「風邪?」
「そう」


放課後の部室。
いつまで経っても来ない古泉のことをこぼすと、
長門が、風邪で休んでいる旨を端的に教えてくれた。


「大丈夫かしら?古泉くん。一人暮らしだったわよね。
 お見舞いに行った方がいいかもね!」


ハルヒよ、お前のそのテンションで見舞いなんぞに来られたら、
熱が倍まで上がるような予感がするぜ。


「押しかけたら逆に迷惑だろ。男の一人暮らしだし、
 俺が行ってくるよ」
「そう言われてみてば、確かにそうね。じゃあキョン、
 行ってきなさい!明日には完全復活するように看病すること!」



ありがたく団長のお達しをいただいた。
足早に部室を出て、古泉の家に向かう。
風邪か。休むくらいの風邪なら、抵抗力も落ちてるだろ。


願ってもない状況だ。







愛の病






道すがらにあるスーパーで、見舞いらしく果物を買い、
来慣れたそのマンションに着いた。
鍵は持っているが、一応来たことは知らせてやるか。

オートロックの扉前で部屋番号を押し、続いて呼び出しボタンを押すと、
呼び出し音が鳴り響く。ややあってから、部屋の主が応答した。


「・・・はい」
「俺だ」
「え、あ、はいっ」
「見舞いに来た。入るぞ」


返事は待たずに鍵を差す。
エレベーターから降りて一番奥にあるその部屋に向かうと、
たどり着くより早く古泉が姿を現した。


「すみません、わざわざ来ていただいて」


ゆるい部屋着でいる古泉は既に顔が熱のせいか赤く、
目もいつもの8割くらいしか開いていない。
部屋に上がった後も、先を歩いた古泉はふらふらとしていて危なっかしい。
それでも茶を出そうと冷蔵庫を開けているのでやめさせて、ベッドに誘導してやる。


「ずいぶん熱がありそうだな」
「はい・・・管理がなっていないせいです。お恥ずかしい限りです」


額に手を当てると確かに熱い。
体温計を持っていないらしいが計れば39度は超えてそうだ。
俺も馬鹿じゃない証拠に何度か風邪を引いたが、
39度を超えるとかなりキツい、よな。


「薬飲んだか?」
「いえ、持って、なくて」
「おいおい・・・飯は食ってんのかよ」
「起きあがると体がだるくて用意ができないんですよ」


話しているだけでも辛そうだ。
病院行けよ、呼べば無料タクシーが来るだろうが。
寝ていたら治ると思ってるかもしれないが、間違ってるぞ、それ。
飯にはなりそうにもなかったが、とりあえず買ってきた桃を剥いてやる。
そんなことしなくても、とか弱々しい声が聞こえてくる。




しっかりしろよ、そんなんじゃ、やれないじゃないか。





やけに果汁満点の桃と格闘しながらやっと切り終えて持っていくと、
古泉は苦しそうに呼吸をしながら起きあがった。
寝てればいいのに、待ってたのか。


「ありがとうございます」


こんなときでも笑顔を見せて馬鹿丁寧に礼を言う、
いいからさっさと食べておけ。
後で薬、買ってきてやるよ。



白いつるりとした果肉をゆっくりと口に含んで、
いつもの三倍くらいのスピードで飲み込む。
風邪のとき、桃ってよかったんだっけ?
俺が好きだから、って理由だけで選んだわけだが、
古泉も好きなんだろうか。食べてるから、いいか。

なんだかずいぶん頑張って食べているような姿を見ていると、
そして果汁で濡れた唇を見ていると、
誘われているような気分になる。
熱のせいでとろんと下がった瞼すらたまらない気持ちにさせる。


