High Speed Machine Gun





「嬉しいです。僕、こうなったらいいなって、ずっと思っていたんです」

 勇気を出して好きだと、付き合って欲しいと伝えたら、古泉は予想していたよりもいい笑顔で頷いた。
 両思いかもしれない、と期待はしていた。古泉はいつだって俺の傍に来たがったし、
俺と遊びたがったし、ハルヒがどうのこうのと相談してくるのもきまって俺だった。
 予想していた展開と予想以上の笑顔についテンションが上がって抱き締めた。
 古泉は驚いて声を上げたが、突き飛ばしはせずにそのまま抱き締められている。
 障害はある。
 俺たちは男同士、普通じゃ、ない。ハルヒに言えば喜びそうだが好奇の目に晒されたくない、
古泉を変な目で見て欲しくもない、だから誰にも言わないで、二人で仲良くできれば、それだけでいい。
「あのですね、それなんですが」
「ん?」
「僕達が付き合うことを、教えたい相手がいるんです」
「誰だ? 大丈夫なのか」
「森さんと新川さんです。二人は僕を三年以上前から見守ってくれていたから、こういうことがあったら、
誰よりも先に言ってほしいって」
「ふむ……。あの二人なら大丈夫かもしれないな」
「はい! きっと応援してくれます。仲良くしましょうね、これから」
 数回会っただけの機関の人間。機関自体が何かのかも分からんがあの人たちは信用できそうだった。
古泉もずいぶんと世話になっているし嬉しそうに微笑んで応援してくれると言われたら、
不安が心によぎるなんて、ありえないだろ?
 何の予感もなかった。
 二人が最大の障害になる未来へ。









「古泉……」
「あっ……。ちょっと、待ってください」
「どうした?」
「時間を……」
 付き合って一ヶ月ほどが経ち、キスもしたし、別れ際には抱き締めるし、古泉も真っ赤になるものの、
嬉しそうに笑うくらいに余裕を持てるようになった。
 だから今日こそ、と古泉をベッドに押し倒してコトを始めようとしたのである。
 すると古泉は慌てて起き上がり時計を確認した。
「時間はあるだろ?」
「はい、あります。すみません……中断、させちゃって」
「いや。いいから」
 出鼻は挫かれたが、それだけでやめる気はない。
 ボタンに手をかけてシャツを脱がせて、露わになった肌にもキスをする。古泉は戸惑いながらも同じ男とは
思えない声で気持ちを訴える。
「あ、あ、あっ」
「舐められると気持ちいいだろ」
「はい……気持ちいいです、あなたの、口」
「もっと気持ちよくなろうな」
 普段の古泉はどちらかというと鈍感だ。ハルヒの願望には敏感なくせに、俺のそれには気付かない場合が多い。
キスがしたくて唇をじっと見ていても雰囲気を読まずに富士山の話を延々と続けたこともあったな……。
 だが、いったんこうして半ば強引に迫れば、気持ち良さそうに体をくねらせる。気持ちよければいいと言い、
自分から舌を伸ばす。鈍感でも、素直ならいい。こうやって触って撫でるたびに甘い声を俺に聞かせてくれればいい。
「あっ、気持ちい、う、うう」
「……今日、最後まで、していいか」
「最後……。はい、あなたとなら」
嬉しそうに頬を染め小さく頷いた。
 だから俺たちは完全な合意の下、ついに体を交えた。
「ああ、あ、す、ごいっ……」
 指を突っ込んだだけで初めてとは思えないくらい気持ち良さそうにするものだから、ベルトを外した俺自身も
大変なことになってて、古泉に入れたかどうだか分からんうちに、出た。
 ……最初はこんなもんだろ、な。な?






