何が、起きたんでしょう。僕の身に。
硬い部室の床に横たわる僕に、
彼の体が重なるように押し当てられている。

すぐ横には彼の顔がある。
恥ずかしくて、見れない。



これは、一体。
な、何が?



連・恋せよ乙女





「それじゃっ、今日はここまで!みくるちゃん、衣装合わせに行くわよっ」
「あぅぅ〜、本気ですかぁ…」


オーダーメイドの衣装を作るとのことで、
涼宮さんは朝比奈さんを引っ張って早々に帰っていった。
仲が良いのは大変よろしいことですね。

「・・・」


少ししてから長門さんも無言で部室を去り、


「お帰りですか?お気をつけて」


笑顔で言った挨拶は見事に無視されました。
まあ、いつものことです。




「古泉、お前ももう帰るのか?」


向かいにいる彼はまだ深く椅子に座っている。
これは、まだ帰らないでほしいということでしょうか?
彼の方からそんな意思を示してくれるなんて、
いつもより余計に口がゆるんでしまいます。


「いえ、特に用事はありませんから」
「そっか。じゃあ、ちょっとこっちに来い」



彼の方から近くに来いと言ってくれるなんて、珍しいことです。
いつも僕から近づいては気色悪いと・・・最近は、
そんなに言わなくなりましたけど。
それでも、彼から、来いと言ってくれるなんて、
舞い上がってしまいます。


いそいそと隣の椅子を引いて座ると、彼の腕が、伸びてくる。


「!」


手のひらが頬に当たる。これは、もしかして、もしかして、


「目閉じてろ」
「っ・・・は、はぃっ」


声が裏返ってしまいました。ああ、幻滅されませんように。
目をすぐに閉じたから彼がどんな顔か、分からなかった。



唇に触れるあたたかな感覚。
キス、されてる。
彼に。
キス自体は初めてというわけでもないし、
何度か僕からすり寄っていったときに
(彼が言うには、その時の僕は物欲しそうな顔になっているらしく)
仕方ないなと言いながらしてくれたことは何度かあった。


最初は僕が気絶してしまってよく覚えていないけど、
そこから先はちゃんと記憶にあって、
もう、とにかく、幸せすぎて校内を走り回りたいような気分になるんです。


そして今日は、ついに、僕からねだっていないのに、
彼から口づけてくれました。
これは進展、ですよね。
世界中の人に自慢したいくらい嬉しいですが、
怒られるので秘密にします。
つい調子に乗って森さんに教えてしまったときは、
烈火のごとく怒っていましたから。






「はぅ・・・」


ぱく、っと唇で口の端を噛むようにされて、また胸が高鳴る。


な、なんだか、
今日のキスは、
いつもと違う気がします。


「なあ・・・」
「あ、はいっ」
「口、開けてみ」


言われた通りにすると、


「あっ!?」
「いてっ!!」
「わ、あ、ごめんなさい!」


突然入ってきた・・・彼の・・・し、し、舌を。
驚いてか、んで・・・しまいました。ああ、どうしよう。
痛かったですよね、ごめんなさい・・・!


「いてぇ」
「すみません・・・びっくりして・・・」
「ったく。次は噛むな」
「あ、はっ、はい」





いつもなら怒ったまま雰囲気が流れてしまうのに、
ちゃんとしきり直しに・・・ああ、でも、さっきのは、


「んうっ・・・!」


これは、結構、たまらないですっ・・・!


あまりに刺激が強すぎて逃げようとしても、頭を彼が押さえていて動けない。
舌が、僕の口の中を動き回って、いろんなところを舐めて、特に、
舌先が触れ合ったときは噴火しそうなくらい体中が熱くなる。






少し口を離すとぴちゃ、と音が聞こえてきて、
彼の腕をつかむ力が自然と強くなる。
こんなに握ってしまったら痛いかもしれない、
と思って力を緩めても、
また舌が触れるたびに力がこもって、意味がない。






