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俺だけの



 




二人で住むのにこんなに広い家にしなくていいだろうとため息をつくと、



「みんなを呼ぶんだから広くなきゃ困るじゃない!」



あいつは目が霞みそうなくらい明るい笑顔で一蹴した。



何だかんだで友人が多いあいつだから、
人付き合いは必要最低限にしたい俺との意見が合わないのは最初から分かっていた。
そしてあいつの考えがちょっとやそっとじゃ変わらないことも。
頑固でわがままで自分の思い通りにいかないとすぐに拗ねて、
けど楽しいことを見つけるのは誰よりもうまい。
トラブルに巻き込まれる可能性は実に高かったが、
それまで平凡すぎる人生を送ってきた俺にはそれが何よりも魅力的に写った。










「ふう……」






来週行われるホームパーティとやらの招待状を書き終え、一息つく。
予想通り、あいつがずっと家にいることはない。
閉じこもって大人しくする、なんて一番苦手だ。
今日も仲良くしている財閥の娘と会ってどこかへ行くと言ってたな。



「みくるちゃんっていってね、すんごくかわいいの。
いつもいろんな服を着てくるんだけどどれも似合ってて、今日は一緒に買い物に行くわ」





広い家。
部屋は両手では足りないくらいある。
掃除をするにも時間がかかるし、
いくら俺が人付き合いが苦手だと言っても、
ここにずっと一人でいたら寂しくもなるさ。


二人だけでは生活が成り立たないのは、常識とは縁遠いあいつにも分かっていた。




「使用人、ね。キョンが選んでよ。あんたはわりと人を見る目はあるから任せてあげる」





キョン、とは幼少の頃からの俺のあだ名で、一緒に暮らしている今もそう呼んでくる。
自分を選んだくらいだから見る目はあるだろうと言いたいのか。
まあしかし、変なのを呼ばれるよりはよっぽどいい。
身の回りの世話をする人間は自分が納得した相手でないと。
俺とずっと一緒にいることになるのだから男にしろとだけ指定があった。
美しいメイドに世話をしてもらう、という兼ねてからのひそかな夢は儚くも散ったわけだ。















「ご主人様」
「おう、ちょうど呼びたいと思っていたところだ」
「そうでしたか。お茶をお持ちしました」






そして選んだのがこいつだ。
髪の毛から指の爪先にいたるまで、全てが整えられた男。
俺より背が高く、
俺よりずっと綺麗な顔で笑い、
俺より透き通った声で話し、
俺やあいつより確実にうまい飯を作る。



初めて写真を見たときはその外見に見とれた。
男の俺が見とれるほど、こういう言い方はどうかと思うが、綺麗だった。
で、話してみると実に信用ならないヤツだと思った。
笑顔で全てを隠し通そうとしていると一瞬で分かった。







「これが飲みたかったんだ。さすがだな、古泉」
「そうでしたか、よかった。どうぞ暖かいうちに」





だから選んだ。目の前で優しい微笑をたたえている男、古泉一樹を。



深い意味はなく、ただ、第一印象がいい奴はその後落ちる一方で、
こういう気に障る相手だと逆にどんどん上がるだろうというひねくれた考えでのことである。
そしてその考えの通り、俺の古泉に対する感情は良くなるばかりだった。
まず今のようにタイミングを計るのがうまい。
俺が何か欲しくなると、そう伝える前に準備していることが多い。





「お嬢様はおでかけですよね」
「ああ。遅くなるってさ」
「では、今日の夕食は何がよろしいですか?」
「お前が得意な、ハンバーグがいい」






飯もうまい。何を作らせてもたいてい俺の舌にベストマッチだ。
どこで手に入れたのか分からないが、
持参してきた数多くのゲームのおかげで暇を持て余すこともない。
仕事で困ったときには的確なアドバイスをくれる。



何よりこいつの笑顔は、いつも俺を安心させてくれる。










……そろそろ認めてしまおうか。


俺は、この使用人に惚れてしまった。




男相手なら大丈夫だろうとハルヒが考えたのに、残念な結果となった。
ハルヒ、すまん。別にそっちの趣味があったわけじゃないぞ。
自分のためにも言っておく。
そりゃ見た目は俺の好みばっちりのどストライクだが男に惚れたことなどいまだかつて一度もない。
それでも惚れた。




