「キョンくん? うんとね、今、おべんきょうがんばってるよ! 
 すごいの、毎日。お母さんもよろこんでるよ。
 ごはん食べたら机に向かってね、いっしょうけんめいノートに書いてるんだあ」






階段を上がってくる足音とともに、妹が楽しそうに話をしながら近づいてくる。
日ごろの言いつけを守って部屋のドアはきちんとノックして入ってきた。
そして、話し相手になっていた電話を指さして見せる。





「古泉くんからだよ!」
「おう、さんきゅ」
「じゃあね、古泉くん。また遊びに来てね」









名残惜しそうに挨拶をしてから受話器を俺に手渡すと自分の部屋に戻っていった。
ひとまず休憩にしようか、古泉との電話の時間だ。
携帯電話を一階に置いたまますっかり忘れていた。
いつもならこの時間を忘れないのに、勉学に集中しきっていたようだ。




携帯に耳をあてると、自然と頬が緩むような甘い声が聞こえてくる。






『こんばんは。ずいぶん、頑張っているんですね』
「ん、ま、まあな」
『小テストが近いんですか? 言ってくだされば、僕も力になったのに……』
「いや、そんなに大したものじゃないんだ。それよりも、明日の話だろ?」








明日は休日であり、ハルヒからの呼び出しもかからない予定だ。
俺達はたいてい金曜日まではハルヒの動向をうかがって、
何もなければ翌日に会うことにしている。
明日は天気が悪いらしいからお前の家に行こうかと思うんだが、どうだろう。







『そうですね。家でゆっくりしましょうか、今週は少々疲れました』
「そうしようぜ。お前を労わってやるよ」
『それはどうも』




















短い電話だが、そこで会話は終了した。
最後に好きだと伝えることも忘れなかったが、もちろん古泉には流された。









今週はハルヒが爆発していたからな。
うだるような暑さが続く毎日じゃ、ストレスが溜まるのも頷ける。
何をするにも汗がしたたるし、
こっそり学食から持ってきたバナナが腐って怒ってたのはつい一昨日のことだ。
そんなくだらん理由でももちろん閉鎖空間は発生し、古泉は暑い中必死に戦っていた。
俺はそれを手伝うことが出来ないから代わりにこうしてノートにまとめていたのさ。

















オフクロや妹が感心するほどに真剣に、
お前との愛の営みを成功させるための方法を。
















Step H(前)












「あー、やっと着いた」
「雨、すごいですね。お疲れさまです」


















まとめたノートを鞄に忍ばせて、翌日、俺は古泉の家を訪問した。





朝から雨が滝のように降っていてとても自転車では走って来れず、
傘をさして駅まで行くだけでびしょ濡れになった。
古泉が濡れて風邪を引いたりしたら困るから、迎えに行くという申し出を断り家で待たせた。



家に着くと古泉が小走りで玄関までバスタオルを持ってきて、
俺の頭やら顔やらを拭きながら雨の勢いにため息をついている。










「天候が落ち着いてからでもよかったんですよ」
「なるべく早く会いたかったんだ」
「そう、ですか」









ぽ、っと頬に赤い色が入る。
雨で濡れた顔は拭いたからキスをしても怒られない、と思う。














……思うが、緊張して出来なかった。
















今日は、ひとつ、決意してきた。



このノートの成果を。



今まで出来なかったことを、今日こそ、したいという決意だ。














鞄の中には古泉とそうするための道具などが詰め込まれてる。
詰め込む、というほど大量にあるわけじゃないが。



























「シャワー浴びてください。風邪を引いてしまっては困りますからね」
「ああ、そうだな。悪いけど服貸してくれ」
「はい。あなたが入ってる間に置いておきますね」





















古泉はどう考えているんだろう。









俺が古泉を好きになって、いろんな経緯を経て、
諦めようと思った時期もあったが、こうして見事付き合うに至った。
キスもしたし、服の上からなら体も触った。
情けないことに俺だけがイっちまったこともあった。





