HB










「こんにちは」
「古泉……」
「どうされました? 今日は、涼宮さんたちは急用だそうです。自主活動に励むこと、と」
「そ、か」




翌日も、古泉は至って普通に学校へ来た。
部室で会う前に9組へ様子を見に行ったが変わったところはない。




昨日こいつが入っていった家で見た光景が頭から離れなかったが、
まさか尾行と不法侵入を告白するわけにもいかんだろう。
せっかくそれなりにいい関係を築けているのだ。
あの奇妙な屋敷については、自然に、怪しまれないような流れで聞かなくてはならない。









「早めに帰りましょうか?」
「そうだな……お前んち、行くか」
「えっ」
「お前の好きなケーキ買ってやるから」
「……いえ、あの……実は、機関で借りている場所なので、機関以外のメンバーは入れないんです」



古泉は目に見えてうろたえた。
いつも通り笑顔でさらりと言ってくれれば信じるのに。
そんな表情を見てしまったら、昨日のあれに対する疑惑が増幅するだけだ。




古泉が人形だ、なんてことはまずないだろう。
部屋に無造作に置かれていたものは、見た目こそ似ていたが明らかに作り物で、
いくらハルヒが願おうと命のないものに命を与えるなど……は、
ない、と思いたい。
もしそうなら、本当にあいつが神になっちまうじゃないか。
俺は古泉の説を丸ごと受け止める気はないぜ、
誰かが願うだけで叶う世界は物語の中だけでいい。
















