僕は天使の国に生まれました。
天使の仕事は人間界を見守り、
危機があれば早めに排除して、
短い一生を送る人間たちが少しでも安心して暮らせるようにすること。
お師匠様について小さな一つの町を守っていた僕でしたが、
ある日大きな、悲しい出来事があり、
僕は天使の力を失ってしまったのです。
天使を表す羽もなければ、頭の上のわっかもない。
さて困ったことになりました。










いつきクエスト




 





ひとまず流されるままに行動をしていたところ、
同じ天使だというサンディという妖精のような女性に出会いました。
人を助けて、たくさん感謝の心をもらえば、
きっと天使の力が元に戻ると教えてくれました。
そのためには強いモンスターとも戦わなければなりません。
僕一人の力では、心もとないから。
大きな街の宿屋で働いていて、
ひょんなことから仲良くなったルイーダさんに頼んでみることにしました。
 





「そっか、仲間が欲しいんだね。いいよ、どんなのがいい?」
「戦士系の方が一人と、あと、回復メインの僧侶系の方と、
 あと一人は、すばやさ重視で盗賊の方がいいかなと、思います」
「悪くない選択ね。うん、ちょうどいいのがいるわ、待っててちょうだい」
「はい」
 





 
椅子に座って待っているとしばらくしてから、
ルイーダさんが3人の仲間を連れてきてくれました。
ぱっと見たところ、皆さん、僕と同じくらいの年です。
 




 
「この子たち、ちょうどメンバーを一人探してたんだって。はい、自己紹介して」
「あっ、はい。僕、いつきっていいます。剣と扇が使えます、魔法も、少し。
 宜しくお願いします」
「いつきくんかあっ! よろしくねっ、あたしは盗賊やってるんだ。
 ちゅるやとでも呼んでくれるといいよっ」
「ちゅるや、さん」
「はじめまして、あたし、みくるです。力には自信がないけど、
 怪我をしたらすぐに治せるようにしますね」
「みくるさん。はい、よろしくお願いします」
 





人当たりもよく、優しそうな女性たちです。
よかった、さすがはルイーダさん、人を見る目がありますね。
 











さて、もうお一方は……



大きな剣を背中に携えた、男性。
半開きの目と口が僕に向けられています。
 



「こっちはキョンくんだよっ。すばやさは低いんだけど、
 力は持ってるから、敵の止めを刺すなら任せておくれっ!」
「キョン、さん」
「よろしく」
 





お二人に比べると笑顔はないものの、悪い人ではなさそうです。
硬く握手を交わし、これから一緒に戦う仲間として、
がんばっていこうと円陣を組みました。
 
 







さて、では早速仲間も揃ったことですし、
装備を整えなくてはいけませんね。
武器も防具も、皆さんは初期のもののようですし。
 


 
「いつきくんが買ってくれるのかいっ?」
「はい、今までモンスターを倒したお金があるので」
「すみません、ありがとうございます。あたしのは、質素でいいから……」
「悪いな」






 
皆さんはお金の手持ちがないそうで、僕が買うことになりました。
頼られるのは嬉しいです。
4人分の装備を手に入れるお金があるかは不安ですが、
ひとまず、行ってみましょう。
 
 





 
「わあ、かわいいワンピースです」
「この拳法着、なかなかいいじゃないかっ。あたしに似合うと思わないっかな?」
「はい、よくお似合いですよ、お二人とも」
「おっちゃんこれよろしくー!うん、ここで装備していくさー」
 







 
装備品を取り扱っているお店は広くて、
お二人が気に入る服が見つかったようで何よりです。
彼女たちに言われるがままに支払いを済ませます。



喜んでいる顔を見ると、
天使の力を失った今も、とても嬉しくなります。
いいですね、誰かに喜んでもらうって。
天使のときは直接的に何かをプレゼントしたり、
話をすることは出来ませんでした。
だからこんな経験は、楽しいと思います。



が、




 
 
「おい。お前、金は大丈夫か」
「えっ……あ、いつの間に」
「あいつらの装備ばっかり買いすぎなんだよ。財布の紐緩すぎるぞ」
「すみません」
 




 
彼女たちが着替えている間、彼に叱られてしまいました。
言われたとおり、財布に残っているのはわずかなゴールドだけ。
これでは彼と僕の装備を満足に買えないでしょう。
僕はまだ、最初の町で買い揃えていたのでいいですが、
彼は布の服のまま。
このまま外に出れば確実にモンスターに狙われ、気を失ってしまいます。





 
 
「ちゃんと考えろよ。一応リーダーなんだからな」
「はい……」
「過ぎたことは仕方ない。買える分だけ買うとしようぜ」
 
 









