授業が終わると共にずかずかと涼宮が大股で近寄ってきた。
あっちから来るとは、珍しいことであり同時にいやな予感しかしない。
今日は掃除当番もないから国木田とパフェを食べて帰る予定だったのに、
どうやら明日以降に持ち越しになりそうだ。




「今日、暇でしょ?」





最初から決定事項であるかのような聞き方。
周りから同情の視線が投げかけられる。
何を答えても無駄だということはよく分かっているので、
苦笑しながら頷いた。




「そうだと思ったわ。じゃあ協力させてあげるから部室まで来ること。
 あたしとキョンは掃除当番だから先に行ってくれてもいいわ」





何をするのか分からんししたいと願い出た覚えもない。
恐らくは単なる雑用だろう。
仕方なく腰をあげて、鞄を持つ。
運が良ければあの可愛らしい先輩にお茶を淹れてもらえるかもしれない。
それだけではとても足りないが。









「谷口、災難だったね」
「お前は呼ばれてねぇのかよ」
「うん。今回は無事に帰れるみたい」
「んだよー」





俺だけが貧乏くじ、ってわけか。
キョンが毎日付き合わされてるのはいつものことだから今更どうとも思わない。
突発的に言われるのは実に堪える。






と言うのも、つい昨日、俺は振られたばかりで傷心中なんだ。












「やあやあ、キョンくんの友達じゃないか!」
「どうも、谷口ですっ」
「何か用があるっさ?」
「よかったら今度の土曜にデートを、」
「デート?あははっ!ごめんねっ!君のことよく知らないし、土曜は忙しいんだっ」







旧校舎へ向かう間、昨日の数秒間のやりとりが頭の中で繰り返される。
名前すら覚えてもらってなかったのは予想外だった。
その時点で泣けたってのに、あっさりばっさり誘いを断られた。
タイプだったんだけどなあ…はあ。









取扱注意







「うぃーっす、…って、俺が一番かよ」








部室に鍵はかかっていなかったが、中には誰もいない。
不用心だな、ったく。
盗まれて困るものもあるだろ、パソコンとか、この、衣装とか。










突っ立っていても仕方ないので近くにあった椅子に腰を下ろすと、
机の上に置かれている瓶が目に付いた。



「なんだこりゃ?」





理科室で見るような堅い、ガラスでできた円柱型の瓶。
中は緑色の液体で満たされている。
手にとって太陽に透かして見ても液体以外には何も見えない。
これから何か入れるつもりだろうか。
またろくでもないことを考えていそうだぜ。
そしてくるくると瓶を回しているうちにようやく、
触るな危険と書かれたシールが貼られていることに気付いた。


いやいや、触るだろ、これ見よがしに置かれてたら。





すぐに机に戻して、キョンにさっさと来いとメールをしようとしたまさにその時。










「わっ!や、やべ…」







机に置いた瓶が転がる。
立てておいたつもりが、どうやら傾いていたらしい。




「ひえー!」




叫び声を上げても無意味だった。
瓶はスムーズに床に落ち、きれいに、割れた。





あーあ、俺は知らねえぞ。
こんな所に置いておくのが悪いんだ。
俺は悪くないっ。












ひとまずこの場から逃げよう。
キョンと合流してから対処法を考え、




「ん、ん?」





足が動かない。




部室を出ようと歩き始めたはずが、動けない。






とてつもなく嫌な予感がしたので足元を見ると、
ぬるぬるとしたゼリーのような固まりがこびりついていた。






「ぎゃあ!な、なんだこりゃ!」





割れた瓶の中身か?
俺の両足を足首まで覆うほどの量はなかっただろ?
増えるわかめちゃんじゃあるまいし!



