好きだと言ってほしい。












古泉から俺に何か言ってきたのは初めてだった。
乱れた髪に乱れた呼吸、
苦しげに息を吐きながら、
電気を消して眠ろうとした時に、言ってきた。












もう一度小さく、
お願いします、
と言ってからは胸を押さえて何も言わなくなった。














好き、だって?









どうして俺がお前を好きになるんだよ。
セックスする相手が全員恋人だとでも思ってるのか。








お前はいつも、どんなに苦しくても、言うよな。
好きだとか。
あなたしかいないとか。











信じられるもんか。

お前は男で、なのに男の俺に突っ込まれて、
男としてありえない姿をさせられて、
殴られて縛られて、
優しい言葉なんか一つもかけられないのに、
そんな相手を好きになるわけない。
どうせ命令されてるんだろ。
何をされてもあいつや俺には逆らうなと。
そうじゃなければお前が抵抗しない理由がない。








「…………」










俺の背中をすがるような目で見ていることは分かったが、
何も言葉を返さずに、
目を閉じた。



















抵抗しろよ。
やめてください、って強く言ってこい。
お前の意志を見せろ。








最初からお前は駄目だった。
あいつや俺の機嫌を取ろうとへらへら笑って、
僕の気持ちなどどうでもいいんです、
あなた達さえよければ世界は安定するんですから、

言ってきた古泉を、
思い切り床に押し倒して。

「笑ってみろよ」



言い捨てて、その白い頬を殴った。腹も、その後に。






恐怖から何も言えずにがたがたと震えるだけの古泉に、
あろうことか欲情してしまい、




……たぶん俺は、ずっとこうしたかったんだろう、

……どうしてそうだったのかは、分からないが、





濡らすものなど何もなくただ泣いて許しを乞う古泉の体を押し広げ、
無理やり、体を繋げた。




それなのに翌日もへらへらと笑い、
いつもと変わらない声で話しかけてきたんだ。
頬の怪我は自転車から落ちたときに擦りむいたとか、適当なことを言って。










気に入らない。
自分のことなどどうでもいい、なんて、
そんなの、
本当はあいつのことも、
俺も、
見てないのと、同じじゃないか。













失踪 -side Kyon-












「古泉が、いない?」
「そうなの。クラスの子に聞いたら休みだって」













俺には一言もなしか。
毎日会ってんのに、毎日やってんのに、それか。







確かに朝起きたときあいつはいなかった。
けど、そんなのはよくあることだし、
泊まっても一緒に登校したりはしない。
携帯電話も置いてあったから、
すぐ戻ってくるんだと思っていた。






すぐにメールを送った。
お前、学校来てないんだって?
どこにいる?と。





しかし、しばらく待ってみても返事は来なかった。


何度か教室まで見に行ってもやはり姿はなく、
放課後、部室にも現れない。












くそ。返事もよこさずに何をやってるんだ。
腹が立つ。
あいつのことを考えると、本気で苛々する。
俺は古泉を憎んでいるんだろうかと、いつも思う。
嫌いだ、だが毎日のように顔を会わせなくてはいけない。
あいつのへらへらとした笑顔を見なくてはいけない。
腹が立つ。
本当は何も楽しいことなどないくせに、笑っているのが。







「どう、して……」



だから笑顔を無理やり奪った。
対極にある表情が見たくて、
初めて家に行った日に殴って押さえつけて、
男として一番屈辱的であろうことをしてやった。


「どうして、あなたが……」




必死に抵抗したし、目や声で訴えかけてきた。
やめてほしい、ただそれだけを。
たぶんそれは俺が初めて感じた、古泉の本当の願いだった。





「なぜ、僕にこのようなことを……」





やり終えて帰るときに、
古泉はわざわざ玄関まで見送りに来て濡れて赤くなった目で俺に問いかけた。




「理由なんか、お前が考えろよ」










どうせ古泉は毎日部室に来るんだ。
何があろうと俺にむかつく笑顔を向けてくるんだ。
それがあいつの人生なんだから。
だから俺だって思うようにさせてもらおう。







それからは諦めたように何も言わずに俺を受け入れた。
何をしても、どんな言葉を浴びせても、
古泉の口から出るのは謝罪の言葉だけ。
何に謝っているのかは知らない。













昨日もそうだった。
あいつの家で同じようにやっただけだった。


一つだけ違ったことといえば、







「あ、か、はっ」
「はははっ、首絞めるとずいぶん締まるんだな」
「や、た、す、け……」
「どのくらいまでやれば死ぬんだ?ん?」
「っ……く、う……っ」











あいつがめずらしく抵抗をしてきたから、
意識を失いそうになるぎりぎりまで、首を絞めた。
そうすると体が硬直するから、
突っ込んだままやれば気持ちがいい。
何度も突き上げて緊張が緩んだときにそうしてやった。



