HB







好きだと言われたから、じゃあ僕を抱きたいですかと聞いたら、
真っ赤な顔で言葉にならない声を発してうろたえていた。



突然何を言うんだ、
そうじゃないとは言わないが、それが目的で言ってるわけじゃない、と、


意訳すると、そのようなところでしょうか。






では、それが目的でお付き合いをするのはいかがですかと聞けば、
今度は言葉を失った。
夕陽が落ちた後の部室は電気を点けなければ暗くて彼の表情はよく見えなかったけれど、
僕に想いを告白してきた瞬間よりも、ずいぶんと気を落としていたように感じた。
 
 













それが嫌ならあなたとは一切個人的な関係はもてません。
どうします?








重たい空気を取り払いたくてもう一度聞いてみたら、
彼はしばし逡巡し、
やがて、







 
「じゃあ、それで」
 
 







僕を見ずに、呟いた。








繋束



 

 
 
 
 

 
 
 
「あ、ああっ・・・・・」
「こい、ずみ・・・苦しく、ない、か」
「へいき、です。・・・気持ちいいです、とても」
「そ、か」
 
 
 












僕の体に入ってくるとき、
彼はいつもゆっくりで、
必ず、平気かどうかを聞いてくる。
慣れているから平気だと、
いちいち聞かなくてもいいと言ったのに、
聞かずにはいられないんだと返された。






今ではそのたびに大丈夫だと答えるのが当たり前になっているけど、
彼との行為自体は、
回を増すごとに、大丈夫ではなくなってきている。
 
 
 
 








「うあっ・・・! あ、う、んうっ」
 
 






 
彼の両手に腰を押さえつけられて、
優しく、たまに、強く、
打ち付けられるのが、
どうしようもなく、気持ちがいい。





あんなに最初は酷かったのに。
僕が誘導するままに入れただけで、
泣きそうな顔をして、
もたないと小声で言うなり、果ててしまったくらいなのに。
この人には期待できそうにないなと当初抱いていた考えは、
あっという間に覆されてしまった。









 
 
 
 
「古泉、・・・古泉っ・・・」
 
 
 









最中の低い声も、とても心地がいい。
カーテンを閉め切った薄暗い部屋の中で、
彼と僕の呼吸と、
体が触れ合う音と、
彼の声、
それだけが聴覚を支配して、
視界には、僕を見つめる彼の姿しか入らない。
 



彼はいつもとは全く違って、
眉をしかめながらまっすぐに見つめられると、
彼に全く興味のない僕ですら、鼓動が早まる。
 













「ちょっと、待って・・・」
「・・・ん、どうした」
「このままだと、すぐ、いっちゃうので」
「いいぞ、べつに」
「だめです。あなたはまだでしょう」
 
 







彼と繋がったまま、腰は動かさずに、背中に手を回す。
彼は僕の首筋や腕に口付けを繰り返し、
強くはない刺激を与えてくる。
ああ、気持ちがいい。
あなたの、環境適応能力は認めていましたが、
こんな、才能もあるとは、思ってもみませんでした。





やり方は他の人と大差ないのに、
こんなに心地いいのは、
彼が、僕を大切にしてくれるから。
僕の外見や体だけを目的にしている人とは違う。
かわいい、かわいいと言って抱いてくるのは、
犬や猫のような愛玩動物と同じ扱いをしているだけで、
人として、僕を求めているんじゃない。
でもこの人は、僕と対等な関係でいようとしてくれる、
むしろ、僕に嫌われないように、
必死に尽くしてくれる。






僕の何がいいんだろう。
周りにあれだけ魅力的なひとが揃っているのに。
僕たちの側は、最も不利だと思っていたのに。
 














 
 
「ん・・・もう、だめ、かもです」
「ああ」
「あなたは・・・?」
「俺も、もう、いい」
「よかった」
 
 






 
 
