「キョン・・・お前さ、仲いいよな、あいつと」



2時間目が終わったときだ。
いつもなら既に早弁を始めている谷口が、
柄にもなくなにやら神妙そうな顔で話しかけてきた。


「あいつ?」
「ほら、9組の、あの優男」
「古泉のことか?」



力強く頷く。谷口の口から古泉の話が出てくるとは珍しい。
何ら接点もないように見えるが、もしかしてあれか。
9組に気になる女子でもいるって話か。


「よく分かったな。お前は超能力者かよ」
「それは俺じゃない」
「なんだそりゃ」


こいつには分からない話だったな。
なるほどね、そういうことか。
古泉に仲を取り持って欲しいと?たぶんな、それ、無理だ。


「僕も無理だと思うなあ」

いつの間にか輪に加わっていた国木田も、
にっこりと笑顔で谷口の夢と希望を打ち砕こうとしている。


「なんだお前ら!まだ頼んでもいないだろうがっ」
「谷口ー、少し考えた方がいいよ。あの古泉くんにさあ、
 話があるんですけど、いいですか?なんて言われて
 呼び出されたりしたら、相手の女子は期待しちゃうよ。
 それで相手が谷口だったらその反動でがっかりだなあ」

古泉とはまた違う、人畜無害な笑顔の癖に、
なんともトゲのあることを平気で言いやがるね、こいつも。
中学から変わってないから、俺は慣れたものだが、谷口には相当効いているようだ。



谷口の女好きは今に始まったことじゃないが、
惚れた女に対しては別に軽い付き合いをしようというわけでもなく、
意外と熱いところがあったりするらしい。どうでもいいが。
まあ、仕方ない。聞いてやるだけ、聞いてやるよ。


「恩にきるぜ、キョン!」
「無駄だと思うなあ」
「うるせー!!」


それじゃ、今日の昼飯は、古泉と食べることにしよう。


谷口くんと古泉くん



「古泉、呼んでくれ」


4時間目が終わってすぐ、俺は9組へと向かう。
まだ席にいて何やら次の授業のための教科書等を整えていた
古泉は、同級生に俺の来訪を知らされ、
突如として輝かんばかりの笑顔を見せて走り寄ってきた。
窓から差し込んでくる日の光のせいか、そのキラキラ具合は。
男なんだからやめてくれ。俺の視界に妙な効果を演出するのは。


「どうしたんですか?」
「ちょっと話があってな。昼飯、一緒に食べようぜ」
「僕と、ですか?嬉しいですね、購買に行きましょうか?」
「いや、3時間目の終わりに谷口が先に買っておいてくれてる」
「谷口さんが・・・?どうしてまた」
「それも話す。天気もいいし、外行くか」


いつもの場所。
古泉と外に来るときはいつもここで話している気がする、
外の丸いテーブルに、向かい合って腰掛けた。
高校生ともなれば、「お弁当作ってきたの」なんて頬を染めながら
弁当を渡してくるような女子と向かい合って、優雅な昼飯時を迎えられると
夢想していたんだが、現実はやはり厳しいね。涙を禁じえない。


向かいにいるこの古泉も嫌味なくらい容姿はいいし、
角ばっていない指なんかは女みてーだな、と思ったりもするが、
それでも、男だからな。
別に嫌ってワケでもないけどな。


「それで、僕に話とは?」
「ああ、それがな」


なんとなく、古泉にこんなことを頼むのは気が引けたが(何でだ?)、
谷口のことを適度に褒めたりしつつ、頼んでみた。
優等生らしくおとなしくうんうんと話を聞いていた古泉は、
話が終わるとなるほど、と言いながら笑顔で両手の指を絡ませた。


「そういったことでしたら、協力させていただきますよ。
 お昼ごはんもご馳走になってしまいましたしね」
「世間ではそれを買収と呼ぶがな」
「ははっ。では、買収されましょう」
「うまくやれそうか?」
「ええ、尽力させていただきますよ。あなたの頼みでもありますから」



