翌朝顔を洗って鏡を見ると、
あまりにひどい姿で我ながら失笑を禁じ得なかった。
氷水を当てていたのに。
寝不足もたたって瞼は腫れて、
目の下は拭いすぎたせいで赤い。
髪もまとまらず、アイロンをかけ忘れたシャツは皺が目立った。


それでも僕は、学校へ行かなければならない。
ちらと目に入った本棚の一冊で、言い訳を決めた。



火傷−5.2 side-I



気が進まなく、部室に着いたのは一番最後。
中から聞こえる彼と朝比奈みくるの談笑が、より足を重くさせる。
深く息を吸ってから扉を開けると、予想通りの反応が待っていた。


「ちょっと古泉君!一体なにがあったの!?宇宙人にでも襲われた?」

入るなり目を丸くした涼宮ハルヒが飛び出してくる。
彼女越しに見た彼は、眉間に皺を寄せて不安げにこちらを見ていた。



大丈夫ですよ。
言ったり、しませんから。


いつものやり方で言い訳をして、彼女を納得させて、
部室を後にした。と、同時に携帯が震える。
一瞬、彼からの連絡かと思って足がすくんだけれど、
いつもの、機関からのメールだった。


僕がすぐに帰ったせいとは思いがたい、
もしそうであればそれはそれで虚しい、
非常に軽度な閉鎖空間が発生。
寝不足でも、体の調子が悪くても、このくらいでしたら、問題ありません。



コンビニに寄った帰り、ビニール袋を手首にかけると、
ひりひりと痛む。
そういえば、腕。痛かった。
彼のベルトにも、血がついたかもしれない。
思い出したくないのに、体のあちこちに、昨日の痕跡が残っていて、昨日のことが脳裏に蘇る。


早く帰ろう。
帰って、もう一度シャワーを浴びて、今日は、早く眠ろう。


「・・・!!」


家に着いて、エレベーターを降りると、部屋の前に見知った人物がいた。
なぜかドアにもたれかかって、眠っている。



一体何をしているんでしょうか・・・?



「あ…あの、こんなところで何を、されてるんですか?」

 
肩をたたいて起こしてみると、うーん、と唸った後に目が開く。
何があったのかしばらく思い出しているようで、
やっと自分の状況が分かったのか、

「お前、まだ帰ってなかったんだな」


ほっとしたように言ってから、やっと腰を上げる。


「軽度ですが閉鎖空間が発生しまして」
「そうか」
「・・・僕に、用ですか?上がられます?」


どうしてこんなことを言ってしまうのだろう。
昨日みたいなことが起きるのは、嫌なのに。
どうして自らこんなことを。


「ああ、上がってく」




そう、本当は、昨日、嬉しかったんです。
あなたがここに来たのが。
誰も来なかった、この部屋に。
一人きりだった、この部屋に。
あなたが来てくれた。
僕の生活の中に、あなたが、入ってきてくれた。





冷蔵庫から、今日は麦茶を取り出す。
昨日の紅茶は、手をつけられなかったから。
紅茶が、好きじゃなかったんでしょうか。


「なんだお前、ほんとにハムスター飼ってたのかよ」


本棚を見ながらこちらに話しかけている。
麦茶とコップを持って早足で、彼の元へ行く。


「ええ。だいぶ前のことですが」
「中学ん時?」
「はい。一人暮らしは寂しいだろうと、機関が薦めてくれたんです」


二つのコップに、麦茶を注ぐ。
飼っていたのは、小さな真っ白なハムスターだった。
手もかからないし、エサも簡単なものでよかったから、
中学生の自分でも長生きさせることが出来た。
懐かしい。
僕の唯一の、心の癒しだったのかもしれない。


失ってからは、
笑顔でいることだけ、考えた。
どうせ、最初から一人だったんだから。
悲しんだって苦しんだって、そんな顔をしたって、
気にかけてくれるような人もいないんだから。


「古泉」
「はい?」
「この部屋、機関以外で誰か来たことあるのか」


どうして、そんなことを?

勿論、ありませんよ。
機関も、それ以外も、
誰も僕に興味なんか、持たなかったんですから。


大切なのは、この世界を守るという任務、
ただそれだけ。
それだけのために、僕らはこの生活を続けている。



「機関どころか、あなたが唯一の訪問者ですよ」


何かを考えているようだった。
少しして、彼は、なぜか、泣きそうになる。
昨日の、タオルを外したときのような。
優しくて、泣きそうな顔。

どうして、そんな顔を?



「そんな顔、しないでください」


機関で教えられたたくさんのことの一つ、
笑顔だけはそのままで、でも、声は震えた。
だって、あなたがそんな顔をするから。


分かりません。
あなたが、何を考えているのか。
やっぱり、麦茶も、嫌いなんでしょうか?
口、つけてないですね。



「あ、の・・・?」



突然、立ち上がった彼は、また、僕の腕を引く。
閉鎖空間での仕事もあって、抵抗できる力が入らない。
戸惑ってるうちに体がベッドに投げ出され、
昨日の出来事が鮮明に蘇る。


「昨日のようなことは、嫌です」

今になって、腕が痛む。


「何が嫌だったんだよ」
「腕を・・・縛ったりだとか、口を塞ぐのとか」


ああ、そういうことじゃなくて。全て、全て、嫌なのに。


「分かったよ、じゃあそのままでいいから、でかい声出すなよ」
「え、ええと、痛いのも、嫌です」
「分かったから」


分かってません。
こんなのは、困るのに。
どうしたらいいか、分からないのに。
熱くて、苦しくて、笑ってなんかいられなくなるから。



また押し当てられる唇。
近づいてくる彼の存在は、見ていられない。
胸が張裂けそうになるから。
堅く目を閉じても、その感触と、空気で、心が震える。



我慢、しないと。




*******************




彼女の名を出されると抵抗なんかできなくて、
彼の舌が、まだ昨日の痛みをひきずるところに這うと、
声が我慢できなくなった。
彼が、そこに、そんなところを、舐めていると考えるだけで、
熱が上がる。体が熱くて、熱くて、溶けてしまいそうだ。
そんなこと、しないで。