「ごちそうさまでした」


手渡してきた皿をさっさと脇に置き、古泉の頭を掴む。
が、いつもは抵抗しないくせに、手のひらを唇に当ててきた。


「だめです、うつってしまいます・・・」
「別にいいって」
「あなたにうつったら、困ります・・・」


慌てたせいか咳込んで、苦しげに息を吐く。
やっぱり辛そうだ。たしかにこれがうつるのは少し困る。



「じゃあキスはしない」



古泉の顎を肩に乗せて、座った姿勢のまま腰を上げさせ、膝上まで下ろす。
小刻みに震えながら腕を掴んでくるが、いつもよりだいぶ弱々しい。
これなら腕を拘束する必要もないだろう。


「う、っく・・・」


内股を撫でるだけで既に泣きだした。
早いな、まだこれからなのに。

枕元に置いてあるローションを手に取り、指を濡らしてすぐに挿入すると、がくがくと震えている。


「あうっ・・・」


苦しそうに呻いたが、いつもより声を上げていない。
いつもならイヤだとか痛いだとかうるさいくらいだってのに。
中もかなり熱いし、この調子だと、やりにくい。

やっぱ、無理か。


指を抜いて服も元に戻してやり、横にする。
古泉は苦しげに息を吐きながら、何度か謝った。
正直我慢するのはキツいが、この状況は仕方ない。



汗と涙を拭ってやってから、俺はとりあえず近くにある薬局に向かった。
あんなに高熱が出たら市販の薬じゃ効かない気もするが、
飲まないよりはいいだろ。
食後に飲め、か。桃でいいのか、食事って。
たぶんもう少し食べた方がいいだろうな。






台所の棚にきれいに整頓されている鍋を使うのは今日が初めてだ。
レトルトの米を温めつつ、湯を沸かす。
レンジが合図をしてから出来上がった白米を鍋につっこみ、
買ってきた雑炊の元とやらを入れると、
こんなに適当なやり方なのに意外とうまそうな匂いがしてきた。
料理の勘があるんだろうかと自賛しながら割った卵は見事に殻が中身と混ざり、無駄にした。
才能ないな。

もう一個の卵はなんとか慎重に割ったことで成功、
やけに沸騰している鍋に一気に入れるとすぐに固まってしまった。
あわてて火を止めたが、見た目はあまり、うまそうではない。
母親が作るそれとは異なるものに仕上がる。


恐る恐る試食してみると、まあ、悪くはない。
卵が完全に炒り卵になっているが、
食べれないわけじゃない。
贅沢は敵だ、な。



ドアを足で開けて持っていくと古泉はすっかり眠っていた。
相変わらず息は苦しそうだ。はあ、はあと呼吸を早めながら、たまに苦しそうに顔を歪めている。
いつもこいつを泣かせたりなんだりはしているが、
こんな顔にはならない。いいな。この顔も好きだ。
こいつにとっては辛いだけだろうが。




どうせこれだけそばにいれば、同じだよな。


「は、・・・んうっ」


息を吸ったタイミングで口づける。思った通りだ、すごく熱い。


「あ、う?・・・口は、だめって・・・」
「もう遅い。起きて飯食え」
「え・・・?あ、作って、くださったんですか・・・?」


肩を抱いて起こし、スプーンと皿を渡・・・そうとしたが、
力が入らないようでスプーンをすぐに落とした。
おいおい、先に皿を渡していたら俺の苦労が無駄になるところだったじゃないか。
危なかった。


「しょうがないな・・・」


妹だとでも思うか。
一口分すくって吹いて冷ます。



「ほらよ」
「あ、・・・す、すみません・・」


驚いて惚けた顔をしている古泉にスプーンを押し当てると、
古泉はまた一生懸命噛んで飲み込んでいて、
まるで餌付けをしているような気分になる。


「おいしい、です」
「ほんとかよ。卵固いし」
「いえ、ちょうど、いいです」


そうかい。
じゃあもっと食っとけ。





病人のくせにしっかり食欲はあったらしく、時間はかかったが完食した。
あまりにも従順で俺がやらなきゃ何もできない古泉を餌付けるのも楽しかった。
上を向かせて薬も飲み込ませ、やっと一息つく。
気付けば21時を回っていることを母親からの電話で知ったが、