「かしこまりました。……?」




いそいそと、後ろで結んでいるエプロンのリボンを解く。
古泉はトレーを机に置いてどうしましたか、と問いかける。






「分かってるだろ?」
「……夕食、遅くなってしまいますよ」
「構わん。ほら、もっとこっちに来い」





白いエプロンを外せばオーダーメイドの真っ黒なスーツが現れる。
俺が古泉のためだけに作らせた。
肌触りもよく古泉の綺麗なシルエットが分かりやすいから気に入っているものの、脱がしにくいのが難点だ。








「キスしてくれ」
「はい、ご主人様。……ん」






頼めば何でも聞いてくれる。それでも最初はためらった。
お嬢様に悪いですといつもの笑顔を曇らせて初めて俺に逆らった。








「でもな、俺はお前に惚れちまったんだよ」





正直に言うと真っ赤になって俯いて。
もう一度だけ頼むと震える手を俺の肩に置いて、キスをしてくれた。







最初はキスだけ、徐々に体に触れていき、今では最後まで出来るようになった。
綺麗な顔が俺のせいで歪むのを見るのはうまく言い表せない変な気分に駆られたものだ。





「お嬢、様、がっ」
「お前は俺に命じられてやってるんだ。俺だけ見てろ」
「はいっ……」




ずいぶん泣かせてきた。
痛い、痛いと涙をこぼしながら俺に跨る古泉の頭を撫でてあやし、慰め、優しい言葉を与え、
だんだんと慣らしてやった。
そしてそれを繰り返すうちに古泉自身も行為を楽しめるようになったというわけだ。




















「ん、んうっ」
「古泉。指増やすぞ」
「はい……、ああ……!」





今ではこの様子だ。
跨るよりも横になって目を見ながらやられるのが好きで、
古泉が安心するから、この時だけはなるべく多めに名前を呼ぶことにしている。





「古泉、足開いて」
「恥ずかしい、です」
「俺の命令だぞ?」
「……はい」







恥ずかしいことや、焦らされるのが好きなのも分かった。
一度目は拒否するが命令だと言ってやれば聞く。




「溢れてきてる。お前、いつからやりたかったんだ?」





ご主人様の質問には、正直に答えること。これは基本だよな。







「ふ……お嬢様、が、出掛けて、から」
「期待してたってわけか。お前は悪い子だな」
「すみませんっ……」






ちくりと胸が痛むような言葉も、古泉は喜ぶ。
目をぎゅっと瞑って小さく首を振る割には体は正直、ってやつだ。まったく、嫌がっていた頃が懐かしいぜ。



半ば強引に体を繋げたおかげでだいぶ心の中にも入り込めるようになった。
笑顔で隠してた内面を、見せてくれた。



家族を失ったこと。
幼い頃からずっと、色々な屋敷で飼われるように育てられてきたこと。
なんとか主人に気に入られたくて料理や掃除や洗濯を頑張って、
それでもいずれは飽きられ捨てられてしまったこと。








「今日はお前が上に乗れ。俺がいいって言うまで我慢しろよ」
「はいっ……ご主人様の、大好き、です」
「ん。俺もお前の体が好きだ」







どうして飽きるんだろう、こいつを。
全てを知らないで、表面だけしか見ないからそうなるんだ。
愚かだと思う、けどそれでいい。
他の奴に奪われることなく俺のものになったから。









「体、ですか……?」
「だけじゃねえよ。心配するな」
「よかった……嬉しいです……ん、んっ」







今までの境遇のせいだろうが、
こいつにはしっかり愛情を与えてやらないととにかく不安がって、寂しそうな目を見せる。
この顔も、今までの主人は誰も見なかっただろう。
俺に気を許している証拠だ。
だからわざと、そんな顔にさせたりもする。





自分から跨って、あてがって、ゆっくりと俺を受け入れていく、
その瞬間の表情は、何にも代えがたい魅力がある。







「ちゃんと、俺を見てろよ、古泉」
「は、い……ああ、ご主人、さまっ」
「よし。んっ……かわいいな、お前は」





囁いてやれば、ぎゅうっと締め付けが強くなる。
精神攻撃に弱いんだ、こいつは。



おずおずと動き出してはすぐに止まる。
まだ一度もイかせてやってないから辛いんだろう。
俺の許可を得る前に出すわけにはいかない。
感じやすい古泉のことだから、我慢するのは気持ちがいいだけじゃないはずだ。




