断りきれない弱い性格が招いた災難でした。 「いいだろ? 古泉」 「よ、よくありません」 「お前は俺の言うことをただ聞いてりゃいいんだよ」 「しかしですね、その」 「いいから。な、楽にしてろ」 「うわっ……!」 彼はなぜか僕を気に入っているようで、 恐らくその理由は容姿なのでしょうが、 以前から二人になるとちょくちょく、ちょっかいを出されていました。 一般的な男子高校生のやりとりなのかと、 あまり僕はそういったことに明るくないので、 勝手に解釈して受け入れていたのですが……。 抱き締められたりシャツの中に手を入れられたりしてから、 これはおかしいのではと気付き始めました。 しかし時既に遅し、 今さら彼を拒むことなんてできずに、 ずるずると彼の行為を許してしまったのです。 でも、あの、全部脱ぐのは、さすがに…… もしかして僕、あなたに卑猥なことをされてしまうのでしょうか……? 「下はっ……駄目ですっ……」 「何で?」 「恥ずかしい、です」 「俺しか見てないんだ。いいだろ」 あなたが見てるから恥ずかしいんですよ。 誰かに見せるための体じゃありません。 しかも僕だけ、全部……。 しかも、学校で。勝手に鍵を内側からかけた保健室で。 あなたが具合が悪いというから飛んできたのに、 元気じゃないですか。 僕にこうするためだけに鍵を借りたんですね。 その行動力を別のところで示してもらえればどれだけ助かるか。 「綺麗な肌だな」 「ちょ、っと、まっ」 「待たん。足をなめさせろ」 「わわ! やめっ……!」 綺麗だという言葉が彼の口から出るとは予想外すぎましたし、 足を舐める、なんて、とんでもないことです。 だから僕は慌てました。 上半身はシャツのボタンをすべて外されはだけた状態で、 下も、下着だけは履いていましたが制服は足首まで脱がされ、 このままでは危ないと本能が叫んだのです。 だから僕は、 思いきり彼の顔を蹴り飛ばしました。 「ご、ごめんなさい!!」 足の裏にはっきりとした手ごたえを感じ、 その瞬間は勝利を味わいましたが、 すぐに我に返ります。 彼は声もあげずに床に倒れている。 ど、どうしましょう。 もし当たり所が悪ければ、首の骨が折れている可能性もあります! そうしたら僕は殺人犯ということに…… 手が、震えてきました。 生きてますように……! 「あの、だ、大丈夫、ですか」 そっと近寄り肩を叩いてみます。 ぴく、と動いたので、息はあるようです。 ああ、よかった。 生きてさえいればあとはどうとでもなります。 「古泉……」 のそりと起き上がる彼の目が、いつもと違う。 うつろで何かとんでもないことを企んでいるような。 こ、こわいです。 すみません。 謝ります、ちゃんと謝りますから、その怖い顔をやめてくださいっ。 「頼む」 「えっ?」 「……もう一度蹴ってくれ」 「…………はい?」 彼の目はいたって真剣です。 まっすぐに僕を見つめて、言ってます。 意味が分からずにぽかんとしていると、 あろうことか、彼は土下座を始めました。 「頼む! もう一度!」 「なな、何をされてるんですか。顔を上げてください」 「上げたら蹴ってくれるか」 「蹴って、くれるって……何を……」 死にはしなくても、当たり所は、悪かったようです。 彼の中のおかしな性癖を引っ張り出してしまったのです……。
「楽しい、ですか?」 「ああ。楽しい」 「それならいいのですが……」 目覚めさせてしまった原因は僕にあるため、 仕方なく彼の要望に応えています。 傍から見てどちらがおかしいかと聞かれれば、 答えに悩むでしょう。 服をはだけさせたまま彼を蹴り飛ばす僕と、 嬉しそうに蹴られるがままになっている彼とでは。 「もっと強くだ、古泉」 「……今日の授業で習ったこと、忘れてしまいますよ」 「お前に蹴られて忘れるなら本望だぜ」 「…………」 僕が絶句して引く顔すら、楽しいそうです。 嫌がれば嫌がるほど喜ぶ。 かといって僕がノリノリで楽しむなんて出来ません。 誰かを足蹴にする趣味なんて持ち合わせていませんし、 今も、彼には申し訳ない気持ちでいっぱいなんです。 もう一度強く蹴飛ばせば元に戻ってくれるかと望みをかけ、 何度かごめんなさいと謝りながら思いきり蹴りました。 が、彼は元に戻るどころかどんどん重症になる始末。 「んっ……く、うっ……」 散々蹴られて満足した後は、 ひざまづいたまま足を、舐めてきます。 よく許してほしかったら靴を舐めろとか、古い漫画にありますが、 この人は喜んで舐めますよ。 プライドも何もありません。 足の指、くすぐったいのでやめてほしいんですが、 彼の恍惚とした表情を見ていると止めるのも忍びないのです……。 「古泉、気持ちいい?」 「くすぐ、ったいです」 「んー……足は駄目か」 変なぞくぞく感は湧きあがりますが、 これを気持ちいいとは認めません。 足を舐められて気持ちよくなっていたら、 僕まで変態の仲間入りじゃないですか。 