「では、あなたの家に、行きませんか」
「なに?」
「ご家族がいるんでしたら邪魔でしょうか」




よほど難しい顔をしていたらしく、
古泉は取り繕うように俺に近付き微笑みかけ、提案をした。




俺の家に。
古泉が。





悩みは一瞬で吹き飛んだ。
脳内会議では、
いかに親と妹を家から追い出すかを高速で打ち合わせし始めている。




Doll

あまり遅くならないようにしなさいね、 妹の手を引いて玄関から出て行く間際のオフクロの言葉に、 従えるかどうかは、分からない。 「あ、あう、舌、あっついっ……」 少なくとも外食から帰ってくるまでに、とは思うが、 学校のトイレじゃ狭くて出来なかったことをするたびに上げる古泉の声を、 ずっと、聞いていたい。 キスして、お互い、手でやるだけだったからな。 口でやりたくても床に座るのは嫌だし、 どうせならこうして古泉をベッドに寝かせ、 リラックスさせた状態でやるのがいい。 シャワーを浴びる前だから、かすかに汗の匂いがする。 それと混じる古泉の匂いが。 舌でゆっくり舐めてやるだけで、透明な体液が滲み、指まで垂れてくる。 シーツに落ちないように舐め取った。 「お前の味がする」 「や……はずかし、こと、言わないで、ください」 「気持ちいいんだろ?」 「ん……はい」 だろうな、いつか来るこの日のために必死にイメージトレーニングしてきたんだからよ。 敏感なのは解っているから、ゆっくり、時間をかけて丁寧に舐めた。 それでも古泉は十数分後には枕に噛み付いて口の中に出してきたが、 これだけで終わる気はない。 全部飲み込んで、古泉の呼吸が整うまで背中を撫でながら、 脱がずに自分のを押し付ける。 「あっ……!」 「古泉、今日、いいよな」 「いい、って……?」 「解ってんだろ。言わせる気か」 「……えっち、ですか?」 既に硬く変化していた部分が、余計、熱くなる。 お前な、はっきり言うなよ。 しかもその言い方はどうなんだ。 かわいい奴だな。 潤ませた目を向けている古泉に頷いてみせると、 古泉はますます頬を赤く染めて、 枕に顔を埋めると、 「はい……」 こくり、と首を縦に一度、動かした。 「古泉っ……おまえ、すげー、熱いな」 「は、あ、あっ、んっ」 「気持ちよくて、溶けちまいそうだ」 初めてとは思えないほど、古泉はすんなりと俺を受け入れた。 痛くないか心配するも、 どこから見ても気持ち良さそうな顔をしてる。 いつかのために通販で買ったローションの使い勝手もよく、 打ち付けるたびに、俺も、気持ちいい。 初体験ゆえに、興奮で入れてすぐに出しちまったが、 古泉は呆れも怒りもしなかった。 二度目のゴムをつけてくれて、 早くして欲しい、と目で訴えてきた。 後ろからの方が楽そうだから、古泉の体重はベッドに預け、 指で触って良さそうだったところに当てる。 枕は古泉の唾液でびちゃびちゃに濡れているが、 悪いとか、思わなくていいからな。 好きなように感じてくれ。 バカだな、俺は。 こんなに気持ちがいいのに、 こんなに熱いのに、 こいつが人形なはずがない。 何を疑っていたんだか。 「どろどろになってんな」 「んう、う、あう」 「出していいんだぞ」 「んっ……いっしょ、に」 前を触るとどうやらかなり限界に近いらしい、 なのに俺と一緒にいきたいなんて、 かわいいことばかり言いやがって。 「好きだ、古泉」 「っ……!」 「少し、強くするぞ」 「ふあ……! あ、あ……!」 一人で抜くと、その後はなんとも空しい気持ちになるのに、 古泉と一緒だと、全然違う。 汗を浮かべたままではあるが気にせずに抱き締め、 整わない息を耳に吐きかけた。 お前、本当は俺を好きなんだろ? ハルヒや機関やらの関係で、言えないだけだろ。 そうでなきゃ男とセックス出来ないよな。 涙が出るまで気持ちよく、ならないよな。 いつかお前の口からも言ってくれる日を、密かに期待してるぜ。 古泉との関係は、良好なまま続いた。 ハルヒやSOS団が関わると衝突することもあったが、 二人きりになればどちらともなく謝り、 学校や、俺の家で、ひたすら互いを求め合う。 親がいても妹がいても声を抑えて抱き合った。 ばれていないとはいえ気を使うから、 何度か古泉の家に行こうと試みたのだが、 結局全て断られている。 あの人形を、たった一度だけ見た姿を、 俺は今でもふと思い出す。 古泉にはどんな姿も見せているのに、 あの話だけは出来なかった。 触れちゃいけない話のような気がした。 あれが何だとしても、 古泉は古泉だ。 こいつはちょっと変な能力を持っている人間だ。 そう思いながらキスをしているうちに、 どうだってよくなる。 だが、徐々に、古泉の様子に引っかかる点が、浮上してきた。 「……で、結局谷口がやることになったんだがな。 ……古泉?」 「…………」 「おい、どうした」 「……えっ?」 「またぼーっとしてたぞ。大丈夫か」 「ああ、すみません」 前々から、どうも放課後になると気が抜けるなとは感じていたが、 最近はますます顕著になっている。 