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「もうすぐ古泉くんの誕生日ね! 土曜だけど、予定はあるのかしら」









 涼宮ハルヒは目を輝かせながら僕に問いかけてくる。

 つい数カ月前の僕なら、ええ、残念ながら空いています、と首を縦に振って、
 彼女の提案するプランに感謝の意を示したでしょう。









「はい、予定は、入っています」
「あら、そうなの。じゃあ日曜の市内探索の時にお祝いね」
「ありがとうございます」







 でも今の僕には、彼女よりも優先しなくてはいけない人がいる。
 視線を少しだけ向けると、彼も、僕を見ている。







「みんなでおいしいケーキ、食べましょうねえ」
「みくるちゃん、紅茶とケーキのおいしいお店、探しておきましょ」
「わかりましたあ」









 涼宮さん、朝比奈さん、お心遣い、感謝します。






 ですが、僕はもしかすると、日曜日に皆さんにお会いできないかもしれません。
 素敵なお店が見つかったら、僕がいなくても、皆さんで行ってきてくださいね。






























「あれでよかったのでしょうか」
「……ああ」
「……明日は何時頃、来られますか」
「……昼くらいだな」
「分かりました。掃除して、お待ちしています」








 土曜日に会うのは、彼。
 SОS団で、僕の他にはただ一人の男子部員。





 彼は一般人で、僕は神人を倒す超能力を持っている、
 その違いはあれど彼は一番近いところにいる人だと思っていました。
 同じ年で、この時代を生きていて、普段は、特殊な能力はない。
 僕の味方になってくれると、友人になり得る人だと、期待していました。







 誕生日を二人きりで過ごすと聞けば、いい関係を築けていると思われるでしょう。





 でも、違うんです。







 彼の気持ちは僕が抱いていたのとは異なるものだった。
 彼は僕と、健全な友好関係を望んでくれてはいなかった。





















 部屋にあった無駄なものはすべて片付けました。
 テレビも電子レンジもフライパンも、もう、いりません。
 必要なのはベッドだけ。
 あと、僕を縛るための、ネクタイ。これは制服のもので構わない。








 あとは……包丁は必要でしょうか……。
























 12時を回ると携帯が鳴る。
 涼宮ハルヒや朝比奈みくるからの、誕生日メール。かわいらしいデコレーションがされています。


 森さんや裕さんからも届きました。
 最近会ってないけど元気にしているかという旨も書かれています。







 会わないように、してきました。
 久しぶりに会えば僕の体の変化に気付かれる。
 それに森さんたちは僕に、とてもよくしてくれました。
 中学の頃からずっとサポートしてくれて、どれだけ助かったことか。
 もし会ったら助けを求めてしまう。
 そんなことをしても無駄だし、迷惑をかけてしまうだけです。だからメールにも返信できません。











 これで準備は出来ました。
 彼が来るまではまだまだ時間がありますが、眠れそうにはない。












 朝比奈みくるに撮影してもらった、彼と二人きりの写真をコンロにかける。
 これは一年目の夏、でしたね。
 このときに初めて彼に好きだと打ち明けられたんでした。
 お酒の勢いも、だいぶ、借りていたと思います。




 本当に驚きました。彼はどちらかというと僕をあまり好きではないと感じていたからです。
 好意を持たれて嬉しくないはずがない、それが僕の感情とは異なるものだとしても。
 僕が彼に望むのは友人であることで、彼が僕に望んでいたのは、恋人のような、ものでした。







 その日は受け入れも拒否もせず、
 その後何度か同じことをお酒が入っていない状態でも言われ、
 それでもはぐらかしていたのですが……僕が、はっきり言えばよかった。


 ごめんなさい、僕はあなたと、友人になりたいんです、と。




 でも、彼がそれを聞いて僕から離れていくのが怖かった。
 気持ちを受け入れられない僕に、もう興味は持ってもらえないと思った。



 彼の協力がなければ涼宮ハルヒの精神状態を保ち続けることは出来ない。
 彼の協力が必要だった。
 曖昧な態度のままいられるなら、それがよかった。



























「人を馬鹿にするのも、いい加減にしろ」















 放課後の部室。あの日は雨でした。
 付き合う気になったか、と、問いかけ自体は軽いものだったので、また僕は流そうとしてしまった。










 彼は、怒っていました。ひどく。













 震えた手で僕を殴りつけて、謝っても謝っても、その手を止めなかった。
 悪かったのは僕の方です。
 彼の気持ちを真摯に受け止めなかった僕が悪い。
 何をされても申し訳なさで涙が出て、文句なんて、言えるはずがない。





