顔が近すぎなんだよ。
笑顔を振りまきすぎなんだよ。
甘い匂いだってバニラに似ていて、
アイスみたいに俺の脳みそは溶けちまった。

古泉が俺を好きなんだろうと、
思ったときにはもう確信していた。



妄想大暴走




「ええと、どう説明したらいいのでしょうか・・・」


古泉は珍しく笑顔を取りやめ、眉は下がり視線は宙を泳いでいる。
説明なんて不要だぜ。お前は言えばいいんだ。
ただ俺に言うだけでいい。
俺のことが好きだと。
あわよくば抱かれたいのだと。


「なんと言いますか、あなたの想像力には、感服します」


机に両手をついて頭を下げるようなポーズはなんだ。
おみそれいりました、ってやつか。
お前は分かりやすいんだよ。
見ていれば誰だって分かるだろ。
別に俺の想像力が特別ってことはないぜ。


机に置かれた左手。
手に取って、指を眺める。
細い。白い。長い。女みたいな、手だな。



「ちょっと・・・待ってください」


くわえてやろうかと思って口元に持っていこうとしたのに、、
笑顔をひきつらせて古泉が手を力いっぱい引いている。


「一体あなたは、何をする気ですか」
「舐めようかと」
「何でそうなるんです」


深いため息。
おいおい。
真剣に呆れてるように見えるんだが。


「呆れてますよ」


そうか、お前はもっとお子様レベルから始めたかったのか?
手をつなぐのも恥ずかしいみたいな、か?
そんなものは俺たちに似合わないだろう、どう考えても。

やりたかったらやればいいんだ。
シンプルでいいじゃないか。


「俺はお前と違って回りくどいのは嫌いなんだよ」
「まあ・・・そうでしょうね」
「じゃあ、キスでもするか」



目を丸くして口を開けたまま、古泉はがくんと首を落としてうなだれた。
それはYesか?
「はい」って合図はもう少し小さく頷くべきじゃないか?


「こんなことは言いたくないのですが」


耳をつかんで顔を引き寄せようとする俺にまたもやこいつは
目いっぱい抵抗して、首に力を入れて頭を固定しながら言った。


「あなたは勘違いをしておられるようです」
「なに?」
「僕はあなたのことは好きですが、」
「そうだろう」
「ちゃんと聞いてください・・ですが、」
「なんだよ」
「だから、それは人としてなんです」
「は?」


「男としてだとか、恋愛対象だとか、
 そんな目で見た覚えもありませんし、そんな感情もありません」


言い終えてすっきりしたのか、古泉は瞬時にいつもの笑顔に戻った。

待て待て。
ちょっと待ってくれ。


勘違い、だ?


いつもいつも間違いが起きるんじゃないかと思うくらい
顔を近づけて話してくるくせに、
ウインクを飛ばしたり自分から擦り寄ってきたりするくせに、
勘違いだって?

そんなわけ、ないだろ。


「おいおい・・・照れるなよ」
「照れてません。意外と前向きなんですね、あなたは」


照れ隠しかと思ったのだが、古泉の頬が赤くなっているわけでもなく、
俺を見るその視線はかわいそうな人を見るそれだ。

おい・・・おい!



どうやら俺の勘違い、だった、ようだ。



待て、待て。
俺は何と言ったんだったか。
古泉が俺を好きだと思っていたから、
なんだかとんでもないことを言ったような、
いや、
思い出さないでおこう、うん、それがいい。
いつもフォローしてくれるお前のことだ。
古泉もこのことはすぐに忘れてくれるだろう。


「それにしても、驚きました」


すっかり自分のペースを取り戻した古泉は、両手を広げて肩をすくめる、
いつものポーズをいつもより大げさにしてみせた。


「あなたが僕にそんな感情を持っていたとは」
「・・・忘れろ」
「勿論涼宮さん達には言いませんよ。世界が崩壊しかねない」
「・・・頼むから忘れてくれ」
「僕としては、こんな事態は想像もしていませんでしたが、
 同じ団員としてあなたとは仲良くしていきたいと思っているんです」
「・・・すまなかった」
「いえ、これからもよろしくお願いします」


最悪だ。
本当ーに、最悪だ。
俺が古泉に一方通行だと?そんな馬鹿な。
お前が俺を好きになったから、好きになったんだ。
そうだ。
そうだった、はずだ。
しかしそれは勘違い、らしい。


「らしいじゃないです、勘違いです」


じゃあ何故、
俺は・・・古泉を?



これは。
これは。
これは、恥ずかしい。
ハルヒにキスをしてあの空間を抜け出したことも相当恥ずかしかったが、
今ならそのことを大声で屋上で叫んだっていいくらいだね。
それでこの事態を脱出できるならな。



「それで、僕のどこが好きなんですか?」



満面の笑顔。
こんな奴を好きになっちまったなんて、本当に、最悪だ。




thank you !

キョン→古泉にリトライだっぜ!フロイト先生も失笑だっぜ・・・
「腕」の古泉はそうは思ってなかったよバージョンですね。
ところでお題が終わったとたんにタイトルが思い浮かばなくなりました(震)



inserted by FC2 system