それ以降、古泉と体を重ねて気持ちいい気分になっても、
お互いセーブしてそこから先に進もうとはしていない。
リードしたくても知識も経験もなくて進めなかった。





古泉が、物足りなさそうな笑顔で眠りにつくのを分かっていながら。


































「ふう……」















シャワーを頭から浴びて、既に記憶しているノートの内容を反芻し心の準備を始める。
あのノートには男同士でやるためにはまず何が必要か、
そして緊張をほぐすための雰囲気作りや言葉選び、
体の内部の構造、
行為そのものの方法や終わってからの気遣いまでがまとめられている。
ノートを見ながらやるわけにはいかないのでこの数週間で必死に頭に叩き込んだ。何度も何度も、繰り返し同じことを書いて記憶した。
英単語や数学の公式は覚えられなくても、
古泉のためならと思うとテレビも見ずに寝る間も惜しんで勉強できた。







今日は物足りない思いなどさせない。


古泉に、気持ちよくなってもらうんだ。


























「さてと……ん。お?」



















頬を叩いて気合いを十分に入れて風呂を出たがそこにはバスタオルしか置かれていなかった。
持ってくると言っていた服がない。
あいつが忘れるなんて珍しいこともあるもんだ。
仕方ないのでバスタオルだけ腰に巻いて出ていくと、









「古泉?」
「あ…………」






















部屋で、ノートを見つめている古泉と、目が合った。
































「ばっ……、何、見て……!」

















人生最速のスピードで走り寄り古泉が持っていたノートを奪い取る。
開いていたそのページは文字が書かれている最後のページだった。





当然、鞄の中に何が入っているかもばれているようで、
その証拠にファスナーが開いたままになっている。




















まずい。これはまずい。
今までの中で一番、気まずい。
古泉がどんな顔で俺を見ているか、怖くてとても見れない。




























「あ、の……バスタオル、落ちて……」
「うわ!」
「すみません、部屋着……これ、着てくださ……い」



















急いだせいで腰に巻いていたバスタオルは古泉の背後に落ちていた。
情けなくも、ノートで股間を隠しながら服を受け取る羽目になった。






情けなさすぎて泣けてくる。







終わりだ。
今日は無理だ。
今日どころじゃない、しばらく無理だ。














どうしてノートを見たりしたんだよ。
お前は勝手に人の鞄を開けるような奴じゃないだろ。



「鞄も濡れていたので、中が……大丈夫か、気になって……」





俺の心を読んだようにその真相を教えてくれた。










ああ、そう、だよな。
お前は、そういう奴だ。
悪気やいたずら心でそんなことをしない。
俺のことを考えて、よかれと思ってやってくれたんだ。
そこに丸秘ノートがあれば誰でも開いてしまうよな。
俺だって見つけたら開く。
古泉が書いていたりしたらなおさらだ。
好きな相手が考えていることを知りたくなるのは当然で、


……お前も、そう思って開いたんだったら、ちっとも悪くない。






























「呆れただろ」








古泉のにおいがする、着心地のいいTシャツに腕を通して深呼吸をしてから、切り出した。
相変わらず視線は合わせられない。









「ごめんな」









俺がこんなまとめをしていたことも、やりたくて来たことも、知られた。
古泉にその気がなければ最悪だ。
いい関係を保ってきたのに、こんな結果になるとは。








今まで必死に勉強してきた自分が恥ずかしい。
なぜノートを持ってきてしまったのか。復習するような時間もなかったのに。



























雨はまだ勢いが止まず、太陽が照らないので午前中なのに部屋は薄暗い。
俺が謝った後に古泉は何も言ってこないから雨の音だけが室内に入ってくる。







やりたいだけだと思われていたら、
追い出す言葉を考えているんだとしたら、と、重たい空気のせいで悪い想像が浮かんでくる。















俺にも悪気はなかったんだよ、古泉。
お前が好きだから、お前ともっと先に進みたくて、毎日こんなことばかり考えてた。
やりたい、だけじゃないし、お前がまだ無理だと言うなら一年でも十年でも百年でも待てる。
本当だ。