「古泉ー……からだ、平気か」
「はい、だいじょうぶ……」
「こいず」
「あ、ちょっと待ってください。電話をします」
「電話?」
 枕元にあった携帯電話を手にし、終わってすぐだというのに電話をかけ始めた。
 何だ、何か急用でもあったのか? 機関の仕事か?
「森さん、古泉です。はい、先ほど行為を終わらせまして、19時半から始めたので時間は12分です」
 ……古泉?
「え? そ、そうです……、そう、なんですか?」
 電話口から森さんの声が聞こえる。それは心なしか失笑しているように感じた。
戸惑いながら電話を切った古泉は、俺を見て頼りなく微笑むと、抱きついてくる。
「おい、今の電話は何だ」
「森さんが、初体験をしたら報告しなさいって」
「報告っ……!」
「始まった時間と、かかった時間を。今度会う日までに感想もレポートにして提出して、」
「待て。古泉、落ち着いて話をしろ」
「どうしたんです? 汗びっしょりですよ。今、タオルと飲み物を持ってきますね、待っててください」
 ぱぱっと部屋着をまとい、古泉は洗面所へと消えた。タオルを濡らして絞る音。その後は、冷蔵庫を開けて何かを取り出す音。
戻ってくるまでの時間がひどく長く感じられた。
 報告? 俺たちの営みをか? 森さんと新川さんに、始まってから終わりまでを?
「持ってきま」
「馬鹿!」
「えっ……、オレンジジュースじゃ、イヤでしたか」
「そうじゃない! お前な、何が悲しくて俺たちの初体験を、関係ない二人にっ」
「関係ないとは心外ですな」
「わたしたちは古泉の親代わりのようなものですのよ、心配して当然でしょう」
「おわっ!」
「あっ、森さん、新川さん」
 おい! 今この人たち、窓から入ってきたぞ! ここは6階じゃなかったか? 非常階段を毎日外にかけてるわけじゃないよな?
 ああ、前にもこんなことがあったような気がしなくもないが、うまく思い出せない。冷静に記憶を振り返るには動揺が激しすぎた。

「あなたたちがお付き合いをしようとは、さすがの我々も、予想をしておりませんでした」
「ですが古泉からあなたの話は飽きるほど、ええ、それはもうとにかく退屈で寝てしまいそうになるほど聞きましたわ」
「あなたの話をする古泉はとても楽しそうだったんですよ」
「何が楽しいのか、わたしには分かりませんでしたが」
「ですから、あなたから交際を申し込まれ、実際にそれが始まるとは」
「古泉が幸せになれる相手じゃないと絶対に認めない、中途半端な相手なら力づくでも引き剥がす予定でした」
「あなたが、そのお相手とは……」
「下手に手を出したらわたしたちの身が危ないし……」
 俺は素っ裸の体を布団で隠し、古泉はその隣で行儀良く足を揃えて座って、
森さんと新川さんの話を真剣な眼差しで聞いている。
 ……少しでも心を落ち着けるために、順を追ってまとめてみよう。
 古泉には両親がいない。どこか遠いところへ行ったと、聞かされているそうだ。
それが生きているのか死んでいるかも分からない。だが古泉には中学生のときからずっと面倒を見てくれている
森さんと新川さんがいる。
 二人は古泉にとってまさに両親のような存在で、悪いことをすれば叱り、良いことをすれば褒めて、品行方正、
成績優秀、運動神経も優れた古泉一樹に育て上げた。
 あいつにとって二人が大切な存在であるように、いや、それ以上に、二人にとってあまりにも思い入れが強すぎる。
 古泉に近付く変な虫はすぐに払い、誤った道に進まないように細心の注意を払ってきた。
 だが。
 北高に転入し、SОS団員としてハルヒの傍にいる命を受け、その重要な使命を受けたことに対しては大層な祝福を
したらしいが、俺という人間に出会ってしまったのが問題だと言う。
 古泉にとってハルヒは観察対象であり、神のような崇拝すべき存在。
 長門と朝比奈さんは、お互いに距離を置くべき別陣営。
 俺だけが違った。初めて接する同世代の一般人の男。
 いい意味でも悪い意味でも普通の俺に、古泉は惹かれてしまった。
「あなたを手にかけるのは重罪とされています。もしそうしたら、古泉の傍にいられなくなる」
「森さん! それは、駄目です」
 古泉。駄目なのは俺に手をかける部分か、それとも森さんがお前の傍にいられなくなる、ってとこか?
 前者だと言ってくれよ。
「我々はあなたとの交際を認めようと決意しました。ただし、本当にあなたが古泉と交際すべき人間か見極めるため、
報告をさせています」
「そして何か揉め事が起きればこのようにすぐに助けに来る体勢が整っています」
 俺が馬鹿、と言った数秒後に窓から入ってくる体勢か。機関の仕事の早さには溜息が出るな。
「古泉を幸せにしてくださいね」
「そうでないと、何をするか分かりませんからな、自分たちでも。はっはっは」
「森さん、新川さん……」
 大変素敵な笑顔を浮かべていらっしゃる二人だが、もちろん背後には黒いオーラが見える。森さんにいたっては
ようやく言葉だけは優しくなった。今までの言葉には全部棘がありすぎて、あちこちが痛い。
 古泉、お前はこの流れのどこで目を潤ませたんだ。二人にぺこぺこと小さくお辞儀をしているのを見ると、感動
しているらしい。あのな……お前のネジが人とは違う箇所でずれているのは承知しているが……、本当に、馬鹿なのか。
「返事が聞こえませんが」
「聞こえませんな」
「は、はい、幸せにします」
「そう、では、期待していますね」
「古泉をよろしくお願いします」
 脅迫に負ける俺。
二人は古泉の頭を撫でると音も立てずに窓から出て行った。