睡眠不足かと聞けばきちんと寝ているというし、 昼飯は一緒に食っているから栄養は足りているはずだ。 猿のごとく毎日求めていた頃とは違って今は落ち着いている…… 「悩みがあるなら、俺に言えよ」 「そういうわけではないんです。すいません」 「……心配だから、今日こそお前んちまで送る」 「ですから、それは」 「断られ続けてきたが、もう我慢ならん」 困惑している古泉の腕を強引に引いた。 歩いていける距離ではない、 昨日小遣いをもらったばかりだから、 タクシーを呼んで運転手が新川さんではないことを確認し、 古泉の家まで走らせた。 途中で古泉は気付き、 なぜこの道を知っているのか聞いてきたが、 持ち上げかけた腰を掴んで座らせ、 無言で目を合わせただけで、何も言わない。 今朝、いや昼まで、……つい先ほどまで、 古泉の家に乗り込もうとは考えちゃいなかった。 だがもう、我慢する段階ではないのだ。 俺たちはもうすぐ北高を卒業する。 今はっきりさせなければ、 もやもやしたまま受験なんてしてみろ、あっという間に全滅するぜ。 俺は、 これからもずっと、 お前と一緒にいたい。 だから教えてくれ。 あれはなんだったんだ? 屋敷の前にタクシーが着く。 本当にここでいいのか、運転手に三回も聞かれた。 財布を取り出す古泉を制して俺が出し、 前に見たよりも多くのツタが絡まるドアの前に、降り立つ。 一歩後ろにいる古泉はどんな表情でいるのだろう。 ここまで来たからには後に引けない、 振り返ることも、出来ない。 息を飲んでドアノブに手をかけたが、 簡単に開いたはずのドアは、硬く閉ざされていた。 「僕が開けます」 俺の手に、古泉の手がかかる。 古泉の体温よりもやたら低く感じ、思わず手を離してしまった。 そこでようやく古泉の顔を見たが、 「こい、ずみ」 「知っていたんですね」 「い、いや……」 「どうぞ、中へ」 とっさに手を握った。 離したままでは、いけない。 ……俺は、 お前を傷つけているのか? そんな顔、しないでくれ。 家の中には誰もいない。 古泉が歩くたびに廊下や部屋の電気がつくのは、 自動的に感知するシステムなのだと信じたい。 「広い家だな。一人で住んでるのか」 話さなくなった古泉に、なるべく明るい声で問いかける。 小さく頷き、奥の部屋のドアを開けた。 不法侵入したときはここまでたどり着いていない。 とんでもない化け物が飛び出してきたら、と身構えちまったが、 そこは、一人用の大きなソファがあるだけの部屋だった。 「なんだ? この部屋は」 「家にいる間、僕はほとんどここで過ごしているんです」 「ソファ以外何もないな」 俺が見た部屋のように蜘蛛の巣が張っていたり、 人形が雑多に置かれてはいないが、 古ぼけた壁に囲まれぽつんと存在するソファの座り心地は期待できそうにない。 「落ち着くんですよ、僕は、ここで作られたから」 「何……?」 「以前は、有名な人形師が住む家だったんですよ。 亡くなってからは引き取り手がなく、こんな風になってしまいましたが」 「待て、古泉。お前は、何の話をし始めたんだ」 ソファに座ろうとした古泉の手を、掴んだまま引く。 力が込められていないため腕が引っこ抜けそうな手応えで、 怯んだが握ったままにする。 「知りたくて来たのではないんですか?」 「そりゃ……そうだが、俺は、何も知らん」 「この家の場所を知っていましたよね」 「すまん。一度、後をつけた」 「なるほど。家の中には入りました?」 「……ああ」 「では、 僕に会いましたか」 会ったかどうか、お前なら分かるよな。 どうして俺に聞くんだ。 「! ど、どうした」 会話が途切れ数分後、突然古泉の体がぐらついた。 抱きとめるも、古泉はソファを指差し、連れて行けという。 「時間切れです。今日は……少し、疲れました」 「古泉っ……」 「心配、しないでください。ちゃんと……卒業までは、もちますから」 「やめてくれ。お前は、ずっと、俺と一緒にいるんだろ」 「……無理、でしょうね、それは……」 ソファに座ったと同時に、 古泉は全身の力を失った。 触れていた腕の温度と共に。 「古泉? おい、古泉!」 ソファに座ったまま固定された人形のように、 古泉は全く動かない。 頬をおさえてこちらを向かせても、 その目には何も写っていなかった。 俺の知っている、古泉の目じゃない。 「どうしたんだよ、何か、言ってくれ」 あのときみたいにキスでもすりゃあなんとかなるのか? けど…… こいつの唇は、血の気を失って冷たく、 そんな気分にはなれやしない。 結局俺は古泉を部屋に残し、家を出た。 長門に会いに行くか? あいつなら事情を知っているかもしれん。 だが、その代わりに、受け入れがたい事実を突きつけられるかもしれない。 耐えられるのか。 ……無理だ。 不貞寝をした翌朝、自転車を自己最高スピードでかっ飛ばし、 垂れてきた汗を拭いもせずに、古泉の家へ駆けた。 自転車を乗り捨てるように止め、 ドアに手をかけると多少の重みは感じたが開く。 ぎぎぎ、と木が軋む音が響き心臓に悪い。 