「あの、どうして、キスしちゃだめなんですか?」
「男同士だからだ」
「男同士でも、気持ちいいですよ?きっと」
 
 
 








女子みたいにリップクリームを塗っているわけでもないのに、
うるうると艶めいた唇が迫ってくる。
俺はそれを両手で必死にはねのけている、という状況である。
 
 



 
今はどこにいるのかというと理科準備室で、
試験管やらビーカーやらがところせましと置かれ、
何かの薬品のにおいがあたりに充満している。
俺たちがこんな場所で何をしているのかというと、
それはやはりハルヒのせいでこうしているのであり、
危険なことなので詳細は伏せよう。
 
 










 
ただこうして古泉が俺に近づいてくるのはよくあることだ。
で、二人きりになるととたんにこれだ。
古泉と二人で行って来い、とハルヒに言われた時から分かってた。
俺も、はっきりと突き返せないのは、
こいつを少なからず好意的な気持ちで想っているからに他ならない。
 
 
 




 
古泉は、俺を好きだと言う。
同性なんて問題はちっぽけだとも。
国内でも海外でもそういう人は珍しくないんですよ、なんて、
優等生面をして言ってきた。



そりゃそうかもしれんが、それでも、俺の周りにはいないぜ。
お前が初めてだ。
で、もしかすると、俺も、そうらしい。
朝比奈さんに体を寄せられる時より、
ハルヒと手を繋いだ時よりも、
古泉に迫られる方がどきどきする。
 
 






 
 
かといって、俺たちは健全な男子高校生だろ?
SOS団に二人きりしかいないってのに、
それが、ハルヒの言う「5%」に入ってるのは、まずい。
お前は悪くないが、俺も、嫌いじゃないが、
これよりも先に進んでしまうのはまずいと思うんだ。
 
 
 









もどかしい距離




 
 





「戻らないと怒られるだろ」
「そう、ですね・・・でも、もう少しだけ・・・」
「うむ・・・」
 




 
 
断りきらないのが一番まずいと分かっていても、
こうして甘えてくる古泉を普段見ることはできないし、
見た目はだいぶ、タイプだったりするし、
俺がするなと言えば何もしてこないから、
ある程度は受け入れてしまう。
 



 
抱きつきながら頬を寄せて微笑んでいる、
そんな古泉の頭を気が向いた時に撫でると、
嬉しそうに笑ってさらにぎゅうと抱き締めてくる。


かわいくない、はずがない。





しかし、俺達は、男同士なんだ。
本来ならお前だってモテるんだからかわいい女子と、
俺だって朝比奈さんのようなかわいいお方と、
こうした青春を過ごすべきなんだ。
 
 
 


 
分かっちゃいるのにやめられないのは、
若さゆえのあやまちってやつかね。









 
 
 
 
「・・・古泉」
「時間ですね・・・」
「弱々しい声を出すなよ」
「今日も、キスできませんでした、から」
 
 
 






 
今日もなんとか誘惑を振り切ることが出来た。
落ち込んで、寂しそうにしたって無駄だぞ。
お前とキスしたらそこから転がり落ちるように、
この関係にハマっていくのは目に見えてる。






お前の唇が気持ちよくないわけがない。
見ただけでもわかる。
  
 
快楽に身を任せたくなる時もあるが、
俺はこれでも俺なりに古泉を大切にしたいと思っている。






付き合ってはいないし、
好きだとも言ってないが、
それは、お前の人生を考えてのことだ。
俺も真面目に考えてるんだよ。
だから、
そんなに、
毎日毎日言い寄られると、困る。
 
 
 
 
 
 
 
 


 
 
 




 
 
 
 
 
 

 

 
 
「好きです・・・大好きです・・・っ」
「おい、古泉っ」
「離れたくないです」
 
 



 
まただ。
だんだん過激になってる。
今日は、音楽室で。
俺は例の楽器を取りに来ただけなのに、
古泉もそうして、早く戻るつもりだったのに、
やっぱりだめか。
 



 
 
 
「ハルヒに怒られるぞ、俺はよくても、お前は駄目だろ」
「キスしたいです・・・・・・」
「だからな・・・」
「遊びで構いませんから、してください」
 
 
 