本当、だが、そのノートじゃそれは伝わらない。

























「ごめん……」






幻滅されたらと思うと不安がさらに増幅し、もう一度謝った。





いかん、泣きそうだ。












古泉、俺は、俺はっ……




















「ん……」
「っ! 古泉!?」
「謝らないでください」














いつの間にか古泉が俺の横にいた。
そして、俯いていた俺の頬に、く、唇を、触れさせてきた。











「呆れてなんか、ないですよ」
「古泉っ……」
「僕とのことを真剣に考えてくれたんですよね」













くらくらするほどに綺麗な笑顔で、優しい声で、囁く。






急激に胸が熱くなって、細い体を抱きしめた。














そうだ。
古泉は、俺を、分かってくれてるんだ。誰よりも。
そうじゃなきゃここまでだって付き合ってこれなかった。














「嫌いになってない、か」
「なりませんよ」
「……じゃあ、好きか?」
「……好きです」
「…………俺と、したい?」


































返事は、言葉ではなかった。








頬にされるだけでも奇跡的だったのに、今度は、古泉から口にキスをしてくれた。 


































カーテンを閉めると、部屋はさらに暗くなる。
雨の音はほとんど聞こえなくなった。止んではいない。
たまに窓に、風で吹きつけられてぽつぽつと雨水が跳ねる音は聞こえる。
ただ、それよりも、心臓の音が大きすぎてそっちに気を取られた。















「今更、なんだが」
「何でしょう」
「俺がこっちでいいんだよな」
「……そのつもりのまとめでしたよ」
「ぶっ……そりゃ、そうだが」
「そんな予感はしていました。……それでいいです」

















あれを見て、古泉は俺とそうすることを考えていたんだろうか。
俺がこうやってお前の上になって、お前は、俺を受け入れる。















その行為を想像してどんな気分になった? 
俺は、考えれば考えるほどに手が震えたよ。
だから知識を頭に入れて少しでも緊張を解そうとしてきた。















俺はずっとお前が好きだ。
こんなに、好きな相手を自分のものにする、のは、すごいことだ。
古泉は男で、本来ならこんな行為を受け入れるようには出来ていなくて、
一度やってしまったらその経験を消すことはできない。
古泉が望むなら逆でもいいか、と自分に問いかけても、
結局今日までイエスという答えは出なかった。

















手に入れたい。
俺だけの、痕を残したい。古泉に。



好きだから、ずっと好きだったから、やっとお前に振り向いてもらえたから、
今度はこの体も、俺だけのものにしたい。








「痛かったり、気持ち悪かったら、言ってくれよ」
「はい……分かりました」
「すげー、どきどきするんだが」
「僕もです」

 

















このときほどシャミセンがうらやましく思ったことはない。
猫の目なら暗くても古泉の肌や、表情が見えるんだろう。
だんだんと暗さには慣れてきたが色までは分からない。






せっかく綺麗な体を見ようというのに勿体無いが、古泉の言葉を借りるなら、
これからずっと一緒にいるんだから、今日は我慢しよう。




















恥ずかしいので最初は全部脱がさない方がいい、と、書いた。
しかしあれを全て読まれたかと思うとあの通りにやるのは格好悪いような気がする。




「いいですよ、……脱ぐくらい」
「そ、そうか」
「あなたの思うようにしてください」






以前は冷たいだけだった失笑もどこか優しい。
励まされたような気分で、シャツに手をかける。
上を脱がせるだけでもこの胸の高鳴り具合。古泉にも聞こえていることだろう。







上半身くらい、海に行ったときにも見た。
それに雪山のおかしな館では風呂も一緒に入った。
あのときの古泉の背中は今でも目に焼きついたままだが、思い出せば、俺は、見られてたんだよな。最高に興奮しきった姿を。










「下も、いい、よな」
「はい」
「……悪い、めちゃくちゃ緊張してる」
「分かってますよ」













ベルトを外そうとして手が震えて失敗した。
正直に謝ったところ、頭を撫でてくれる。
大丈夫、と小さな声で言いながら。













ああ、すげえ、嬉しい。






























「はあ……やはり恥ずかしい、ですね」
「だな。でも、なんだ。その、感動してきた」
「ええ? 何ですか、感動って」
「お前が勃起してんのが」
「はっきり言わないでください」





俺も今日は大丈夫だ。
ちゃんと、お前と同じようになってる。
むしろ痛いくらいだ。
いや、痛い。痛いぞ。早く抜いてくれと言っているかのように。






「……あなたのほうがすごいです、けど」
「う……」
「辛いなら手貸しますよ」






どこまで出来た嫁なんだお前は。







「嫁じゃありません。ほら、貸して欲しいんですか、どうなんですか」
「貸してください」
「分かりました」







脱ぐ前から下着に染みを作るほどだったため、
古泉にもよっぽど辛いように見えたようだ。



しかしそのおかげで古泉にしてもらえることになり、ラッキーである。
同時に古泉のも擦ってやろうと思ったが、
古泉にされるほうの刺激が強すぎてまともに握れもせずに断念した。





