昨日はこんなにでかい音は出なかったのに…… 奥の部屋に急いだが古泉の姿はない。 廊下をうろついていると、二階から足音がした。 「古泉か!」 「っと……おはようございます」 階段へ走れば、降りようと手すりに手をかけた古泉を見つける。 制服の上に、白いエプロンをかけている。 「驚きました、誰かと思えば」 「すまん、その……すまん」 「朝食はもう食べました? どうですか、ご一緒に」 戸惑う俺に対し、古泉はきわめて柔らかい笑顔を向けた。 「大丈夫、もちろん人間の食べ物ですよ。どうぞ、二階へ」 一階の暗い雰囲気とは異なり、 二階は朝日の差し込む明るい部屋だった。 小さなうさぎのオルゴールが回りながら音楽を奏でている。 どこかで聞いたような、懐かしい音。 ぼんやりとうさぎの動きを目で追いかけていると、 古泉がトーストと目玉焼きを目の前に差し出した。 「どうぞ、簡単なものですが」 「ああ、すまん」 「オレンジジュースと牛乳がありますよ」 「牛乳で」 お前より背を伸ばす野望はまだ潰えていないからな。 「パン、まだありますので足りなかったら言って下さい」 「うむ……。いただきます」 「はい」 古泉と朝食をとるのはSOS団の合宿以来だな。 俺の家に来るときは、夜に帰るし。 周りに誰かがいると意識しないが、 お前と二人での朝食は、まるで、 家族みたいで、いい。 雰囲気は悪くない。 しかし昨日のことが引っかかり、会話は成立しにくい。 それでも、ふと目を上げて視線が交差するたび、 古泉は微笑を返した。 「古泉……」 ……やっぱり、お前が、好きだ。 深呼吸をし、牛乳をコップ一杯飲み干し、 頬を叩いて気合を入れ、 口を開く。 昨日は、すまん。 驚いて何も言わずに帰っちまった。 お前が何者なのか、 俺は、なるべく考えないようにしていた。 真実を知れば自分が抱いている感情がどう変化するか、怖かったんだ。 お前が好きだ。 古泉が好きだ。 無理して笑わなくてもいい、 お前の笑顔は、すごく、好きだが、 気、使わないでくれ。 お前は俺よりもずっと辛い思いをしているんだろ。 全てを受け止めた上で、俺の相手をしていた。 お前が何者なのか、 何を考えていたのか、 少しでもいい、話せる範囲でいい。 今度はちゃんと聞くから教えてくれ。 どうなるか分からない、気持ちの保障は出来ないが、 お前を傷つけるようなら殴っていいから、頼む。 「聞いてくださるんですか?」 「聞かせてくれ」 「では、途中で気分が悪くなったら止めて下さい」 「……」 「昨夜少しだけ話しましたが、僕は、この屋敷に住んでいた人形職人に作られた人形なんです」 小さなものから大人のサイズまで、愛らしい小動物から、人間と見間違えるような精巧なものまで。 たくさんの人形を作ることを生きがいとしていたその人は、親戚もいなく、 亡くなった後、屋敷は多数の人形とともに放置されていました。 屋敷の中には、作られたものでない人形もあります。 ここは壊れた人形屋敷と密かに呼ばれていて、 子どもたちが買い与えられたものの壊れたり、飽きてしまったものを捨てる場所にもなっているのです。 人形には心がありません。 だから何も感じない。 そのままなら、よかった。 ずっとここに放置されたままなら。 三年前、彼女、涼宮さんは両親と一緒におもちゃ屋へ出かけました。 野球観戦の帰り道にあったそうです。 そこで、両親から着せ替え人形を買ってあげようと言われたときに、 彼女ははっきりと言いました。  着せ替え人形なんかに興味はない、  ただきらきらしているだけ。  夜中に化け物と戦うような王子様なら、話は別だけど。 僕が作られたときの設定は、異国の王子だったそうです。 彼女の一言で、僕は、命を授けられました。 そして化け物と戦う力も。 それはもう、人形として横たわっていた頃とは真逆の生活です。 一緒に作ってくれたソファに座っているだけでよかったのに、 昼夜問わず灰色の空間へ呼び出されてしまうんですから。 機関は僕の正体を知っています。出来る限りのフォローをしてくれています。 合宿のように、何日も家に帰られないときには、 この屋敷に昔からあるぬいぐるみや小道具を持っていきます。 そうすると、心が安らぐから。 ここで充電をしなくても人間としてやっていける。 でもね、きっと、それも卒業までです。 人形は飽きてしまうものなんですよ。 彼女は高校を出て新しい世界へ行き、 僕よりもすばらしい人たちと交流するでしょう。 それはとてもよいことです。 過去にすがるよりも、楽しい未来を彼女に歩んで欲しい。 彼女が「古泉一樹」に飽きたとき、 僕は元に戻る。 壊れかけた人形に。 「僕はもうじゅうぶん楽しませてもらいました。普通なら出来ない経験を、こんなにも」 「やめてくれ」 「卒業後は海外へ留学しようと思うんです。設定上はね」 「古泉っ」 「……あなたには、一番迷惑をかけてしまいました」 迷惑じゃない。俺が怒ってんのはそっちじゃなくて、 お前が、いくら自分のことだからって、勝手に決めるからだ。 