相手に合わせるのも、
相手の状態を気遣うのも、
僕にとっては初めてです。
好きなようにしていればよかったから。
それだけで、皆、満足していた。
 




 
きっとそれでもこのひとは満足してくれるだろう、
文句を言わずに、
終わってから僕を撫でて、痛くなかったかと聞いて、
僕が頷くと安心したように息を吐く。
それだけでじゅうぶんなのだけど、
彼はあまりに何も求めてこないから、
いたたまれなくなってしまうのです。
 
 










 
「い、くっ・・・・・・!」
 
 
 





彼が繋いできた手を、強く握り返す。
僕が達してすぐあとに、
彼の体も、震えた。
 
 
 
 
















 
 
 
 
 
息を整えたら、彼は僕から離れて、
ベッドの脇に転がる。
僕はベッドの上。
横には来ない。
僕が来ないでほしいと言ったから。
余韻は必要ありません。
互いを求めるのは行為の最中だけで十分です。
男なんて、出してしまえば一気に気持ちが冷めて、
僕だって、そうです。
彼と抱き合いたいとか、頭を撫でてほしいとか、思わない。
 
 
 
 

 
数分間休んですぐにシャワーを浴びに行き、
戻ってくると彼も服を着ています。
冷たい紅茶を渡すと一気に飲んで、
帰る支度を始める。





 
 
「では、また」
「あー・・・、古泉」
「はい?」








 
 
玄関まで見送ろうと思いきや、彼は立ち上がらず、
視線を泳がせて僕の名を呼びます。
どうしたんでしょう。
 
 
 
 



「頼みがあるんだが」
「なんでしょう」
 
 
 






最中よりも赤い顔。
居心地が悪そうに動く指。
あなたが何を言おうとしているか、すぐに察知できてしまう。
 






 
 
「帰る前に、少し、・・・抱き締めても、いいか」
 
 



























 
勇気を出して言ったんだろうことは認めますよ。
今までも何度かありましたね。
何か言おうとして、やめたこと。




僕の答えが分かっていたからやめたんでしょう?
それから回を重ねて、
僕があなたに気を遣うようになったからって、
気持ちが変わったとでも思いました?
 
 








浅はかさに溜息が出る。
彼は、はっとしたように僕を見て、
小声で謝ってから家を出て行った。
 
 



















 
 
恋愛ごっこなんてまっぴらです。
あなたは勝手に僕をそんな目で見ていればいい、
そう思いながら抱けばいい。
でも僕は違う。
あなたに特別な感情なんて抱かない。
あなたを好きになる理由はどこにもないのだから。
 
 
 
 
 












 
「ううん・・・」
 
 






どうでもいい、はずなのに、
彼の表情がちらついて眠れない。





 
確かに僕は、あなたに抱きついたりもしますよ。
座って繋がれば、もっと奥まで欲しくなるから、
なるべく体が密着するように抱き締めます。
そのたびにあなたの心臓がどくどく音を立てるのも知っています。
僕を呼ぶ声に、熱がこもるのも聞いています。
あなたに言われるとおりに我慢したり、
体を任せて、
たとえば今日も、
思わず唇に触れてしまいそうになったのも、認めます。
 






あなたが期待するような行動を取ってしまったかもしれない。
でも、最初に言いましたよね。
付き合う気はない、
体だけの関係にしましょうって。
僕たちは高校生だし、
やりたいことをやれればいいんです。
愛とか恋とか語れるほど人生を歩んできていません。
ましてやあなた相手に恋なんて。
あなたは、この特殊な状況に酔っているだけ。
そして僕も。






















 

 






 

「昨日ので拗ねて来なくなるかと思いました」
「見くびられたもんだな」






翌日も、彼は僕の家を訪れた。
珍しく部活が休みで、
彼と会う機会がなかったから、
どうせ今日は来ないだろうと思っていたのに、
片手に小さなビニール袋を持って、やってきた。
中にあったのはコンビニのあんまんが二つ。
寒いから、と一言加え、
手渡してくれる。









