HB
彼は彼女の大切な人。 毎日放課後、休日も朝から夕方まで、 いつも見ていれば誰だって分かります。 分かっていないのは当の本人だけ。 それが、問題なんです。
指が伸びる、 オセロの白の順番なのに、 その方向ではなく。 「お前、前髪長い」 はい、でも、僕自身にとってはそんなに邪魔じゃないんです。 前髪を短くすると癖が出てしまって、うまくまとらないんですよ。 相手が彼以外ならすぐにそう交わせるのに。 その指に触れられるだけで、実際は、神経の通っていない髪の先だけでも、 全身が刺激されたように震えが走る。 何も言えなくなってしまう、 何も出来なくなってしまう。 髪をすくった指がすうっと顎に伸びて、持ち上げられる。 彼はオセロの盤を横にやって、そこに腕をついて近寄る、僕に。 オセロはあなたが優勢だったのに、 それはいつものことですけど、 でも、いいんでしょうか? 熱くて、熱くて、 溶けてしまいそうな唇が、 僕の何もかもをおかしくしてしまう唇が、 荒々しく押し当てられて僕を飲み込んでいく。 はじめてこうなったのはいつだったでしょうか? 涼宮さんも、朝比奈みくるも長門有希も、誰もこの部室にいなかった。 珍しいわけじゃない、よくあることでした。 そんなよくある日に、とてつもなく重大な事件が起きてしまったんです。。 「ん、う・・・」 口の中までどろどろに溶かされて、息ができなくなりそうです。 あなたがおさえている後頭部も、もう働いていません。 ああ、もう、また何も考えられなくなる。 本当に、いいんでしょうか? 僕のするべきことは涼宮さんの心を平穏に保つこと。 初めて会ったときから彼女にとっての鍵が彼なのは 分かっていました。 なのにこんなことになってしまった。 あの人の一番大切なものを、大切なものに、こうして、 ・・・・・ パタ、パタ。 小さな足音。廊下の端から聞こえる。 長門有希。 「あ、だめ、です」 僕が理性を保たないと、大変なことになってしまうんです。 名残惜しい唇を離して、オセロを元の位置に戻します。 次は、ええと、どちらの番でしたっけ? 「古泉、今日の帰り、寄って行くからな」 本人が事の大きさを、分かっていないのが一番の問題です。 それでも僕も、どうしようもできないことも、問題です。 「・・・はい」 本当に・・・困ったものです。
最後の一行が書きたかっただけとかなんとか。
古泉視点はキョン視点より難しいです、というか、捏造しすぎです。