手を離すとむせながら涙を流して謝って、




「殺さないで、ください、お願いします……っ」





これが命乞いというものなんだろう。
繰り返すたびに古泉の声は小さくなり、呼吸も弱まる。




「お前は俺のものだ。分かってるよな? だから言うことを聞け。
 明日部室で俺に笑って話しかけてきたら、今度は本当に殺してやるからな」
「う、うっ、っ……」










はい、とも、いや、とも言うことが出来ずに、必死に呼吸をしていた。

























どのくらいそうしていたのか、
古泉が落ち着くまで寝るのは待とうと思ったが、
一向に落ち着く気配がないので諦めて横になった。


















初めて古泉にキスをしたとき、
その気持ちよさは言葉で表現できないほどのものだった。
今でもそう思う。
だから気が向いたときと寝る前にはする。
柔らかな唇に吸い付いて顎まで垂れるほどにぐちゃぐちゃに舐める。
それは古泉も一番、好きなように思えた。
キスをすればするほどとろりと瞼を落として体の力も抜ける。
俺の気が向けば肩を抱いてやるんだが、長くキスを続けるとあっちから腕を掴んでくる。









「寝るぞ、古泉」
「…………、ふ」










少しやり過ぎたかもしれない。
床に身を伏せて呻くだけで起き上がる様子は見られない。
仕方がないから頭を掴んで、だらしなく涎を垂らしたままの唇にキスをした。
その後、
電気を消して目を閉じたとき、名を呼ばれた。





「お願い、が」





床に落ちたままで、絞り出すような声だった。















「好きだって……」














「嘘でも、いいから」















「言ってください」























ここのところ、古泉は毎日のように言ってきた。



好きです、あなたが好きです、だから、何をされても構わない。






数日前に、聞いた。
抵抗もせずにセックスされるなんて、まさかお前は俺が好きなのかと。
古泉は考える時間を必要とせずにすぐに頷いた。
そして言う、



「そうです……僕はずっと、あなたが好きです」




信じちゃいないさ。
そう言えば俺が手を緩めると思ったんだろ。バカか。
何度言われても、





「好きっ……好きです……!」



必死に訴えかけられても、




「あなたに、なら……何をされても、いいんです」












たとえ本気に聞こえても。




信じられる、わけがない。





































「いない、か」






ハルヒには適当に家の用事があると伝えて古泉の家に来た。
鍵は持っている。
しかし、かかっていなかった。
中には全く無防備なことに携帯電話がそのままベッドに置かれていて、
今朝、俺が出る前の様子とほとんど変わらない。
古泉だけがぽっかりいなくなっていた。



これじゃ、メールも返ってこないわけだ。
携帯を開きメールボックスを見たが見事に俺からのメールしかない。
着信履歴も俺か、ハルヒか、非通知か。
恐らく非通知は機関からの連絡だろう。
閉鎖空間に向かったのかと思ったが着信は二週間も前だった。
















次の日も、その次も、古泉は来なかった。





長門に聞いたがあの長門ですらどこにいるか分からないと言う。
もちろん、朝比奈さんが知るわけもない。
ハルヒには聞けないし、他に頼れるような人は一人しか思い付かなかった。














「おっ。おはよー、キョンくんっ」
「おはようございます」















いつ会っても元気な先輩、鶴屋さん。
この人の力を借りられれば、古泉を探せるかもしれない。
数日会わないだけで不安になるとは思わなかった。

最初は何も連絡をよこさない古泉に腹が立ったが、
それは徐々に心配へと変わる。

















言い過ぎた。
殺す、なんて、さすがに酷いことを言ってしまった。
それにいつもよりも怪我をさせた。
翌日もまだ、床に散った血液が生々しく残っていた。
殺すという言葉。
あれを本気にしていたら、古泉のことだからそのままに受け取るだろう、
あいつなら、自分で自分を傷つけることもやりかねない。










「喧嘩でもしたのっ?」
「いえ・・・・・・そういうわけでは。でも、近いような気もして・・・・・・
 その、あいつを傷つけるようなことを、してしまって」












まるで関係がないというような言い方では駄目だ。
俺が鶴屋さんに頼む理由が必要だから。










「あいつに全部、今までのことを謝ろうと思ってます」







はっきりと言うと、
鶴屋さんも神妙な顔で頷いてくれた。























俺を、好きだと言ったじゃないか。
俺のものだってあんなに何度も言ってきたくせに、結局嘘だったのか。
機嫌を取るためだけに言ったんだな。
お前にそう言われると少なからず動揺していた、それに気付いていたんだろう。
勝手にいなくなって、もし傷を付けていたりしたら、許さない。











