古泉の様子が気になり、4時間目の終わりに9組を尋ねた。
いつもあいつが座っている席には教科書とノートが
置きっぱなしになっていて、近くにいた奴に聞けば、
具合が悪くなって保健室へ運ばれたらしい。
運ばれた、は大げさだとしても、
二人がかりで肩を抱いて連れて行かないと自力では
歩けないほどに辛そうだった、と聞いた。

 


早足で保健室へ向かう。
独特の匂いが漂うそこには担当の先生がいて、
古泉はベッドに横になっているようだ。

 


「お友達? よかった、来てくれて。
 熱が高くて、話すのも辛そうなのよ。
 おうちには保護者の方がいらっしゃるのかしら」
「古泉は、一人暮らし、です」
「そう。……生徒さんの情報はこのファイルにまとめているんだけど、
 古泉くんのにはご両親の連絡先が書かれていないのよね」
「……」
「担任に聞いてくるまで、ここにいてもらえる?
 昼休みが短くなっちゃうけど」
「構いません」

 

先生の足音が聞こえなくなってから、
ベッドの横のカーテンを取り払う。
目を閉じていた古泉は、気配を感じ、うっすらと目を開けた。

 


「あ……」

 



……顔色、めちゃくちゃ悪いな。




昨日泣き腫らしたせいで、目の周りは擦れて痛々しい。
こんな顔で学校に来たのか。
ハルヒに見られちゃいないだろうな?

 

 

「はい、どなたにも……」
「ならいい」
「……僕に、用事、でしたか」

 

震えた腕で体を起こし、古泉は俺に聞いてくる。
用事?
俺は、ただ気になっただけだ。
昨日、風呂でぶっ倒れて気を失ったお前を、
ベッドに寝かせて帰ったから、
今日は学校に来てるのか、

 

……心配になったんだ。

 


ただその一言を伝えれば、
今俺を見る怯えた目の色も変わるだろう。
だが、
いつからか俺は、
古泉に優しい言葉をかけてやれなくなった。

 

 

 

「今日行くからな。お前んち」
「あ、はい……」
「掃除したんだよな? 昨日の」
「しました、全部、ちゃんと……ごめんなさい」

 

 


青ざめた顔が、さらに暗くなる。
足にかかる布団を握る手が、音が聞こえそうなくらい、震えてる。
今にも泣き出しそうだ。


お前を泣かせにきたんじゃないのに。

 

 

 










 

「古泉くん、起きてる?」

 

 


近くにいても余計なことを言うだけだ。
古泉を押さえつけるようにしてベッドに寝かせ、
俺は入り口の近くの椅子で先生が戻るのを待った。
先生は戻るなり古泉のほうへ駆け寄ると、
緊急連絡先に指定されていた親戚に電話をかけたら、
すぐに車で迎えに行くと言っていたから、
帰れる準備をしなさい、と話してる。
親戚、ね。
機関の誰かなんだろう、多分。

 


起き上がろうとしても足元がふらつくのか、
古泉の謝る声ばかりがベッドの方から聞こえてくる。

 


「……鞄、俺が持ってきましょうか」
「あら、そう? 助かるわ、古泉くん、動くのも大変そうだから」
「わ、悪いです、僕、自分で」
「駄目よ。お友達に頼んで、もう少し寝ていなさい」
「でも、僕っ……」

 


古泉の相手は任せて、もう一度、9組へ向かう。
教室に残っていた奴らには簡単に事情を説明して、
主に女子から心配するような言葉をかけられ、
伝えておく、と言って頭の隅へ追いやった。


途中ハルヒにも会い、同じように説明すると、


「それは心配ね……最近古泉くん、具合悪そうだったでしょ?
忙しくてちゃんと食べてないのかしら。痩せてきたし。
あたしが行っても邪魔しちゃうだけだから、あんた、
代わりに家まで送ってあげなさいよ。岡部には言っておくわ」

 

団長から早退のお許しをいただいた。

 



ちょうど、俺もそうしたいと思ったところだ。































 








「あ、うあ、あ」

 

 






こんなことをしに来たはずじゃなかったんだが。

 

 

床にうつぶせに転がる古泉は、
涙と唾液でぐちゃぐちゃに濡れて、
突っ込まれた指のせいで、言葉にはならない声を上げている。
苦しいのか声は途切れ途切れで、
合間に息を吸おうとしても、うまくいかずに咳き込んでる。
両腕は必死に逃げようとしているように見えた。
宙をもがいて、俺から離れようと。
そのたびに俺が両足を引くから、意味ないが。

 

 

 

「気持ちいいだろ? よかったな、早退できて」
「は、あ、あう、あううっ」
「気持ちいいです、は?」
「うああ……!!」
「古泉」
「き、き、もち、い、い、っ……う、うう……!」

 


いつも指だけ入れても痛いくらいに締め付けてくるのに、
体調のせいか3本突っ込んでようやく体が強張ってきた。
普段よりはずいぶん入れやすい。
入るところまで入れて、かき回して、
数えるのも面倒になるほど何度も、イかせてやった。

 

 

 

 














 


「うえ、うっ、うええっ……」

 

行為が終わると、
トイレへ行く力すら残っていないのか、
部屋にあったバスタオルを口に当て、
吐き出した。
何も食ってないから、胃液しか出ないだろう。


謝りながら吐く古泉を見ていると、
自分が衝動に駆られて古泉を痛めつけたのを後悔する。
近寄って背中を撫でると驚いたのか目を丸くしてこちらを見た。

 

 










「すみません、でした。汚いものを、見せて」
「気にしちゃいないが……具合はどうなんだ」
「まだ、くらくら、します」

 

吐き気が収まると、タオルを丸めて浴室へ持って行き、
顔を洗った後に戻ってきた。
足元はふらついたままで、
床に座る前に抱き止めると、
血色の悪い顔の一部を紅く染めて、
体を預けてくる。
呼吸は乱れたままだから、
また背中を撫でると、
おずおずと自分からも手を伸ばし、
小声で謝りながら抱きついてくる。

 


お前と、
やるとき以外に体を合わせるのは、
ずいぶん久しぶりなんじゃないか。

 






そのまま唇を合わせようとすると、
慌てて顔を離される。
おい、なんだよ。
俺とキスしたくないってのか?

 

 

「吐いた、ばかりで、汚い、ですから」
「顔洗ったんだろ、いいから、こっち向け」
「でも……、あっ……」

 

 

強引にやらせてもらおう、俺はしたいんだ。

 

 


「ふ……あ……」
「古泉……」
「んっ……」

 

 

 

キスをするのも、久しぶりだ。
古泉を喘がせて、泣かせるだけで満足してた。
付き合いたての頃は毎日してたのに。


付き合い……




今の、俺とお前の関係は、何なんだろうな。
これでも付き合ってる、と言えるのか?





それにお前、

 



 

「……なあ」
「はい……」
「今でも俺を好きなのか」



 

 

下手すると泣かれるかと危惧したのだが、
古泉はまっすぐに俺を見て、
小さく頷いただけだった。

 

 

 

「そうか」

 

 









馬鹿だな。

お前が好きでい続けるほど、
何もしてやってないのに。
それどころか傷つけて、苦しめて、
お前がこんな弱弱しくなるまで、
優しくもしてこなかったのに。

 

 

これからはもう少し、
お前のことを考えてやれるようにしてみる。
時間はかかるだろうし、
うまくやれる自信はない。





それでもお前が好きでいてくれるなら。

 



それも、恋

thank you !




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