HB








万人に向けるのと、気を許した相手に向けるのとでは、
表情や行動に変化が現れるのは当然のことだろう。
俺だってそうだ。
数回しか話したことのない女子生徒相手と、
生まれてからずっと一緒に暮らしている妹相手じゃ、そりゃあ違ってくるさ。



とは言っても二重人格かと思われるほどじゃない。
基本的な部分は変わらんし、
俺が妹と話しているのを見て、
普段と違いすぎておかしいとは思わないだろう。



















「好きって言ってください」
「ちょ、ちょっと待て」
「待てません・・・」
「落ち着け、深呼吸だ」
「落ち着けるなら、とっくにそうしてます」
「うむ・・・」








言ってることは間違っていない。
今、目の前にいる男は俺にそう言って欲しくてたまらないようだ。






こいつほど変わる奴が他にいるんだろうか。
付き合った経験が今までにないから分からんが、
少なくとも俺はこうじゃない。
いくら気持ちが通じ合ったからといって、
好きだ好きだと言い合うようなことはできない。恥ずかしい。









many many many
















お前だって、普段はあんなに、
あなたになんて興味ありません、
僕の人生はすべて涼宮さんのためにあるんですから。と
言っているような顔をしているくせに。

まさか付き合えるとも思っていなかったが、
付き合った途端に分かったいちゃいちゃしたがる性格にも驚いた。
俺から告白したのに完全に押されている。




「好きですか?」
「・・・お、おう」
「ちゃんと、言ってください」
「・・・言わなくても分かるだろっ」
「言って欲しいんです」




好きだよ、そりゃ。
好きだから男なのに勇気を出して言ったんだ。
どうしようもなく、抑えられそうになかったから。
けど、改めて求められると、言えん。
言えと言われると変に構えてしまって言葉が出ない。
古泉が喜ぶと分かっても。
それにだな、
恐らくここで勇気を振り絞って好きだと言っても、
また明日には言えと言ってくるんだろ?
毎日んな言葉を自然に出せるまでどのくらいかかると思ってる。
俺がそんなタイプに見えるか?見えないよな?






「まあ、見えませんね」
「ほら見ろ」
「だから余計、言って欲しいんですよ」





なるほど、ギャップだな。
俺のような言いそうにない奴に言われるのがいいと。
分からないでもない。








「僕は大好きですよ」
「ぐ・・・・・・」
「あなたが大好きです。明日もあなたと会える、と思うだけで、幸せな気持ちで眠りにつけます」
「古泉・・・・・・」
「朝、あなたに会うと授業へのやる気も増幅します」
「う、うむ」
「でも、本当は、あなたを見かけるだけで抱き締めてほしくて」
「うむむ・・・・・・」
「頑張って我慢してるんです。ですから二人きりになれたら、我慢したくないんです」
「な、なるほど・・・」
「もっと近くにいかせてください」









古泉の後ろ髪が揺れて頬を掠める。
ものすごい至近距離だ。
いいにおいがして、くらくらしてくる。
あんな顔して俺に抱き締められたいと思ってるだって?
人は見かけによらないな。






「大好きです」
「こ・・・・・・」
「ずっと、ずっとこうしていたいです」
「いっ・・・・・・」








照れる。
ここまでされると何もできん。
古泉の背中を抱き締めるのすら難しい。
呼吸も乱れる。





お前は心臓が止まりそうにならんのか。
好きな相手に、抱きついて。
俺はとてもじゃないが落ち着かん。
全身が震えそうなほど心臓が脈打って、
嬉しいはずなのに逃げ出したくなる。





「言ってください」
「む・・・」
「好きですよね?」
「・・・ああ」
「・・・・・・」
「・・・・・・」

















この沈黙は、言え、だよな・・・。






















「・・・・・・好きだ」
「! ・・・はい」
「これでいいんだろ」







くそっ。
恥ずかしくて顔も見ていられない。
たった三文字の言葉のどこにこんな威力があるんだ。









「はい。嬉しいです」
「そうか」













少しは恋愛に慣れたヤツなら、
キスの一発でもしてやるのかもしれん。
しかし俺は勢いでならキスを出来ても、
いざとなると出来ない男だ。
付き合うまではもちろん妄想の中でいろいろなことを古泉にしでかしたが、
実際にやれるかと自分に問いかければ、出来そうにない。
妹が読んでる少女漫画の方がよっぽど展開が早いぜ。



俺が何も出来なくても言わなくてもあれで満足したのか、
すり寄って耳元で何度も甘い言葉を囁いてきた。









古泉はこれ以上のこともしたいと思っているんだろうか。
抱きつくだけで他には何もしてこないが・・・
この際、古泉からしてくれれば楽なんだがな。
キスとかさ。
おっと、しかし、もしその先もやるんだったら言っておかねば
ならないことがあるぞ。
俺は突っ込むほうだ。ここは譲る気はない。
告白と同時に「どっちやる?」なんて言えねえから、
古泉の気持ちは知らん。
そこまで考えてもいないのか、どうなのか。
もう少し俺たちの関係が進んだら聞いてみよう。



















