「もうこんなに真っ暗!」


もう、ってことはないだろ。
お前がずーっと俺たちを引き止めてたんだぞ。
文化の日に文化的な生活をするにはどうするか、などという
抽象的な議題をひっさげた会議で。


結局どこだかの公園に絵を描きに行くことに決まったが、
正直、勘弁して欲しいね。俺の美術の成績といったら、
日本の歴代首相の支持率ばりに右肩下がりだからな。


しかしまあ、提案者が朝比奈さんだったあたりで、
納得せざるをえなかった節は、ある。
失態を見せることになろうとも、彼女だけは褒めてくれるはずだ。
どんな絵だとしても。



星降る夜に



「今日はもう解散!皆、気をつけて帰るのよ!!」


俺も言ってやりたいよ、お前に。
そんなに急に走り出すと、転ぶぞ。
人にぶつかって、相手は大怪我をして自分は無傷、
そんな転び方をしそうなのがお前だからな。

気をつけて、帰ってくれ。






「鍵、戻しておきます」
「よろしくね、古泉君!」
「それじゃあ、また明日。キョン君も、またね」
「はい。朝比奈さんもお気をつけて」


俺は古泉と一緒に職員室まで鍵を返しに行き、
二人で、校門を出る。
いつからこんな習慣になったのかは覚えていないが、
古泉と二人で帰ることが当たり前のようになっていて、
ハルヒ達も特に何も言ってこない。言ってきてほしいわけじゃないぞ。


こんなことを古泉には絶対に言わないが、俺はこの時間が好きだ。
二人でいつもと同じ道を歩く、特に他愛もない会話をする、
そんな時間が好きだ。ほっとして、気が休まる。


それはたぶんこいつ相手だと気を遣わなくて済むし、
こっちが疲れているときは、優等生っぷりを発揮して空気を読み、
何も喋らずにただただ傍にいるだけに留めるからだ。



気を許すと取り留めのないわけの分からない話を楽しそうに
喋り出すのだが、気を許すときはそれなりに覚悟をしているので、
まあ別に悪くないか、と思うようにもなった。

少なくともこいつはハルヒに見せるような満面で完璧すぎる
微笑みは俺には向けてこない。それが、いい。
時間はかかったが、気を許してるってことだろ、お前も、俺に。



友情ってのはな、そうゆうものなんだよ。

古泉と友情を育むことになるとは、思わなかったけどさ。



「日が短くなりましたね、もう星が見えますよ」
「おー、ほんとだ。今日は天気よかったもんな」
「高台に寄って行かれませんか?もっと綺麗に見えますよ」



男二人で綺麗な星空を眺めるってのもね、どうなんだよ。
今後朝比奈さんとのデートで行くこともあるかもしれないから、
行ってやってもいいけどな。



古泉の先導に任せて、木の間をすり抜けて上っていくと、
気付いたときには星が目の前に迫っていた。
おいおい、こんな、ちょっと上るだけでこんなに違うのか。
いくら山の中の高校とはいえ、綺麗に見えすぎだろ。
星座なんて何一つ知らないが、それでも、星を見るのは悪くないな。


冷たくなってきた空気が、心地いい。
もっと寒くなると、もっと空気が張り詰める。
寒いのは苦手だが、そんな空気だけは、嫌いじゃない。



「お前、よくこんな場所知ってるなー」
「はい、僕、小さい頃の趣味が天体観測だったって言いましたよね?」
「そういや言ってたな、夏休みだっけ」



思い出すのも恐ろしい、一万何千・・と繰り返した(らしい)、
夏の思い出だ。忘れるわけもないさ。


「ええ。たまに、突然星が見たくなることがあって、どこが
 一番見えるのか散策していたんですよ」
「はは、なんだよそれ。暇な奴だな」
「そうかもしれません」



ちょうどいい木にもたれかかって、まっすぐに上を見ると、
枯れ葉と枝の間から星の輝きが降り注いでくる。
なるほど。
お前はいつもこんな場所でたそがれているわけか。
絵になるな、それ。




しばらくそうやって、ぽつぽつと喋りながら星を見ていたが、
古泉が少し震えて、腕をさすり出したあたりで、帰ろう、と
腰を上げた。


「寒いのか?」
「いえ、大丈夫です」
「風邪引くだろ。セーター持って来てないのかよ」
「こんなに遅くなるとは思わなくて、持って来てないんです」
「じゃあ俺の、貸してやるよ」


俺、そんなに寒くないし。



「えっ!あ、いえ、悪いです、そんな」
「お前が風邪引く方が悪いっつーの。ハルヒの面倒を俺一人に任せる気か」
「まあ・・・僕としては、その方がありがたいのですが」
「バカ言うな」


着ていたセーターを脱いでそのまま放り投げると、
古泉は恐る恐る受け取って、しばし眺めた後、腕を入れた。
腕の部分が短いとか、言うなよ。サイズは同じはずなんだからな。



「あなたは寒くないんですか?」
「あー、平気だね」
「ふふっ、ありがとうございます」



同じセーターを着てるのを見たことがあるのに、
俺のを着ていると思うとなんだか変な感じだな。
こう、腹の上の奥・・・のあたりが、もやもやする。
なんだ、こりゃ。



「じゃあ、また、明日学校で。お気をつけて」
「じゃーな」




いつもの分かれ道で古泉に手を振り、
その姿が見えなくなってから、
風邪なんか引かないように走って、帰った。
やっぱ、寒ぃ。







thank you !

またも季節はずれでベタベタなネタであります!(ベタ大好き!)
たまにはデキてない二人を書いてみました。ガチもいいけどBLもね。
友達だと思ってるけどなんかなー、なんだかなーみたいな距離感が好きです。
でもそんなのとっぱらってやっちゃうのも好きです(身もフタもない)

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