古泉はいいにおいがする。
それは俺にとっては当り前の事実だ。
近づけば近づくほどもっと近くにいきたくなる、
そして抱き締めたまま離したくなくなる、そんないいにおいがする。
 
 
 







よほど近くに行かない限り、
それは香水ではなく古泉香なので感じることはないが、
ある日、ふと転びそうになったハルヒを古泉が支えて、
そのにおいがハルヒにばれた。
 
 







 
 
「ありがと、古泉くん。・・・それにしても、古泉くんっていいにおいがするのね」
「そうですか? 特に匂いのつくものはつけていないのですが」
 
 



 
俺専用だったはずのにおいがハルヒにも気付かれただけでショックを受けていたが、
問題はそれからだった。





俺はハルヒの発言ひとつひとつに世界を変える力があることを、俺はたまに忘れてしまう。
その時も、忘れていた。
 
 
 





 
「ええ、何かの花のにおいみたい。古泉くんて花の妖精なのかしら」
「ははっ、そうだといいのですが」
「そうよ。そうに違いないわ」
 






 
 
自信たっぷりに頷くハルヒを、やれやれと見ているだけで、
朝比奈さんが持ってきてくれたお茶を飲みながら、
今日もいい天気だなと窓の外へと視界を移動させた。
 
 

 









口は災いの元




 
 
 
 
翌日。





夢の世界を旅していた俺をたたき起こすように、枕元で携帯が激しく振動する。
目覚まし時計かと思い止めたが、その後もまた震え始めた。
今日は休みだってのに、朝っぱらから誰だと、
待ち受け画面を確認後即電源を切ろうとして、
表示される名前が古泉だということに気付いてすぐに通話ボタンを押した。
 



 
 
相手が古泉なら話は変わる。




俺達は一言で表すのも恥ずかしいがコイビトのようなもののため、
現在の俺の優先順位としては第一位に君臨するのが古泉だ。
その順位は眠気を上回る。













 
 
 

「古泉?」
『あっ・・・朝早くから、すみません』
「いや、いいぜ。どうした?」
『ちょっと・・・体に、異変が起きてしまいまして・・・』
「異変?」
『はい。家まで来ていただけませんか?なるべく早く』
 
 
 






 
古泉の声は非常に緊迫している。
最初は寝ぼけていた頭が、話を聞いているうちにはっきりしてきた。
そして、俺は今すぐに準備をして古泉に会いに行かなくてはいけない。
 


 
急いで行くと伝えて電話を切り、ざっとシャワーを浴びた。
昨夜も風呂に入ったが古泉の家に行くためのマナーである。
洗濯したての服を着て、髪がまだ乾ききらないうちに自転車に飛び乗った。
 
 
 
 











 
 
 
 
「よっ」
「早い、ですね。ありがとうございます」
「大丈夫か?」
「ええ・・・とりあえず、部屋へどうぞ」
 
 
 
 
 
促されるがままに玄関にあがりこむ。
靴を脱いで、古泉の後を・・・ついていこうとして、
俺は不審なものが目に入った。
それはほかならぬ古泉自身だったのだが、
 
  




 
「おい、なんだ、その背中は」
 




 
 
着ているシャツがおかしな形に膨らんでいる。
古泉は恥ずかしそうに振り向き、
見れば分かりますと部屋へ通した。
 
 
 
 
















 
部屋に入ると、古泉は俺と向き合って、
シャツのボタンに手をかける。
これは何かを見せようとしていると分かりつつも、
手に汗が滲んできた。
徐々に露わになる古泉の肌を見て、口の中も唾液まみれだ。





俺達は付き合っているとはいえ、まだ健全なオツキアイしかしていない。
 
 
 
 













 
シャツのボタンがすべて外され、
腕からシャツを脱ぎ去ると。
 
 
 
 
 
「うお・・・・・・」
「びっくりしますよね・・・僕も驚きました」
 
 
 