「くそっ、離せ、離せっ」







物言わぬただの物体に言ったところで伝わるわけもない。
見た目は柔らかそうなのに全く動けず、
これでは、キョンか誰かが来るまで待つしかない。
先に来たのが涼宮だったらまたこっぴどく文句を言われるんだろうな…踏んだり蹴ったりな人生だぜ。



ああ、そういや携帯は持っていたんだ。とりあえずキョンに連絡を、と。




「キョンの番号は…わ、何だ!」






足に絡んでいたはずのそれが、まるで命を与えられたかのように動き出した。
いや、動いている、だけじゃない。
増えてる。



あたりを見渡せば、部室の中を緑色の物体があちこちに這いずり回っている。




ななな、何なんだ、マジで!







携帯電話までもそいつに奪われ、
頭の中に絶体絶命という四字熟語が浮かぶ。








涼宮、あいつ、なんつー悪趣味なペットを飼っていやがるんだ。
なんて名前の生き物だ?
犬や猫とはかけ離れすぎている。
どこに顔があるかも分からん。















「頼むから危害は加えないでくれよ…っ」


空港の身体検査かのようにそいつは体を下から上に撫でてくる。
美人の検査官なら大喜びする俺だが、こいつは勘弁してほしい。
敵か味方か確かめているのか、
俺は何も持ってない、
瓶を割ったことは謝るから、許してくれ!








「うわっ!?」








あっという間に体をすっかり拘束されていて、
それはまるで俺より二周りはでかいやつに抱きしめられているような、
それだけならまだよかったのに、
伸縮自在とおぼしきその物体は、

パ、パンツの中まで入って、きてる。








「やや、やめてくれーっ!」






血の気が引いてくる。

そ、そこは、マジで、危ないから!
下手に握り締められたりしたら死ぬ!






神様仏様、どうか俺を助けてください。
もう手当たり次第ナンパしません。
授業中も寝ないようにします。
勝手に人の物を触ったりも、しないから、た、助けてくれっ…












「うっ…く、う…」





祈りが届いたのか、痛みを与えられることはなかった。
が、その代わりに、
ぬるぬるとした液体が内股から股間にかけて塗り付けられ、そこ、を、撫でられる。





「や、ばいっ…」






身動きが全くできない状態でそうされるのは屈辱的だったが、
同時にあらがいようのない気持ちよさも襲ってくる。


こ、れ、気持ちいい、な…自分でやるよりも、ずっと。




「は、あっ…、うう…」








ゆるゆるとゆっくり、ゆっくり擦られる。
あまりに気持ちがよくてすっかりそこは反応しちまっていて、
名前も分からない物体が、喜んでいるような気がした。













「あう、うっ」







体のあちこちを這ってくる。
足の先から、手の指にも一本ずつ細いものが絡んできて指の腹を撫でられる。
背中や首筋もぐちゃぐちゃに濡らされて、
普段ならくすぐったいはずのところも全部気持ちがいい。










「ふ…あ、むうっ…!」








口にまで、入ってきた。
見た目はおどろおどろしい、
とても口に入れる代物ではないが、
いざ入ってみると生温くて、
寒天みたいな食感で、
いや、さすがに食いはしないが、
もうなんだって気持ちよけりゃ、
いいような気分になっていた。








「ん!!ん、んーっ!」






なんだっていいとはいっても、こ、これはっ…






そっちに入ってくるのは、まずいっ…!






「んう、う、ううー…!!」











体が、がたがたと震える。
我慢は限界だった。


体内に入ってこられて驚いたら力が抜けて、

ここは学校で、

あいつらの部室で、

こんな意味の分からんものにやられてるのに、







情けないが、
思い切り、出して、しまった。


















制服が汚れる懸念はすぐに吹き飛ぶ。
俺のを撫でていたやつが先端に吸いつくようにして吸収しちまったから。
口からもようやくそれが出ていくとあり得ない量の唾液が顎に零れた。






















一度射精すると男は冷静に戻るものである。





なにやってんだ、俺。
こんなことをされて喜んで…む、婿にいけねぇっ!










