俺はもう中身の入っていない湯飲みを口元にあて、 どうしようもなく恥ずかしくなって熱の上がっている顔の表面を見られぬよう、 腕をなるべく上にやる。 都合の悪い内容ほど忘れないくせに、 肝心なところで聞き漏らすなよ。 また言わせる気か? やっと部室で二人きりになれて、 お前がこの間見つけて嬉しそうに抱えてきた囲碁の相手をしてやって、 もちろん俺が勝ったがお前はやっぱり楽しそうで、 今しかない、と勇気を振り絞って言ったんだぞ。 声は、小さかったかもしれんが。 本当は聞こえていたんだろ? 「すいません。聞き漏らしてしまいました」 「くっ……」 「もう一度、言って下さい。なんでしょう?」 お前が囲碁を見て笑っていたから言えた。 注目されてる状態では非常に口にし辛い。 だが……このまま言わずにいられるものか。 どうせ我慢できない。 古泉。 お前が反射する夕日が眩しすぎるぜ。 そのまま笑いながら聞いてくれるか? 「あのな」 「はい」 「……お前が好きだ」 「……?」 聞こえただろ、今度は。 なのになんで、首を傾げたまま何も言わない。 僕もです、 なんて俺に都合のいい返事は期待していないが、 何か、反応してくれ。 気恥ずかしさから目線を逸らし、ポケットに入れていたお守りを握り締める。 中学のときの修学旅行で行った先の神社で、 「将来君の役に立つかもしれないよ。こういうものは期限が一年なのだけど、 信じるものは救われるというしね」 買った友人に無理やり押し付けられたものだ。 ふと思い出して持ってきてみたが、やはり、効果は消えていたか……。 「何か言えよ」 「はあ……何かとは、たとえば何でしょう」 「あのな……」 気遣いだけは出来すぎる奴だと思っていたんだが違ったのか? あきれて溜息が出たが、 俺だけに向ける笑顔がかわいいもんだから、 やっぱり、好きだ。 「嬉しいけどあなたの気持ちには応えられないとか、 男に好きだなんて気色悪いとか」 「ああ、なるほど。そういう好きですか」 「解ってなかったのかよ」 「あなたには嫌われていると思っていましたから」 「な……なんで」 「だって、僕が近付くと逃げるでしょう。中々目を合わせてくれませんし」 言わないでくれ。 告白した後だ、それらが全部意識したせいの行動だとすぐに読めるだろ、 お前に近付かれると、見つめられると、緊張するんだよ。 「で、どうなんだ」 「そうですね……。光栄ですよ、とても」 「……」 「僕から想われることを、希望していますか?」 なんだ、その質問は。 俺がイエスと言えば好きになってくれるのか。 そんなの、ちっとも好きじゃないのと同じだ。 お前が聞いてくる時点で答えは出ている。 そうだよな。 お前が俺に、興味を持つはずもないよな。 宇宙人未来人超能力者と団長様の輪の中に、 ひとりだけ紛れ込んだ一般人に、 多少の興味は沸いても、俺が抱くような感情は出てこないだろうさ。 「悪かったな。変なこと言って」 「いえ、僕は、構いませんが」 「……。好きでいてもいいか」 「あなたがそう望むなら」 と、いうようなことがあったのが、数ヶ月前。 ハルヒたちが部室にいれば、古泉は副団長らしい振る舞いをするのだが、 俺と二人きりになると途端に気が抜けるらしい。 ぼんやりとした目で俺の動きを追い、 何をしても、拒まない。 「なあ、キスしたい」 「はい、どうぞ」 「目閉じてろよ」 「はい」 気持ちが向けられていないのにやることさえやれりゃあいいのか俺、 と何度も自問したぜ。 古泉をそういう目で見て好きになったんじゃない。 こいつがいつも正面に座るから、見ているうちに好きになっちまっただけだ。 本人に自覚があるのかどうだが知らんが、 いつも笑ってるくせにふと寂しそうな顔をする。 