「こっ……い、ずみっ……」
「僕、まだ脱いだだけなんですが……それでも、こんなになるんですか」
「当たり前だろ、おれ、は……お前、が……」






















本気で、心の底から、好きなんだ。惚れちまったんだ。
 

















とても、このままでは続けられそうにない。
古泉には申し訳ないが手を貸してもらって、
その上から自分でも強く握り、覆いかぶさった状態のまま抜かせてもらった。













あまりにあっという間に出たため古泉も拍子抜けしたようで、
自分の腹部に零されたものを目をしばたかせながら見ている。









「す、すまん……我慢できなかった」
「早いですね」
「今だけだ! 今、だけ!」
「ははっ。そういうことにしておきます」









本当だぞ、古泉。お前とやるために特訓してきたんだ。
一人でやってもどうにも早いから毎日のようにお前の姿を思い浮かべて耐久戦に持ち込んだ。
少なくとも今よりはましだった。









今は……お前が、触るし、見てるから、だぞ。














「……ん?」





ふと見ると、古泉のも、先ほどよりもぷっくりと膨らんで俺ほどじゃないが漏れてきている。









「古泉……!」
「まじまじと見ないでください……」











最初から口をつける、のは、勇気がいるから、やめておこう。
この緊張状態で口に入れたら噛んでしまいそうだ。





自分のでぬるぬるする手でそっと古泉のに触れてみる。
ぴく、と前髪を揺らして、古泉の体にも緊張が走った。




















「お前、俺がイっただけで、こうなったのか」
「……聞かないでくださいよ」
「聞かせてくれ」
「……僕は、あなたが、好きなんです、よ」
「!」
「……だから、……あな、たが、僕を、見るだけ、でっ……」
「古泉っ」











続きを聞きたかったが、古泉は腕をあてて口を塞いでしまった。
まだ緩くしか握っていないんだが、動かすたびに息が漏れる。







気持ちはわかるぜ、俺も、自分でやるならいざ知らず、古
泉にやられたら気持ちがよくてたまらなかった。









お前も俺にされるのが気持ちいいんだよな。
声が、出るくらい。塞がなくていいのに。

















「見るだけ、で?」
「ん、う……どきどき、してくれたのなら、うれしい、です、から」
「ん」
「こうなるのも、しょうがないじゃないですか、あ、あっ!」
「だな」















話すときだけ動きを止めていたが、
途中で強めにしてやると、声をあげてから睨んできた。






すまん。お前があまりにかわいいから、いたずらをしたくなった。



















声を抑えるのが辛そうだから、古泉の体をベッドに倒してそのまま口づけて、続けた。
舌を絡めている間にも口の中に声が響く。
俺よりもよっぽど感度が良さそうで、嬉しい。
気持ちよくたってこんな声はどこからも出ないが、古泉は自然と出てしまう体質らしい。



















背中に回していた腕にだんだん力がこもってきて、
俺もそれにあわせて強く握って擦ってやると、体の震えが大きくなってきた。








ああ、いよいよだ。







古泉が、
古泉が、
古泉が、
俺の目の前で、
俺の手の中で、
いっちまう。


























その瞬間だけはどうしても見たくて唇を離した。
古泉は驚いて、潤んだ唇を開けている。








「や、やだ、だめですっ、はなさ、ないで……っ!」












申し訳ないがこの願いだけは聞き入れられない。





古泉から、口を離すなと言われるのは実に最高の気分になるが、
お前が達する瞬間を見ずに何を楽しみに生きていけばいいんだ。










背中を叩かれても、舌を伸ばされても、
キスの誘惑には負けずに右手を必死に動かした。
俺の人生の中でここまで真剣になったことはないというくらいに、頑張った。




















「あ、ああ、あううっ……!」













背中に爪が刺さった。痛さは気にならない。









古泉が、こんな間近で、声を上げながらイっちまったことの方が何億倍も大切だ。


















よほど恥ずかしかったのかその瞬間にはぎゅうっと目を閉じて、
開けた時には涙まで浮かべていた。
真っ赤な顔で大きく息をして、にやけている俺から逃げるように視線を横にずらす。









思った以上にかわいい。
また勃起してきた。























これだけじゃ、足りない。


















thank you !

入れる前に1回ずつ出すのが当たり前だと思ってます(真顔)
後編へ続く!

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