 
背中に、奇麗な桃色に光る羽が生えていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 










 
 
シャツで押し込められていた割にはどこにも折れ目もなく、
綺麗な形を保っている。
色も桃色だけでなく薄いブルーも混じっていて綺麗だ。
思わず見惚れてしまったが、これは、明らかに異変である。
人の背中に、羽は生えない。 
 
 






 
「おそらく涼宮さんの発言からきているんだと思います」
「ハルヒの?」
「昨日、花の妖精だと仰っていたのを、覚えていますか」
「ああ、あれか・・・あいつは本気だったのか」

 
 
 









 
ただの軽いジョークだと思って流していたが、さすがハルヒ、とでもいうべきか。
口は災いの元だというが、ハルヒの場合はまさにそれだな。
 
 
 





 
今日は学校が休みの日だからよかったものの、
これがいつ元に戻るかは分からない。
さすがにこの羽をつけたまま学校には行けないだろ。








古泉が妖精だなどとばれたら、困る。
こいつは俺の、なんだから。
他の奴にさらに人気が出るのは困る。
 









 
 
「いったいどうしたらいいんでしょう。まさかこんなことになるとは」
「ひとまず様子を見るしかないだろう。もぎとるわけにもいかんし」
「もぎ・・・!そ、それはダメですっ」
 
 
 





 
だから、そうする気はないって。
痛そうだしな。引っ張ると。




 
 
 
「それ、飛べたりすんの?」
「いえ・・・動かすこともできません」
「ただ生えてるだけか」
 
 








 
ふわふわと飛んで月にでも帰られたらコトだしな。
いや、妖精は月には帰らないか。
花の妖精ってことは・・・花に帰るのか?
よくわからんな。
妖精学なんか、授業にはない。
 











 
 
生え際がどうなっているのか、後ろを向いてもらう。
背中から伸びるその羽は皮膚と完全にくっついていた。
昔からあったみたいに自然に。
 








 
そして、その背中も、綺麗だった。
美しい羽もこの背中になら似会う。
そう言いきれるくらいに白くて、滑らかで、綺麗だ。
 
 
 




「あっ!」
「ここ、どんな感じ?」




 
 
 
生え際のところに指を這わせる。
 
 
 
「な、なんだか、おかしな感じ、です」
「ん? 痛い?」
「痛く、な・・・あ、ふあっ」
「古泉?」
「だ、だめですっ・・・」
 
 
 
 




ぷるぷると震えて、ベッドに頭を乗せて倒れてしまった。








なんだろう、今の反応は。
気になる。
だめ、だと言われるとやりたくなる。
古泉を覆いかぶさるようにして捕まえて、
もう一度撫でてみた。
 
 








 
 
「や、やだっ、だめです・・・っ!」
「何がどうだめなんだよ」
「へんな、きぶんに、な、っちゃ・・・」
「変な?」
「うう、うあっ、あっ」
 
 
 




 
 
俺は、撫でることに意識を集中させすぎて気付いていなかった。





古泉がえらい声を出していることに。








そこをこりこりと撫でるたびに、変な、いや、
俺にとってやばい声が、出てくる。









 
 






 
 
気付いてしまったのに、そのまま押さえつけて、撫で続けた。
抵抗はどんどん弱くなる。
その代り、声は、高くなる。
 











古泉はこんな声が出るのか。
俺の知らない古泉の姿が、今目の前にある。
まだまだこんな声を聞けるほど深い仲にはなっていないのに、
一気に飛び級をしてしまった。
 









 
 
 
 
「古泉・・・気持ちいい?」
「き、もち、いい、です・・・はう、う」
「我慢しなくていいからな。・・・ここには俺しか、いないし」
「ふ・・・で、でも・・・っ」
「お前、かわいいな」
 
 
 
 
 






 
普段は恥ずかしくて言えないことも、
今の古泉になら言える。
何せ、古泉がこんな恥ずかしい姿を見せているんだ。
そっと、体を押さえていた右手を下に持っていく。
確かに熱を帯びていた。







ああ、古泉が、古泉が、古泉が・・・!
 