古泉、古泉、古泉、古泉、古泉。














触りたい、
殴りたい、
めちゃくちゃに泣かせて、
無理やりいかせて、
謝らせて、
また、キスだってしたい。
勝手にいなくなったりするなよ。
お前は俺のそばにいればいいんだ。



古泉、
古泉、
会いたい、
お前がいないと、
落ち着かない。











どこかで一人で泣いているなら、早く俺のところに来い。
次に会ったときにはあんなひどいことをしないから。
なるべく優しくできるように、努力するから。
お前がそうしてほしいなら。































「……そうですか」





古泉の携帯にかかってきた電話は森さんからだった。
古泉がいなくなったことは知らなかったらしい。









「古泉は閉鎖空間には来るでしょうから、連絡が取れなくても構いません」
「行くでしょうか」
「来ますよ。古泉はそういう人間だから」










閉鎖空間の発生、か。
どこにいつ出るかも俺には分からないのに探し出すなんて無理だ。
それよりは鶴屋さんの力を借りる方が確実だろう。


日も暮れる頃、自転車を走らせた。


























そして。


鶴屋さんの家の前で見たのは、
親しげに話している古泉と彼女の姿だった。
ついさっき見つけた、というふうではない。
鶴屋さんは今にも古泉を抱きしめそうに、していた。




















ここにいたのか。
お前はここに、逃げてきたのか。





俺のものだとか好きだとか言っておいて、これかよ。
嘘、だったんだな。








分かってた。
嘘だと最初から分かってた。
なのに、
どうしてこんなに、
……。














「古泉!」
「あ……」
「き……キョンくんっ……?」















俺を見る古泉の目は、驚きと諦めの色に染まっていた。
鶴屋さんの前では部室のような態度を取らないと、
と思っているのに、
古泉の手を荒々しく掴んで引っ張ることしか出来ない。
鶴屋さんが慌てて言い訳をしてきたが、何も頭に入らなかった。












「お前……勝手にいなくなる、なんて、分かってるんだろうな」
「……はい」











震えて、もう、泣きそうだ。



俺はお前が一人で泣いているんだとしたら、
俺がああ言ったせいで自分でそうしようか悩んでいたんだとしたら、
変わりたいと、思っていた。
心配になったから、
これからはもう少しやり方を変えようと。








けれど、その考えは最早どこにもない。







































「ごめ……なさ、い、ごめん、なさ……」
「謝らなくていい。本当のことを言え」
「ぼく、は……あなたが……」
「まだ言う気かっ……バカにしやがって……!」
「あ、ぐ」












腹を強く蹴り上げれば、口から真っ赤な液体が溢れる。
スカイブルーのカーペットがどんどん変色していった。
それでも足は止められない。














こんなことはやめたかった。
古泉を苦しめたかったんじゃない。
泣かせたかったわけじゃない。
俺がこいつの笑顔を奪いたくなったのには、



本当は違う理由があった。












「ぼく、あなたが、すきっ……」
「うるさい」
「あ、あ」
「ふざけんなっ」

















初めてお前が好きだと言ってきたとき。



俺はひどく動揺した。
確かにあのときは、いつもより少し優しくしてやってた。



古泉は顔を見ながらやられるたびに真っ赤になるから、
前髪をかきあげてやりながら、
何度も何度もキスをして体を揺らした。

古泉とやるのが、気持ちよかった。
痛い目にあわせたいとか泣かせたいとか、
そんな気持ちだけじゃなくて、
俺も、
古泉も。
全部忘れて互いを求めるような時があった。








その状態で好きだなどと言われて動揺しないわけがない。




古泉に言われた言葉のせいじゃない。








そう言われて同じ言葉を言おうとした自分のせいだ。










頭で否定しても胸はざわめく。
古泉がそう言わないように酷いことを繰り返した。
それなのに、あいつはいつも、好きだと言う。







苛々した。
本当だと思うには、俺は古泉を大切にしなさすぎていたから。
そんなわけないだろってずっと、思っていた。



結局そうだった、それだけのこと。













「ごめんなさい、ごめんなさい」












何に謝ってる?
俺に黙っていなくなったことにか?
俺に嘘をつき続けてきたことにか?