「古泉が風邪引いて・・・ん、泊まってく」


ふらふらのまま放っておくわけにもいかんだろ。
というよりは、さっさと熱を下げてもらって、
やりたいだけなんだが。
早く治れ、さっさと治れ。






適当に皿やらスプーンやら鍋は片付けておく。
ふう、と一息ついてベッドの脇に腰掛けて、
テレビでもつけようとすると、


「あの・・・今日、いてくださるんでしょうか・・・」


口まで布団をかけた古泉が、震える腕を伸ばして袖を掴んできた。


「ああ、いるぜ」
「あ・・・」






なんだ、なぜそこで泣く。


「うれしい、です・・・すごく・・・」






っ、
んだよ、そりゃ・・・!



「んっ・・・!」


掴んできた手を払って押さえつける。
力ない抵抗など何の意味もない。
深く、できるだけ深く口付けて、舌を伸ばした。
怯えて引っ込めたってだめだ。すぐに触れる。




古泉が苦しかろうともう関係ない。
何なんだ、お前は。
何が嬉しいだ。
お前を喜ばせるためにここにいるわけじゃない。
ふざけんな。



薄く目を開けると古泉は眉を寄せて目を開き、
出せるかぎりの力で押し返してきているのが分かる。
息が出来ないんだろうが、知らん。
悪いのはお前だ。

俺が苦しくなるまで続けてからやっと離すと、
大きく咳き込んでぼたぼたと大粒の涙を流した。
その姿で尚更我慢が出来なくなり、
腕を強く引いてうつ伏せにする。
呼吸すらままならないのは分かってる。
すぐに脱がせて濡らしてから指を突っ込むと、
大きく体が震えた。声は出さない。
聞かせろ、お前の声を。
いつもみたいに泣いて叫んで喘いでみせろ、
俺はそのためにここにいるんだ。



「ひっ、あ・・・、く、ぅっ・・・」


指を二本にしたって声は途切れ途切れにしか聞こえてこない。
吐く息の合間に申し訳程度に聞こえるくらいだ。
いつもは髪がぐちゃぐちゃになるまで振り乱すのに、
小さく震えてるばかりでそんな様子もない。


くそ・・・



「声出せよ・・・古泉」
「はっ、はっ、は、あ、うぅっ」



息なんかしなくていい、声が聞きたいんだ。



「古泉!」
「あ、う、あ・・・く、う、は、はあっ」


全然足りない。
そんなのじゃだめだ。


慣らすのももうやめだ、指で開いて、もう、
我慢の限界に近いくらい興奮した状態を、入れていく。


「は、ぐっ・・・!」


一気に奥まで突き入れてやると、少しだけ悲鳴を上げた。
いつもなら泣き叫ぶくらいの行為だ、
これじゃあやりがいがない。


「聞こえてるだろ、古泉」
「は、あ、は、う・・・」
「もっと声出せよ、出せるだろ」



震えてなくていいから頷け。できないなら首を振れ。何か言え。


枕についたままの頭を掴んで持ち上げた。
古泉が嫌がる行為の一つだ。
なのにやはり、反応がない。


「おい・・・・」
「う、あ、あ、あ」





これは、ちょっと、マズいか?


触れた額は思ったよりも随分と熱い。
息はしているから生きているが、まったくばらばらでうまくできていないから、
肺まで酸素が届いているとは思えない。

一端抜いて仰向けに戻したものの様子が変わらない。
だらりと腕をベッド脇に垂らしたまま、
どこを見ているか分からない焦点の合わない目はぼんやりと開いて、
口の端からも涎が伝ったままで、さすがに、見ていて青ざめた。





薬、全然効いてないじゃないか。







部屋にあった電話帳でタクシー会社を探す。
郵便物から住所を見て、すぐに来て欲しいと伝えた。
夜中のタクシーなど高いに決まってるし、
財布の中身が耐えられる自信もないが、仕方ない!