「俺はいいんだ。お前といられるなら、やるだけでも」








自分に言い聞かせるように言い、
靴を脱いで部屋へ行く。














何なんですか、あなた。
やりたいだけなんでしょう、
僕と付き合ってしたいことなんて、それしかない。
なのにどうして、
まるでそれが目的じゃないみたいに言うんですか。















「冷める前に、・・・古泉?」
「早く、しましょう」
「急がなくてもいいだろ、そんな」
「したいんです。気持ち良くしてください」
「・・・わかった」











あなたとしたいことなんて、これだけ。
僕は、あなたに、気持ち良くしてほしいだけ。
僕に、そうやって触って、
体中を舐めて、
ゆっくり、
時間をかけてそうして、
耳元で優しい言葉だけをかけて、
じゅうぶん準備が出来たら、
あなたの、を、











「うあっ・・・!」
「古泉、きつい、か」
「だ、だいじょ・・・うう、うっ、あっ」
「・・・いいな、その声」
「ふ・・・、あ、んう」
「めちゃくちゃ、いい」
「っ・・・!」
「古泉、」




















するだけ、で、いいのに、






















「好きだ、古泉、好きだ・・・」



























そんな言葉を聞きたくはないのに。
















どうしてこんなに・・・・・・・








































「ふ、ふっ・・・」
「? なんだ、笑ったりして」
「抱きつくと、硬く、なるんですね」
「なっ・・・!」
「僕と、抱き合うの、気持ちいい、ですか」











赤くなって、
答える代わりに、強く抱きしめてくる。















僕もとても気持ちがいいです。




あなたと近づけば近づくほど。
あなたが、僕に優しくしてくれるほど、
大切だと、
好きだと、
言ってくれるほど。


















































「もう冷めちゃいましたよね」
「だから言ったろ」
「レンジで温めましょうか」
「ん。・・・今日はとっとと帰らなくていいんだな」














どうしてでしょうね。
昨日はくだらないと思っていたのに、
今日はあなたともう少し一緒にいてもいいかなと思うんです。











裸のままベッドの中で向き合い、
指を交差させていると、
なんだか、
心の奥がくすぐったくなる。



居心地が悪いような、
その逆に、
とても良いような、
不思議な気分です。

























「・・・古泉」
「はい」
「今日も頼みがある」
「なんでしょう」
「明日、一緒に出かけないか。どこでもいい」
「・・・・・・」
「・・・駄目か」
「・・・いいですよ。あれ、買ってきてくださったお礼に、お付き合いしましょう」
「! 本当かよ」
「嘘がよかったですか」
「まさか。明日、じゃあ、朝から、会えるのか」











慌てなくても、逃げませんよ。
明日は休みだから、
何時からでも構いません。
あなたが行きたいところへ行きましょう。


ああ、どうせ朝から会うなら、
このまま泊まっていかれてはいかがですか。
その方が楽でしょう。








「いいのか、本当に」
「ええ」
「行きたいところは」
「あなたに任せます」
「時間は、一日、あるんだろ」
「今のところ」
「そうか、わかった、よし、考える、今から」










はは。何です、その顔。
悩むのか喜ぶのかどっちかにしてください。







どさくさに紛れてさっきから手を繋がれてますけど、
・・・まあ、いいです。
今だけなら。

















「・・・古泉、」
「はい?」
「あのな・・・」

















明日一緒に出かけるのは、あなたがわざわざ、
寒いのに駅から家までの間にはないコンビニまで、
僕が前にちらりとおいしいと言ったあんまんを買いに行ってくれたから、
ただの、そのお礼です。








ちっとも楽しみじゃないし、
つまらなかったら途中で帰りますし、
あなたの恋愛ごっこに付き合う気は、ありません。









何も状況は変わってない。
それでも、










「・・・きだ」










あなたから向けられる気持ちと、





繋いでいる手は、








なぜだかとても、暖かくて、


離したく、ないんです。













thank you !

キョンの頑張りは古泉を変える!といいな

イズミンおめでとう!


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