※鶴×古です
※キョン古表現ありますが痛いです









「おっ、一樹くんじゃないかっ。奇遇だねっこんなところで会うなんて」


閉鎖空間からの帰り道、
向こうから歩いてくる人に見覚えがあると思ったら、
朝比奈みくるの同級生、
そしてSOS団の名誉顧問に認定された、
涼宮ハルヒと同じくらいに元気な、彼女だった。



「北高の生徒にこの付近でお会いしたのは初めてですよ、鶴屋さん」
「一樹くんの家はこの近くにょろ?」
「ええ、ここからすぐです」


北高からは距離があるし、周りには遊びに来るようなスポットは何もない。
わざわざこんなところに来るような人は、



・・・彼以外にはいなかった。



優しい人




「ねっ一樹くんっ」
「はい、何でしょう」
「こんなところで会ったのも何かの縁!ってことでお宅訪問といこうじゃないかっ」
「え?僕の家ですか?」
「うんうん」
「構いませんが、特に面白いものはありませんよ」
「あははっ!一樹くんがいればいーさ、それだけで」



機関に所属する自分の立場として、
彼女を敵に回すのは得策ではないことは重々承知している。
無碍に断るほどの申し出でもない。
僕は笑顔で頷いて、彼女の来訪を歓迎した。



「何もない部屋ですが、どうぞ」
「おっ邪魔しまーす!さすが、綺麗に片づいてるねっ。あたしの部屋とは大違いっさ〜」



僕も普段はあまり整理整頓が得意な方ではないのですが、


・・・昨日は彼が来ていたから。
掃除したばかりなんです。



「鶴屋さんの家は広いですから、居心地が悪くないですか?」
「そんなことはないっさー。むしろこっちのが落ち着くってもんよっ」
「そうですか、それでしたら。紅茶で良いですか?」
「お構いなくー!」



少なくとも朝比奈みくるや長門有希と話すよりは楽だ。
腹の探り合いもしなくていいし、この人はいつも適度な距離感で接してくれる。
ただ、こんな、僕の家に来るのは想定していなかった。




僕たちの機関に近付きたい、ということなんだろうか。
均衡が崩れるのは困りものです。
かといって機嫌を損ねて別陣営につかれるのも困る。
僕のような下っ端が交渉すべき相手ではないのですが、なんとか、やってみましょう。




「どうぞ、ミルクティーです」
「ありがとーっ。わざわざごめんね」
「いえ。朝比奈さんの煎れるお茶ほどではないことをご承知おきください」
「みくるのお茶の味はあたしにはわっかんないよー!」


あははっ、と楽しそうに笑う、屈託のない笑顔で。
裏表のない人だ、回りくどいことはしてこないだろう。



「ハルにゃんやみくるも来たりするの?」
「いえ、女性をお呼びしたのは初めてです」
「ほんとっ?一樹くんなんかめがっさモテるのにっ」
「いえいえ・・・何かと忙しい身ですし」


「ま、そうだねえ。じゃあ、キョンくんだけ来たことあるんだね」
「ええ」



あ、れ?
どうして、分かったんだろう。
勘、かな。
SOS団のメンバーを考えれば、
出ない答えじゃ、ない。

ただ少し、胸騒ぎがして、視線を逸らしたときに、
彼女はまた楽しそうに笑った。





「一樹くんはさ、キョンくんとどんな関係なんだいっ?」
「・・・え?関係、って、一般的な、友人・・・」
「先輩に嘘は駄目だぞー、あたしね、知ってるんだ」
「何を、でしょうか」



ああ、聞いちゃいけなかった、

はぐらかすべきだった、
もし本当に知っていたら、
どう答えたらいいのか、



「一樹くんが、キョンくんにキスされてるとこ。見ちゃったんだよねっ」
「な・・・、そ、れは、何かの、見間違いではないでしょうか」
「間違えると思うかいっ?あたしがっ」
「それは・・・」
「しかも、無理矢理、してるっぽかったなあ」



