※キョンが変態です






扉一枚 その後





深呼吸を三度繰り返してからドアノブに手をかけ、
もう一度深呼吸を大きくしてから、やっとノブを引いた。


目の前にはどれだけ願っても消えることのない、
古泉が佇んでいる。あー、やっぱりいたのか、お前。
ぎゅっと拳を握って、真っ赤な顔で俯く姿、
いや、それって俺の立場なんじゃないのか。本来は。


こっちはというと逆に開き直ってしまえということで、
いつも通りの表情だと、自分では思う。
が、古泉の前を横切り手を洗いに行くと、
鏡に写った顔はやっぱり少し赤かった。



古泉、何か喋れ。
何でお前が赤くなってんだ。
頼むからいつもの調子で笑って、フォローしてくれよ。
この際、どんなに強引でも構わないから。




「・・・・・・・あの」


おお、やっと喋り出したか。


「おう」
「もう大丈夫、ですか」


なんだ、結局具合が悪い方向で進める気か。
無難だけどな。


「まあな」
「そう・・ですか。よかった」



待ってくれ。
さっきから、かわいすぎるんだが、どうしたらいい。
そんなに赤くなるな。
そんなに制服の裾を握り締めるな。
そういうのはな、朝比奈さんがやるからかわいらしいのであって、
お前がやっても、
やっぱり、かわいいんだけどな・・・



こいつは、俺のことが好きなんだろうか。たまに思う。
さっき、オセロの駒を取ろうとして指が触れた時だって、
あんなのはよくあることなのに反応が大きすぎた。
普段もありえないくらい顔を近づけてくるし、
擦り寄ってくる古泉だが、俺から触れようとすると逃げる。


よくわからん。
下手に手を出したり、「好きだろ」なんて言って、
まったくもって俺の勘違いだったりすると非常に残念な事態に陥る。


何もしない方が、何も言わない方がいいよな。


「戻ろうぜ」
「・・・」


水滴を払って、俺は古泉を顎で促す。
頷きかけた古泉は、しかし、なぜか途中でやめて動こうともしない。
真っ赤な顔で、俯いたままだ。


「戻らねえの?」
「・・・先に、戻っていてください」




もしかして。



「分かった」



少し震える声で俺は答えて、ドアを開けた。
歩いていくような足音だけを立てて、実際は、ずっとその場にいる。



まさか。
古泉。
お前も?




遠慮がちに個室の扉が閉まる音が聞こえる。
ここからじゃよく聞こえない。
ぴったりと耳を当ててみても、かすかな衣擦れの音が聞こえるだけだ。
かと言って古い旧館のトイレだ、中に入ったら、古いドアの音でバレる。



ベルトを外す金属音。
やばい、ああ、やばい。
息が上がる。
なんだよ、言えば、俺が、やってやるのに。
古泉、古泉。
少しでいいから、声、出せよ。



くそっ、何の音も聞こえない。
もっと、近くで聞きたい。
小さく、音が鳴らないようにドアを開けて、耳をそばだてる。
これ以上開けるとこのドアが、ぎし、と音を鳴らすんだ。
いつものことだから知っている。ここが限界だ。


「・・・っ・・・・」




息を飲むような声が聞こえる。かすかに。
何をしているのか、想像しすぎておかしくなりそうだ。
古泉が、古泉が、古泉が。



さっき抜いたばっかなのに、また、勃・・・








「何やってるの、キョン」












「!!!!!」



ぎりぎりのところまで開けていたドアにそのまま寄りかかり、
俺は男子トイレの床に転がった。



ショック死するかと思った。
驚きすぎると声が出ないというのは本当らしい。


「バッカじゃないの!汚いわねっ」
「ハ、ハルヒ・・・なんでここに・・・」
「ずっとあんたたちが戻ってこないからじゃない!古泉くんは!?」
「えっ!?は、はい、はい!」


古泉もあわてて個室から出てきて、ハルヒと俺を交互に見て
目を丸くする。


「な、何をされてるんですか・・?」
「こっちが聞きたいわよ!キョン、あんた聞き耳たてて何やってたの?」
「き、聞き耳・・・!」

古泉、そんな目で見るな!そうじゃない!いや、そうだが、
そうじゃないことにしておきたい!


「聞き耳なんぞ立てとらんっ!」
「じゃあ何だって言うのよ」
「それには深い理由があってだな・・えー、とにかく、古泉、もう体調は大丈夫か?」
「え?えっ?」
「古泉くん、体調悪かったの?」
「そうだ、古泉が吐きそうだとか言うから心配で待ってたんだ」
「あたしはてっきり、あんたの体調が悪いのかと思ってたけど」
「俺は何ともない」
「ふーん。そ。で、古泉くんはもう大丈夫なわけ?」
「え、ええと、はい」


咄嗟の反応なら古泉より俺が上だった。
わけのわかっていない古泉を置いてけぼりにして、
俺はハルヒへの誤魔化しに尽力する。
それにしても男子トイレの扉を開けっ放しにして平気でいるなよ、ハルヒ。
あとな、心配して様子を見に来てくれたんだろうが、
忍び足で来るのはやめてくれ。


部室に戻ると朝比奈さんのエンジェル・スマイルと
無表情な長門が待ち受けており、ほっと一息つく。
ハルヒは一応納得したようで、
朝比奈さんの新コスチューム探しに手伝えと、
いくつかの驚きのコスチュームを見せてきた。



その間、古泉は何か言いたげにこっちを見ている。
俺は、それを聞いてやる気はないぞ。



頼む。
忘れてくれ。
ダブルで忘れてくれ。
どんなフォローも、全く思いつかないから。



thank you !

事態がますます暗転してるという!!グダグダですいません。。。
そしてキョンがどんだけ必死なんだという・・・もうなんだかね!(私の頭が)

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