「あー、くそっ」
「びしょびしょですねえ」
「こりゃあ、当分出れそうにないな」
「ええ。雨宿りしましょうか」



学校を出る時には雲がかかっている程度だったのが、
20分ほど歩いた時、
ぽつぽつと手の甲に粒があたると思いきや、
あっという間に土砂降りになってしまいました。




僕たちはお互いに傘を持っていません。
すっかり日も落ちた遅い時間なので、
次のバスは1時間後。
強い雨なので1時間も待っていれば落ち着くでしょうが、
困りましたね。靴下の中まで濡れていますよ。



隣にいる彼も同じように濡れています。
傘の代わりに使った鞄、絞れば雑巾のようになりそうです。
ネクタイを外してボタンを開けて、
気休め程度ですが、手で仰いで風を入れている。
僕もそうしましょう。
学校ではネクタイを外しませんけど、
今日は、涼宮さんたちは先に帰ってしまったし。
他の生徒もほとんど校内にはいなかった。
彼になら見られたところで、何ともないはずです。





「お前さ」
「はい?」
「いつもボタンもネクタイも締めっぱなしで、暑くないのか」
「暑いと言えば暑いですが。僕、あまり汗はかかないので」
「ほう、そうかい」



それも、僕が選ばれた理由の一つです。
涼宮ハルヒが求める謎の転校生像は、スマートでなくてはならない。
立ち居振る舞いだけではありません。
暑さや寒さの温度変化に強く、
表情にも体にも表れにくいこと。
あなたは、とても分かりやすいですよね。
そう、つまりはあなたと正反対ではなくてはならなかったんです。




というようなことが頭に浮かびましたが、
口に出すのはやめました。
機嫌がよさそうには見えません。
それはそうですね。
僕がゲームで悩んでいたせいで帰りが遅くなり、
雨に降られたんですから。
話しかけられなければ大人しくしておきます。









友達、兼













「案外広いんだな」
「えっ? 何がでしょうか」
「そこ」



大人しくしようと口を閉じた矢先、
彼から話しかけられて驚きました。
彼が指さすのは自分の額部分。
僕のが、ですか。
ああ、前髪が濡れて耳にかけているから。
見られていたとは、なぜか少しだけ恥ずかしいです。






「広いと、頭もいいとか言うしな」
「そうなんですか」
「知らんが。俺は狭い」
「はははっ」
「笑うな」
「わっ」



こ、小突かれました。
痛くはないです、
でも、彼が、
このような、
まるで普通の友人のような態度を、
僕に取るとは。


教室の前を通りかかる時、
涼宮さんの様子を見ようとすると、
彼の様子も目に入ります。
その時彼はよくクラスの友人の方とこうしてる。
ふざけ合いながら、
笑いながら。
僕にはしてくれないこと。
僕が少しからかおうと近寄っても、
気色悪いと怒られるだけです。
友人、という立場になれないのは分かっています。
彼は僕が任務のためにここにいると知っている。
だから僕をそういう目で見られないことは、重々承知しています。


それでも、彼は僕にとって一番近しい人だから。
いつか友人に昇格できたら嬉しいなと思っていたのです。




少し嬉しいです。
あなたの気まぐれでも。








「……痛くなかったろ?」
「えっ。ええ、もちろん」
「なら押さえるなよ、紛らわしい」




す、すみません。つい、驚いたもので。

いけませんね。
いちいち驚いていては今後も同様にしてもらえません。
自然に出来るようになるのが、友人です。




「あなたは頭の回転が速い方だと思いますよ。
大事なところでは必ず的確な判断をしてくれます」
「そういうのはいい」
「そうですか……」



ここぞとばかりに褒めてみたのに、
残念ながら間違いでした。
彼は僕と逆方向を向いてしまう。
僕のこういうところが嫌なのでしょうか。
嘘くさく聞こえてしまうのでしょうか。
本心なのに。


