「お前、俺のこと好きだろ」

言ったとたん、古泉の口から水鉄砲のごとく
緑茶が吹き出されたのを、俺は見た。





別にタイミングなんてどうでもよかった。
部室にハルヒや朝比奈さん、長門がいない時ならいつでも。
今日の、この時間は、たまたま二人きりだった。ただそれだけ。


「す、すみませんっ!」


あわててティッシュを数枚抜き取り、
(朝比奈さん手製のティッシュカバーケースのなんと可愛らしいことか)
これを間接キスと言ってしまってはロマンのかけらもない、
俺の口やら顎やら、首までかかった緑茶を拭き取る。


いつもの安物モデルのようなハンサムスマイルではなく、
下がった眉を見ただけでも俺は少し満足する。
こいつの真顔はたまに見ることができるが、
あわてているような表情はなかなかの希少価値がある。

だが、それは今回の目的じゃない。


「っ・・・!」


ティッシュを持っている手を掴んでやると、
古泉は一瞬にして体を強張らせる。
ハルヒに命令された長門じゃあるまいし、何をそんなに固まってるんだ。


「痛いです、よ・・・」


泣きそうな目に見えるのは俺の錯覚か。泣くほど強く掴んではいないぞ。
離してくれ、と同意語なんだろうが、お前の回りくどい言い方には日ごろから
飽き飽きしてるんだ。
何を言いたいのかすぐに分かるような俺になっちまったが、(ああ、忌々しい)
あえて分からないことにしておく。


「別に、茶くらいどうってことない」

「そ、そうですか・・・」


俺の視線にどうやら長くは耐えられなかったようで、
長いまつげを伏せて俺から目を逸らす。
なんなんだお前は。
俺のことが好きなくせに、ずっと見ていたいとは思わないのか?


「決め付けないでください」


弱弱しい声で呟く。
相変わらず視線は床を張っている。
そんな状態で言ってたら、とても否定とは受け取れないぜ。



 −古泉はいつも俺を見ていた。俺が見てやると、笑顔でごまかす。
  いつものことだ。

  機嫌を伺うかのような態度だとか、
  やけに近寄りたがる癖だとか、
  俺に向けられるどこぞの王子様みたいな笑顔や甘い声や香りだとかが、
  疎ましく思っていたはずなのにいつの間にか悪くないと思うようになった。

 
  こいつがどうして俺を好きになったかは皆目検討もつかないし、
  そんなことはどうでもいいと思う。 
  ただ、いつまで経っても言い出さないこいつにチャンスをくれてやったんだ。



「違わないだろ」
「・・・・・・」
「古泉」


さらに腕を引いてやると、びくっと肩を震わせて動きかけた足に力を入れ、 
踏みとどまっている。


こいつはこんなに素直じゃなかったか?


「おい、」
「・・・気持ち悪いと、思っているんでしょう」
「は?」


待て、声が震えてるぞ。
全く、なんだってんだ。


「嫌われたくないから、言いたくありません」


だから、それは言ってるのと同じなんだが・・・
こいつは頭がいいくせに肝心なところでいつも抜けてる。


気持ち悪いと思っていたら自分からそんな話題を振るか?
気持ち悪いと思っていたらこんな風に腕を掴んで、
引き寄せられると思うのか?


仕方がないので、もう一方の腕も掴んでやる。
これで逃げられもしないし、というより、
逃げる必要もないことがわかるだろ。


「え?あ、あの・・・」


勢いをつけて引っ張ってやると、ようやく古泉の足が動き出し、
甘い香りが突き抜けて柔らかい髪が頬に当たった。
そう、これも忌々しいことに、こいつは俺より背が高い。
俺が抱きしめるのに、俺のほうが低いというのはどうも分が悪いが、
古泉の体温が思いのほか心地よかったからどうでもよくなった。


背中に回した腕を伸ばして髪を梳く。
少し跳ねてるんだよな、いつもこのあたりの髪が。癖毛なのか。


目の前にある白い耳を見ていたらかじりつきたくなったが、
あまりに古泉が固まりすぎているのでやめておいた。
驚きすぎだろう。
ずっと俺を見ていたくせに何も分からなかったのか、お前は。




「古泉君!ついでにキョン!今日はみくるちゃんの新しい衣装を持ってきたわよ〜!!」
「ふえええ、それは恥ずかしいですぅ・・・」


騒がしい集団がばたばたと走ってきて、ドアをぶち破る(というのは、比喩だ)
まで、古泉は本当に動かずに一言も発さずにフリーズしていて、
その後どれだけ目を合わせようとしても合わそうとせず、
ボードゲームを片付けようとすれば全ての駒を落としてハルヒに笑われて、
朝比奈さんのお茶を熱湯のうちに飲んでヤケドして、
最後に部室に来た長門にまで「ユニーク」と言われる散々な具合だった。


朝比奈さんの新衣装(これがまた、えらく似合っていた)に気を良くした
ハルヒが勘ぐることがなかったのが幸いか。


まあ俺としては、
俺が見てることも気付かずに、耳まで紅く染めて俺に掴まれた腕と、
その髪をしきりに思い出すように触っている姿を見れたことが、
幸いだったわけだけどな。


thank you !

初のキョン古です・・・なんかもうグダグダな・・・
しかも常に一定のトーン!キョン視点好きだけどうまく書けません。
古泉は私の中で相当乙女ですみません。


inserted by FC2 system