……納得できない。俺たちの関係を認める代わりに全てを把握させろなど。しかし、あの人たちに抵抗できる力はなく、
古泉の賛同も得られず、渋々受け入れることになってしまったのだ。



「あっ……」
「ああ、う……」
「……。気持ちよかった、ですか?」
「……おう」
「それならよかった」
「ポカリ、あったよな」
「ええ、持ってきますよ。ここにいてください」
「悪い」
 家に行って恋人らしい行為をして、クラクラして動けない俺を気遣って持ってきてくれたコップに口を付ける。
ポカリを流し込むと、声を上げてからからになっていた喉と火照った体を冷たいものが巡っていく感覚が伝わってくる。
 コップをテーブルの上に戻して、横たわってる古泉にのしかかるように倒れこんだ。
「あー…………」
「大丈夫ですか。背中に汗、びっしょりですよ」
「すまん。気持ち悪いか」
「いえ、平気ですけど。落ち着いたらシャワーを浴びてくださいね」
「ああ、そうする」
 しかしもうしばらくはこうさせてくれ。動けない。
 ぴたりと古泉の胸に頬を寄せて深呼吸を繰り返す。古泉は俺の頭を撫でながら、枕元にあった携帯電話を耳に当てた。
「森さん、僕です。はい、今終わりました。時間は……7時半ちょうどから始めたので10分ですね。お願いします。それでは」


「古泉……。相談があるんだ」
「どうしたんです、改まって」
「聞いてくれ」
 ごくりと喉を鳴らして、古泉も真剣な表情でベッドに座った。言わなければならない。
古泉との今後を真面目に考えるからこそ。
 その後も報告は続いている。体を重ねるたびに終了報告が電話でなされ、いい加減それには慣れてきた。
どうせいつかは飽きるだろうから、古泉が気にしていないなら俺も目を瞑ろうと決めた。
 慣れないのは、行為そのものだ。
 時間が。
 あまりにも、短すぎる。
あれは何度目かの行為、何度目かの報告電話。
聞こえてしまった。
「時間は、ええと、12分です」
『古泉、もう一度言ってちょうだい』
「はい。12分です」
『……キスから射精までで?』
「しゃっ……! そ、そうです」
『そう……。かわいそうに……』
 電話口で確かにそう言ったのだ。森さんが、心から気の毒そうな声で。
 気付きつつあった。初体験は仕方がないとしても、それから何度体を重ねても全く同じ時間で終わってしまう。
古泉の体を触るだけで興奮して、焦りながら指で慣らしていると、俺の興奮具合が古泉に伝わるんだろう、
「もう、いいですよ」と古泉はいつも微笑んで俺を迎えてくれる。
 そうすると即座に試合終了のベルが鳴る。頭の中で雷にも負けない大きな音で。その瞬間に意識がぶっ飛んで、
全身の力が抜けて、何も出来なくなるんだ。
 まさに一瞬。古泉の中に入ったかどうかも、正直毎回、分かってない。
 物足りないよな。二人でやってるのに出すのは俺ばかりで、やっと意識がはっきりしてきてまだ時間があるときに
何とか手で出してやるくらいしか出来ない。森さんにも新川さんにもバカにされて、お前だって嫌だろう? 
 付き合っているのに嫌な思いをするくらいなら、俺は……
「そんな……不満なんてありません」
 話を最後まで大人しく聞いていた古泉はようやく口を開いたのだが、同時に目に涙を溜めた。
「こ、古泉、なんで泣くんだ」
「あなたが、僕と別れるなんて言うから」
「それは、このままだとお前が満足できないだろうし」
「僕はあなたが好きなんです。あなたとじゃなきゃ、いやです」
 なんてかわいいことを言ってくれるんだ、古泉。
 俺でいいのか?
 10分と少しで終わるのに、いいのか?
「はい。あなたがそれでいいなら」
「甘いわ、古泉」
「先が思いやられますな」
「うわ!」
「あっ。森さん、新川さん、こんばんは」
 また出た! 俺たちが愛を確かめ合う、感動のシーンだったというのに。