楽しい気持ちがあっという間にしぼんでしまいましたが、
彼はそんな僕を励ますように頭をぽんぽんと叩き、
男性用の装備品を眺め始めました。




こういう方がいてくれると、助かります。
僕は天使としてしか生きてこなかったから、
羽目を外してしまいがちです。
彼のようにストップをかけてくれて、ちゃんと叱ってくれる、
面倒見のいい方がいてくださるだけで違いますね。
 

















 
結局彼のために買えたのは何の変哲もない白いTシャツと、
赤いおしゃれなバンダナ、そして皮のこしまきです。
値段と守備力を見て買ったのですが、
 
 




「…………」
「うーん、コーディネートとしてはいまいちだねー」



 
 
Tシャツと腰まきの他は、薄い皮で作られた靴だけ。
素足が丸見えです。
暖かい地域なので寒くないとは思いますが、しかし……。


 
 
「な、なんだか、恥ずかしくって、見ていられませえんっ」
「あっ、みくるー! もう、みくるったらめがっさ純情だなあ。追いかけてくるよん」
 




みくるさんを連れ戻してくるのはちゅるやさんにお任せしました。
あとは、がっくりきている彼にどうにか、元気を取り戻してもらわなくては。





 
 
「すみません。僕の所持金が尽きたばかりに」
「買ってもらっておいて、文句は言いたくないんだが……」
 
 




彼は自分の素足を指差します。
 





「この年にもなって生足はないだろう、生は」
「怪我をしやすくなってしまいますよね」
「それ以前の問題だ。こんな汚い足を朝比奈さんに見せちまったし」
 





 
朝比奈さん、というのは、みくるさんの苗字だそうです。
そして汚い足というのは……
その、とても男性らしい、毛の生えた足のことですね。
僕は、いいと思いますよ。
僕には男性ホルモンが足りていないのか、ほとんど毛が生えなくて。
 






「俺はお前の方がうらやましいぜ」
「そういうものですか」
「ちょっと、見せてみろ」
「はい、どうぞ」
「馬鹿。外で見せてどうする。宿屋行くぞ」
「はい」
 




 
宿屋に早めに部屋を取り、女性二人の分も手配しておきます。
部屋に入るなり彼は僕をベッドへと引っ張り、
すぐにタイツをまくってきました。
天使だけが履けるタイツなんですよ、これ。
って、あなたには言えませんが。

















 
 
「白いな、お前の足」
「みんな、こんなものでしたよ、僕の故郷では」
「へえ。北の方か」
「北というか……上です」
「北だろ? 地図読めないんだな」
 
 






ちょっと違うのですが、人間に天使の話をしても理解できないでしょう。
僕たちの存在は本来見えない、触れられないもの。
それでも信じてくれる人はたくさんいますが、
あなたはあまり信仰心が厚くなさそうですしね。
 







それにしても、足を撫でられるのはくすぐったいです。
僕の足、そんなにうらやましいんですか?
舐めるような手つきで、真顔でじっと見つめて。
もっとよく見せろと言われて頷くと、下着姿にされてしまいました。
なにやらおかしな雰囲気です。
 




 
「俺も、お前みたいにするかな」
「する、んですか」
「手伝ってくれるんだろ?」
「僕が?」
「お前以外にいるかよ」
 



 
確かにその通りです。

人のためになることをしないと。
お師匠さまにも教えられてきましたから。






彼に頼まれたとおり、
道具屋でクリームとかみそりを買ってきて、
なぜかまた服を脱がされた状態で、
彼の足の毛を剃ることになりました。
 







 
「あんたさ……馬鹿じゃん?」
 
 


道すがら、サンディに馬鹿にされました。



 


「何が悲しくてあいつの足毛を剃るわけ?」
「タイツを買うお金が無いので、足を見せている間は、僕が処理しないと」
「あいつにやらせりゃいーじゃん!」
「人のためになること、いっぱいしたら、天使の力を取り戻せるんですよね」
「うっ……確かにあたしがそう言ったけどさあ。気をつけなよ、なーんかヤな予感すんのよね」




 
彼女はああ言いましたが、
あなたからもありがとうの気持ちをいただくために、
僕、精一杯綺麗に剃りますね。





 
「クリーム、ちょっと冷たいですよ」
「いつき、もうちょい近くに来い」
「はい。このくらいでいいですか」
「もっと」
「このくらい……?」
「もっとだ」
「は、はいっ」
 
 
 



