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Promise with you side:Kyon


4つの公約を掲げて、俺と古泉は、付き合い始めた。
そのうち二つは俺が決めた。
一つは浮気をしないこと。
俺たちの関係を誰にも言えないから、せめてこれだけはと頼み込んだ。
俺と付き合ってるんだ。俺はもちろん古泉が好きだから浮気なんてするわけがない。
けど、古泉は俺の勢いに押されて……というよりは、
機関からの指示で仕方なく付き合うことにした、という風に見えた。


それでもいい。繋ぎ止めておきたい。
あいつがハルヒばかりを見ていても、本当は俺に興味がなくても、それでも傍にいたい。


そうやって三年間過ごしてきた。
古泉が決めた二つの公約を守り通して、
ついでに、古泉には傷一つつけていない。
……色々な意味で。



「999、超えましたね」
「超えたな」
「我ながら、よく頑張ったと自分を褒めてもいいかなと感じますよ」



古泉の指から離れて紙に貼り付いたのは、
どこかの何かを思い浮かべてしまう、赤い丸の形をしたシールだ。
このシールが貼られた数は、イコールでハルヒの我儘をこいつが聞いてやった数に相当する。


「俺が褒めてやるよ」


転校してきた当初と比べると目線の高さは少し変わった。
頭を撫でるのも容易い。追い越してはいないが、まだ希望は捨てちゃいない。

それはどうも、と笑う古泉を見て、三年間毎日のように会っていたくせに、どきどきしてくる。


「これからは公約内容、変更してもいいだろ?」
「そうですね。言わなくてもあなたがわざと涼宮さんを不快にさせる行動は取らないでしょうし」




まあな。ハルヒの機嫌を損ねていいことは何もない。
それに、無茶無謀はさせられたが、
あいつのおかげで他の誰も経験できないような貴重な高校生活を送らせてもらったよ。
勘弁してくれ、と、何度言ったのかもわからんがな。



「いいですよ。あなたにお任せします」
「何? ……本気か、それ」
「本気です。僕はあなたを信頼していますから」



……まずい。嬉しい。顔が笑っちまう。
咳払いをするふりをして、俯いて息を吸った。


古泉から好意を見せられたことなんてなかったからな。
告白は勢いで言っちまったが、付き合うようになって勇気を出して好きだと囁いてみたら、
あからさまに嫌そうに眉をしかめて「ありがとうございます」と言われたあの日から三か月、
寝るときに枕を濡らしたのを覚えてる。
抱き締めると体を強張らせてこっちをただじっと見てくるから、
とても、他の何かを出来るような状態じゃなかった。


信頼していると言われただけでも嬉しい。
けど、俺は、お前にもっと聞かなきゃいけないことがある。


浮気をしないって公約はそのままだ。
ハルヒに、これからも付き合ってもいい。
どうせお前も一緒にいるんだろ? 
お前がいるなら、俺はどこへだって行ってやるさ。



その前にだ。俺たちが決めた公約のその四、俺が決めた、もう一つのそれだ。

ハルヒの願いを999個聞いたら、俺の願いも、一つだけ叶えてもらう。そうだったよな。



「そうでした。どうぞ、何でも言ってください」
「……どう思ってるのか正直に教えてくれ。お前が、俺を、どう思ってるのか」
 


これが聞きたかった。
怖くて聞けなかった。
もし、俺と違う気持ちだったら。
この関係を終わらせたくない、だが、このまま知らなければ、先へも進めない。


俺にとっては一世一代の質問だった。
それが、ハルヒに高校三年間を捧げても構わないくらい、重要な願いだった。
なのに古泉はあっさり答えやがったのさ。





「好きです」
「…………本気で?」



早い。早いぞ、回答が。




「はい。好きです、あなたが」




言わされてるのか? 機関から。聞かれたら、そう答えろと。


疑いたくはないが、この三年間を振り返ると単純に喜べない。
どうしたものかと悩み始めた時に、古泉が立ち上がり、俺の傍へ寄った。




「どうし……」
「好きです。簡単に信じられないのも無理はありませんが、本当なんです。あなたが好きです」



古泉の体温が、間近に感じられる。
声も、聞いたことのないくらい近くで聞こえる。


古泉が俺に抱きついてきてるのか? これは夢か、現実か、どっちだ。





分かってる。夢なんかじゃない、今までどれほど願っても、こんな夢は見られなかった。
好きだという言葉も、想いも、回された腕も、現実のものだ。




「あー……いかん」

泣きそうだ。
いや、泣く。


「大げさですね」
「古泉」
「はい」
「結婚しようか」
「え? 今何と?」
「……何でもない」


すまん。勢いで言った。
嬉しさのあまり、だから、忘れてくれ。
したいのは確かだが、くそ、自分の失言で頭にまで熱が回ってきた。
恥ずかしすぎて顔も見れん。



「いいですよ。しましょうか」
「な……ま、マジか!」
「さあ。あなたがもう一度言ってくだされば、僕も答えますが」
「……あー、んー、おう」
「ほら。頑張ってください」
「……結婚、するか」
「はい。僕でよければ、してください」





幸せすぎて、今日で死ぬんじゃないか、俺。




thank you !


2009年のキョン古オンリー「おれのいつき」×キョン古プチ「俺は古泉に恋をする」の
連動企画無料本からでした!プロポーズがテーマでした。
企画楽しかった〜!早くキョンと古泉は結婚すべき!

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