「古泉、しっかりしろ」



罪悪感など感じている訳じゃないが、
お前がいなくなるのは、困る。









夜間の救急病院は緑色に光る廊下が目について、少し、気味が悪い。
運び込まれた古泉はすぐに診察されて、
風邪には違いないが過呼吸になっているらしく、
無理なことをしなかったか、例えば激しい運動などを、
と聞かれたが何も答えられなかった。
気まずい、さっさと帰りたい。


意識のない古泉が横たわるベッドの脇に座るよう促され、
看護士が古泉との関係や家族について聞いてきた。


「友人です。風邪を引いたと聞いて様子を見に行ったらこうなっていて
 ・・・いや、家族のことは知りません」



こんな時は家族に連絡するのが当然だろうが、
俺はこいつの家族なんざ、知らない。
聞こうと思ったこともない。俺には、関係、ないからな。






点滴を打たれた古泉は数時間後、目を覚ました。まだ、深夜だ。
俺がうとうとしかけて、看護士がちょうど様子を見に来たときだった。




「大丈夫かしら?ここは病院よ、点滴をしているから動かないようにね」
「病、院・・・はい」
「お友達が連れてきてくれたけど、こちらの彼、本当にお友達?」


看護士は明らかに疑いの目で見てきた。
先ほどの質問に答えるときに俺が動揺していたからだろう、
鋭いもんだ。参った。


古泉はスローモーションのようなスピードで首を動かし、
覇気のない目で俺を捉えた。


「はい、大切な友人です」
「あら・・・そう」
「病院まで連れてきてくれたんですね」
「まあ、な」


その笑顔は、演技か?こんな時でもできるのか?
ハルヒのことがなきゃ、正直に話したいだろうな、お前は。



「ご家族にも連絡をしたいのだけど、連絡先を教えてくれるかしら」
「家族は、いません」
「え?」




・・・いない?


「三年前に事故で亡くしてます」
「まあ・・・本当に?」
「はい。明日にでも高校に問い合わせていただければと」
「ごめんなさいね、辛いことを聞いてしまって」
「いえ、どうぞお気になさらず」



少し後に担当の医者が来て具合を診ている間、
病室を出て壁にもたれかかったまま、考えた。




あいつ、家族、いなかったのか。










熱も下がり顔色もよくなったが、
朝まで寝ていった方がいいとしきりに勧める医者の言葉を断り、
古泉は帰宅することを願い出た。
帰るタクシーは料金を払う普通のタクシーで、
いいと言ったのに行きの分と薬代を俺に押し付けてきた。


タクシーを下りてからも左右によろめきながら歩いていて危なっかしい。
時折支えてやりながら部屋に戻った。


「遅くまで付き合わせてしまってすみません」
「いや・・・」
「もう、寝ましょう。僕は、あの・・・タオルをかけて寝るので、
 あなたはベッドで」
「なんだよ、それ」
「まだ治ったわけではないですから、うつらないように」
「うつるならもうとっくにうつってるだろ」



困ったように笑って、古泉は手に持ったタオルの置き場を探している。


「さっさとベッドに入って寝ろ」


タオルを奪い取って部屋の隅に投げて、俺もすぐに横になった。









いつもは俺より早く起きる古泉が、今朝はまだ隣にいる。
熱は少し下がったみたいだが平熱ではない。
今日も休んだ方が、いいだろうな。

床に転がったままの古泉の携帯が震えだし、
起こさないようにベッドから下りて手に取ると、


「森さん」


心配して電話をしてきたんだろうか、
森さんなら面識はあるから(謎の多い人だが)俺が出てもいいだろう。


「はい」
「・・・誰?」


さすが、一発でバレたか。
名を名乗り事情を説明すると、


「分かりました。学校へは、こちらから連絡します。ご面倒をおかけしました」


機関は親戚ということにしてるのかね。
森さんならどんな教師でもうまくだませそうだ。
そっちは任せておいて問題ないだろうが、見舞いに来る気はないのか?
機関てのも案外冷たいもんだな。割り切ってるってことか。