「あの・・・」
「ん?」
「・・・・・・」
「どうした、黙って」
「・・・・・・」






惚けた顔で見つめてくる。
何か言いたげに、唇を少しだけ開けて。



こいつの考えていることはすぐに分かった。
俺もつい今しがたまで考えていたからだ。













「・・・いいぜ、別に」
「・・・僕から、しても?」
「ああ」
「・・・初めてがあなたでうれしいです」





お前が初めて?
マジかよ。
その面で、よく奪われずに生きてこれたな。














「あなたは初めてじゃないでしょうけど」
「うっ」
「いいんですよ」
「俺も、その・・・好きな奴とは、初めてだぞ」
「ふふっ」






雰囲気に流されて言ってしまった。
古泉が嬉しそうにするから悪くないが、
目を逸らさざるをえない。恥ずかしい。くそ。






逸らす俺の目線を古泉は追ってきて、
こちらは照れるそぶりもなく、
初めての癖に迷わず唇を重ねてきた。
一瞬で離れて、
またすぐに重ねる。
何度も。
俺が固まって動けないのをいいことに。




長い睫毛がそのたびに揺れた。
本当に初めてなのかと疑ったが、
ぎゅ、と閉じた目がそれっぽい。
抱きついてくる指にも力が入っている。
本当か?などとしつこく聞いて雰囲気を壊すよりは、
この瞼や指を信じることにしよう。



と、別に余裕をもって観察しているわけではない。
こう見えて心臓はものすごい速度で動いている。
ただ目を閉じるタイミングを逃してしまった。






開けたまま呆然と古泉を受け入れていると、






「や、ですね、目、開けてたんですか」
「すまん」





しばらく繰り返した後にゆっくり目を開けた古泉に怒られた。







「今度はあなたからしてください」
「何!?」
「お詫びに、ですよ」
「それは・・・」
「嫌じゃないですよね?」






嫌じゃない。
お前の唇は思った以上に柔らかいし、
何度も求めてくる顔も可愛かったし、
好きな相手とするキスが、嫌なはずないだろう。
しかし自分からするとなると、
好きだと言う以上に、緊張する。



しかもだ。
なぜか、
待っている古泉の唇が開いてる。
これは・・・
そういうことなのか、古泉よ。






「してください」
「古泉・・・」
「あなたになら、何をされてもいいんです」









その言い方は語弊があるぞ。
何をされても、なんて言われると、
俺は本気で何でもしちまうぞ。
いや嘘だ。
今のところそんな勇気はどこにもない。








とにかく、今はキスだ。
古泉がここまで準備万端なんだから、
俺も男を見せなければいけない。
だよな、そうだよな。

















「ん、ん・・・・・・」
「うわっ」
「?」
「ま、まて」
「どうしました?」







それまでの雰囲気に流され、
ついつい誘われるままに舌を触れさせてしまったが、
こいつはまずい。
めちゃめちゃ熱いじゃねえか。
これを続けたら勃起する、確実に。
いかんぞ。
今日はこの辺で止めておこう。
な、古泉。








「もっと、してください」
「いや、今日はこれくらいにしておこうぜ」
「・・・いやです」
「おいっ!」
「僕の願いは、全部聞いてくれるんですよね」









ああ、言ったな。
確かに俺はそう言った。


お前に告白したときに、
まさか付き合えると思ってなかったから、
必死に色々言った。








ハルヒのために頑張っているお前を、
俺が支えてやる。
ハルヒの願いを叶えようと自分を抑えてるお前の、
願いは俺が全部叶えてやる。
だから俺を好きになれ、
きっと幸せにしてやる、
ってな。
ずっと考えてた台詞だ。
言われるまでもなく覚えてる。
















けど、こんなことを願われるとは思わないだろ。
どこへ連れて行けとか、
ジェットコースターに乗ってみたいとか、
天体観測がしたいとか、






「それもお願いしたいですけど。
 それよりも今は・・・こっちがいいんです」






つつ、と自分の指で唇をなぞる。
ちらちらと見える赤い舌が目に付く。
















お、お前が言うなら・・・仕方ない。
男に二言はない、からな。















「あっ・・・ん・・・・・・」
「んむ・・・」
「だめ、離し、ません」
「!」







やはり刺激が強すぎるためすぐに離そうとしたが、
古泉の腕に頭を掴まれる。
引き寄せられ、また、唇が合わさる。
舌も、
俺が引っ込めたって、
古泉が必死に求めてくる。













