夕日がすっかり沈んでしまった今も、 僕は一言も話せないでいる。 彼は足を投げ出して椅子に座ったまま、僕ではないどこかを見ていた。 引き止めただけで何も出来ない。 彼が出した勇気の百分の一も持ち合わせていない。 そもそも、僕は何がしたくて引き止めたのか、分かっていないんだ。 ただ彼と話したかった。 僕だけに向ける声を聞きたかった。 時間が経てば経つほど必要な勇気が増えていく。 すっかり辺りは暗くなり、部室の中も外から差し込む電灯の弱い光でしか照らされず、 もうこのまま帰ってしまおうかと弱気になったとき、 かたん、と小さな音がした。 「で、何なんだ」 それは、彼が椅子に座り直して、僕を見た合図のような音。 久しぶりに目を合わせた彼は、 ……ホワイトデーまでと、ちっとも変わらない、 優しい目をしていた。 「そろそろ見回りが来てもおかしくないぜ」 「……このまま、電気をつけずに鍵を閉めておけば、気付かれません」 「それはそうだが、お前は、肝試しでもする気か?」 「いえ……」 彼が勇気をくれた。 神様じゃなく、彼が。 僕は、今度こそ応えたい。 「あなたと二人きりの時間が欲しかったんです」 「俺と? お前が?」 「はい。ずっと、その、避けられていましたから」 「そりゃ、そうだろ」 振られた相手にしつこく食い下がるような男じゃないぞ、 彼は失笑しながら呟き、少し気まずそうに、目を逸らす。 「それで? 前みたいにゲームに付き合えってことか。ハルヒか長門にでも言われたか」 「誰かに言われたのではありません。ただ僕が、話したくて」 「話、って」 「その……僕のこと、まだ、好きですか」 一番気になっていたことを、正直に、真正面から問いかける。 失礼だとは思います。 でも、どうしても、気になるんです。 「二度と言わないと、言ったつもりだが」 「教えて、下さい」 「…………。しつこいようですまんが、まだ、好きだ」 彼は観念したように両手を上げ、苦笑した。 すき、なんですか、 ひどい振り方をしたのに。 僕は、あなたと同じ、男です。 あなたの周りには、通常ではなかなかお目にかかれないくらいに、 魅力的な女性で溢れています。 それなのに、どうして? どうしてまだ、僕を好きなんですか? 「僕の……いったい、なにが」 「自分の気持ちすら、自分で解ってないところだよ」 「え?」 「普段から自分のことを考えてないからそうなるんだ」 「っ……!!」 手を掴まれただけで、 僕の体は石になったように動かない。 視線まで奪われたのか、彼の目から逸らせなくて、 これは、 ぼくが、 怖がって、いるから? 違う。怖くはない。 振りほどこうと思えば容易いはずだ。 そうじゃなく…… 「嫌なら拒絶し続ければいいのに、 お前がそうやって迷っているから、 俺はお前を好きになるのを止められないんだよ」 腕が引かれる。 僕の足は、彼に操られるように机の横を行き、彼の前まで動いていた。 それ以外のところはまだ動かせない。 怖く、ない。 あなたに見つめられても、捕まえられても。 本当は、こう、してほしかった? 僕が振ったのに? 数ヶ月間あなたのことしか考えられなかった。 どうして僕を好きになってくれたのか。 僕としたいこと、どうして、僕なのか。 あなたが、僕と、するのを考えて、どんな気持ちになるのか。 怖かったくせに、 逃げたくせに、 考え始めたら、止まらなくなった。 「あ……」 「古泉っ……」 「……」 僕を抱き締める腕。 僕の方が身長、あるのに、あなたの腕の中にいると、ほっとする。 ほっとする、のと同時に、どきどきする。 今でも、僕としたいんですか? 二人きりでいる時間がなくても、 あなたがフォローしてくれた時も、 僕と、こうやって、ぎゅっとして、 「ん……」 キス、して、 「こい、ずみ」 「ん、うう」 「もっと、触らせてくれ」 「き、たない、です、よ」 「お前のなら、なんだって平気だ」 「あ、あ、ふあ」 「嫌じゃ、ないだろ?」 いっぱい、触って、 僕を、きもちよく、して、くれて、 「は、あ、んむっ」 彼の手つきは荒々しくて、だけど、すごく僕も興奮して、 垂れてくる唾液は彼に舐め取られる。 声を上げると耳を押し当てられて、 恥ずかしいけれど、 彼の耳元で、押さえられない声を漏らした。 「はあ、はあ……」 「……少し、息、落ち着いてきたか」 「はい……」 「ん」 彼の手のひらを汚してしまってから、 もたれるように抱きついて、そのまま抱き締めてもらっている。 けれど、だんだん意識がはっきりしてきて、 したことの重大さで頭に血が上り、 逆に、彼から、離れられない。 早く手を洗いに行ってくれればいいのに、 なぜか、たまに、舐めて、ますし……。 事実を確認したくないので、 やめてください、とも言えません。 僕…… あなたを好きかどうかはわかりません。 あなたに求められると、 気分がこれまでにないくらい高揚するけれど、 これが、好き、かと聞かれれば、違うと思うんです。 「俺もお前の気持ちは解らないさ」 「はあ……」 「けど、たぶん、好きになるから、ためしに付き合ってみろ」 「ためし、って、そんなので、いいんですか」 「俺は、お前さえよけりゃ、傍にいられるならなんでもいい」 恋愛にもお試し期間があるとは。 僕の超能力にもぜひ設けてもらいたかったですよ。 結局、 彼にひたすら気持ちのいいところを触られて、 正常な判断が出来なくなり、 彼の提案を受け入れたのです。 そして、それからたった数ヶ月で、 僕は、 人を好きになる、ということの意味を、 痛いほどに知ってしまいました。 「ああう、きもちい、きもちいいです、も、だ、めっ」 「こら、もう少し我慢しろっ」 「むりっ……あ、んうう!」 「古泉っ……!」 彼の体温を感じるだけで、体中が気持ちよくて、我慢できない。 ネクタイを外すだけで期待が高まって、 キスをする頃には早くしてほしくて指先まで震えてくる。 毎日好きだと言われ続けて、 毎日学校では見せない優しい表情で、 僕だけが気持ちよくなるように、 たくさん、撫でて、舐めて、弄って…… これだけ愛情を与えられて、 好きにならないはずがないじゃないですか。 「へばるなよ」 「まだ、して、ほしいです」 「そ、そうか」 「あ、お、っきいっ……」 「く……こ、古泉っ」 出したばかりでも、彼が中に入っていると、気持ちいいのが止まらない。 自分で動くのはまだ下手で、思うように出来ないけど、 頑張って腰を揺らすと、彼のがますます、おおきくなって、す、ごく…… 「古泉、俺を、好きか」 「んっ……すき、です、好き」 「だ、いすきか?」 「大好き、です」 「よしっ……」 とっくにわかっているはずなのに、毎日聞くんですね。 心配しないでください、 一度はあなたを振ってしまいましたが、 今は、こんなに、 好きで、好きで、しかたないんです。 今度のバレンタインは期待してください。 ちゃんと、 あなた限定の、ひとつだけのものを用意します。 だからバレンタインまでも、 そのあとも、 ずっと、 僕にこうやって、 いっぱい、気持ちを、ください。
熱くても、溶けてなくならないほど、いっぱい。
限定チョコレート→自覚からの続きでした。
いったんほだされちゃえばこっちのものだよね・・とおもいます