 
 
 
 
夢にまで見た瞬間だ。
しかし、俺の手腕がどうこう、ではないのが寂しい。
ここを撫でりゃ自動的に気持ちがよくなるんだから。
羽が無事なくなったら技術を高めることを強く心に誓った。
 
 











 
 
「そんな、ところ、触っちゃ・・・や、ああっ・・・!」
「でも、気持ちいいんだろ」
「ふあっ・・・あ、あ、あっ・・・!!」






 
 
 
 
チャックを下ろして手を突っ込んでみると、じわりと手に滲んでくるものがある。
いたく興奮した俺はいったん羽から手を離して両手で脱がせてやった。
このまま続けたら、服まで汚れそうだから。
上のシャツは古泉自身が脱いだので、何も着ていない。
ただ生えている羽のせいでさほど淫猥な印象は受けなかった。
 
 
 
むしろ、綺麗だ。
こんな生き物がいても何もおかしくない。
 
 










本当は顔を見ながらやりたかったが、
仰向けにするには羽が大きすぎる。
ベッドに上半身を預けた体勢のまま続けることにする。
 
 
 
 










「は、はずかし、ですっ・・・」
「大丈夫だ。かわいいから」
「あう・・・!?あ、んんっ・・・!!」
 
 
 
 
言いながら、
生え際に、舌を這わせた。
舐めてみても特に味はない。






ただ、いいにおいがする。
古泉のにおいを少し濃くしたような、しかしまったく不快ではない。
 


















 
 
舐めた方が反応は大きくなり、
右手で擦っているところもさらに液体を零し始めた。
多分もう長くはもたない。
分かっていながら擦る動きを早めてやる。
 
 
 






「ひあっ!!だめ・・・もう、だめ・・・!!」
「古泉、いく?」
「い、っちゃ、い、ますっ・・・!!」
「ん、わかった」
 
 
 
  
 
 











その瞬間、羽までぶるぶると震えた。
右手の中ももちろんのこと。
思ったよりも量が多くて手では受け止めきれず、
ベッドや床に多少かかってしまったが・・・拭けばいいよな、このくらい。
 
 










 
全部出すまで羽はぴんとまっすぐに伸びたままで、
これまた美しかった。
手にかかった分の精液を見て、
舐めたら怒られるだろうかと考え、
古泉が落ち着くまでは行動に出るのをやめた。
 
 
 















 
「はっ、はあ、はう・・・」
 
 
 




 
落ち着いてくると、羽もゆっくりと力が抜けて、
俺の方に落ちてきた。
そしてそのままあっさりと、背中から抜けてしまった。
 
 
抜け落ちた羽は消えることはなく床に倒れ、
古泉の背中は羽が生えていたことを思わせない、
どこにもそんな痕はない。
 


















なんだったんだ、結局。





ハルヒの考えてる花の妖精ってのは、
こういうことをやっちまうと羽が取れるようになってるのか?
どんな想像力だよ。
 















 
 
 
「すみ、ません・・・はしたない姿を・・・」
「かわいかったぜ」
「なんですか、それ・・・」
「すげーかわいかった」
「やめてください・・・」
 
 






 
 
古泉もまさか、こんな結果になるとは思っていなかったんだろう。
俺としてはいいものを見せてもらえたので、礼を言いたい。
災い転じて福となる、か。






これをきっかに今後の関係もスムーズに運びそうだ。
次はちゃんと俺の指で、舌で、
羽なんかなくても気持ちよくなってもらいたい。
















とりあえず、花に帰っちまわなくて良かった。
このくらいの異変なら大歓迎だぜ、ハルヒ。
これからもやりすぎない程度に面白いものを見せてくれよ。



thank you !

古泉は妖精ちゃんだから仕方ない(何が)
あんなに妖精っぽさ満点の男の子もそういないと思います。



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