November





冬の少し前の、休日。
朝や夕方頃は、もう肌寒い。
待ち合わせの時間は昼間だけど、夜まで、一緒にいるかな、
そう思って、暖かい格好をしてきた。

いつもデートは僕が行くところを決めて、
彼は文句を言うでも褒めるでもなく一緒に歩いてくれるけど、
今日だけは、突然彼が「俺に任せろ」と言い出した。

雪でも、降るんでしょうか?天気は、良さそうですが。



「古泉!」
「あ、こんにちは」


駅の改札口から、手を上げて、出てくる。
大丈夫、まだ、待ち合わせから5分しか遅れていないから。
たまに、待ち合わせ時間に電話をすると今起きた、
なんてことも言われたことがあるけれど、
全部ひっくるめて好きだから、いい。
慌てて謝ってくる彼も、好きだから。


「今日は絶対、間に合うと思ったのに」
「5分くらい、構いませんよ」
「飯、奢る」
「え?いえいえ、いいです、そんな」
「いいから。昼、まだ食べてないよな」
「まだ、ですけど」



今日は、どうしたんだろう?
普段だって10分くらいは普通なのに、今日だけ?
だけど、彼がそう言ってくれるなら、たまにはいいかもしれない。





いつもよりも豪華なランチを終えて、
彼の先導に従って、僕達は海沿いの公園に行った。

1000円以上、単価が高かったのですが、本当によかったんでしょうか。
いつも涼宮さんたちに奢らされているので、そんなにお小遣い、
なさそうな気もするのですが。
彼のプライドを傷つけるわけにはいかないので、
お金は出しませんでしたが、夜は、僕が出しましょう。



「天気が良いから、気持ちいいですね」
「そうだな。海、好きか?お前」
「海・・・そうですね、好きだと思います」
「そうか、なら、よかった」



そう言って、これも、とても珍しいことに、
ベンチに座って彼は僕の手を握ってきた。
通路には背を向けているベンチだから、見えない、
かもしれないけど・・・なんだか、照れくさい。



海を見ながら、ベンチに座って、手を繋ぐ、なんて。
僕が憧れるような、定番のコースです。
こうしたいと、言ったことはない、
あなたは、嫌がると思ったから。
なんだか、不思議な、気持ちです。
もちろん、もちろん・・・嬉しいです。




熱い頬を潮風で冷ましながら、のんびりと話をして、
風が強くなってきた頃に、公園を後にした。
次に向かったのは、ゲームセンター?
一緒に来たことは、ない。
確かに僕だったら、選ばないかもしれない。
僕自身があまりこういったところには来ないから、
来ようと、思わなかった。



「こっちのゲームなら、意外と強いかもしれないぜ」


なるほど、
では、ぜひとも、お相手願いましょう。








「やっぱり弱かったな・・・」
「・・・おかしい、ですね・・・」


彼も初めてだというゲーム、リズムを取るものとか、
早押しのクイズとか、銃を撃つものとか、
いろんなゲームに挑戦しては、ことごとく、負けた。
ボードゲームとはまた違った面白さがあって、
きっと一人ならやり方もよく分からなくてできないけど、
彼が一緒に遊んでくれたから、楽しい。
負けっぱなしでも、ずっと、笑っていた。



そしていつの間にか日が暮れていて、
昼食にあんなたくさん食べたのに、もう、お腹が空いてきた。
たぶん、公園でたくさん歩いて、ここで、たくさん笑ったから。
彼にそれを伝えてみると、携帯の画面を見て、


「そうだな。いい時間だ。行くか」
「時間、って、予約でもしているんですか」
「おう、そうだ」



予約?
夕飯を?
一体、どんな。
何か、彼は、思い違いをしているんでしょうか?



「・・・あの、念のために言っておきますが、僕、
 今日誕生日じゃないですよ」
「分かってるっつーの、そんなの」
「そ、そうですか」



連れてこられたのは小奇麗なイタリア料理屋で、
高校生二人で入っても不自然ではないカジュアルさがある。
だけど随所にこだわりのある内装が施されていて、
店内は予約席以外、満席で、人気の高さを思わせた。
どうやってここを見つけたんだろう、
わざわざおいしいところを探して、予約まで、なんて、
彼らしくない。
僕は、何か、忘れているんだろうか。
彼の誕生日も今日じゃないし、
付き合った記念日だって今日じゃない。
まさか転校でも、するとか。
今日で、最後だとか、そんな、話じゃ、


ないですよね?