へえ、言ってみるもんだな。
こいつのキャラ、まだ俺の中でいまいち掴めていなかったかもしれん。
俺も9組の女子をもうちょっと気にして見てみても、いいかもしれない。






古泉は本気だった。




あの国木田すらも、「彼、やるね」と言わしめるほどだ。
いや、あの、と言っても分からないだろうが、ここは察していただきたい。
国木田は皮肉めいたことを笑顔で言うのは得意だが、
真顔で人を褒めるようなことは滅多にないのだ。


古泉は毎日のように谷口の席を訪れた。
昼飯も4人で食べたりした。
そして真剣に谷口の話を聞き、谷口の魅力を探しているようだ。
俺と国木田がいつも完全に右耳から左耳にスルーして、
そのまま拾おうともしない谷口の将来の夢物語(大物になる、とか)も、
的確な相槌を打ちながら聞いてやっている。
こいつはあれか、釈迦か、キリストか、ガンジーか?




そしてついにある日のことだ。
谷口お気に入りの女子と一緒に数人の女子が集い、
あたかも合コンのようなセッティングで屋上で昼飯を食べた。
この日は事前の古泉の手配でハルヒは長門と、学校の近くに
新しくできた大盛り定食屋に行っていたので出来た。
なんという手回し。恐るべし、古泉。



なるほど、確かに谷口が好きそうな、申し分ない美少女である。
少し恥ずかしがって友人の影に隠れがちなあたりとかがたまりません。
古泉は優雅な微笑みで彼女達を先導し、
谷口と例の女子はばっちり隣に座ることが出来た。
で、なんで俺は古泉の隣なんだ。



「いつも、古泉くんから話を聞いてて・・面白い人だなって・・・」
「いや、俺なんて、全然!参ったな、古泉の奴・・・ハハ」


い、いい感じになっているじゃないか!
しかも谷口の様子をぼーっと見ながら飯を食べているうちに、
国木田も隣の女子といい雰囲気をかもし出している。
な、なんだ、なんなんだ、これは。


「うまくいきそうですね」

そんな中俺は、古泉に耳打ちで話をされるという体たらくだ。
顔近いぞ。


「お前、こんな能力も秘めてたのか」
「まさか。努力の賜物ですよ」
「で、俺には何もないのか?」
「あなたはSOS団の団員ですから。他の2名の女子はカモフラージュです」

その理由の意味は・・・考えないでおこう。
そうだな、確かに、後が怖いからな。
俺は毎日朝比奈さんのエンジェル・スマイルが見られればそれでいいさ。
そう言い聞かせよう。





結局青空の下、俺は他2名のカモフラージュと全く意味のない会話をしつつも、
古泉手製というやけに口に合う卵焼きを分けてもらい、
こいつ、顔がいいだけじゃなく料理もできるとは、
などと考えているうちに、昼休みは幕を閉じた。




それからの谷口はといえばそれはもう上機嫌だ。
古泉のことを親友のように慕い、神のように崇めた。
そして昼休みになると、国木田とともに、教室を去る。
俺の昼飯仲間が一度に消えた記念すべき日として、記憶に新しい。


「すみません。なんだか、あなたには悪いことをしてしまったようで」


悪びれずに笑顔で話すこいつと、
それから毎日昼飯を食べる羽目になったのも、それが原因だ。
卵焼きがうまかったとか、そんな小さな理由も少し、含まれている。


「でも僕は、あなたとこうして昼食をご一緒できて嬉しいです」


またその演出か。
その笑顔はやめてくれ。
谷口・国木田両コンビにあてられたせいか、
俺までドキドキしてきているんだが、これは何だ?何だ?


「古泉」
「はい、なんでしょう」
「俺、今週金欠なんだよ。しかも明日、母親が留守でな」
「ほう」
「明日の昼飯、どうしようか困ってるんだけど」
「作ってきましょうか?」
「いいのか?」
「もちろんです。腕によりをかけて、作ってきますよ」



古泉相手でも、別に、いいか。
それはそれで、楽しいかもしれない。




thank you !

古泉は勿論、キョンと二人でお昼が食べたくて協力したんですよ!なんという乙女!(?)
谷口とか国木田とか楽しくて好きです。
鶴屋さんに続いてゲスト出演の回でした!

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