しばらく夢中でそうしていて、唇を離すと、
唾液が伸びてこぼれる。
彼も頬を赤くして僕を見ていて、


「す、好きです」


告白せずにはいられなかった。
好きだから嬉しい。
今のは、きっと、一段階上のキスだ。
唇が触れるだけでじゅうぶんだと思っていたのに、
こんなに気持ち良くなれるなんて。


「すごく好きです」


気持ちがあふれてあふれてどうしようもない。
きっとまた今夜も眠れない、ドキドキしすぎて眠ってなんかいられない。
こんな記念すべき日はとことん余韻を楽しむに限ります。




「古泉」
「はい・・・」
「しても、いいか?」


キスを、でしょうか?
もう一度、今のを?
ちょっと僕の体がむずむずと反応してしまっているのですが、
気付かれませんように・・・。
きっともっと興奮してしまうけど、
せっかくこんなキスをしてくれるんだから、
断ったりなんてできるわけがないです。


「はい、してください」




がたん、と椅子が倒れる。
彼がいきなり立ち上がるから。
え、えっ。


「あの、椅子」


直そうと僕も立ち上がると、
彼が肩に手を置いてそれを制す。
また唇が触れて、頭がぼんやりとしてきた頃、
床に座るよう促される。
よくわからないままに座ってキスを求めていると、
また肩を押されて、僕は床に背をつける。



上からやってくる彼の舌はどんどん深いところまで入ってきて、
すごく気持ちがいい。
僕もそれにこたえたくて必死に背中に腕を回して舌を伸ばした。



「ん、んぅっ、んん・・・」



キスが終わって、深呼吸をしてから目を開くと、
なんだかすごく真面目な顔で彼が僕を見つめていた。
そ、そんな目で見られたらドキドキします。
もうしてますけど、もっと、です。






「古泉・・・」
「はっ・・・あ、あの、ちょっと・・・」


彼の体が重なる。
足の間に、彼の右足が・・・そ、そこは、ダメですっ・・・!!!
ば、ば、ばれてしまいます!



「や、あのっ、あ、足っ・・・」
「足がどうした?」


ぐりぐりと太ももをそこに押し付けられて、
恥ずかしいくらい高い声が出た。


気付かれてしまいました、
また、また変態扱いされてしまいますっ・・・!
しかも変な声まで出て、言い訳のしようがありません。
恥ずかしい、穴があったら入りたいです・・・!





「ひゃっ・・・」


彼の体重がまたそこにかかる。痛くはない。
ただ興奮と気持ち良さで、このままだと、本当に危ないんです!


「あっ・・・あ、そこは、ダメで、あっ」


舌が耳に伸びて、耳たぶを弾くように舐められ、
さらには暖かい息を吹きかけられる。
困ります、すごく、困る・・・!





えっ、
あっ、
あれ・・・


この、お腹のあたりに当たる感触は、何でしょうか?
ま、まま、まさか、
彼も、同じように!?



また気を失いそうになって首を振る。
彼が、彼が!僕との、キスで、こんな・・・!


「古泉・・・」



信じられない、
これは夢とか、スペクタクルとか、
そんなものじゃ、ないですよ!



う、嬉しい。
すごくすごく嬉しい。
生きててよかったです・・・



はっ・・・



「あっ・・・」


僕のベルトを彼が、ゆるめている。
そっ、それは!

「ダメです!それはダメです!ものすごくダメです!」
「はっ?なんだよ、いきなり」
「だ、だって、は、恥ずかしすぎます」
「恥ずかしいって・・・脱がなきゃできないだろ」
「な、なにがですか」


眉間に皺を寄せてため息をつく。
呆れられた合図。
でも、僕は変なことを言ってない・・・


「お前もしてくれって言ったじゃないか」
「それは・・・キ、キスのこと、ですよね?」
「・・・お前、案外、鈍いな」
「ええっ?」

「この状況でするっつったらセックスだろ、俺がどんだけ我慢してたと思ってんだ」



せ。
せっ・・・






「ええええええ!!!!!」
「うるさい!」




そんなまさかそんな。
だってここは学校なのに、
ここは部室なのに、
彼は仕方なく僕につきあってくれているんだと思っていたのに、
がま、ん・・・!?
彼が僕と、せ、せ、ああ、考えるのも恥ずかしい、
それを僕としたいと、思っていた、ということですか!?