ハルヒが楽しそうに叫んでいても、 朝比奈さんの新衣装を披露されても。 一度気になり始めたら、そこからは止まらなくなった。 だから俺は、 お前を気にかけてる奴がここにいるんだぞと伝えられれば、 それで古泉の気が少しでも軽くなればいいと思った。 決して、キスとか、体を目的に告白したわけじゃない。 だが。 「ん……ふ」 「古泉、もっと、舌伸ばせ」 「ふあ……い」 癖になって、やめられん。 古泉は俺の言う通りにする。 ハルヒさえいなければ、俺がこいつにとっての神様にでもなったかのように、 願ったとおりの行動を取ってくれる。 好きな相手が、だぞ。 俺がもっと大人なら、冷静に考えて慎んだだろうが、 これでも高校生なんだ。 沸き上がる欲望を抑えるすべなど、知らん。 「……気持ちいいか?」 「はい……」 「トイレ、行くか」 「はい」 夕日が傾きかける時間になれば、この旧棟にはほとんど生徒は残っていない。 男子トイレの個室がひとつ、閉まりっぱなしになっていても誰も気にしないということだ。 鍵を閉めてからは、物音に耳をすませつつ、 古泉の腰に手をかける。 制服はそのままでシャツだけを引っ張り出し直接肌に触れ、 頬が高潮してきたあたりで再度口を重ねる。 ゆっくり、時間をかけて、古泉がもっと、よくなるように。 「ん、んん」 「勃ってきたな」 「ふあ……」 「一緒に、やろうぜ」 下だけ、足首のところまで脱いで、古泉のに擦りつける。 太股を撫でて、キスをしながらそうしていると、 すぐに先端から白いもんが滲んでくる。俺も古泉も。 俺だけでなくこいつも気持ちいいんだ、と思うと、 握る指に思わず力がこもるな。 気持ち的には俺の方が大きいのは言うまでもないが、 体で言えば、古泉の方が敏感だ。 男で早いのは情けないと思うかもしれない。 しかし、古泉が敏感なのは、俺にとっては悦び以外のなにものでもない。 膝の力が抜けて立っていられなくなった古泉を、 便座に座らせ、垂れてきた液体を絡めて擦る。 古泉の手は肩に乗せられ、 「は、あ、あうっ」 小さな声を上げるたびにぎゅっと掴んでくる。 かわいいな、お前。 めちゃくちゃかわいいな。 普段のお前を好きになったけど、 こうしてるときのほうが好きだ。 ますます、お前が好きになる。 「ぼ、ぼく、い、いくっ……」 「ああ」 「あ、あ、あう……!!」 同い年なのに、普段はお前のほうがしっかりしてるのに、 こうするときだけは、子どもみたいになるよな。 高い声出してさ。 俺に甘えるみたいに抱きついて。 赤く火照った唇に吸い付いているうちに、 俺も、古泉と同じように達した。 「シャツにかかっちまったな、すまん」 「帰ったらすぐに洗いますから、平気ですよ」 「その、洗濯、手伝おうか」 「? 大丈夫です、このくらいなんともありません」 「そ、か」 俺は。 スリルを求めて学校のトイレでやってるわけではない。 出来ることならもっとリラックスできる、 そう、たとえば古泉の家に行ければ一番いい。 俺の家じゃいつ妹が部屋に入ってくるか解らんから 学校よりもまずいだろう。 古泉は一人暮らしだと言っていた。 何度か家に行きたいという意思を匂わせてみたのだが、 残念ながら一度も受け入れられていない。 匂わせ方がヘタなのか? 直球で言った方がいいのか。 そういえば告白の時もよく解ってなかったな。 はっきり言ってやらんと駄目なタイプかもしれない。 鞄を取りに戻った部室で、古泉はまたぼんやりと宙を見つめて椅子に座っている。 出した後だから、まあ、こうなるのも仕方ないさ。 お前は、そういう顔も、かわいいな。 「もう平気か」 「……ええ、歩けます」 「なら、帰るか。