とっくに涼宮ハルヒたちと、帰ったはずだ。
僕は笑顔でそれを見送ってから、ここに来たんだから。
なのにどうして、
あなたが、ここに?



選択





「古泉っ」




床にへたり込んだまま動けない僕に、
彼が駆け寄ってくる。
制服は辛うじて着ているけど、
ボタンも全て止まっていないし髪も目元もぐちゃぐちゃだ。
見れば、普通じゃないのは、分かる。
彼は複雑な表情で僕を見てから、視線を自分の席、に、移した。


「谷口、お前が何かしたのか」



僕が聞いたことのない、震えた声。


「…キョン、あのな」
「したかどうか、聞いてるんだ」


あなたが、
怒ってる?
そんな感情はめったに見せない人だから、分からない。



そこでやっと椅子から立ち上がり、
彼と目線を合わせる。
変な恐怖で、体が震えてきた。







何が起きたんでしょうか、
誰にも知られてはいけないことを、
よりによって一番知られたくない彼に…?




「した。だけど、同意の上だ」
「……!!!」


また、彼が僕を見る。
僕はすぐに逸らして床を見た。
嫌われる、
彼のクラスメイトとこんな、何か、しているなんて、
ああ、やっと最近は意識しすぎに話せるようになったのに、
こもった熱の解放の仕方を知ったのに、
全部、終わってしまう。




「…泣いてるのに、同意、かよ」


大きな手が、頭に触れる。
ぎこちない動きで撫でられて、
僕はまた自分がどんな状況にあるか分からなくなって、
涙が出てくる。



きちんと言わなくちゃ。
彼は悪くない。
僕が、してほしいと願った。
最近は、
少し、好きになりかけていた。
彼は優しくて、
会えばいつも楽しい話をしてくれたし、
するときはいつも、
大切そうに扱ってくれた。
壊れないように。
痛くないように。
だから、
好きだと、
思った。
確かに、思ってた。





「ぼ…く、ぼくっ……」
「お前は、何も言わなくていい」


体も声も心も、震えて何も言えない。
肝心なことを、何一つ言えない。






彼が殴りかかりそうになるのを、腕を掴んで止めた。
誤解を解きたいのに、
僕も、
あの人も、
言葉が出てこない。



何から言えばいいのかな、
何を言えば納得できるかな、
何を言ったってこの事実は変わらないなら、
そこに意味なんて、あるんですか?



「古泉、…帰るぞ。家まで送る」



手首を掴まれる。
震える膝を押さえながら立ち上がると、
困惑に満ちた視線で彼の後ろから、見つめられた。



ちゃんと、

……話そう。



僕は、





〇頷いて彼と一緒に教室を出た。首を振って、教室に残ることを伝えた。





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