 古泉に出された緑茶をずずとすすり、二人は俺をまっすぐに見つめてくる。
「単刀直入に言わせていただきますが、あまりにも早すぎます」
 言葉通りの直球に、早くも心が折れかかる。
「古泉が欲求不満になったら、どう責任を取るおつもりですかな」
「現に最近の古泉は色気がありすぎるわ。わたしたちから見ても異常です」
「ええっ、僕に色気が?」
 古泉はひどく驚いた様子だが、その意見には頷ける。そしてそれは新川さんの言う通り欲求不満が原因なのかもしれない。
 学校で偶然横を通り過ぎるだけで潤んだ目になるし、部室で二人だけになればぴたりと体を寄せてくる。
自分からキスを求めるようになった、触るたびに上げる声も、高くなった。体が敏感になっているのは俺が感度を
上げてやったわけではなく、抜く頻度が低すぎて、我慢をしているからだ。
「一晩にせめて二回、三回くらい出来ないの? あなたまだ高校生でしょう?」
「それが……終わると体力が地の底に……」
「10分で地の底にまで落ちる体力、ですか」
「あの、彼は、学校でも涼宮さんのお相手で大変だから、」
「古泉、お前は優しいな」
「いえ、そんな……」
 二人の前で古泉の頭を撫でるくらいなら余裕になった。
 というのも、二人が熱く古泉への愛について語るもんだから、俺もつい、アピールしてしまうのだ。
「とにかく」
 二人はわざとらしい咳払いをし、
「これが続くようなら、考えますから」
「また来ます」
 言いたいことを一通り言うと、それでもいまいちすっきりしない表情で、窓から出て行った。

「……古泉」
 なぜかな、視界がぼやける。
「大丈夫です」
 古泉のとびきり優しい声が、余計涙腺を刺激する。
いつもは俺がやってやる行為を今回は古泉がしてくれる。頭を撫でながら額に軽く唇をつけるという行為。
「気にしないでください、二人はあのように仰ってますが、本当はあなたのこと、とても認めているんですよ」
「本当かよ」
「あなたはとても優しい方ですから。いいところ、毎日伝えてます。百連敗したゲームでわざと負けてくれたこと、
茶柱の立ったあなたのお茶と僕の湯飲みを替えてくれたこと、十万ピースのジグソーパズルにいつもお付き合いして
くださること。それに、僕を誰より大切にしてくれています」
「古泉っ……」
「あなたのそばにいられるだけでいいんです。他の人なんて、興味ありません。あなた以外に触られたくないし、
あなたとしか、……したくないんです」
 眩しい。いつにも増して、古泉が輝いて見える。とてもまっすぐ見ていられない。目元を拭うとなぜか袖が濡れた。
泣くなんて情けないが、これは悔し涙じゃない。古泉の優しさに感動してのことだ。