 
馬鹿。
だから、俺はお前をそういう中途半端な考えで見たくないんだ。
するんだったら本気で、しないんだったらしない、
その二択。
 
 


と、言ってやればいいのか。
 

 
しかし、そうすると古泉に俺が惚れてることがばれるよな・・・。










 
 
 
 
「お願いします。こんな状態じゃ、戻れません」
 
 
 



 
惚れてると聞けば古泉はますます調子に乗るだろう。
どこでもキスをせまってきて、
もしかするとその先までしたがるかもしれない。


こいつはどう見てもやるとしたら女のほうだよな。
俺より細いし。白いし。かわいいし。
 
 






 
なんて、馬鹿なことを考えちゃいかん。
やらんぞ。やらん。
古泉が男じゃなくなるだろうが。
そんなことが知れたらお前のファンが泣くぞ。
 
 
 














唇はもうあと少しで触れる距離まで近づいているが、
真面目な古泉のことだから、
俺が許可を出さない限りそれ以上は近づかない。
もどかしく思っていることだろう。




俺も、そうだ。
 


 
お前がこんなに近くにいて、
今まで耐えてきたのがすごいと思わないか。
惚れた相手にここまでされて、何もしないのが。
 
 












何度も古泉は唇を重ねようとしてきた。
顔の角度を変えて、一番触れる部分が広くなるように、傾けた。
それでも最後のひと押しはできない。
そういうところがまた、かわいくてしょうがない。
 
 
 
 











 
ああ、もう、しちまおうか?




俺も、もどかしくていてもたってもいられなくなってきた。








 
 
 
「古泉・・・」
「あふ・・・ん、う」
「まだ何もしてないだろ」
「あなたの、声が、好きなんです」
「ふーん・・・お前さ、キスしたいだけか?」
「えっ・・・」
 
 


 
 
 
ふと思ったが、
古泉が遊びを期待してるんだったら、出来ない。
俺は本気になるときはとことん本気になると決めている。
駆け落ちをした初恋のあの人に、本気だからこその駆け落ちをしたのであり、
幼い頃に受けた衝撃ってのはでかいものだ。
 
  
 















 
「いろんなこと、したいです・・・」
「それで?」
「それ、で・・・? どういう意味でしょうか・・・?」
「付き合う気はあんのかってことだよ」
「つ・・・つきあ・・・!」
 
 
 
 



 
 
 
考えもしなかったのか驚いて飛び跳ねた。
抱きついていたから感じられた体温が離れて、少々寂しい。
 
 



ここまで来たら逃がさんぞ。きちんと答えろ。
 

 
腕を掴んで、まっすぐに古泉の目を見る。
 



 
 
 
「どうなんだよ」
「そ、それは・・・」
「結局やりたいだけか」
「違います・・・! できることなら・・・お付き合いがしたいですが、
 あなたに、そんな風に言ったら引かれると思って・・・」
 
 





 
 
だよな。
お前は、そういうタイプだ。
俺にそんな気は全くないと思って、遊びでもいいなんて言ったんだろう。
毎日懲りもせずに相手をしている俺の気持ちが分からんとは、
お前もまだまだだな。
 
 
  
 
 
 
 


 
 
 
「気色悪い、ですか・・・?」
「いや、別に」
「本当ですか!」
「遊び目的なら殴ってやろうと思ったけど、本気ならいい」
「え? そ、それって・・・」
 
 
 











 
腕を引いて、俺から、抱き締めてやった。
 
 
 
古泉はパソコンみたいにフリーズして、
口だけぱくぱくと開けたまま言葉は出てこない。
そうか、そんなに嬉しいか。
 
 
 
 
 
 












 
じゃあキスしてやるよ。
お前が俺を好きすぎるもんだから、完敗だ。




何か問題があれば一緒に乗り越えていこうじゃないか。
今日はその、最初の日で、
これが誓いのキスだ。
 
 







 
 
受け取れ、古泉。





thank you !

結局はラブラブだという話・・・
Mでやりたがられる古泉がかわいいと思いますがその際はキョンもノってほしいです(個人的趣味)



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