 
 シャツの下にはたくさんの痣や傷痕が隠れている。
 夏服になる前にすべて消えるか心配でしたが、その必要はない。














 僕はきっと今日彼に、……殺される。
 





























「……よう」
「こんにちは。お待ちしていました」









 お昼になるよりも前に彼はやってきました。 
 僕は精一杯出来る限りの笑顔で迎えました。
 一睡もできずに、みっともない顔になっていますが、許してください。









「ん、う……」










 部屋に入るなり唇を奪われる。

 彼のキスはいつも、長い。
 口内から熱くなって頭の中がどろどろに溶けていくまで続けられる。
 それから服を脱がされあらゆるところを舐められて、
 僕も、
 舐めさせられて、
 彼がいいと言うまで我慢できなければ、殴られる。







 彼は僕を支配したがった。
 何でも自分の言う通りにしようと。
 涼宮ハルヒがいる手前ではそれはできない。
 だから二人きりの時は服従しなくてはいけない。


 少しでも抵抗すると殴られて、
 蹴られて、意識を失うまで繰り返されるから、
 そうされるよりは言うことを聞く方が良かった。
 どんなに屈辱的な命令をされても。










「う、あ、ああっ……」












 体の準備ができたら、彼が、入り込んでくる。



 最初は痛くて苦しかった。彼も決して気持ちがいいようには見えなかった。
 


 今は、少しは楽です。
 体への負担は大きいし、中に出されると具合が悪くなって食欲もなくなってしまうけれど、
 彼が望んでいることだから受け入れる。
 心を傷つけてしまった分を、体で償えるなら、それでもいい。






「古泉っ……腰、動かせ」
「は、いっ……うあ、あっ」
「いくなよ、まだ」








 体の中に入って来られて、出し入れを繰り返されるこの行為に、
 いつからか、快感を覚えるようになりました。
 前を触られなくても、腰を押さえつけられたまま中を弄られるだけで射精してしまう。




 とても、屈辱的です。
 男なのに同性にされてそうなるのは。
 我慢しようとしても思うようには出来ない。



 今日も、自分から腰を動かさなきゃいけないから、気持ち、よくて、難しい、ですっ……。












「は、う、ううっ……も、で、出そう、です」
「まだだ」
「んあっ! あ、だ、だめ、だめっ……!」










 腰の動きが強くなる。
 いくな、と言いながら、いつも、こうする。
 そして僕はいつも我慢できなくて、出して、しまうんです。










「うあああっ……!」
「くっ……」
「ご、め、なさいっ……」



























 最後くらい、あなたの言うことを聞きたかった。
 あなたがいいというまで我慢できたことは、結局一度もありませんでした。ごめんなさい。
 あなたの気が少しでも晴れるように頑張りたいのに、こんなで、ごめんなさい。







 
 くらくらする頭を抱えながら、昼食の準備をします。
 彼が来る前に作っていたので温め直すだけ。






 もう少しだけ待っていてください。
 すぐに、出来上がります。
 




 そういえば、先ほどはなぜか殴られませんでした。
 夕食までは生きていられるんでしょうか。
 最後にあなたにもう一度何かを作れるでしょうか。
 あなたの好きなもの、リクエストしていただければ何でも作ります。
 最後にあなたに喜んでもらいたい。




















 先日、撮られた写真を涼宮ハルヒに送ると言われて、強く抵抗しました。
 そうしたら腕を縛られて無理やり、されて、最中に彼女に電話を繋げられた。
 彼女に気付かれるわけにはいかない。
 僕だけの問題じゃなく、彼も、危ない。
 だから何をされても決して声を上げずに彼女が電話を切るまで耐えたんです。




 彼はそれが気に入らなかった。
 彼の前では我慢出来ないのに、彼女が絡んでくれば僕はもっと必死になる。
 結局は、俺をあいつより下に見てるんだろう、と。




 そうじゃない。僕は、あなたも、守りたかった。
 でも、彼は話を聞く耳を持たず、僕を、めちゃくちゃに、痛めつけてきました。












 そして、
 殺してやる、と。


 どうせ俺のものにならないなら、殺してやる。


 次の休日は空けておけ。
 その日が、最後だ。






















 それが、今日、です。































「ご飯、食べられます、か」
「……ああ」
「持ってきます、ね」






 何もない僕の部屋に、彼はただ座っている。何を考えているかは分からない。








 僕を殺す方法なら、いくらでもあります。
 包丁で一突きでも、時間をかけて首を絞めても、ベランダから突き落としても、いいです。










 皿を持つ手が震えてきました。
 もう片方で握って、震えを、止める。
 










 怖くないはずがない。
 死ぬのは、とても怖い。
 覚悟を決めたって、怖い、です。















「……古泉」
「あ、す、すみません、すぐにお持ちします」


















 待ちかねた彼がキッチンまでやってきました。
 彼を怒らせてはいけない。
 これ以上苛々させたら、その時が早まるだけ。

















 手を叩いて奮い立たせ、昼食をテーブルに並べた。
 僕の手はそれ以上は動かない。とても食べる気にはなれません。

















「お前は?」
「僕は、いいです」
「……食えよ。もたないだろ」
「……はい」













 大丈夫です、と、言いたいけれど、口応えは、出来ない。








 パンに手を伸ばして小さくちぎり、少しずつ、口に入れる。
 何の味もしない。
 水で飲み込んで、誤魔化しながら、食べるしかない。

























「今日、誕生日だったんだな」
「え……あ、はい、そうです」
「知らなかった。ハルヒが言うまで」
「そう、ですね、あまり、言ってないので……。でも、構いませんから」














