「僕のこと、好きって言いましたよね・・・・・・」
「すみませんでした」











 
誰が想像するだろうか。







いつも穏やかで爽やかなスマイルを浮かべた人当たりのいい好青年、
話し方はやや回りくどいとはいえ困ったときには割りと頼りになる、
その頼りがいといえば朝比奈さん以上長門未満くらいだな、
そのくらいの存在、それがこの男、古泉一樹。








こいつがこんな表情をすることを。
明かりも点けずに暗い部屋で俺を待ち、
手には凶器になる果物ナイフを持っている姿を。
 


















 
「あれは嘘だったんですか?」
「嘘じゃない。断じて違う」






 
そして、
誰と付き合ったってラブストーリーのように情熱的な言葉を囁くとは思わなかったこの俺が、
 








「お前が好きだよ。本当だ」
 






こんな台詞を吐くことになろうとは。
 
 
 
 




















 
古泉は俺にだけ分かるようなアイコンタクトをいつも送ってきた。
ちょうど良いタイミングで現れるものだから、
毎日のようにゲームをしたり一緒に帰って寄り道をしたり、
そのたびに古泉はいつもうれしそうに楽しそうにしていて、
俺と一緒にいると頬を桃色なんぞに染めるものだから、
ああもういいや、こいつと付き合ってもいいかもしれないと、
思ってしまったのだ。













そりゃ、仕方ないだろう。かわいいんだから。
見た目だって悪くない。
俺を好きなら、手を出すくらいいいかと、





 
 
思った俺が馬鹿だった。














危険値大好調









古泉は夜もずいぶんかわいかった。






俺の名前を呼びながら男とは思えないような甘い声で求めてきて、
あのきれいな顔が痛みや快楽で歪むのは、非常に、いい気分になった。
好きだとあれだけ言われれば、同じように言葉を返すしかない。
それでさらに気持ちよくセックスが出来るんだから安いもんだ。





だから言った。
確かに言った。
好きだと、愛していると、
あと、お前さえいればいいとか、そんな意味合いのことも。













しかし俺がそんなにすぐ本気になるわけがない。
あっちから来たからいいと思ったのであり、
そもそも俺たちは男同士で、
あいつがそういうのが好きだったとしても俺は違う。









たとえば朝比奈さんのようなやわらかーい体のフォルムが好きだし、
あのエンジェルスマイルを浮かべられたまま体を寄せられればついだらしない顔になってしまうことはやむを得ない。





朝比奈さんに他意はないにしても、
いつものようにお茶を持ってきてくださったときに転び、
それを俺が受け止めてその姿勢のまま口の端を緩めっぱなしにしてしまったこと、





たぶんそれが気に入らなかったんだろう。



笑顔は普段と変わらなかった。



声のトーンも変わらなかった。





けど、
俺を見るその目だけが、マジだった。










見間違いだろうと軽く考えた俺は古泉の家に一緒に帰り、
さて今日も気持ちよくさせてもらおうかと、
うずうずしながら古泉が夕飯を作るのを待っていた。
そう、まさに、その時だった。
テレビをつけながらだらっとしていた俺に、包丁を突きつけてきたのは。















「こ、古泉!?」
「どうして僕以外の人に気を持たせるようなことをするんですか」
「何?何のことだ」
「自覚がないんですね。それが一番厄介なんですよ」
「待て待て。とりあえず落ち着いて話をしようじゃないか」
「…そうですね」










古泉らしく素直に頷いた、かと思いきや、包丁を持ったまま隣に座ってくる。
そういう物騒なものはないほうがありがたいんだが、
離すつもりはない、か。
そうかそうか。
いや、絶対とは言わないさ。
刃先を向けるのだけはやめてくれれば。







この年にして刃物を向けられるのは二回目となる。
朝倉と違って古泉はまだ説得しようがあるんだからまだましだ、と思いたい。











「あなたは僕さえいればいいと言いましたよね」
「あ、ああ、言ったな」
「それならそれらしく振る舞ってください」
「う…」
「付き合ってても、…誰にも言えない関係なんですから」










急にしゅんと潮らしく落ち込んでしまった。















そうか、お前は不安だったんだな。


ついつい暴走しただけなんだな。
人間らしいところがあるじゃないか。






「ごめん。お前の言うとおりだ」









ここは謝っておこう。
怒らせてはいけない。
ひたすら機嫌を取って優しくしてやれば大丈夫。
こいつは俺に惚れてるんだから。







あとは、なるべく、
古泉が見ているときはだらしない顔をしないように極力気を付ければいい。





そういえば今度長門を図書館に連れて行く約束をしていることを思い出したぞ。
まあ、長門ならいいだろう。
そんな気がないことは知ってるだろうし、
わざわざ報告するまでもない。






















