公約その一。浮気はしない。 公約その二。誰にも言わない。 公約その三。涼宮ハルヒの機嫌を安易に損ねない。 公約その四。彼女の言うことを999個聞いたら、あなたの言うことを一つ、叶えます。 「999、超えましたね」 「超えたな」 「我ながら、よく頑張ったと自分を褒めてもいいかなと感じますよ」 模造紙に貼り付けた赤くて丸いシール。 貼られた数は、彼と二人で彼女の希望を叶えた数。 途中から数えるのを放棄したくなるほどに大量で、三年間でその数は千を超えました。 一日一つは叶えているということですね。 「俺が褒めてやるよ」 「それはどうも」 三年間で少し背が伸びたあなたに頭を撫でられると、他にたとえようのない気持ちになる。 僕と彼はこの三年間、お付き合いをしてきました。 とはいっても、男女のそれとは異なります。 堂々と人に言えるような間柄ではありませんし、彼女たちに迷惑をかけたくないから、公約を立てました。 彼と僕とで二つずつ。 僕がお願いしたのは、二番と三番。 彼はずっと守り通してくれました。 何もなかったのに。僕たちの間には、恋人らしい行為など一つも。 「これからは公約内容、変更してもいいだろ?」 「そうですね。言わなくてもあなたがわざと涼宮さんを不快にさせる行動は取らないでしょうし」 「まあな」 「いいですよ。あなたにお任せします」 驚いたように目を丸くして、本気かどうか、聞いてくる。 本気ですよ。僕はあなたを信頼しています。 無茶なことは何も言いませんよね。 ずっと、大切にしてくれました。 僕が一度も好きだと返さなくても。 抱き締められて、同じように出来なくても。 正直な話をすると、最初は好きじゃなかったんです。 あなたの告白を機関に報告して指示を仰いだ時に、 彼を味方につけた方がいいと言われたから受け入れました。 あなたに何をされても文句を言うな、と。 何をされるのか不安を抱えながら傍にいましたけど、 あなたはそんな僕の気持ちを分かっているかのように何もしませんでした。 涼宮ハルヒには簡単にキス出来たくせに、僕には何も出来ない。 抱き締めるだけが精いっぱいで、その時にじっと見つめると、悪い、と謝って腕を放す。 もう少し強引にこられると思っていましたよ。 同性に好きだと言えるくらい、勇気のある方なのだから。 「公約一は、変更なしだ」 「ははっ。分かりました」 「で、二、三を飛ばして、四なんだが」 ああ、そうでした。 彼女の言うことを、こんなに聞いてしまいましたから。あなたの希望を叶えないといけませんね。 何でも言ってください。 出来る限り叶えられるようにします。 ……もう、あと数回しか来ない校舎の、旧館の、一室。 ここは居心地のいい場所でした。 彼女たちがいつも笑っていて、楽しそうで、いえ、僕も楽しくて、 それは、あなたがいたから。 「どう思ってるのか、正直に教えてくれ」 「え?」 「お前が、俺を」 ……はあ。そんなことで、いいんですか。 「好きです」 「……本気で?」 「はい。好きです、あなたが」 頼まれなくても言うつもりだったんですよ。 いつからとか、何がきっかけとか、理由はありません。 でも、あなたを好きになりました。 あなたと一緒にいられる時間が好きです。 あなたが話してくれることも、その声も。 いまいち信憑性に乏しい、と言いたげな表情をしているので、 僕から椅子を引いて近寄り、抱き締めてみました。 あ、固まりましたね、体が。 不安にさせてすみません。 会いたいと言われても機関への報告が面倒で断ったり、 誕生日にプレゼントをもらってもあなたには何も返さなかったり、思い返せば酷い恋人でした。 これから挽回しますから、許してください。 あなたが好きです。大好きです。心から。 「あー……」 「どうしたんですか」 「泣きそう」 「ええ? 大げさですね」 そんなに強く抱き締めたら、苦しいです。……あなたの気持ちは十分分かってますから。 嬉しいです。 あなたが僕を愛しく想ってくださっていること。 「古泉」 「はい」 「結婚しようか」 「え? 今何と?」 「……何でもない」 聞きなれない単語でしたが、本当はちゃんと聞こえてます。 目を見ようとすると逃げられましたが、真っ赤になっているのだけは確認できました。 僕の方を見たら、同じだって分かるのに。恥ずかしくなんてありませんよ、二人、一緒なら。 「いいですよ。しましょうか」 「な……ま、マジか!」 「さあ。あなたがもう一度言ってくだされば、僕も答えますが」 「……あー、んー、おう」 「ほら。頑張ってください」 「……結婚、するか」 「はい。僕でよければ、してください」
2009年のキョン古オンリー「おれのいつき」×キョン古プチ「俺は古泉に恋をする」の
連動企画無料本からでした!プロポーズがテーマでした。
今(2011年)見ると古泉の書き方変わったなあ・・・と思ったり・・