彼に強く引っ張られ、後ろから抱きしめられるように腕の中に捕まりました。
向かい合うより、こうした方が剃りやすいんでしょうか。
あまりぎゅっとされると、苦しいです。
しかも首や耳の辺りに口をつけて、いたずらまで。
僕はあなたのためにがんばりたいのに、
気が散ってしまいますよ。
でも、ちゃんと、剃ります。
 





 
 
まずは足首からひざ上までクリームを塗りたくり、
傷をつけてしまわないよう、丁寧にかみそりを這わせます。
流れと逆向きにすると肌が痛んでしまうので、
ちゃんと毛の流れる方向に合わせています。
これは以前、天使界の女性たちが沐浴場の近くで話していたのを偶然聞き、
覚えていたものです。まさか役に立つ日が来るとは思いませんでした。
彼の力強い黒い毛が、かみそりの動きに合わせて消えていくさまは、
なかなかの快感を覚えます。
黒かった見た目があっという間に肌色に変わる。
この調子で剃っていけば生足での外出も、恥ずかしくありませんね。
 



 








順調に剃り進めていたのですが、
途中、彼が僕の内股を撫で始めたので、
手が止まってしまいました。
 
 





 
「あの、くすぐったいです」
「我慢しろ。俺もくすぐったいのを我慢してるんだ」
「ん……っ」
「お前は、くすぐったいだけじゃないだろ」
 





 
 
下腹部まで手が伸びる。
誰にも触られたことの無いような箇所へ、
し、たぎの中まで、手が……
 
 





「ここも生えてないのか」
 
 
 




 
背筋が、以前羽が生えていた辺りが、ぞくぞくとしてきます。
開きっぱなしの口に、彼の唇が迫ってきて、
何をされるか分からないけど、
触られているところへの刺激が強すぎて、
彼から顔を背けることも出来ずにいると、
 
 









「やめやめやめー!」
 


 
状況を見かねたらしいサンディが、彼の額に突撃しました。
 


 
「ぐおっ! な、なんだ!?」
「いつき! 少しは抵抗しなよっ! 何やられちゃってんのさっ」
 



 
彼女の姿は彼には見えません。
でも、先ほどの突撃は思い切り、彼にダメージを与えたようです。
 
 



 
「あの、最後まで、剃らないと……いたずらは、だめです」
「ちっ……いいだろうが、減るもんじゃないし」
「いつき、こいつ危ないんじゃん? 逃げた方がいいって!」
「でも、大切な、仲間ですから」
「いつき?」
「何でもないんです。ひざの上も、綺麗にしましょうね」
 







 
サンディは大きくため息をついて、隠れちゃいました。
呆れられてしまったんでしょうか。





僕も、体を触られるのが普通だとは思っていません。
いけないいたずらかもしれないなと、感じています。
だって触られると、どきどきするから。








 
だけど、彼は僕と一緒に旅をすると決めてくれた、
仲間なんです。
これから仲良く楽しくやっていくためにも、
信頼関係を築いていかなくては。
 
 
 
 


















 
「……悪かったな、いつき」
「え?」
「お前がかわいいから、つい手を出しちまった」
「かわいい、って……僕、男ですよ」
「分かってる。分かってるけどな、他と違うんだよ、説明できないけど、お前はさ」
 
 
 



あなたには分かるんですか?
僕が人間じゃないということを。
 


 
 
「残りも剃ってくれ」
「はい。任せてください」
「さっきの続きは、また今度な」
 
 
 




ほら、ちゃんと大人しくしてくれました。
この続きが何を意味するか分かりませんが、
彼は信頼できる人ですよ、きっと。
ごめんなさいが言える人は優しい人です。
僕はずっと人間を見てきたから、それだけは言えます。









「今夜は同じベッドで寝るぞ」
「二つありますよ?」
「それでもだ。いいだろ」
「ええ、まあ」






甘えたいお年頃なのでしょうか。
いいですよ、僕でよければ。
僕にしてほしいこと、
僕にできることならなんでもします、
だからあなたのありがとうの気持ち、
いっぱいくださいね。
そうしたら、もっとあなたのために力を出せるようになるはずだから。















「馬鹿っ!!」




食事の時間だと呼ばれて部屋を出た瞬間、
なぜか彼女に今度は僕がどつかれました。


何を怒ってるんだろう?
彼の足もつるりと綺麗になったし、
何も悪いことなんてしていないのに。







人も天使も、難しいですね。
でも僕、
これからも皆に幸せになってもらえるように、
頑張ります!









thank you !

ドラクエのキャラメイクはもっと頑張るべきですが、
いつきと名づけると萌えが暴走して困りますね!
モンスターに襲われるいつきも書きたい!

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