額に汗が滲む。
いつ、どこで、見られたんだろう、
困る、
僕たちの関係は、
誰かに言っていいような健全なものじゃない。



「恋人同士なのっ?」
「・・・ち、違います」
「そうなんだ」



家に来る、泊まることもある。
学校にいる間も二人になる時間は多い。
キスだけじゃなくてそれ以上のことも何度もしている。
だけど彼に、好きだと言われたことは一度もない。
そんな感情でしているわけではないと思う、
むしろその逆だ。
彼は僕がどんなに嫌がったって止めてはくれない。





「複雑な事情なのかな?ハルにゃんの周りは大変だねぇ」
「・・・すみません、このことは、」
「言わないよ、ハルにゃんにも長門ちゃんにもみくるにも。もちろんキョンくんにもねっ」



気付いたのが彼女でまだよかった、のかもしれない。
朝比奈みくるならこの数百倍は動揺するだろうし、
長門有希はそこまでの不安はなくとも心を完全に許せる相手ではない。



それでも、
まずい状況には変わりない。



彼とのことは、僕の唯一の弱味だ。そしてこれ以上のものなんか、ない。




「一樹くん」
「は、・・・い」
「女の子には、興味ないのっ?」
「そういう、わけでは・・・」
「じゃあ、してみる?」
「は・・・はい?」
「あたしとっ」



冗談はやめてください、と言おうとして、
笑顔で見つめているのにふざけているようには見えない瞳に、捕らわれた。



「だ、めです、そんなことできません」
「一樹くんは横になってくれてればいいよっ。鶴屋さんに任せてみなさいっ」
「や、ちょ、ちょっと・・・!」



両手が肩に伸びてカーペットに押し倒されて、長い髪が腕にさらりと落ちてくる。



これは、どうして、こんなことに?
意図が分からない。
僕をからかっているんだとしたら、怒ってはいけない。
この程度で動揺するのかと思われては駄目だ。



「軽いですね、鶴屋さん」
「そう?余裕そうだね、一樹くん」
「鍛えられていますから」
「へえ〜・・・じゃあ試してみようっと」
「つ、るやさっ・・・!」



柔らかい唇が当たる。
やわ、らかい。
彼の、とは、全然違う。
彼女は何かの花のような香りがして、
戸惑いながらも、心地よさを感じた。



「口開けてみて、一樹くん」
「ん、あっ・・・」


キス、くらいなら、してもいいかな、
言わなければ彼には分からないはずだ、
ああでも少しだけ胸の奥が痛い。



僕、
あの人が、
好きなんです。
叶うことのない想いだと知りながらも、
想わずにはいられないんです。




「んっ、んう・・・」


荒々しい口づけとは違う、
優しくて、甘くて、これが彼ならどれだけ幸せか、
いや、そんなことは考えちゃいけない。



「あはっ、一樹くんはかわいいねっ」
「・・・な、なんですか・・・」
「ぎゅって目を閉じちゃって。それにあたしの好きな味がするよっ」
「あ、じっ?」
「うん、ずっとしていてもいいくらいさっ。一樹くんもそう思わなかったかなっ?」
「は、はい・・・」



不快ではない、むしろ。
だけど僕が考えているのはずっと、


「つるや、さっ・・・」
「首弱いのっ?」
「っく・・・!」
「確かに、鍛えられてる、みたいだね〜」



彼ならいいのに、
こんな風に優しくしてくれたらいいのに、
目を閉じたら思い浮かぶのはただ一人、
僕には笑顔を滅多に見せてくれない、彼。



「一樹くん」



彼女の声が聞こえてくれば現実に引き戻されて、
どうしたらいいのか分からなくなる、
このままでいいのかな、
彼に、
もし気付かれたら、
でも、
彼は僕を自分だけのものにしたいなんて思ってないだろう、
いつだって終わった後には、
体に力の入らない僕を置いて出て行ってしまう。
どうでもいいと、思われてるのは、知ってる。



「何考えてるのかなっ?上の空だね〜」
「ご、めんなさい」
「いいよ、あたしにはお見通しっさー」
「ひっ・・・!!」



明るい笑顔のまま、その手が下に伸びていく。
情けないと思いながらも、
柔らかくて暖かい口付けや触れ方のせいで、
体が、反応、してしまう。



「あっ・・・の、つる、やさっ・・・!」
「何かな?」
「もう、この辺りで、」
「こんなところでやめて、辛いのは一樹くんのほうじゃないのかなー」
「そんな、こんな、こと・・・」
「いいからいいから。何も考えないで。うーんそうだね、
 キョンくんのことでも考えていればいいさっ」