「んっ…う…好き、です…」
「古泉…」
「…気持ちいいこと、してください…」
「ああ」







ほら、もうすっかり俺に夢中だ。
包丁は危ないから、俺がキッチンに戻しておくぞ。



今夜もしっかりかわいがってやるから、
そのまま俺に抱き付いてな。









































「こんにちは」









なぜだ。なぜ古泉がここにいるんだ。






今日は機関の集まりがあるんじゃなかったのか?
だから俺は心置きなく長門を連れてきたわけで…














「わたしが話した」
「な、長門が?」
「古泉一樹に聞かれたから」
「何かまずいことでもありましたか?」







にっこり微笑みながら言う、
その優等生めいた格好は実によく図書館に似合っている。










「ないぞ、まずい、ことなんか」
「…わたしは邪魔」
「長門!邪魔じゃないから、そ、そばに」
「大声を出しては迷惑ですよ」









伸ばした手は空しく宙を舞い、
長門は消えるように目の前から去った。






肩に置かれた手が重い。
恐る恐る振り向いた先にはいつも通りの笑顔が待っていた。
いや、いつもとは違う。
これは先日部室で見た、切れているバージョンの笑顔だ。






「僕、見たい本があるんですよ。一緒に探してもらえますか」
「ん、あ、ああ、もちろんいいぜ」













じんわりと背中に広がる汗を感じつつ、
古泉が歩く方向に足を向ける。










機嫌を取らねばならない。
なるべく迅速に。
古泉が望むままの行動を、そして言葉を。





まだ午前中の早い時間だからか、図書館の中は人もまばらだ。
古泉はどんどん奥の方へ歩いていき、
立ち止まったかと思えば、
そこは辞書と書いてある一角だった。
分厚い本が所狭しと並べられている。







その一つを手に取ると角を手のひらにあてながら、くすりと笑った。








「これ、凶器になります、よね」
「!!」








いやいやいや。
古泉、ここはまずいだろう。
一般的には凶器になりうるかもしれないが、
いくら人が少ないといってもすぐにバレるぜ、
現行犯で捕まっちまう。
そんなお前を見たくないからさ。
調べものなら手伝うし、
そんなに重い本をずっと持っていたら肩が凝るから、な?












「どうして話してくれなかったんです」
「そ、それはだな、相手は長門だしお前が心配するようなことはないから、言わなくてもいいかと」
「隠し事ってよくないと思うんですよ」
「全くその通りだ」
「二度としないって約束してください」










本を棚に置き、小指を向けてくるさまは、
先ほどまでの態度とは異なり弱々しい。





またビビるところだった。
そう、古泉はこういうかわいい奴なんだよ。
ちょっと脅してきただけで本気で殴る気なんかない。










「分かった。約束する」










俺も小指を差しだし、古泉のに絡めた。
指きりげんまん、とな。






ただ、
嘘をついたら針千本飲ませる、
というところを口にしたときだけ、
古泉がマジな目をしていたのは、気付かなかったことにしたい。


























「あう…」
「かわいいな…」
「や…耳元で、言っちゃ…」
「いいだろ」








指を離してから抱きついてきた古泉を抱きしめ返して、
誰も来ないのをいいことに口付けを繰り返した。






かわいいとか好きだとか言えば言うほど、こいつは喜ぶ。
機嫌を取るにはこれがいちばんだ。
そしてキスをして足も絡めれば古泉はすぐに大人しくなる。















「あまり声出すなよ」
「だって、あなたが…」
「じゃあやめる?」
「やですっ…」








なんと素直なことか。
これだよ、これ。



確かにこの瞬間、こんな古泉は、めちゃくちゃ好きだなと思う。













しばらくそのまましていると古泉はもじもじと腕を動かし、
俺の体を押し退けてきた。
離れた唇からは唾液が垂れる。


やらしい顔してんな、お前。






「えっち、したくなっちゃいました」
「んー…俺も」







ここじゃやれるわけがなく、場所を移るほかない。
片手では通常持てないほどの本を脇に抱えていた長門に謝って、
俺たちは図書館を後にした。






















どこかに行くような金もないから、古泉の家に行ってすぐに事に及ぶ。










「あっ、も、出ちゃうっ…!」
「もうちょい我慢しろ」
「ダメです、きもちい…っ」
「しかたないな」












あー、いっちまった。
早いな、相変わらず。
でも俺が満足するまで相手してくれるし、
シーツはぐちゃぐちゃになるけどお前のだから、いいけど。










「大好き、です、大好き…」















いってすぐが特に敏感だから、
それを分かってる古泉は俺に抱きつきながら腰を動かして必死に気持ちを伝えてくる。
古泉が敏感ってことは俺も気持ちがいいということだ。









「俺も好きだ、古泉」
「あ、あんっ、うれし、ですっ」
「お前は…かわいいな」






汗で張り付く前髪を払ってやり、そのまま頭を撫でる。
腹が立つときもあれば凶器を振りかざす怖いときもあるが、
そんなことはどうでもいいと思えるくらいに、
俺はこいつがかわいくてしかたがない。