うまく伝わらないものです。





俯いて小さくため息を吐くと、
彼が腕を肘でつついてきました。



「お前はなー……」
「は、はい?」
「俺に気を遣うのはやめろ」
「気、ですか、そんなつもりは」
「遣ってんだろ」





どうして怒られているんでしょう。
僕が気を?
遣っていないとは言いません、
ですがそれは立場を考えれば当たり前のこと。
あなたには心を許している方なんですよ、
全てお話しているし、
これ以上どうしたらいいのか、
思いつきません。







「お前は俺とどうなりたいんだよ」





今度は腕を掴まれました。
またも、びっくりです。
目を合わせた彼は怒っているような、そうでないような、
口調は刺々しいのですが、
それはいつものことで、



「どう、とは」
「前に、友人になりたいとか何とか、言ってただろ」
「はい」
「それは変わらんのか」
「変わりません」




でも彼が僕の考えを聞いてくるなんて、
あの言葉を覚えていてくれたなんて、
これは、いつものことではありません。





















雨がどんどん強くなる。
それでも彼の声が聞こえる。
そこだけ切り取られたみたいに。




「それだけじゃないだろう」
「……?」
「友人止まりでいいのかって聞いてるんだ」



友人止まり?
それ以上が、あるんですか?


















あ、分かりました。

















「それだけで十分ですよ、あなたと、親友になりたいとか、
そこまでの高望みは出来ません」







あ、あれっ?






「い、いたい、痛い痛いですっ」
「本気で言ってんのかよ」
「ううう……」








つねられた頬がひりひりします。
また不正解ですか。


でも、
ということは、
あなたが僕と、
親友になることを願ってくれていると、
そういうこと、なのですか。








「じゃなくて、こっちだ、こっち」
「どちらでしょう、」
「あー、めんどくさい」








額を小突かれて、
腕をつつかれて、
頬をつねられて、
その後は。





















口に何かが触れます。

指とは違う、




もっと柔らかくて、




それは、触れられたものと同じところ。














「え? えっ? ええっ?」
「こっちだろ」
「こっち……」
「友人とか、親友とかじゃ、なくて」









まさか。
あなたが言いたいのは、
まさか、そっち、ですか。








今、したのも……










い、いけません!!















「うおっ! 何すんだ、いきなりっ」




僕は彼を突き飛ばしました。
そしてまだ雨が降る中、下り坂を駆け下ります。




「古泉!」





逃げる方より追う方が速いのはどうしてなのでしょう。
さらに僕は途中で転んでしまい、
雨で汚れていたシャツはどろまみれになりました。
当然の如く彼に追い付かれ、抱え上げてもらい……。
木の葉が雨よけになる、大きな木の下に、連れて行かれました。




「逃げるからこうなるんだろうが」
「……だって、あなたが……」
「好きなくせに、俺が悪いみたいに言うなよ」
「好き?」
「お前が俺をな」






嫌いではありませんが、好きだと、言いましたっけ……。
自分の発言を思い返そうとすると、
彼が邪魔してきます。
僕を抱き締めて。
泥が、ついてしまいますよ。
それに……







僕がなりたいのは、友人なんです。
こんなことするのは、



「古泉」
「あ、んむっ」



ま、また。
口が塞がれる。
力強く抱き締められているせいで、抵抗が出来ない。







……キス、なんて、したら。






友人じゃなくなっちゃいます。





















「ん、……んんっ……」
「……ほら、気持ちいいだろ」
「は、はあ、あう」
「だろ?」
「う……はい」









いけないのに、
濡れた体が冷えて、唇だけが熱いと、
何も考えられなくなります。
あなたが、
僕に、
キスをしてる。
この状況だけで頭がおかしくなるのには十分ですが。



















「これでわかったろ」
「ふ……」
「俺と付き合え」
「で、でも……ともだちに……」
「兼任でいいから」
「兼任、ですか?」
「友人と、これと」













どっちも。
欲張り、ですね。



でも、今は、何でもいいです。
あなたが友人になってくださるなら、
こっちとセットでも、いいです。












「よし。なら、これからお前んちに行くぞ」
「僕の家にですか」
「そうだ」











なんとなく、ですが、嫌な予感がします。
彼は先ほどから僕の体を弄っていますし、
強引で、口調も強くて、どこか焦っているようで、
隙あらばキスをして来て、
僕を気持ちよくさせて、
頭の中をふわふわにさせてしまおうと、
そういう考えが、手に取るように分かります。