制服を着て準備完了、
そろそろ、行くか。



「あ・・・の・・・」


掠れた声が聞こえてくる方を向くと古泉が目を覚まし、
まだぼんやりした表情で起き上がっていた。



「寝てろよ、さっき森さんから電話があって学校には連絡するってさ」
「そう、ですか。ありがとうございます」


寝てろと言ったのにベッド脇に足をつく。
立ち上がろうとして一度失敗してから、
やっと立ち上がった。


「すみませんでした、ご迷惑をおかけして」


俺だろ、迷惑をかけたのは。


「桃も、ご飯も、おいしかったです」


玄関までわざわざついてきて言うことかよ。


「ほんとに・・・ありがとうございました」



両手を握りしめて俯きながら言う古泉の顔は赤い。
熱のせいではなかった。


バカか。
あんなにひどいことをされて、
何がありがとうだ。
それを打ち消すほどの飯でもなんでもないだろ、あんなのは。
俺は特に何も言わずに部屋を出た。
エレベーターに乗り込み、下へ。







風邪はうつらなかった。
外に出ても鳥肌の一つも立たない。
風邪、引かないのか、俺。
キスしたのに。
やっぱり、バカなのか、俺も。




10分ほど歩いたところで引き返し始める。
何でかは分からない。



家族がいない。
機関は具合が悪いと知っていても見舞いに来るわけでもなく、
どこか機械的だ。
高熱で飯も食わず薬すら買いに行けず、
家族のことを聞かれるのが嫌で病院にも行かず、
何も出来ないまま、
一人、部屋にいる。
そんな状況になったことなんてないから分からない。
だけどそれは、すごく寂しいことだと思う。






何やってんだ。
俺は何をやってたんだ。
相手が古泉だからって、あいつが俺の言うことを何でも聞くからって、
何をしてもいいわけじゃ、ないじゃないか。
あいつは、あいつは、たぶん・・・






今度はインターホンも鳴らさずに鍵を開けた。
横になっていた古泉は驚いて飛び跳ねてくる。


「何か・・・忘れ物ですか?何もなかったと思いますが」
「違う」
「学校、遅れてしまいますよ」
「お前、俺が好きなのか」


一瞬、何を聞かれたか分からなかったようで、
目をぱちぱちと瞬かせてから、
また真っ赤な顔を俯かせた。



契約みたいなものだった、
俺がハルヒに暴言を吐かない代わりにこいつが俺の言うことを聞くのは。



今まで考えもしなかった、
こんなことは。
だけどそうじゃなきゃ、ありえないだろ。
ひどいことをされておいて、こんな顔をするのは。



「・・・」


答えなくても態度で分かる。だけど、言わせたい。


「どうなんだ」
「・・・好きです」



また、涙をこぼした。
俺は古泉を、泣かせてばかりだ。



「ごめんなさい・・・迷惑ならやめます。ごめんなさい」


やめられんのか、そんな簡単に。


「なんで好きになるんだよ」


酷いことしか、してないじゃないか。



「・・・一緒にいてくれるから」


聞き逃しそうになるくらい小さな声で、
古泉は確かにそう言った。



頭に血が上る。
すぐに押し倒したくなる気持ちを抑えて、
涙を親指で拭ってやる。



「酷いことしかしてないぞ、俺は」
「・・・」
「考え直せ、どう見たって俺といるときのお前は不幸だ」



思い出せよ、
今までどんなに酷いことをされてきたか。



「そんなこと、ありません」



「あなたと一緒にいられるなら幸せです、嬉しいです」




バカだ。
救いようがない。
俺は、こいつから離れてやらないと、いけない。
これ以上酷いことをしてしまう前に。
理性ではそう分かっているのに、
他のところで、こいつの好意を感じた瞬間に、
我慢できなくなる感情が起きて、勝る。