 窓の鍵をしっかり閉めて、カーテンもきっちり端と端を合わせ、古泉を抱き締めた。
 なあ、今日は、もう一回出来そうだ。お前が欲しくて仕方ない。古泉、してもいいよな?
「はい……」
 二回目だから時間をかけて、とシャツのボタンに手をかける。すると古泉がその手を取って、自分から唇を重ねてきた。
しょっぱなから口を開けて、舌を伸ばして。
「んっ……!」
 こ、古泉、口の中、熱い。
 手を下に持っていかれる。足の間に触れるとすっかり準備態勢が整っていた。そうだ、さっきは俺しか出してないから、
キスをしただけで古泉がこうなるのも、当然だ。
「ん……、脱ぐ?」
「はいっ……。あんまり、見ちゃ、駄目です」
「お、おう……」
 古泉、お前、いつからこんなことに。ちょっと触っただけで出ちまいそうなくらい、や、やば……
 反射的にパンツまで脱いだ。とろんとしていた古泉の表情がはっと驚いたところまでは覚えてる。
「あっ、ま、待ってください、僕、まだ」
「古泉、古泉、こいずみっ」
「も、もう……わかり、ましたから……」


 意識が戻った頃、俺は一人でベッドに倒れていた。古泉はどこへ行ったんだろう。さっきまで、腕の中にいたはずだ。
ついに愛想を尽かして出て行ってしまったのか? いや。ここは古泉の家だ、それはない。俺を追い出すならともかく。
 体が重くて動けずに目線だけを泳がせるが、見当たらない。
 ややあってからトイレで水を流す音がして、古泉が戻ってきた。
「あっ、気が付いたんですね」
「古泉……俺は……」
「大丈夫ですよ。何も心配しないでください」
 笑顔と優しい声に安心して、古泉をベッドに引き寄せ、抱き締めながら眠りについた。


「なるほど。二回目でも、むしろ、二回目の方が早く終わってしまったと。なんと不憫な」
「かわいそうな古泉。もうこれで、覚悟は出来たでしょう」
「森さん、新川さん、僕、あの人と別れるつもりはありませんから」
 その翌日、二人に会いに行くと言って家を出た古泉の後をこっそりついていき、喫茶店に入った。
後ろの席に身をかがめて座り、三人の話を盗み聞く。
 昨日の出来事を思い出して悶絶した。
古泉がパンツまで濡らしてるのを見て一気に興奮が最高値になり、さっきやったから大丈夫だろうと、古泉の体に
触るよりも先に入れようとして、慌てた顔にますます興奮して、擦り付けて、少し、入れただけで、…………。
二人に会いに行くなら確実に昨日の件を話すだろう、そう思ったらじっとしていられなかった。
「ですから、彼がもっと頑張ってくれるように、僕に出来ることがあるなら教えてほしいんです」
 しかし、古泉が二人に訴えたのは想像とは正反対だった。ついに見放されるんだと戦々恐々としていたのだが、
古泉は俺とこれからも付き合うためにアドバイスをくれと言う。
「あなたがするというよりは、彼が頑張ってくれないと」
 とんでもない、と言い捨てるかと予想していたがあっさり外れ、森さんは溜息を吐いて落ち着いた笑顔を古泉に向ける。
「古泉が頑張るほど、彼は興奮してしまうでしょ。だからあなたは何もしないくらいがちょうどいいの」
「何もしない、ですか」
「彼にはこれをお持ちください」
「これは?」
「精力が持続する薬です。合法ですので、どうぞご心配なく」
「ありがとうございます!」
 森さんと新川さんのことを、誤解していた。あの人たちは結局は俺と古泉を引き離すつもりだろうと、敵視していた。
けど古泉が言っていた通り認めてくれているんだ、ちゃんとこうして、応援してくれるんだ。この際薬の世話にもなろう。
それであの時間を引き延ばせるなら。