本当に、全部、お見通し、なんですね。


そういうと彼女は何も言わなくなって、
僕に、彼のことだけを考えていればいいと言うかのように。



また唇が押し当てられる。
中に入ってくる舌、
優しい、
撫でる指も、優しい。



こんなことをされちゃいけないのに、
抵抗できない。
最近の彼は、あまりにも僕に冷たかったから、
こんな風に優しくされたら、抵抗できない。
僕に優しくしてくれる人なんて、
しかも僕の事情を知った上で、どうしてこんなことをするんだろう。
ただの好奇心なんだろうか、
それでもこんなに優しくできるなんて。




どうして彼とはこんなに、違うんだろう?



「ん、んう、んんーっ・・・!」





いつも馬鹿にされる、


我慢できないんだろ、お前、本当に早いな。
馬鹿じゃないか、男にこんなことされて、感じるなんて。
俺のこと好きなのかよ、気色悪い。
ほら、さっさとイけよ、何回出来るんだ。



だけど、
たまに見せてくれる優しさと、
彼の声、
彼の目、
彼の指、
初めて触れられて見つめられて囁かれたときから、
離れられなくなった。



中毒になっている。
彼に。
彼の。





「かわいいね。顔、真っ赤だよ」
「は、あう、だめ、ですっ・・・」
「キス、好きなんだ」
「ん、むうっ、んんんんっ」




もう、
考えられない、
優しいのが、嬉しい、
こんな風にしてもらえるのが嬉しい、
彼じゃないのは分かってる、
だけど、だけど、




僕は、
彼の傍にいられるなら何だって大丈夫だと思っていたけど、
本当は辛かった。
本当はもっと優しくされたい、
大事に思って欲しい、
好きだって言ったら、そう返して欲しかった。




「すっ・・・き、好き、です・・・」
「一樹くん?」
「ごめんなさい、ごめ、なさい、あ、うううっ・・!」
「うん、そっか」




ずっと彼のことだけ考えていたのに、
彼女は笑ってくれた。
いつもの太陽みたいな笑顔じゃなくて、
月の灯りみたいに優しい笑顔で。




ごめんなさい、
ごめんなさい、
誰に何を謝ればいいのか分からないけど、
ごめんなさい。




「あ、あ、い、っちゃい、ます・・・っ」
「うん、いいよー」
「あ、ああ、んーーーっ・・・!!」












手を、制服の袖を、汚してしまったのに、
怒ったりしなかった。
それを拭いてからもう一方の手で、
ずっと頭を撫でてくれた。
恥ずかしいのと、申し訳ないので、何も喋れない。
それでもどこか嬉しくて、そのまま撫でられていた。



「無理はよくないよ、一樹くん」
「・・・え?」
「心が壊れた後じゃ遅いのさっ。見てられなかったよ」


それは、
僕のことを、心配して?



「余計なお世話だったらごめんね。でもあたしはさ、
 一樹くんの笑顔も好きなんだ。・・・みんな好きなんだよ」


視線を上げると、
その笑顔が少しだけ、寂しそうだった。


みんな、
きっと、彼もそこに、含まれているんですね。



「また助けてあげる、一樹くんが嫌じゃなきゃねっ!」
「あっ、の・・それは、その、」



さすがに申し訳ないです、
何か意図があって、
機関の一員である僕に近づいてきたのだと思ったのに、
SOS団の一員としての僕を、思ってくれているなんて、
それでこんなことまでさせるなんて、
おかしいと思うんです。




「かわいかったし、いいのさっ。ね、あと10分で帰るから
 それまでは抱きしめててもいいかなっ?」
「は、は、い・・・すみません・・・」




彼女の真意は分からない、
ただ甘い感情だけが僕を支配して、
謝罪も礼を述べるのも間違っている気がして、
僕はだまってその腕の中で目を閉じた。




とっくに10分以上経ってもそのままで、


僕の意識はいつの間にか途切れて、






夢の中で会ったのは、


笑っている、彼だった。





thank you !
なんというカオスwwwww
古泉は皆に愛されればいい!(何それ)

inserted by FC2 system