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世の中には予測できることと出来ないこと、その二つがあります。
僕は北高に入って、前者よりも後者に多く立ち会ってきました。
しかしそれ自体は、
つまり、彼女が引き起こす事象が予測のつかないものであることは予測できていたのです。
だから鳩が白くなろうと、季節はずれの桜が咲こうと、
驚きこそすれ、どこか楽しんでいる自分もいました。
 
 







今の状況が、楽しくないわけでは、ないんです。
でも、これは、予測していなかったから。
 








 
あなたはもっと、淡白といいますか、
たとえ付き合っても、
近付きすぎれば顔が近いと怒るんだろうなと、
二人きりではないときはなるべく話しかけるなと言うんだろうなと、
予測していたから、
あまりにも違いすぎて、
戸惑いが、隠せません。












愛情成分・過多



 

 
 
 

 
 
 
 
「あの・・・」
「なんだ」
「・・・僕、いつまでじっとしていれば・・・」
「お前がしていられるうちでいい」
「・・・・はい」
 
 



 
 
たとえば、こんな時です。



涼宮さんたちが帰ってしまった後の部室で、
アルバイトがなければ一緒に帰るよう言われているので残ると、
彼はゲームを持ってくるでもなく、
僕にじっとしていろと言い、
隣に来るなり僕を見つめて、
ずっと、頭を、撫でてくる。






 
いたたまれなくなり色々な話をしたし、
彼も相槌を返してくれたけれど、
あまりにも・・・優しくて、
言葉が続かなくなる。
どうでもいい話を聞いてもらうのは申し訳なくなる。
 
僕が俯いても、彼は気にせずに撫でる。
嫌じゃないし、
恥ずかしいだけだから、
やめてくださいともいえず、
結局、
下校時間を知らせるチャイムが鳴るまで、止まらない。
 
 
 
 









「お前が一昨日持ってきたプリンがうまかったって妹が礼を言ってたぞ」
「そうですか、喜んでいただけて、嬉しいです」
「今度来たら何か作ってやるってさ」
「おや、料理が出来るんですか」
「見よう見まねでな。菓子程度だ」
「かわいらしいですね」
「だから、また来い。今週の土曜でもいいし」
「あ・・・は、い」
 





 
 
横に並んで二人きりで帰るのは、すぐに慣れました。
撫でられたり、手を繋がれたりしないから、
いつもどおり話をすればいいだけです。
いつもと違うのは彼からもよく話を振ってくれるということ。
これは嬉しいです。
彼をもっと知りたい。
書類上ではなく、生身の彼を。
 














 
・・・だけど、不意打ちはやめてください。
 
 








また家に行く、ということは、
先日と同じような、
あれを、するという意味で・・・
 



 
そういう生身じゃ、なくって・・・
 





 
 
 
「古泉?」
「は、はいっ!」
「どうした。いきなり黙って」
「いえ、な、なんでも」
 
 
 



思い出すと、恥ずかしくて、走って逃げたくなる。
 



 

つい先日、
日曜は雨だから市内探索は中止、
暇なら家に来いと呼ばれ、
軽い気持ちで誘いに乗った。
手土産を持って、家にいたのは彼と妹さんだけだったけど、
その妹さんも昼過ぎには遊びに出て行きました。
 





 
手を引かれて彼の部屋に行くと、
ベッドに放り投げられるようにして寝かせられ、
それから・・・
 
 
 
 








「古泉、・・・古泉っ・・・」
「ど、どうしたんですか、何が、起きたんですか」
「好きだ、古泉、好きだ・・・!」
「ま、ま、まってくださ・・・!」
 
 
 







 
付き合おうと言われたときでも、
好きだとは言われなかったのに、
その日、数え切れないほどの回数、好きだと耳もとで告げられました。


僕だって、好きですよ。
だから彼から付き合おうといわれて嬉しかった。
でも、
でも、
あんなにいっぺんに愛情を与えられたら、
あまりに多すぎて、頭の中が彼の声でいっぱいになって、
自分が何者でどこにいて何をしているのか、分からなくなって、
 
 
 








 
「古泉っ・・・」
「や、あっ・・・!」









 
 
 
 