「あのっ、今日はあなたに飲んでもらいたいものがあって」
「ん、何だ」
「これ、薬局で見つけたんです。あなたが気にしていらしたから、もしよかったら……」
「古泉……わざわざ俺のために……」
「は、はい。すみません、余計なことだったら」
「そんなわけないだろ。ありがとな。飲ませてもらう」
 二人にもらったと言えば飲まないと思ったのか、自分で買ってきたことになっている薬のビンの蓋を開ける。
栄養ドリンクとも違う、なんとも例えがたい匂いだ。マムシらしき動物の絵がラベルに描かれている。
一体最初に誰が、マムシを液体にして飲もうと思ったんだ? 相当な変人だろうが今は礼を言わなければならんな。
「それじゃ、開始時間、今からで数えますね」
「ああ。……古泉、変な味がするかもしれんが、許せよ」
「ふふっ、いいですよ」
 笑っていた古泉だったが、キスをして舌を絡めると、うっと呻いて口を離してしまう。
「す、ごい味ですね」
「そうか?」
 変わった味ではあったが、そこまでか?
 古泉とのキスには時間をかけたいところだが、不快にさせたくないから、唇じゃなく首筋や鎖骨を攻めることにした。
「んっ……、ん、んうっ」
 森さんに追加で言われていた、声を出来るだけ我慢して、聴覚を刺激しないようにと。普段の声だけでなくこの時の
声がたまらなく好きなのに寂しいが、今日は文句を言わずに続けよう。
 どこを触っても舐めても反応のいい古泉だが、やはり、一番気持ちがよくなれるのはここだ。ジーンズのチャックを
下ろして手を差し入れる。体温がじわりと伝わってくる。
「あ……!」
 軽く撫でただけで声が漏れた。昨日は、一人でやっちまったのか? あのトイレから戻ってきたときかもな。
ごめんな。自分でやるよりも俺がやったほうが何倍もいいと前に言ってくれたよな。
今日は、お前が満足するまでたっぷり、
「ん、ん?」
「ふ……?」
 な、なんだ、下腹部に、強烈な違和感が。
「どう、したんですか?」
「もう、出そうだ」
「えええええ! そんな! 僕、触ってもないのにっ」
「いや、というか、だな」
「は、はい」
「出た」
「な、なんと……」
 

「あれ、本当に精力が持続する薬だったのかしら」
「間違えたような気もしますな」
「そうよね。精力が衰えている人に、若々しさを復活させる薬よね」
「ご明察の通りです」
「だとすると、今でも若いから早すぎる彼に飲ませたらもっと早くなるんじゃないのかしらね」
「そうかもしれません」
「はあ。あなた、ちょっと楽しんでいない?」
「どうでしょう」
「もう……。頭が痛いわ」


「古泉、もう、一回」
「わっ、か、顔はっ……」
「悪いっ……!」
 体中真っ白な液体で染まった古泉の顔すら、白くなる。俺が吐き出した体液で。
 頬と口の端からそれを零して、泣きそうな目で見られるとまた興奮して体が熱くなる。古泉の名前を叫ぶように
何度も呼んで、髪まで飛ばした。
「落ち着いてください、いったん、休憩しましょう」
「駄目なんだ。止められない」
「でも、このまましてたら、後で体が痛くなっちゃいますよ。我慢してください、ね」
 古泉の体に触りたくて、古泉の体を汚したくて、どうしようも出来ない。あの薬のせいだ。出すまでの時間が
長くなるんじゃない、それは変わらないまま興奮状態が持続するだけ。二人は分かっててこれを渡したのか、それとも。
 あくまで優しく俺を諭してくれる古泉に、その後3発ほど飛ばさせてもらい、やっと欲望が尽きた。かかった時間は
二時間。圧倒的な最長記録だ。ただし古泉が達したのは一度だけ。時間対比の確率を出せば最低記録なのも、言うまでもない。




「見てください! 今日はこれをお持ちしました」
「な、なんだ、その、小さいヘルメットみたいなのは」
「ここに封じ込めておくと、絶対に出せないようになっているらしいですよ」
「いや、だが、それじゃあお前に入れられないだろ」
「ですので、前戯の間だけ」
「ふむ……やってみるか」
 何とかカップというものも、古泉が用意、という名目で二人からもらって試してみたが、
強制的に我慢させられると、脱いですぐに出るので無意味だった。
 失敗の連続、それでも、俺たちは諦めない。
 森さんと新川さんも諦めずに毎日見たこともないようなアイテムを準備してくれる。
「また明日、頑張りましょう」
「おう」
 何でも試そう。きっといつかはうまくいく。超スピードで出していた時代を思い出して笑い会える日が来る。
「では、おやすみなさい。……大好きです」
 俺には、こんな俺にも、毎日呆れずに付き合ってくれる古泉がいるんだから。
 待っててくれよ、いつかは、必ず。





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