股間からは離れたものの、そいつは依然として俺を抱きしめたままだ。
何やらよくわからんが、分からんことだらけだが、
頬につんつんと先っぽが当たってくる。
心なしか気に入られているようだ…。



















「!!!」









余韻に浸りながらぼーっとそれを受け入れていると、
部室の扉が突然開いた。





入ってきたのは長門有希。


最悪だ。



まともに話をしたこともない相手じゃないか。










俺を見て、聞き取れないくらいに早口で何かを呟いた。






「長門、聞いてくれ、これは…」
「動かないで」








汚らわしいってことか、そりゃ。
終わった、本格的に俺の人生が終了した。
おいおい、なんで俺はこの期に及んでこいつに慰められてんだ。
元はといえばお前のせいだっての…












「ここにいたのね」







透明感のある声が聞こえる。長門のじゃない。
顔を上げると見たことのない女子生徒がいた。


グリーンがかった髪を真ん中で分けて、ゆるやかなウェーブがかかっている。
か、かわいい。
名前をお聞きしてお近づきになりたいところだが、この状況では史上最速で振られるであろう。









「長門さん、場所を教えてくれてありがとうございます」
「早く対処を」
「分かってます。…ねえあなた、名前は何ていうの?」





その麗しいお方は優雅な笑みを浮かべ、決して臆することなく近付いてきた。





「た、谷口、です」
「そう。谷口さん、だって」







そして俺の名前を、俺に絡まっているそれらに言い聞かせた。
途端にするすると解けていく。
足の拘束も消えて、その場にへたり込んだ。


な、なんだ、一体。









「生徒会室に置いていたのに、どこに行っちゃったのか探していたの」




彼女の体に巻き付き始めたが、
それはまるでなついている犬のような仕草で、だった。





「やんちゃだから閉じこめておいたのに、割っちゃったのね」
「す、すみません…」
「いいの、この子も喜んでるわ。ちゃんとお礼も出来たみたいだし、ずいぶんあなたを気に入ったって」
「は、はい?」





展開についていけない。




最初から整理しよう。
まず、あの瓶は涼宮じゃなくこの人の持ち物だった、ってことか?
それが何らかの理由でここに移動した、と。



…やんちゃだからとか俺を気に入ったとか、そのあたりは未知の領域すぎて頭が考えることを拒否した。










「どうだったかしら?この子のお礼…楽しんでいただけた?」




にっこりと微笑む様子に、どこかしら狂気めいたものを感じる。
ここは首を縦に振らなければ命すら奪われかねんととっさに感じ取り、大きく頷いた。



「…正解」



すでに読書タイムに没頭していた長門がぽつりとこぼす。


やめてくれ…心臓に悪い。









「じゃあ、また相手してあげてね。生徒会室で待ってるから」
「生徒会室…」
「わたしは書記をしてます。大丈夫、会長ももちろんご存じだから」




会長、って、あの眼鏡をかけたいかにも女子にモテそうないけ好かない奴か。
あいつまで共犯者とは…どうなっていやがるんだ、この学校は。




「涼宮ハルヒにはわたしから伝える。帰って」
「いい、のか」
「帰って」
「長門さんが言ってるんだから大丈夫です」
















かくして俺はそのまま強制帰宅させられた。



昇降口まで書記の彼女が送ってくれたが、
別れ際にも、



「今日のことは、秘密ですから」



また瓶に閉じ込めたそれをチラ見させて念を押してきた。
















気に入ったから今度は生徒会室に来いというあれは本気、なんだろうか…





「いやいやいや…」







行かない。
行くわけない。
いくら女子に振られっぱなしといえど、

…わりと、気持ちよかったといえど、




人外に相手をしてもらうなんて情けねえっ!















……かわいい女子の姿に変身とか、出来ねえかな。








thank you !

喜緑さん×谷口なんだよ!どんだけカオスだ!toraちゃん元ネタありがとう(人∀`)
私は谷口大好きだけど攻でも受でもいいらしいです。
これ、眼鏡をかけさせて口調をちょっと変えると喜会にもなりますからネ★

inserted by FC2 system