「じゃあ、こっちはどうだ」 「ひっ! ちょ、ど、どこ触ってるんですか!」 「たぶん足よりは舐めたら気持ちよくなると思うぞ」 そりゃ、そうでしょうけど、こ、こかっ……ありえません! 今日は、部室ですよ、 明日も明後日もその次もずっと、 ここでSOS団の活動を繰り広げるんですよ。 その場所でトラウマになるようなことをしないでください、 もう、どうしてこういうときだけ力が強いんですか、 だ、だめですって、脱がせちゃ、だめです! 「かわいいなあ、お前の」 「最低です、あなたっ!」 「そうかそうか」 「喜ばないでくださいよ!」 「お前の見てたら、舐めれると思ったら、勃ってきた」 「うわああ!」 ささささ最低です! 逃げなくては、この頭のおかしい人から、 いち早く逃げなくては。 でも、こんな状態で? まるで無理やり犯されたかのような外見ですよ、男なのに。 この恰好で外に飛び出したら盛大に勘違いされます。 いえ、あながち勘違いとも言い切れませんが。 「離してください、むり、むりむりっ」 「いいから黙ってろって。気持ちよくしてやるから」 「いやですっ……! す、すずみやさんっ!」 「ハルヒはとっくに帰っただろ? 減るのは一日分の精子くらいだ。喚くな」 がっちりと両足が押さえつけられる。 彼の視線が下半身に集中していて、 あまりにも恥ずかしくて涙が出てきました。 彼は……やっぱり嬉しそうです。 もう何を言っても無駄でしょう。 この人はいつもそうです。僕の話なんて聞いてない。 諦めて抵抗をやめるとすぐに、舌が伸びてくる。 生暖かい感触。ざらざらとした表面。 うううっ…… 気持ち悪いです、男の人に、しかも彼にされてると思うと、 感じるなんて無理ですっ。 「おかしいな。勃たん」 「勃つわけ、ないじゃ、ないですか」 「そうなのか。俺はすごいが」 「そうですか……」 「見るか?」 「見ません!!」 見ないって言いましたよね、 僕、はっきり言いましたよ! なのに、なぜ脱ぎ始めるんですか、 僕が逃げられないように足の上に乗って……! ずっと目を閉じていようかと思いました。 けど、それは不可能です。 目を開けて服を元に戻して帰りたいから。 嫌な予感がしても、 目を開けるしか、なかったのです。 「うっ…………」 「舐めてみるか?」 「遠慮させてください……」 叫ぶ気力もなくなりました。 さめざめと泣く僕にそれを強要することなく、 彼はただ優しく頭を撫でてくれました。 なぜか下半身は、そのままですが……。 「なあ、古泉」 呼吸が落ち着いてきた頃、そっと名前を呼んできます。 「はい……?」 「俺の上に乗れ」 「はい?」 「お前を無理やり組み敷きたくはないんだ。それよりもお前が上に乗って、 俺を見下ろしながらやる方が確実に燃える」 「…………すみません、意味が良くわからな……」 「そうか? じゃあ教えてやろう」 横たわっていた体を持ち上げられる。 椅子に座る彼の上に、向かい合って座るように。 「あの、これ、は……」 「やろうぜ、古泉」 「な、なに、を……」 「見りゃわかるだろ? セックスだよ。お前に、俺が入れる」 気を失いそうになりました。 が、ここで失神しては、 目が覚めた時にはもう事の終わり、という事態になりかねない。 精神を必死に奮い立たせ、なんとか持ちこたえました。 聞きたいことは山ほどあります。 しかし、おそらく時間はないでしょう。 彼は僕の中に入ってくる準備を着々と進めている。 自分ので、僕に、入れたいところを、擦って。 「……どうして僕としたいんですか?」 やっとひねり出した質問に、 彼は一瞬だけ驚いて、その後、笑った。 「古泉が好きだから」 そう、ですか。 ……そうなんですか。 う、う、 痛いのが好きなのはあなたなのに、 なんで、 僕が、こんなっ、痛い、思いをっ………… 「大丈夫かー、古泉」 「ちっとも、大丈夫じゃないです……」 「お前が落ち着くまでは待ってるから、ゆっくり休んでろ」 「はあ…………」 立ちあがろうとするだけで腰が悲鳴を上げる。 数分休んだところで収まるとは思えないほどの痛みです。 彼と……関係を持ってしまいました……。 こんな変な人と、したくなかった。 断らなくちゃいけなかった。 でも…… 好きだって言われたのが嬉しかった。 この人には絶対に言わないけど、 ……嬉しかったんです。 あの時だけの口からでまかせだったらと考えて 後悔の念に襲われていますが。 けど、改めて聞くのも、無理です。 「どうした?」 「何でもありません」 「うおっ」 僕だけが悩んでいるようで癪なので、 覗きこんできた彼の顔を叩きました。 いきなり叩くなよ、と言いながらも、嬉しそうです。 このまま僕たちの関係は続いていくのでしょうか。 一般人でありながら変態的な趣味を持つこの方と、 それを受け入れてしまっている、普通とは言えない僕の……。 先が思いやられますね……。変態だ―!変態がいるぞー!!