これは・・・なに?
何が起きているんでしょうか?



「おい、古泉」



パニック寸前の僕の顔を両手でおさえて、またキスをする。
彼となら、いいと、思う。
キスだってこんなに気持ちがいい。
とても幸せなことだと思う。
彼が僕を求めてくれるなんて、
そうしたいと思ってくれるなんて、
こんなに幸せなことはないのに、
僕だって彼が好きで、大好きなのに、



ど、どうして、怖いんでしょうか?
覚悟ができない。
今ここで受け入れるだけの心の準備を、すぐになんて、できません。



「泣くなよ・・・」
「す、すみませんっ」


すぐに体が離れる。
冷たい床と夕暮れの気温が戻ってきて、
彼の体が熱かったんだと今分かった。


手を引かれて起き上がる。
呼吸を整えながら、袖で涙を拭った。
どうして泣いたりしてしまうんだろう。
イヤじゃないのに、嬉しいのに。


僕も彼も何も喋らず、無言のいたたまれない空間ができあがる。
閉鎖空間に飛び込んでいる方がどれだけマシだろう。
彼とせっかく二人きりなのに、こんなふうに思うなんて。
ああ、今、あなたは何を考えているんでしょうか。
僕にがっかりして、もうやっていけないとか、
お・・・終わりにしたいとか、
思っているんでしょうか。

僕は、僕は、・・・



「ごめん」


謝らないで、ください。
終わりにしたくない、あなたが、好きなんです、好きなことに、
違いないんです。



「うっ・・・っく・・・」
「こいずみ・・・」



ちゃんと言いたいのに言葉にならない。



「ぼくっ、はっ・・・っく、あなたが、」
「古泉」


頭をぽんぽん、と撫でられる。
笑って、る?
怒って・・・いないんでしょうか・・・?



「ごめんな。焦らせすぎた」
「えっ、・・あ、いえ、そんなっ・・・」
「待つから、怖がらないでくれ」



・・・・・・


胸の奥を強く、強くつかまれたような、
痛いようで、泣きたくなって、
だけど、すごくすごく幸せなこの感じは、何ですか?



「怖くなんかないですっ」
「泣いてるだろ、だって」
「それは、あの、びっくりしただけで」
「いいから・・・お前が平気になるまで待ってる」


だから、と言って、
彼は顔を赤く染めて横を向きながら続けた。



「俺のこと嫌になったとか、言うなよ」





神様・・・
僕は・・・
今死んでもいいくらい幸せです・・・



「おい、古泉っ!?」












気を失うのは幸せすぎて身体の全機能がショートするからです、
と言うと、


「お前は機械人間か」


実に怪訝そうな目で見られました。
ああ、最初にきちんと説明しておけばよかった。
あの時は眠ってしまったことにしたから・・・
まさかまた気を失うとは思わなかったんです。



「普通の超能力者です・・・」
「そりゃ普通じゃないな」



支度を整えたあと、すっかり暗くなった帰り道を二人で歩く。
街灯に照らされる彼の横顔がいつもより男らしいような、
なんだか、いつもより、格好良く見えます・・・


「だから見すぎだって、お前は」
「あっ・・、す、すみません」


また、見惚れてしまいました。
さっきまで、僕は、この人と、キスをしていたんですね・・・
そして、本当は、その先まで・・・



まだ、まだ今はできませんが、ちゃんと、心の準備をします。
僕もあなたと、し・・・したいから。




「僕、あなたが、好きです」


嫌いになるわけ、ないです。
きっと一生、ないです。



「頼むから外で言わないでくれ、恥ずかしい」
「すみません。でも、好きなんです」
「分かったから」



もう、生徒は誰もいないから。
暗いし、誰も、僕達のことなんて気にして見ないから。

坂の下まで、
手を繋いだままで、いいでしょう?




thank you !

前回で限界を感じたはずの乙女古泉が再び・・・!
一気に関係が加速してます。最後までしようと思ってたのにダメでした。
古泉が相当女々しくてすいません。

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