今も、もう、駄目だ。




「んっ・・・!」



強引にキスをしてから、廊下に体を押し付ける。
上着をまくりあげて胸の突起に噛みつくとびくん、と跳ねた。


「あ、あっ」
「古泉、やらせろ」
「あぅっ・・・」
「やれるよな」
「は・・・いっ・・・」


下着の中に手をつっこみ、無理やり刺激して、勃たせる。
耳や首筋を舐めりながらしてやれば、あっという間だ。
手のひらに落とした唾液で濡らして動かすと、
少しして、茶色い廊下にぼたりと液体を垂らした。
いつもより早いのは我慢するような力が入らないからだろう。


「あ、くぅ・・・!」


声も体もまだまだ本調子じゃないが、昨日よりだいぶましだ。
垂らした液体を塗りつけて指を入れて、くいくいと動かすと、


「は、あっ!あっ・・・あ、うっ」


辛そうな声を上げて涙の筋を増やした。
キツい。もっと力を抜け、じゃないと入らない。


「あうっ、く・・・い、いたっ・・・」
「増やすぞ、古泉」



宣言してるだけ有り難いと思えよ。
中指も、入り口を押し広げるように入れていく。
息が混じった悲鳴が聞こえてきて、少し、満足感を得た。



「は、あ、うぅ」


肩にしがみついている指は相変わらず弱々しくて、頼りない。
本当にひどいことをしたときは、腕に跡が残るくらいまで
強く掴んできたのに。
ただ、それしか、しなかった。
俺を突き飛ばすこともぶん殴ることも、
明確に嫌だと言ったことも、一度もなかった。




ただ俺がいただけじゃないか。
俺じゃなくてもよかった。
ハルヒに選ばれた相手なら誰だってよかった。
でも、それが俺だった。
だからこいつは、俺に惚れた。
こんな俺に。



「う、あぅっ・・・もう、だいじょうぶ、ですっ・・・」


仰向けは辛いはずなのに、まだまだ全然緩んでもいないのに、
深く息を吸って、吐いて、力を抜いている。
前髪を上げて額に口付けると、やっぱり、まだ熱い。
朝起きたときよりも上がっている、ような。



やりたい、すごく、入れたいし、
こいつの泣くところを見たいし、
耐えているところも見たいし、
めちゃくちゃにしたいけど、
けど、
やめて、おこう。


「古泉、やっぱり・・・やめる」
「え?」


腕を引いて起こして、ブレザーをかける。
呆気に取られてそのまま座っている古泉をとりあえず放置、
タオルは・・・ああ、全部、洗濯してないじゃないか。
ティッシュでいいか。


「僕・・・何か、嫌なこと、しましたか・・・?」


また涙が増える。
不安でしかたがないと顔に書いてあるみたいだ。
体を拭いてから、涙もティッシュを押し当てて拭いた。



「しとらん」
「でも、どうして・・」
「お前が治るまで我慢する」
「我慢・・・」
「さっさと治せ、それまで仕方ないから近くにいてやる」
「・・・・・・っ」



お前は、嬉しいときに泣くしかできんのか。
いつもの胸焼けするほど甘い笑顔はどこへいった、
普通は嬉しいときは、笑うんだよ。



「きっと、早く、治ります・・・」





小さな呼吸を繰り返して眠る古泉を見ていると、
たまには我慢をしてもいいかもしれないと、思った。
ただ、本当に、たまに、だけだ。
たとえばこんなときだけだ。
こいつが心細すぎて駄目になってるときとか、
俺がやりたいってよりも心配になっちまうときとか、


滅多にないが、そんなときだけだ。




thank you !

な・・・長い・・・・!!(驚愕)
一発モノのテキストの中ではダントツで最長のようです。
そしてエロシーンはどれも寸止め!キョンよく頑張った!(?)

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