「俺は、どうなるんだよ」 「あなた、ですか? はて……」 「お前に飽きてなんか、ないぞ」 考えるときにいつも唇に触れる指を掴むと、 目を丸くしてから、困ったように笑う。 ハルヒが何を考えているかは俺だって知らん。 三年間ほぼ毎日過ごしたってあいつの脳内の数パーセントしか理解できていないぜ。 だからあいつの話をここでしても仕方ない。 俺は。 お前が好きなんだ。 言っていただろ、最初から。 お前の話を聞いて、とんでもないショックを受けているさ。 冗談だと笑い飛ばしたいが、 お前の話が事実だと、知っている。 「それなのに、まだ僕を……」 「惚れちまったんだ。仕方ない」 「……。あなたとの関係が楽しかったのは、確かに、そうです」 「!」 「SOS団のことだけではなく、あなたには……ほかでは得られない色々な感情を与えていただきました」 捕まれている手とは逆の手を、俺の手に重ね合わせる。 指を絡め取るように滑らせ、穏やかな笑みを湛え、 手の甲を指の腹で撫でる。 「卒業するまでには飽きられると踏んでいたのですが」 「舐められたもんだ」 「あなたにはもっとふさわしい相手がいますよ。  あなたの人生にこれ以上関わるのは、罪悪感で胸が苦しくなります」 つながれていた手が、解かれる。 離れていく手を再度捕まえようと伸ばしたが、逃げられた。 「俺はお前がいい」 「僕は人形です」 「今までだってそうだっただろ、問題なんか、なかった」 「今までとこれからは違います。あなたの未来を大切にして下さい。 親御さんだって、あなたの晴れ姿や、その先を見たいはずでしょう」 お前の言いたいことはわかる。 そうやって諦めさせようとしている意図が、伝わってくる。 現実的に考えればそうさ。 男同士じゃ結婚できん、子どもも生めない。 それ以上に、お前は人間でもない。 普通なら諦めるものなのか? そう言われたら、 お前を諦めて、まっとうな人生を歩もうと思えるものなのか。 悪いがこの三年間で、 一般人との間には大きな隔たりが出来ちまったらしい。 そのくらいで。 こんなに好きなのに、 はいそうですかと身を引けるわけないだろ。 「……駄目です」 「うるせえ」 「あ、や、だめ……」 お前は人間と同じだ。 飽きない限り、人でい続けるんだろ? お前を守るためなら、いくらでもハルヒをけしかけてやる。 新しい刺激に目移りしそうになったら、体を張ってでも興味をこっちに向けさせる。 お前じゃなきゃ駄目なんだ。 一年の頃から、時折寂しそうに見えたのは見間違いではなかった。 人間に生まれていたら、と考えていたのかもしれない。 けど古泉、俺はな、 どっちだって構わないと思うんだ。 いまさらだろ。 未来人の朝比奈さんはともかく、 宇宙人の長門や喜緑さんとうまくやってこれた俺たちだぜ。 普通じゃないほうが、俺は、好きだ。 冷蔵庫に押し付けて口を重ね、 唇を舐めていると古泉の舌が伸びてくる。 気持ちいいだろ、 お前が俺とやって感じるもんは、 人間全部が感じられる感情じゃないんだぞ。 俺と一緒にいろ。 こんなもんで満足しようとしていた自分を恥じるほど、 楽しい思いをさせてやる。 「ですがっ……  飽きなかったとしても、いつ壊れてしまうか、分からないんですよ」 「壊れたらフランスだかドイツだか知らんが連れて行って、  一番腕のいい奴に直して貰えばいい」 「そうしたら、今度は、あなたが先にいなくなってしまうのでは?」 ここで別れなければ、 僕はあなたから離れられなくなる。 今だって限界目前なのに。 ずっと一緒にいても、 あなたが、この世界からいなくなってしまったら、 僕はどうしたらいいんですか。 腕の中で、古泉は声を震わせながら訴えてきた。 出会っちまったら別れはいつかくる。 だが、それを恐れて好きな奴と離れる方が悲しくないか? そうだな。 俺が無事に寿命を迎えたら、 若かりし頃の写真を元に、お前と同じ大きさの人形でも作ってもらおうか。 勝手に俺の背を小さくするんじゃないぞ。 「…………」 「好きだ」 「…………」 「お前が好きだ、お前だって、そうだろ」 「……僕は……」 「あなたと、いっしょに、いたいです」 腕に落ちてきた暖かい雫は、 こいつがただの人形ではない証だ。 「あなたが、好きです」 「ああ、知ってる」 「ふ……う、ううっ」 確信に変わったのはついさっきだが、 まあ、知っていたことにしていいだろう。 抱きついてきた古泉の頭を撫でながら、 この広い屋敷をどう改装すりゃあ二人で住むのにちょうどいいか空想した。 掃除には時間がかかりそうだが、 古泉の作る朝食とこいつの笑顔さえあれば、 ずいぶん住みやすい家になりそうだ。 落ち着いたらまずは手始めに、 「おかえりなさい」 を言う練習からやってみようか、 古泉。
thank you !

やっぱりキョン古はハッピーエンドじゃないと!
寝るときはぬいぐるみ抱っこしてる古泉もいいとおもいます



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