中学生になって、おかしな能力を身につけて、
そこからは見たこともない神のために、
陳腐な言い方をすると世界を守るために力を尽くした。

 

寝る間も惜しんで神人を退治する日々を過ごし、
いつかはこの努力も報われるんだろうかと思っていると、
意外と早く、その日はやってくる。

 









高校生になって最初の誕生日に突然指令が下された。
神がいる高校へ行き、接触を持つこと。
なるべく気に入られるようにして、閉鎖空間の発生を抑えること。

 





「北高には、未来人と宇宙人もいる」
「今のところ警戒する必要はない」
「だが、注意は怠らないように」




北高に行く心得を機関の上司から叩き込まれ、
僕は家に帰ってからもそれを毎日反芻していました。

 








「そして神の一番近くには、」
「鍵となるべき人物がいる」
「あの少女が、心を許している人物」
「許しているとは言い切れるだろうか」
「・・・言い切れはしないわ」






彼女が選んだ唯一の一般人。


その人に会える。







 

どんなすごい人なんだろう。
受験でトップの成績だったのか、
いや、それなら9組に入っているはずだ、
スポーツで特に秀でている才能があるのか、
それともただ単に外見がいいのか。






彼は一般人だから、
機関の中でも資料を見ているのはごく一部の人間のみ。
僕のような末端までは回ってこない。
対面するその日まで、
僕は彼に対する大まかな情報しか知らされていなかった。











 

 
そして、
運命のその日。
僕は彼に出会った。
 
 
 
 


「はじめまして、古泉一樹です」
「・・・」 
 
 
 



 
 
ぽかんと口を開けたまま、特に名乗りもしない。
神と呼ばれている少女、
涼宮ハルヒだけが楽しそうに笑っている。
彼はたまに眉間にしわを寄せながら見ているだけ。







 

・・・これが、世界の鍵?
 










僕にとって、彼の、
 


第一印象は最悪だった






「弱いな、お前」
「はあ・・・そのようですね」
 





真っ黒に染められたオセロのボードを見て、
彼はため息混じりに言い放つ。





彼女が来るまでの間、
もしくは彼女が何か考え事をしている間、
僕たちはよくこんな風にゲームをする。
オセロはそろそろ飽きてきたと、彼は続けて言う。
僕は、違うものを用意しなければ、ととっさに思う。






 






「まあ、そういうところもかわいいけど」
「なっ・・・!」
「何だよ」
「・・・・・・何でもありません」
 






・・・彼はたまにこうやって、僕をからかってくる。



僕が動揺したり驚くのを楽しんでいるんだ。
他の誰にでも同じことをしているのかと思えば、
朝比奈みくるにはきわめて紳士的な態度を取るし、
長門有希にも父や兄のように接するし、
涼宮ハルヒには・・・からかったりするとどんな目に遭うか
すでに分かっているだろうから、出来るわけがない。






僕だけをからかうなんて悪趣味にも程がある。
鍵、なのだから、距離が近いにこしたことはないけれど、
僕はこの人と二人になる時間が苦手です。








 
「次は何のゲームにしましょうか」
「ゲーム、ねえ・・・」
「?」
「古泉、手貸せ」
「手・・・ですか?」






机ごしに、腕を伸ばす。
彼が望むままに右手を開いて差し出すと、
 



 
「う、うわ!」
「おい。引っ込めるな」
 
 
 





い、今。

ゆゆ、指を・・・!!
 






 
 
 
「離してください!」
「いやだね」
「どうして・・・」
「お前の指が好きなんだよ」
 
 






 
どこにこんな強い力があったのか、
ぐ、ぐ、と腕が彼の方に引かれる。
立ち上がって逃げればよかったのに、
僕の頭は混乱していて引かれるままになってしまい、
また、
口の中に指が吸い込まれていく。
 





 
 
 
 
「やめてください、よっ・・・」
「別に減るもんじゃないだろ」
 
 





 

そりゃ、舐められただけで減ったらあなたの唾液は強い酸性
だということになるかもしれませんが、
そういうことじゃ、ないんですが・・・
 
 
 








人の話を、
特に僕の話を聞いてくれないのは分かっていたことです。
何を言ったってやめてくれそうにない。
くすぐったいけど、
猫にでも舐められていると思えばいい。
こんなことは任務には入っていなかったはずだけど・・・仕方ありません。
 
 
 


 
これも、からかっている、うちに入るんでしょうか。
彼はただ静かに指を舐めているだけで、
まるで本当にそうしたかったように見えます。
いつまでこうしているんですか、と問いかけても、
答えてはくれない。
口を離したかと思えば隣の指に舌を伸ばす。
 









ぴちゃ、と、たまに聞こえてくる音が、
彼の、表情とかが、
なんだか・・・










 
「ふ・・・・・・」
 




指の感覚がおかしい。
くすぐったい中に、違うものが混ざっている。
ぞくぞくと何かが背中を走るような。
 
何でしょう、これ。
 
 






「んっ・・・う・・・・・・」
 





 
変な声が漏れるたびに、彼がちらちら見てくる。
でも何かを言うわけではなくて、見てくる、だけ。
また視線を指に戻して舐める行為に戻る。



普段の彼からは想像できないような、丁寧なやり方。
指先を舐められているだけなのに、
全身まで感覚が伝わってきて、呼吸まで荒くなる。
 










 
「はあっ・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
 








唇が離れた。
外気に触れて、濡れたところがひんやりとする。





 
頬が熱い。
唇も熱い。
頭がふわふわして、
何も言えない。
ただ彼を見つめて、
もう、
これで終わりなのか聞きそうになって、
あわてて口をつぐんだ。
 





僕は、何を、言おうと。









 
 
 
 
 
「悪くないな、その顔」
「え・・・」
「先に帰るから顔洗って帰れよ」
 
 
 















 
僕を置いて彼はさっさと部室を出て行ってしまった。
なんて、自分勝手な人だろう。
早く帰ろう。
 
 
 
 
 



頭を振って、鞄を持って、部室を出て、鍵をかける。
 
 


 
 
 

途中に寄った男子トイレで鏡を見て、
彼の言っていたことが分かった。
 











 
 
「うう・・・・・・」
 
 
 
 
どうしようもないくらいに赤い。
 
 
 
 
こんな顔じゃ、とてもすぐには帰れない。
こんな顔で、彼を見ていたなんて。
きっとまたからかわれる。
 

やっぱりあの人は最悪だ。
第一印象だけじゃない。
時間が経てば経つほど、最悪だと思う。
 
 
 
 
でも、
 
 
 
でも・・・、
 
 
 
 
 
 
 













「洗った?」
 

「まだ、です」
 
 



 
この人に惹かれてしまった。





 
 
「・・・ひどい顔ですね」
「そうか?いいと思うけどな」
 






 
からかわれてるだけなのに、
あなたが僕に対してそういうことを言うたびに、
どこか嬉しいとか思ってしまう、



ああ、もう、本当に、最悪です・・・。











thank you !

ガチキョンリターンズ★
1年前とは違う雰囲気でお送りしたいと思います。
余裕ぶってるキョン×ツン流され泉とか好きです。


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