遅くなっちまったし、まあ、あれだ。家まで送るぞ」 「えっ? 平気ですよ、僕、男ですし」 そうだろうそうだろう、指を鳴らせば黒塗りのタクシーが走ってくる、 お前を一人で歩かせていても危ない目には遭いそうにない。 じゃなくて、だな。 「お前んちまで行きたいんだが」 「え……、なぜでしょう」 「なぜって、学校より、いいだろ。お前んちのほうが、なにかと」 エロい意味だけで取るなよ。 お前がどんなところに住んでいるのか、 純粋に興味があるんだから。 「……。あまり、人を呼べる場所に住んでいないので、すみません」 「別に、何だって構わんぜ」 「……すみません」 なんだって、頷いて笑ってくれるのだと思っていたが、 古泉は眉を下げて苦笑し、謝るだけだった。 断られるとますます行きたくなるのが人間ってもんだろう。 よほど古いアパートに住んでるのか、 まさかとは思うが機関の上の奴らに匿われているとか、 ハルヒと一緒にいるせいか変な想像が働きやがるぜ。 「それではまた明日」 「ああ。またな」 駅前で古泉と別れ、自転車を取りに行くふりをして、 古泉の後をこっそり追いかけた。 電車に乗り、2駅。 違う路線には乗り換えずに改札を出る。 北高に通う生徒のほとんどは家が近いって理由で選んでいるからな。 古泉の場合はハルヒがいるからだろうが、近くに引っ越してきたのかもしれん。 わき目も振らずに歩く古泉の、数メートル後を追いかけていたが、 やがて、景色は住宅街よりも自然の多いものへ変わっていく。 駅からずいぶん歩いたよな。 こいつ、どこに住んでるんだ? 妙な、不安めいた感情が徐々に大きくなる。 一定間隔で歩く古泉の足がようやく止まったのは、 駅から30分は歩いただろうか、 枯れた茶色のツタが絡まる、 廃屋の前だった。 「まさか……」 おいおい、 こんなところに住んでるわけじゃあるまいな。 機関の仕事のひとつか? それとも俺の尾行に気付いてからかってるのか? 振り返ってドッキリ成功の看板を見せて欲しかったが、 何のためらいもなく、古泉はその家の中へ入っていった。 正面まで行くとますます怪しい。 建物自体が相当古いようで、壁にはあちこちに穴が開いている。 取れそうな取っ手に手をかけると鍵はかかっておらず、 そもそも鍵穴もさびてぼろぼろになっていた。 「古泉……?」 恐る恐る中へ入る。 内装は小奇麗にまとまって……いるはずもない。 蜘蛛の巣だらけの天井は、今にも崩れ落ちてきそうだ。 人の気配はちっとも感じられない。 ついさっき古泉がここへ入ったのに。 思い切って声を張り上げて呼んでみたが、応答せず、である。 この家の中を歩き回るのは気が進まんが、 古泉が何をしているのかは気になる。 天秤にかけると、恐怖よりも興味のほうが多少重かったため、 入り口から向かって右側にある扉を開いた。 「う、うわ!」 そこには。 壊れかけている人形が、大量に置かれていた。 まずいぞ。 ここにいると、まずい。 人形が動き出したわけではないが、 俺の直感が危険を知らせている。 薄暗い家から、一目散に飛び出した。 ばたばたと靴音を慣らして外へ出ても、 家からは、誰も出てこない。 胸に手を当てると通常の倍速営業の鼓動が伝わる。 気のせいだ、 そう思いたいが、 あの部屋の光景は、鮮明に目に焼きついている。 部屋の片隅に置かれていた、古泉によく似た、人形。 あれは一体なんだ?
thank you !


変な家に住んでいる古泉は萌える!とお聞きしたので
妄想してみたらこんな感じになりました。
後編へつづく!

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