「どうだ、うまいだろ」
「はいっ、すごく、おいしいです」


どれも、おいしい。サラダも、パスタも、スープも。
というか、頼んでいないのにコースが出てきました。
もしかして、彼はここも、奢ってくれるつもりでしょうか?
これはますます、不安になってきました。
彼の表情を伺うけど、別に何か深刻な話を切り出そうという雰囲気はない。
うーん、何でしょう・・・?



ご丁寧に可愛らしいデザートまで出てきて、
最後まで残さず食べて、それがまたとても美味しくて、
僕は自分で思ってるよりも美味しそうにしていたようで、


「そんなに気に入ったなら、今度また来るか」


彼があまりに優しい笑顔で言うから、顔が真っ赤になってしまった。



少し頭を冷やしたくてトイレに行って、顔を洗って戻ると、
会計が終わっていて、さすがに僕も払うと言ったのに、
彼はかたくなにそれを拒んで、そのまま帰路についた。
嬉しいですが、どうして、でしょう?





僕の最寄駅まで送ってくれて、彼はいったん電車を降りて、
一緒に改札付近まで来てくれる。これは、いつものこと。
遅い時間になるとあまり人が降りない駅だから、
少し寄り添って歩いても、怒られない。


「ありがとうございました、あの、今日は、どうして僕に、
 こんなに良くしてくださったんですか?」


少し、目を、逸らした。






「11月23日だから」
「え?・・・ええと、何かの、記念日・・・でしたっけ?」
「いや、そうじゃなくて」



今度は目を合わせて、彼の手が、僕の頭にぽん、と乗る。




「勤労感謝の日。お前、いつも、閉鎖空間で、頑張ってるから」






「はっ・・・え・・・」
「そういうわけだ。じゃあ、気をつけて帰れ。また明日、学校でな」
「あ、は、はい、あなたこそ、お気をつけて」





あなたは、そんなことまで、
僕のこと、考えて、くれて・・・・





ま、待って、待って、僕は、今日のお礼を、
ちゃんと伝えられて、ない。





「うわっ!」


電車に乗りかけていた彼の腰に腕を回して引っ張った。
どさりと二人で倒れこんで、電車はホームを後にする。
降りた数名の乗客が、こちらを見て少し、笑っていた。



「なんだよ、古泉、いきなり!」
「あの、今日、今日、泊まって、いきませんかっ」
「え?」
「ぼ、く・・・今日、嬉しくて、すごく、だから、
 ちゃんとお礼を言いたくて」
「それで十分だ、別に、礼を言われるようなことでもないし」
「十分じゃ、ないです、泊まってください、」


そう、もう、お礼とかじゃ、なくて・・・



「もっと、一緒にいたいんです」



まだ今日はキスもしてないし、それに、
あなたのことをすごく好きだと思ったら、
ずっとずっと一緒にいて、あなたに触れたいと、そう思ったんです。



「しょうがないな・・・親に電話してみるよ」
「はい」





僕の、閉鎖空間での仕事なんて、全然、いいんです。
昔は大嫌いだったけど、今は、
あなたがいる世界を守るという大事な大事な意味があるから、いいんです。
疲れたりしないし、いつだって、やる気です。


だけどあなたが気にかけてくれていたことが嬉しくて、
僕のために、今日のことを考えて、準備してくれたのが、嬉しくて、
今夜は僕が、お礼を、しないと。感謝の気持ちを、伝えないと。
あなたと出会えたことが、
あなたを守れることが、
あなたに愛されることが、とても嬉しいです。



ありがとう、ございます。










thank you !

正直お礼SSはどれも恥ずかしくて自分で読めないのですが
これが史上最高に恥ずかしかったりします。編集してません・・・
キョンも古泉も恥ずかしいよー!笑

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