とはいっても。
分かっていても僕は首を横に振れない。
彼の策略とおり気持ちよくて、
それ以外のことは考えられないから。






「はい、では、雨が止んだら、ご案内します」
「ああ」
「あっ……」






やむまで、また、ちゅう、ですか。
口が……
とけそうなほど、きもちいいです……














































雨がまた、降り出してきました。
雷まで鳴っています。
こんなに大きな音が鳴っていたら、
隣に住んでいる人に、
僕の声は聞かれなくて済むかもしれません。





「あ、ああ、ま、またっ……!」
「んー」
「ふあっ……!」






僕だけが服を着ずに、
体中を触られたり舐められて、
彼の手の中で、三回目の、し、しゃ……。

恥ずかしい、でも、気持ちがいい。


さすがに三回も出すと力が抜けて、
倒れるようにベッドに転がると、
彼の濡れた手が、体を、撫でてきます。
そ、そこは。




「ここまでやったら、覚悟決めろ」
「ですがっ……ぼ、くが、される、んですか……」
「当たり前だ」



どの辺が当たり前なんでしょう。
僕は男です。
こんな趣味も、ありません。
なのに有無も言わさず……
あ、ゆ、指が、はい、っちゃいま……


「あ、あうっ」
「大丈夫だ。そのまま楽にしてろ」
「……慣れて、るんですか」
「まさか」
「……痛くしないでくださいっ……」





目を見て、頷いて、少しだけ、笑いました。



力が入らなくてよかった。
三回も出した後ではなければ、
もっともっと痛くて、我慢できなかったと思います。



冷静に考えたり出来ないから、
全部、彼の言うことを聞きました。
言われたとおりに足を開いて、
腕を回して、力は抜く。
痛かったら痛いと伝えて、
我慢できるところは我慢して、
辛くなったら彼の名前を呼ぶ。


どれだけ時間がかかったか予測もつきませんが、
やがて僕たちは、一番近い距離で、お互いの唇を合わせました。



「あ、はう、あっ……」
「古泉……」




少しでも動くと全身に痛みが走る。
自然と力が入ってしまい、
その瞬間は、彼も表情を歪めます。
痛いのは僕だけじゃない。
どっちも苦しい思いをするのに、
どうしてこんなこと、するんだろう。


あなたとひとつになれた、というのは、
……うれしいような、気もするけれど。
男としてはどうなのでしょう。




















彼はそのまま動いたりせずに、
背中を撫でてくれて、
キスをするだけで、
今日はここまでと言うと、
僕の呼吸に合わせて体を離しました。




「いいんですか」
「いい」




僕だけが何度もあなたに気持ちよくしてもらって、
あなたは一度も……。
かといって、僕がしますよ、とも言えません。
僕とは違って必要なところだけ脱いでる彼の姿すら、
見るのは恥ずかしくて仕方ないのですから。



「どうだ、体の具合は」
「落ち着いてきました」
「そうか。よかった」
「……シャワー使いますか」
「俺はいい」
「では、僕、浴びてきますね」




家に来てから、彼が先にシャワーを浴びて、
僕もそうしたら、浴室から出た途端に彼に引っ張られて、
ベッドに押し倒されたのでした。
今度は上がっても彼はいません。
ぱぱっと服を着て、部屋へ戻ると、
彼はベッドに横になっています。
少し疲れたんでしょう。
眠たそうです。



家には電話した、とだけ呟いて、
彼はそのまま眠りに落ちました。
僕も途端に気が抜けて、少々悩んだのちに、
彼の隣で目を閉じます。








あんなことをした後だからか、
それとも彼がすぐ抱き締めてくれたからか、
もっと緊張すると思っていたけれど、





とても安心します。







暖かい。













友人とは違うでしょうけど、
これも、いいかも、しれない。



暖かな気持ちがじんじんと、
繋いでいる指先まで熱くする。
















あなたが言っていた好きって、
こういうこと、ですか?







thank you !

エロに持ち込むつもりはなかったのに!
友達がいいんです!ってなって振られる話のつもりが・・・^q^

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