「あ、く、うっ・・・!!」
「痛く、ないよな?」
「は、いっ・・・」


ゆっくりと差し込まれる中指。
散々舐められて、昨日はあんなに辛かったのに、
今はすんなりと受け入れてしまう。
苦しいのに変わりはなかったけど、耐えられた。

彼が、彼が、僕にそうしている、
そして、今日は、昨日よりも優しかった。
それだけで、よかった。



「あ、や、やだっ、ああっ」
「古泉・・・」
「ゆ、指、やめ・・・あ、ううううっ」


枕を噛んで力を入れたのに、我慢できずに体が戦慄く。
こんな行為で達してしまうのが恥ずかしくて、
また涙が流れる。
辛いのに、苦しいのに、哀しいのに、どうして?



「は、あっ・・・ごめ、んなさい・・・!」



あなたが、好きです。


どんな行為でも、あなたにされているというだけで、
こんなにも興奮してしまう。
少しでも僕のこんな姿を望んでくれているのか考えるだけで、
嬉しくて嬉しくておかしくなってしまう。


ごめんなさい。




「力抜け、古泉」
「あ、でも」
「いいから・・・な、」



うまく力なんて抜けない。
指ならまだしも、彼を受け入れるのは、苦しい。
同時に、たまらなく、幸せでも、ある。


またあなたを、好きになってしまう。それが、怖い。





「一樹・・・」




「・・・・・っ!!」




無意識なのか。
意識的なのか。
ぐ、ぐ、と腰を進めて、彼は、僕を呼んだ。


あ、
どう、しよう。



体にはどうしようもない負担がかかっていて、
息も、うまくできないのに、
また熱が集まる。
そんなこと、言わないで。



背中に落ちる彼の汗が、愛しい。
腰を掴む指も、聞こえてくる乱れた息も、
中に入ってくる彼自身も、その全ても。



体勢が仰向けに変えられて、再度、彼が入ってくる。
苦しい。
この体勢は、すごく、辛い。
だけど、彼が見える。
彼がどんな顔でこんなことをしているか。
彼がどんな目で僕を見ているか。




あ、見て、られない。

そんな顔、そんな目、
僕だけが見られるなら、
どんなに苦しくても毎日だってこうしたっていい。
そんなふうに、思ってしまう。



「ふ、あ・・・あ、ああ、う、」


また、引き抜かれて後ろから入れられる。
こっちの体勢は、まだ、楽です。
だけど、気持ちが昂ぶりすぎて、それに、
昨日からの寝不足もあいまって、
気を抜くと意識がなくなりそう、で、す。
視界が定まらない。
いやだ、もっと、ちゃんと、彼を受け止めたいのに。
こんなときじゃないと、できないのに。



「なあ・・・いつ、き」


遠くから声が聞こえる。
名前を、呼んでる。
なのに、よく、聞こえない。その後、何て言ったんだろう?


「ひあっ・・!」


腰にあった手のうち一方が前に伸びて、優しく擦られ、
不意の行為にまた出してしまいそうになる。


「あ、ああああっ、いや、やめ、て」
「好き、だよな?」


好き?
これが?
こうすることが?


「う、ううっ、や、やだっ」



恥ずかしい。
あなたが好きだから、それだけで、
また、みっともない姿を見られてしまう、恥ずかしい。



我慢できない。
我慢なんてできない。
こんなの。
こんな感情を、快楽を、僕は知らない。



優しく前はそうされたまま、中では強く押し入れられて、
意識が、一瞬、飛んだ。
大量の液体がベッドに飛び散って、その余韻の中で、
今までの優しい動きを忘れてしまったかのように、
彼は乱暴に突き動かしてきて、
また僕は、全てを受け止めた。




****************



昨日もそうされたように、指が、頭を撫でてくる。
癖、なんでしょうか。
終わった後に、こうするのが。


「なあ、古泉」
「・・・・・・・はい」
「お前さ・・・気持ちよかった?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「2回も、イっただろ」



なんてことを聞くんだろう。
恥ずかしい。本当に恥ずかしい。
僕が喜んでるみたいじゃないですか、そんなの。
より深く、枕に顔をうずめると、なぜか彼は「そうか」と納得したように唸った。
あ、今のは、肯定の意味じゃ、なくて・・・




「あと・・・」
「・・・・・・・はい・・・」


いい、ですけど。





「俺のこと、好きだろ」





このタイミングで、そんなこと。
分かっているじゃないですか、もう、あなたは。
そうじゃなきゃ、こんなことになっていません。




「・・・・おい」

「・・・・・ごめん、なさい」



言えるわけがない。
こんな僕に言えるわけ、ない。
あなたが好きで好きでしかたがなくて、
あなたに触られるだけで声をかけられるだけで
名前を呼ばれるだけで体がこんなにこんなに、
おかしくなってしまうような僕が。


世界も機関も全部なかったことにして、
あなたにこの気持ちを伝えてしまうのは、
僕が今まで守ってきたものを捨てることになってしまうんです。
何もかも捨てて、あなたにこうされることだけ、
望んでしまう。そんなことは、あってはいけない。


あなたを守りたいから。
どうかこんな僕を、許してください。





あなたが、好きです。


thank you !
なげー!(無駄に)
キョン視点と照らしあわしつつ書いてみたんですが無理やり感否めない!
18禁ってほどエロくもないですね。。あらやだ。。



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