 僕にはもう親がいない。
 親戚と呼べるような人もいません。
 生まれた日を祝ってくれるのはSОS団の皆さんと、機関の一部の人たちだけ。







 だからこの日に生まれて、この日に死んだとしても、大きな問題はありません。
 あなたが手を下したことだけ誰にも知られなければいい。























「……何時がいい」
「え……」
「お前が選べ」



















 僕が、死ぬ時間、ですか。









 僕は……なるべく、あなたと一緒にいたい。
 出来る限りの償いをしたい。
 最後に少しでもあなたが、僕を好きになってよかったと思ってくれれば、それだけで、報われる。










 だから最後まで頑張りたいです。
 今日が終わるその時まで。




















「僕、はっ……」















 はっきり言わないと伝わらない。




 でも、考えれば考えるほど、涙が出てきて、言葉にならない。













 怖い。死にたくない。


 あなたに、人を殺して、欲しくない。



 あんなに優しくしてくれたのに。











 僕が適当にあしらっても、僕を振り向かせるために、
 彼女の機嫌を損ねないように取り計らってくれたり、
 疲れている時にはすぐに察知して自分から動いてくれて、



 二人きりになると、好きだ、と、まっすぐに、言ってくれた。




















 あの頃に僕がきちんと考えていれば。
 あなたの気持ちに向き合っていれば。
 こんなことにはならなかった。









 あなたを変えてしまったのは僕の不誠実さのせいで、僕は、それが悲しくて、しかたがない。



















「古泉……」
「ごめ、ん、なさい……もう……もう、いい、ですっ……」













 僕に出来ることは何もない。
 今さら、何を出来るというのでしょう。



 僕、自分で、死にます。
 あなたの手を汚すわけにはいかない。これ以上の迷惑はかけられない。
 どうしたらいいですか。何を使えばいいですか。
 あなたの言う通りにします。
 最後だけでも、あなたの命令を、守ります。









































「お前な……。本気にするなよ」
「……え?」
「本気で言ったんじゃない。お前を、……死なせられるわけがないだろう」
「で、すが……」
「俺はお前が好きなんだ。確かに腹は立ったが、お前がいなかったら生きていけない」













 生きていけない?
 あなたが、僕が、いないと……?
















「俺が聞いたのは、ケーキの話だ。いつなら食える」
「ケーキ……」
「駅前まで行って買ってくるから、食いたいの言えよ」








 頭が、混乱して、何も考えられない。
 ただ泣くばかりの僕の涙を、彼がタオルで拭ってくれて、瞼に、キスをしてくれました。















 僕は今日、死ななくていいんですか……?
 あなたのそばで生きていられるんですか?











「うううっ……う、うう……」
「古泉っ……、すまん、お前が本気にしてるとは、思ってなかった。悪い」

















 あなたの言葉は僕にとっての全てです。
 あなたが許してくれるなら、これからも、あなたの傍で、生きていきたい。













 ごめんな。
 謝りながら彼は唇を重ねてくる。
 




















 今日で最後だと思っていました、
 だから、あなたに助けてもらったような、気持ちになります。
 僕、今まで以上に、あなたの言うことを何でも聞きます、
 あなたにされること、何でも受け入れます。











「古泉、……好きだ」










 あなたの気持ちも今なら、受け入れられる、気がします。
 僕からも腕を回して、抱き締める。
 彼は驚いて目を丸くして唇を離し、じっと、見つめてくる。









 今まで気付かなかった。
 強引に抱き締められても、怖くてただ震えるだけだった。
 腕を伸ばせば、こんなに暖かかったのに。


















「古泉」
「ごめんなさい。ごめんなさい」














 これからは体だけではなく、心も、あなたに捧げます。


 あなたを大切にします。今まで与えてくれた分の気持ちを何倍にもして返します。


 あなたをたくさん傷つけてしまった僕でも許してくれるなら、あなたに、好きだと、言いたいです。









 優しくしてくれるあなたが好きです。
 僕を好きだと言ってくれるあなたが好きです。














「好き、ですっ……」















 今からでも遅くはないですか……?
























Stockholm syndrome












 隣で眠る横顔を見ながら、首に伸ばしていた手を元に戻した。
















 手に入らないならいっそ殺してしまおうと思っていた。
 古泉には本気じゃないと言ったが、本気、だった。








 お前が言った好き、は、どこまで本気なんだ?
 考えるほどに不安になり、手をかけたくなる。















 だが、信じよう。
 今は。
 いつか恐れているその日が来れば、そのときでいい。








 お前を離さないからな。
 絶対に。







thank you !

えらい暗くてすみません\(^O^)/
これを誕生日プレゼントにしたかと思うともうね!!



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