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「なんつーか、俺、惚れてるし、どっちでもいーけど」 「はい……」 正座で向かい合って1時間。 ずっと俺たちは、こんなやり取りを繰り返してる。 時間は夜。良い子は寝る時間だ。 場所は古泉んち。の、ベッドの上。 サイドテーブルにはご丁寧にボックスティッシュと、 ……ローションとコンドームが置いてある。 今日はいわゆる初夜を迎える日だ。 一年前の今日から決めてた。 一年記念日に結ばれようと…… これを国木田に思わず漏らしたとき、 「えー。いまどきそういうの気持ち悪いね」 と笑顔で毒を吐かれたもんだけど、 俺とこいつが納得して決めたんだから、いいんだっ。 男同士だけど、 俺と古泉の関係は、 そこいらの男女よりも男女っぽいよーな気がする。 こいつがかわいいから。 イベントごとに祝うとすっげー喜ぶし、 古泉が笑えば俺も嬉しいし。 ただ、男同士だからこそ、 決めないといけないことがある。 やるとなると、 どっちが、どっちをやるかってー話だ。 男にやられるなんて冗談じゃねえ! と、 普通は思う。 けど、古泉となら、俺、どっちでもいいんだ。 めちゃくちゃ好きだし。 古泉がしたい方でいい。 って、言ってんだけど、 古泉が選ばねえんだよ、困ったことに。 もじもじと指を絡ませたまま、 赤い顔でベッドの表面に視線を泳がせて、 「少し、待ってください」 と言ったまま1時間。 いや、でも、待つけどさ。 何時間でも。 今日が無理なら何日でも、何か月でも、何年でも。 お前がまだ心の準備できねーってときにやったって、 お互い後悔するに違いねーし。 けど、普通に考えりゃ、俺らは男だし、男役のがいいよな? 突っ込まれんのはダメージでかそーだしよお…… お前が相手じゃなかったら断固拒否! だぜ。 古泉はめちゃくちゃかわいい奴だけど、男は男だもんな。 女子がカッコイーって言ってんのを聞いて、 あーそうだった、 古泉はカッコイー奴なんだった、 かわいいなんてマジで思ってんのは、俺だけなんだった、って自覚する。 男ならやりたいだろ、そーなんだろ。な? 「僕は……」 俺もやりてーもん! 古泉なら、AVで見る女優よりかわいい顔しそーだしよー、 声も高い方だろ? 喘がせたらぜってーかわいいし。 俺の声は想像しただけで激萎え。 マジやべーくらい萎える。 自分が出した声で冷めそうだ。 でもよ、俺がどうこうよりも、古泉の気持ちを優先してーんだ。 だから俺がしてーとは言わない。 託す、 古泉に。 「僕はっ……」 「うん」 ひときわ大きく息を吸う。 そして、顔を上げて、潤んだ瞳で見つめてきた。 うわ、すげーかわいい。 何これ。 同じ人間? 「僕は、してほしいです」 「ん?」 「…………は、恥ずかしいっ……」 あ、布団の中潜っちまった。 おーいでてこーい、 ……古泉、 俺たち、やっぱし相思相愛じゃねーか。 布団の上から古泉の頭を、背中を撫でて、 俺も古泉の隣に潜り込んだ。 後ろから抱き締めると、 手のひらを当てたところから心臓の鼓動が伝わる。 俺も、めっちゃどきどきしてんぜ。 初めてだし。 童貞だし。 あまりに、希望通りの答えだし。 男だから、されたいって言う勇気がなかったんだよな? んなの気にしなくていいっての。 俺とお前の仲だし、 それで引くとか絶対ねーよ。 むしろ嬉しいんだって。マジで。すっげー。超、ベリー。 「古泉、なあ、俺、うれしー」 「うう……」 「俺さ、お前にめっちゃ、してやりてーから」 「谷口さ……」 「人生で一番頑張るから、俺に任せてくれっ」 「……はい」 俺、その時、浮かれてたワケ。 古泉とやれる、俺が男でやれる、童貞卒業! みてーな? なのに服脱いだだけで古泉の肌見ただけで心臓バクバクなって、 手とか足とか歯とかガタガタ震えてきて、 チンコ勃ってんのに緊張しすぎて何も出来なくなって、 終了した。 古泉は励ましてくれたけどよ…… 男のプライドっての、ガッタガタで…… 勃たなくなりかけて、散々だったんだよな…… 「あ、あっ、あうっ」 「古泉、きもちい?」 「す、ごく……きもちいい、ですっ……」 今となっちゃこのレベルよ。 俺もやるときゃマジだから。 惚れた相手を気持ちよくさせられねえとか情けなさすぎる。 だから超頑張って、こうやって、 古泉のかわいい声を聞いてるってわけだ。 「な、なあ……どこが、気持ちいい?」 「え?」 「やー、いや、なんでもねー!」 「ふふっ……」 最近の俺の悩み。 言葉責めしてーけどできねー、っていう。 嫌われたらどーすんだ、 いやいや、絶対古泉なら喜ぶだろ、 待て、Mっぽいところがあるからって決めつけるのは、 けどなあ、どう考えても、古泉は…… とか回り回って言ってみるんだが、 古泉の頭にハテナが浮かんでると、 あーこれダメ、二度と言えねーってなる……。 けどこれじゃダメだ! 俺男だし! 決めるときは決める! 今日こそ! 「あう、うう、も、いきそ、です」 「あー、お、俺もっ……」 「はあ、あ、あ、あっ」 「……古泉っ、な、中に出すからなっ」 言った! 俺、言えた! 「……ぷっ。い、いいですよ」 笑われたーーーー!!!! そりゃあよー…… ゴムつけてっし、中も何もねーけどよー…… 笑うことねーだろ、精一杯の頑張りを。 「すみません、あなたがそんなに傷つくとは」 「俺は意外と傷つきやすいんだ」 「あまりにも、なんといいますか、可愛らしかったので」 「うっせー!」 お前のがかわいい! 俺が目指してんのはかっこいーだから! あー、 俺、 もっと頑張ります。