頭を壁に打ち付けるたび壁の染みが大きくなる。
真っ赤な、染みが。
異常な行為だと分かっていた。
どこか遠くから、こうしているのを見ている自分がいる。
衝動にかられてやっていても頭の片隅ではどこか冷静だった。












古泉の口から漏れる声は半分息が混じり聞こえにくい。





前髪を掴んだまま顔を上げさせて床に投げつけたときに、
突然、チャイムが鳴った。








無視しようと思えば再度けたたましく部屋に鳴り響く。
古泉をそのままにして玄関まで行ったが小窓から見ても真っ暗で誰がいるか分からない。
仕方なく小さくドアを開く。
誰か見るだけにしたかったが、
開けた瞬間に強い力で開かれた。















「鶴屋さん……」



















そういえばさっき鶴屋さんもいたのに俺には古泉しか見えていなかった。
何も言わずにここまで来た。
不審がっているだろう、いや、古泉が全て話しているなら、勘ぐる必要もない。









「何ですか」
「あ、あのね、古泉くんがこれを忘れていったんだ」
「……そうですか」














あいつが着ているジャケット。
忘れていった、か。


あいつは否定し続けていたが、これが証拠だ。






信じられるものは、何もなくなってしまった。















「古泉くんと話がしたいんだけど駄目かなっ」


















中の様子を気にしている。
そりゃ、そうだろう。
入れればぐったりした古泉を見られてしまうから、
そうするわけにはいかない。









「あいつ寝てるんで、話なら明日にしてもらえますか」












あいつが裏切ったんだ。
俺を裏切った。
だから傷付けた、めちゃくちゃに。








自分のものにならないなら壊してしまおうと、
昔妹とおもちゃを巡って喧嘩したことがある。
妹はまだ小さいんだから、あなたは我慢しなさいと、
母親が妹を擁護したのも気に入らなかった。
誰かに取られるならと壁にぶつけて壊した。
そのあと部屋に走って戻って、
悔しくて、泣いた。




本当に欲しいものだったから。








































「面会不可……ですか」
「はい。すみませんがどなたもお会いになることは出来ません」













連れられていった病院はすぐに分かった。
この近くであの怪我を手当できる病院は多くない。
電話をかけるとすぐに入院先が判明したものの、面会遮絶、だと。
行けば何とかならないかと思い、
あいつが好きだったはずの果物を思い出して持ってきた。
しかしその部屋には鍵がかかっていて中を見ることすら許されていない。
通りかかった看護士に渡して帰るしかなかった。









鶴屋さんに連絡をしてもいい返事は得られない。
泣いて怒っていた。あの鶴屋さんが。
古泉といつの間に仲良くなったんだ。
古泉は俺よりも、あの先輩の方が、ずっと……。











誰かに取られるくらいなら壊したかった。
どうしても自分のものにしたかった。
何をしても俺だけを見て、
好きだと泣きながら訴えて抱きついてくる古泉を、
そばに置いておきたかった。






部室では前のように話をする。
ただ必要最低限しか目を合わさなくなった。
終わる頃には鶴屋さんが迎えに来る、
来ない日にはハルヒや朝比奈さんが帰るタイミングで帰っていく。
二人きりの時間が今まであんなにあったのに、
古泉がそうしようと思わなければ全く作れないことを知った。












「古泉っ」
「こんにちは」



クラスに呼びに行っても張り付いた笑顔だけを見せて横を通り過ぎる。




「最後までやっていけよ」
「勝敗は見えていますから」





ゲームを長引かせても、二人きりになりそうになればすぐに帰ってしまう。










「私は、……許せないから」











家で待っていても古泉は鶴屋さんと一緒に帰ってきて、
何も話せずに俺はその場を去る。



裏切ったのは古泉のはずだ。
好きだと言ったのに。
言われるのがうれしかったのに。













こんな、ことになってやっと、




俺は古泉が好きだったんだと、知った。














だから知りたかった。
本当はどんな顔をするのか、
どんな泣き方をするのか、
どんな甘ったるい声を出して喘ぐのか、知りたかった。







今更だ。あまりにも、遅すぎた。











あんなに傷付けて、
無理やり体を奪って、
好きだと言われれば満足して、
本当は違ったと分かって勝手に落ち込んでる。





古泉にとっては最低の人間だろう。
やっと助けてくれる人が現れたのなら、俺から逃げるのは当たり前だ。















「古泉、話がしたいんだ、頼む、少しでいいから時間をくれ」








何度も電話をかけた。
すぐに繋がる留守番電話に、聞いていないと分かっていても伝言を吹き込んだ。


メールを何通送っても、返事はない。
帰り道に待ち伏せても、鶴屋さんがガードしていて古泉とは話せない。












古泉、古泉。










お前が好きなんだ、俺のそばに置いておきたかったんだ。







何をしても受け入れてくれた、
泣きながら好きだと言ってくれた、
そんなお前が本気で愛しかった。
だけど気付かなかった。
好きだと言われるたびに胸が痛んでいたのに。
これが、好きだ、という感情だとは思わなかった。