やがてそんな古泉に感化されて、
俺も求めた。
古泉の頭を押さえて、
もっと奥まで舌を入れられるように、
口を更に開けて。









「んん、んーっ・・・」









そら見ろ、これが俺の本気だ。
頭をくしゃくしゃに撫でながら舌を絡ませてやると、
古泉の手がとんとんと背中を叩いてきた。
息が苦しくなったのか、
それとも本気を出した俺にびびってるのか。








やられっぱなしじゃ男がすたる。
座っていたベッドに押し倒し、
息をする暇だけ与えてから、
覆いかぶさってキスをしまくった。















「あっ、ま、ま、って」










先ほどまでの勢いはどこへやら、
真っ赤になって顔を逸らそうとする。
完全に形勢逆転だ。
だんだん楽しくなってきた。








「うあっ・・・!!!」
「古泉、・・・ここ」
「だめ、ですっ・・・!!」





俺がそうなりゃ古泉もなるだろうと予想し、
膝を軽く足の間にあててやる。
同じ男だ。
好きな相手とキスして気持ちよけりゃ、
こうなるよな?


予想通りの反応に思わずにやける。
古泉はさらに顔を赤くして泣きそうなくらい目を潤ませている。

















「いじわる、です、ねっ」
「してほしいって、言っただろ」
「ここまでとは言ってません」
「そうかい」





隠そうとする手を避けさせ、
まじまじと近くで見てやる。
俺は古泉の顔が好きなんだ。
それが、
俺とキスしたせいで、更に可愛くなってる。
この顔を思い浮かべただけで一ヶ月は何もなくても抜ける自信があるぜ。
























「どうする? この後」
「・・・・・・まだ、心の準備が」
「そうか。まあ、今日はな」
「はい。・・・でも、嬉しかったです」
「む」
「僕を、そういう対象に見てくれてるんですね」








何を、当たり前のことを。
俺がお前で何度抜いたと思ってる。
最初は悔しかった、
朝比奈さんの秘蔵フォルダを見てならまだしも、
古泉の唇を思い浮かべるだけで果てるとは俺も終わりだと、
シーツを噛んで涙を耐えたものだ。
けどな、一度お前が好きだと認めてからは最高だった。
毎日お前を見るだけで毎晩困ることはなかったからな。








「僕だけかと思ってました」
「お前が、俺を?」
「・・・これからのために聞いておきたいのですが」
「うむ」
「どちらが、いいですか? これ以上・・・するとき」






おっと、それもさっき俺が考えていたことじゃないか。
ここははっきり言わせてもらおう。
最初が肝心だ。
照れくさいからと言って、もじもじとするのは男らしくない。
古泉もやはり男だな、
付き合い当初に話し合っておかないとな、こういうことは。
お前のそういうところは好きだぜ。
ああいや、お前の、どんなところも好きなんだけどな・・・







「あの?」
「ん、すまん。考え事してた」
「僕のことですか?」
「ああ」
「なら、いいです。それで・・・」
「俺はやる方がいい」
「ふむ・・・」
「むしろ、やられるのは御免だ。いくら相手がお前でも」






はっきり言ってやった。
古泉はなるほど、と指を顎にあてて頷く。
この反応を見た限りではいけるか?


頼む、古泉!
俺はお前と仲良くやっていきたいんだ。
それにお前みたいなかわいい顔のほうが、
女役には適してると思わないか。
お前の声も、喘がせればだいぶよさそうだし。








「分かりました。僕はあなたが好きですから、
 あなたにされるなら、構いません。
 その代わり・・・ちゃんと大切にしてください」
「当たり前だ。責任は取る」
「よかった。じゃあ、今度、しましょう」
「今度?」
「明日でもいいですし」
「いっ、いや、ちょっと早いんじゃないか?
 もっと事前に知識をつけないと・・・」
「そうですか? ではあなたに任せますね」
「分かった」







交渉は無事成立した。
古泉はまた嬉しそうに笑って、抱きついてくる。



お前、積極的だな。
明日、って、それはさすがに展開が早すぎる。
ハルヒのむちゃくちゃに付き合ってる俺でも、
あまりの急展開にはついていけないぞ。
お前との関係を焦るつもりもない。
やりたいのは・・・山々だが、
傷つけたら意味がない。







本気で好きなんだ。
俺なりに考えて、大事にしていきたい。

























「大好きです」
「古泉・・・」
「大好きです・・・」
「・・・俺も、・・・・・・大好きだ」
「はいっ」















古泉の気持ちは十分に伝わってきた。
俺の気持ちも、
なるべく伝えられるように、頑張る。

















「顔、真っ赤ですよ」
「・・・るさいっ」
「ふふっ」

















恥ずかしくても、
お前が幸せそうに笑うんだったら、
伝えていかないと、な。























・・・好きだぜ、古泉。









thank you !


砂糖しか出てこない\(^O^)/



inserted by FC2 system