 
ふと現実世界へ意識が戻った頃には、
全身に鈍い痛みを抱えていて、
特に下腹部のある部分は、
支えていないと立ち上がれないほどに、強烈でした。
何をしてしまったのかは、
ベッドで裸で眠っている彼と、
同じく裸で横で気を失っていた自分を見れば、一目瞭然。
ほとんど、最中の記憶がないのは幸か不幸か判断しずらいのですが、
彼の家に行く、というのはイコール、そういうこと、ではないかと思ってしまいます。
 















 
 
だめ、です。
まだ、体は痛いままで、今日だって体育を休んだんです。
あなたには秘密ですが・・・。
だからだめです。
断らなくては。
明日にでも、機関の予定が入りました、と言えば、分かってくれる。
あなたを、好きだけど、
痛いのは、
あんな、頭が真っ白になってしまうのは、だめです。
 
 
 













 
 
「すみません、確認したんですが、土曜は機関の会合でお会いできなくて」
「そうなのか・・・?」
「えっ」
「・・・お前に会いたかったんだが」
「え、あ、」
「平日は家に帰らないわけにはいかんだろ。土曜なら一日中いられるから、俺は毎週お前のために空けるつもりだ」
「あ、はあ」
「どうしてもだめか。他の日にはずらせないのか」
「は、はい、では、ずらし、ます」
「そうか」
 
 










あ・・・
 
 
あれ?
 
 
 
 












 
ああ、でも、今度は確か、
妹さんが僕にお菓子を作ってくれるはずだから、
 
 
 





「今日は急遽、友達と遊ぶって言って出て行った」
「ええっ、まだ、朝の9時ですよっ」
「あいつは早起きだからな・・」
「ご家族は、」
「いない。・・・ほら、さっさと上がれ」
 
 
 
 





朝から呼び出され、
言われたとおりに家を訪れた僕を待っていたのは、
シャワーを浴びたての、髪を濡らした彼でした。




嫌な予感しかしません。
彼の寂しそうな顔に心を動かされ、
もとよりなかった機関の予定は日時を変更したことになり、
土曜は一日中空いていますと言ってしまいました、
から、
引かれている腕を振り払う理由がない。
 
 
 
 




僕はバカです・・・。


















「あの、もしよければ、お昼ごはん、作りますよっ」
「ああ・・・」
「朝は、食べられました?」
「食べた」
「えっと、その、」
「古泉・・・」







なるべくあれを避けようと、
部屋に入るなりうろうろと歩き回りながら、
彼とは不自然じゃない程度に距離を取り、
必死に話題を逸らそうとしましたが、





それほど広い部屋ではないので、
ものの数秒で捕まります。












「古泉」
「あ、あ、あの」
「・・・いやか?」
「えっ!」
「俺とするのが」
「えっ、えっ」
「嫌じゃないから、来たんだろ?」













ベッドは、だめです、
だめなのにっ、
あなたが、そんな目で見るから、





両手で押されているだけなのに、
強くはないのに、
ベッドに自分から座ってしまう。










「身体、平気だったか」
「は、い」
「心配してたんだぞ、これでも」
「は、はい」
「けど、お前気持ちよさそうだったよな」
「はいっ!?」








な、な、なにがですか。
気持ち、
いいって、
そんな、












「すげえかわいかった」
「!!」
「また見たい。お前の、あの顔」
「わ、わからないです、僕」
「それでいい」










お前は、流されてればいいから。








また、耳元で、ぼそっと囁く声。






僕、
あなたの低いこの声、






すき、です。















「古泉」
「ふ、う」
「好きだ」
「あっ・・・!」
「大好きだ、大好きだ」
「あ、そこは、だ」
「痛いところ以外はだめじゃない。力抜いて、楽にしててくれ」
「・・・はい」











その声で言われると、
言うことを聞きたくなる。

あなたの指でなぞられるたところも、
抵抗をやめて動かなくなる。














「古泉」
「ん、んっ」
「はは・・・、耳まで赤いな」
「耳元で、言わないで、ください」
「近くて見たいんだよ」
「あ、ああっ」
「すげーかわいい」




 


男だから、かわいいって言われるのは、くすぐったいです。


あなたがそう思う対象は、
僕じゃ、ないはずでした。
好きになるのも、
熱い指が触れる先も、
僕であるはずがなかったのに、
どうして、
僕を、
こんなに、好きになってくれたんですか?