屈折したこの感情を、決して古泉は望まないだろう。
せめてこうなる前に好きだと気づき伝えていれば違ったかもしれない。
……いや。
自分を傷付ける相手に好きだと言われて喜ぶはずもないか。












それでも、遅くても、言いたいし謝りたい。
手紙を書いて古泉の家まで持っていった。
何日か後に見に行ってもなくなることはなく、封も閉じたまま。
何通書いても、同じだった。

































「古泉」
「はな、して、くださっ……」
「話を聞いてくれ、なにも、しないから」









鶴屋さんたちが課外活動でいない日に、部室へ向かう古泉の後を付けて捕まえた。





なにも話したくないと首を振り、顔色は真っ青になっている。











そんなに俺が嫌なのか。
嘘でも好きだと言った相手なのに。














抵抗したところでさして力は強くない。
強引に抱きすくめて非常階段まで連れていく。
壁に押し付けて逃げないようにしたが本気で何もする気はないのに、
古泉は今にも泣き出しそうなくらい震えている。









「古泉。大丈夫だから……怖がらないでくれ」
「離して……ください……」
「古泉」
「や、いや……!」









耳元で優しく囁けば、いつも、喜んでいた。
真っ赤な顔で、俺が望むとおりの言葉を言ってくれた。



でも今はすっかり怯えて俺を見ようともしてくれない。















「……お前が好きだ」
「!」
「好きなんだ、だから無視しないでくれ、話がしたい、今までのことを……謝るから」


















あれは最後の通告だったんだろう。












好きだと、あの時に言えれば、
お前は我慢してくれた、
逃げずに俺の相手をしてくれた。










もう駄目なのか、古泉。
今からじゃ、駄目なのか。
これからはお前を傷付けたりしない。
大切にすると誓う。
お前がいなきゃ駄目だ。
そばにいてくれ、俺だけのものに、なってくれ。




















「…………」
「……ごめん」

























しばらく、古泉の涙は止まらなかった。





いくら謝っても反応はなく、
俺はそんな古泉を見ていることしかできない。








頭を撫でようにも、
触れるだけでびくりと震えて怖がるから、何もできない。








俺が今までしてきたことがこの結果だ。
謝ったところですぐにどうこうなるものではない。






























「……ぼくは……」






ずいぶん長い間そうしていた。
ようやく古泉が声を出す。
やめてくださいと、離してください、以外の言葉を。














「……あなたと、一緒には、いられ、ません……」
「古泉っ」
「なぐ、られても、…………殺され、ても」



涙は止まらない。










「あなたの、言うことは、聞けません……」
















古泉が泣いていたのは、
俺が今更好きだと言ったことが理由じゃない。












自分の考えを伝えることで、
俺が……
最悪の場合、
命すら奪うだろうと思っていて、その恐怖で泣いているんだ。
























何もかもが遅すぎた。




俺の言葉は、古泉には伝わらない。






好きだという気持ちを古泉は理解出来ないだろう。
俺がそうなるわけはないと、言うからには裏があると、思うだろう。












「もう……しないから」
「う、うっ……」
「……信じられねえよな」










その証拠に、古泉は、一度も俺を見てくれなかった。














どこかで期待してたんだ。






お前に今でも、好きだと言えばやり直せるんじゃないかって。
















ごめん、古泉。























俺の勝手な言動で、お前をさらに苦しめた。




















駄目、なんだ。





悪あがきもここまでにしよう。



















「……分かった。諦める。二度とお前にこんなことは言わないし、
 無理やり捕まえたりもしない、何もしない」










だからハルヒといるときだけは、話をしてくれ。






偽物でもいいから、笑顔を見せてくれ。





俺はなるべくお前の力になろう。










罪滅ぼしにはきっとならない。お前が俺を許してくれることはない。



























大好きだったのに、ごめん。

















thank you !

キョン的バッドエンド。古泉はこの後きっと鶴屋さんが幸せにしてくれるよ!
キョンが超絶に駄目ですね・・・でも私キョン好きで(ry

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