「もっと早く動け」
「それは……あ、のっ」
「俺の命令だぞ?」





動けずに俺に抱きつきながら戸惑う。
動いたらすぐ駄目になっちまうもんな。
なら、仕方ないから俺がやってやる。






「あっ! ごしゅじ、さま! そんな、動かしちゃ、」
「こうしないと俺が気持ちよくないだろ。お前もな」
「我慢、できなくなっちゃいますっ……!」






だろうな。けど、命令違反は駄目だ。
一つ違反したばかりなんだから、もう一つは守ってもらわないといかん。







細い腰を掴んでやや強めに突き上げていると、古泉の体ががたがたと震えだす。
もう限界か、と顔を覗き込むと、必死に唇を噛んで目をぎゅっと瞑って耐えている。
我慢することだけに全神経を集中しているんだろう、ああ、かわいい。




 
自分で根元を掴んで出してしまわないようにしているが、
この指を離してやればあっという間なのは分かりきっている。
そろそろ意地悪をするのもやめようか、俺も限界だし。









「よく、頑張ったな」
「ごしゅじんさま……っ」






偉いぞ古泉。いつも我慢できなくなるお前が、よくやった。
笑って頷いて見せると、涙を流しながら古泉も微笑んで、掴んでいた手を離して背中に回してくる。
それを合図に、古泉を押し倒して一気に奥まで突いてやる。







「ああっ、ご主人さまっ、大好きです、大好きっ……!」
「俺も、大好きだ、一樹」
「ああ! あ、あっ! んうーっ……!」
「くっ…………!」












中に、出す気は、なかったんだが……古泉があまりに強く抱きついてくるものだから、出してしまったじゃないか。










「はあ、はあ、ご主人様の、いっぱい」
「後で俺が出してやるからな」
「もったいない、ですね」
「バカ」





処理をしないと苦しむのはお前なんだぞ、何がもったいないだ。
ああくそ、こんなことでいちいち俺も喜ぶな。
顔が自然とにやけちまう。見るなよ、一樹。

















今日は帰りが遅くなると言っていたはずだから。
少しだけ休ませてからもう一度腰を持ち上げて、今度は後ろから突いてやる。







「あ、わ、早いですっ、そんな、急に」
「ん、嫌だったか?」
「嫌じゃ、ない、です」






だろうな、お前の体はまだまだ足りないって言ってるようにしか見えない。

今日はとことん付き合ってやるから、

























「キョン、古泉くん」


















開くはずのない扉が開いて、ここにいるはずのないハルヒがそこに、立っていた。
腕を組んで俺たちの姿を見ている。









あれは、明らかに怒っている顔だ。






これはまずい。言い逃れしようがない。







俺と体を繋げたままの古泉は頭が惚けて事態が飲み込めていないようだ。
ぼんやとした目でハルヒを眺め、小さな声を上げている。






一貫の終わりか、と死刑に処されている自分を思い浮かべると、ハルヒは予想外のことを言ってきた。











「キョンばっかりずるい! あたしだって古泉くんに色々したいのに!」
「……は?」
「あんたが古泉くんを気に入ってるのは分かっていたわよ。
でもあたしだってかわいいと思ってたのに、キョンに先を越されてるなんて……ショック」






心底がっかりしたように嘆いて、そのまま古泉の前までやってきてしゃがみこむ。






「そのままでいいわ、あたしは古泉くんに入れられるものはないから。こっち、してあげる」








後ろ向きでやっていたのがよかったのか悪かったのか、
すっかりぐしゃぐしゃに濡れている古泉のを掴んで、至近距離で表情を観察しながら擦り出した。








「お、お嬢、さまっ」
「古泉くんてこんなにやらしい子だったのね、それならあたしも遠慮しないでやっとくんだったわ」
「は、あうっ……!」
「これからはあたしにも遊ばせてね? 古泉くんにぴったりのおもちゃ、買ってきてあげるから」
「はい、おじょうさま、お願い、します」














なんだ、なんなんだ、これは。






古泉が気持ち良さそうに腰を振るせいでおのずと俺まで気持ちよくなってしまう。ハルヒがいるのに。



でも、いいのか。
ハルヒも楽しそうだし、いいか。
これなら古泉を解雇することも、俺がこの家から追い出されることもないんだよな。






ずっとお前といられるなら何だっていい。
お前が幸せで、俺が主人でいられるなら、どんな形だっていいんだ。












「ご主人様……ふ、大好き、です」
「古泉くん、あたしは?」
「お嬢様も……んん」







言おうとした古泉の口を、唇で塞いでやる。






その言葉だけは俺のものだ。
ハルヒにだって渡さないぜ、
俺だけの、一樹。








thank you !


KINOMEさんちのササさんの前の本の
ゲスト没原稿を引っ張り出してみました。
ご主人さま×使用人たまらんです!

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