もしかするとこれが本当に、好きだということなのかもしれない。
好きだと言われると嬉しくなるし、
寂しそうに目を伏せているといたたまれない気持ちになるし、
俺の口や指や体でここまでぐちゃぐちゃに感じる姿は、
すごくいいと思う。







「古泉っ…古泉」
「あう、う、中っ…気持ちいいっ…」
「ああ、俺も、すげー気持ちいい」
「うう、好き、好きです」
「俺も…大好きだ」









こいつはかなり感情に左右されるらしい。
大好きだ、と耳元で囁いてやった途端に、
入ってるところがぎゅううっと締め付けてきて、
体もびくびく震えてる。
ああ、中でいっちまったんだな。
そんなに激しくはやってなかったから、
好きという言葉がよほど嬉しかったんだろう。
今までは嘘くさくていまいち信用できなかったかもしれないが、
やっと俺も自覚してきた。
だから、本当だ。










「いき、そ…」
「はい…、中に、いっぱい、出して…」
「ん…」
「あっ!あ、あう、す、ごい、ですっ…!」















俺もだいぶ感情に支配されやすいらしい。
あまりにも好きです好きですと言われ続けていたらいつもより我慢が効かなくなり、
激しく腰を打ち付けて思い切り奥まで突っ込んで、出した。







「いっぱい…嬉しいです…」












まだ呼吸も整っていないようだが、
繋がったまま顔を寄せてきて、呟く。
ぐしゃぐしゃ髪を撫でて頭にキスをしてやると嬉しそうに微笑んだ。








「僕には、あなたしかいないんです」
「古泉…」
「…だから、大事にしてください」





そうだな、これからは気を付けよう。
お前に心配させることのないように、
常に笑っていられるように。







「大事にする。約束だ」
「ありがとうございますっ」
「心配させてごめんな」














確かに思っていた。
本気で愛しかったし大事にする気もあった。










が。



















「キョン!それを渡しなさいっ!」
「いいや、渡さん!」
「いい加減観念しなさいよね!」







ハルヒに見られてはならないデジカメのデータ、
もちろん朝比奈さん関連である、を死守し、
いつものようにくんずほぐれつしていたのだが、














「おや。邪魔をしてしまいましたね」
「!?」








他意はない。
ないのだが、古泉が入ってきた瞬間に、
俺がハルヒを押し倒しているように見える体勢になっていた。














「いつまでこうしてんのよっ!」
「いたっ!!」
「ははは。僕はもう少し後に来た方が良さそうだ」
「ま、待て!」







発した声は虚しくも閉められたドアに跳ね返って戻ってくる。






古泉を、大事にしようと思うのに、いつもいつもタイミングが悪い。
ちょうどこういうときに限って古泉に見られる。
そしてその後には。























「話を聞いてくれ、古泉!」
「あなたはどうしていつもそうなんですか…」
「不可抗力だ。お前以外に気なんか、ないっ」
「どうでしょう。あなた、僕とはセックスが出来ればいいと思っているんじゃないでしょうね」
「ま、まさか」







そんな時期があったことは認める。
だが、今はそうじゃないんだ、信じてくれ!





きらりと光るハサミの刃が、喉に触れる。
下手に動けば怪我をする…どころでは済まないだろう。
古泉は俺に乗ったまま虚ろな顔でハサミを左右に動かす。
妹が工作で使うのとはだいぶ異なる使用法だ。








「僕…あなたが好きなんですよ」









「だから…僕だけのものに、してしまいましょうか」















古泉、
頼む、どうかもう一度だけチャンスをくれ、
お前を悲しませたことを謝るから、
悲しませた分の100倍の幸せを感じさせるから、
俺はお前だけなんだ、本当だ。





















が。
何を言っても聞く耳を持ってくれない。
小さな痛みが走る。
指の腹を切られたようだ。
滲む血を舐める古泉の目には光が灯っていなかった。













「古泉っ…」
「僕だけの、あなたに…なってくれますよね」
「待ってくれ。俺はまだお前と生きていたいんだ」
「………」
「幸せにする。絶対に」
「あなたの絶対は、信用出来ませんね」

















今までのツケが、回ってきたらしい。











古泉は、もうとても、俺を信用してくれそうにない。


















「ふふ……大好きです、よ」
「こっ、」















ああ、




危険値、
大好調。














thank you !

バッドエンドかもしれない/(^o^)\
ヤンデレを途中まで書いてたのをこっちのお題にしてみました。
色んな意味でひどい\(^o^)/

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