「あ、だめ、だめですっ・・・!」
「お前のだめはちっともだめじゃないな」
「あ、はあ、あう・・・」
「我慢すんなよ」
「ううーっ・・・!」







体中を弄る手も、
耳や唇を舐めてくる舌も、
かけてくれる声も言葉も、
優しくて、
暖かくて、
気持ちが、
抱えきれないほどに伝わってきて、


僕、
あなたが好きです、
僕の方が、好きだと思っていました、


だけど、
あなたの方が、
ずっとずっと、
好きでいて、くれているんですね。



理由は分からないけど、
上手に受け止められていないけれど、


ぼく、うれしいです。


うれしすぎて、
胸がいっぱいで、
何も考えられなくなるのは、
少しだけ怖いですが、










「古泉、休憩するのはまだ早いぞ」
「はあ、はあ、あう」
「・・・辛いか?」
「ふ・・・。へいき、です」
「ん。よかった」












でも、
あなたがちゃんと抱き締めてくれているから、
このまま、
おかしくなっても、
いいですっ・・・



































「こーいずーみくんっ」
「ん・・・・・・」
「きょーんーくん!」
「んー・・・?」
「おかーさん帰ってきたよーっ。ごはんいるー?って!」
「・・・・・・・・・え!?」
「・・・・なに・・・?」






こ、ここは、どこですか!




彼の妹さんが、
目の前にいる。





僕がいるのは、
水色のシーツがかかったベッドの上で、




隣には彼がいて、






布団でぎりぎり隠れているとはいえ、






裸、なのは、
妹さんの目から見ても明らかで、









「お、起きて、起きてくださいっ!」
「・・・なんでお前帰ってきてるんだよ・・・」
「えー?だってもう、夜の8時だよ?夜には帰ってくるって昨日言ったもん」
「は、8時・・・!」
「あー、そうか・・・。飯は食う、古泉の分も頼む」
「えっ!」
「うん、わかった!」





焦る僕に対し彼はとても冷静です。
妹さんが部屋を出て行くと、
僕はすぐに服に手を伸ばしましたが、
彼の腕に阻まれてまたベッドへ逆戻り。


何をするんですか。
早く服を着ないと。
口の周りだって、
だ、唾液を拭かなかったせいで、
痕が残っていますし・・・。






「今から飯の用意すんだから、まだ、ここにいていい」
「ですが・・・、見られてしまいました、妹さんに」
「あいつにゃ分かってないさ」
「・・・夕食にお邪魔していいんですか」
「腹減ったろ?昼も食ってないし」




そうですが、
髪はぐちゃぐちゃで、
体も、やっぱり痛いし、
この状態で、
親御さんに会うというのは・・・








「気にするな。多分誰も気にしないぞ」
「うう・・・」
「それに、お前のことをちゃんと紹介しておきたいし」
「えっ、僕を・・・」
「恋人だっつーのはまだ先だろーが」
「こい!」
「お前の場合は機関に挨拶に行きゃいいのか?」







待って、ください、展開が速すぎます。
あなたが好きだと言って下さるだけで十分なんです、
それ以上は、
もっともっとあとで、いいです。




ああ、どうして、指のサイズ、見ているんですか。
手を取って、
細いな、と呟いて、







「俺もバイトして、金貯めないといかんな」
「お金ですか?一人暮らしを始めるんですか」
「何で一人なんだよ、お前とだろ。それに十八になったら、あれも出来るし」








だめです、
それ以上の言葉は、








ああ、耳をふさいでも、
あなたがあまりにも近い場所にいるから、
聞こえてしまう。








「照れるなよ」
「照れますよっ」
「かわいいな」
「うう・・・っ」








あなたには勝てません。
あなた相手に勝てる勝負は一つもないけど。





はあ、もう、
夕食をいただく前に、
あなたの想いで、おなかがいっぱいです。




でも、
この満足感、






くせに、なっちゃいそうです・・・。









thank you !

バカッポー!いちゃいちゃしてるだけだー!
キョンは古泉をたくさん甘やかすといいとおもってる!



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