決してそんな気なんてなかったんだ。
不可抗力、そう、それだ。神に誓ってもいい。
でも、ハルヒに誓うのは無理だ。
あいつにこんなことを知られたら確実に俺はこの世から消されるね。
むしろ朝比奈さんに知られても自ら消えることを願うさ。
長門なら・・・なんとかしてくれるかもしれないが、
話すことなど、できるわけがない!




満員電車



俺と古泉はハルヒより、電車で片道1時間の場所へ出張命令を出された。
以前もストーブをもらいに電気店まで行かされたことはあったが、
ここまで遠くに行かされるのは初めてだ。
今回も物を取りに行けという指示であり、
それ自体は朝比奈さんの新しい衣装なので異議はないのだが、
50着という膨大な量のため、男二人が駆り出されたのだ。
なんでも、朝比奈さんのエンジェルブロマイドを送ったところ、
ぜひ贈呈したいと言われたとか、なんとか。



結局どう見ても二人でも持ち帰れない量だったので、
新川さんを呼んで持っていってもらった。
最初からこうすれば、古泉一人でよかったじゃないか、と
思ったが、心無い人間だと思われるのもあれだ。言わないでおく。



衣装をつめこんだ車内は俺たちの乗るスペースがない。
明日、学校に届けてもらうように頼み、俺たちは駅へ向かう。

「なんだ、この人の量は」
「どうやら帰宅ラッシュの時間のようですね」

行きの電車では座れるくらいだったのに。
帰りがどうしてこんなに変わるんだ!
帰宅ラッシュなどとは普段無縁の俺にとっては、地獄絵図のように見えた。




「これは大変そうですねえ」


ああ忌々しい、そんな笑顔で言ったって大変そうに聞こえないぞ!
俺は目の前の阿鼻叫喚にどうしたものか考えあぐねているんだ!
しかし、強行突破しか、ないだろうな。俺も男だ。覚悟を決めるぞ。


心配なのはこのスマイル野郎だ。満員電車なんかに乗れそうもない。
弾き飛ばされて「困りました・・・」とか言いながら結局乗れたのが
終電だったとか、そんなオチになりそうな奴なんだよ、こいつは。




「古泉、俺の前に立ってろ」
「前、ですか?」
「俺が押し込んでやる」
「あまり痛くしないでくださいね・・・」
「気色の悪い言い方をするな!」



お前とコントをやってる暇はないんだ。早いこと乗っちまって、
さっさと帰りたい。さあ、電車が来たぞ。歯を食いしばれよ。


「うわっ」
「あだだだ」



古泉を俺が押すまでもなく、俺たちは人の波に飲み込まれた。
引き離されないように、途中で必死に古泉の手を掴んで、
なんとか二人まとめて、電車の連結部分にたどり着くことができた。
周りはスーツのサラリーマンばかり。非常に暑苦しい。



しかし暑苦しいのは、そんな周りの状況だけではない。
なぜか、俺たちは、向かい合ってほぼ密着している状態にて押し込まれていた。


「古泉・・・顔近いぞ」
「そう言われても、どうしようもありません」



古泉をやや見上げる状態になってしまうことでさらに腹が立つ。
これが朝比奈さんだったら、というのは想像するだけで頭がおかしく
なりそうなのでやめておく。古泉が相手で、よかったと思うべきか。


それにしてもこいつは、いいにおいがする。
シャンプーのにおいなのかなんなのか知らないが、
耳から首筋にかけて、近くにいても嫌じゃないにおいだ。
香水だったらもっとキツイだろうし、そんなものをこいつが
つけているとしたらそれこそ気色悪い。
俺の家のシャンプーとは違うな。もっと、軽い。




男の匂いなど嗅いでどうする!
俺はふと我に返り、あわてて顔を引き離した。
後ろのサラリーマンにぶつからないように。
古泉を見ると、なぜか顔を赤くして、俯いていた。
なんだその顔は、痴漢されている女子高生でもあるまいし、
・・・。
ってまさか、
いや、それはないよな。
男だし、ないよな。
な・・・?



「!!!!!」



ない、これはない!!



漫画の世界じゃあるまいし、こんなことは現実に起きるのか!?
こいつの肩越しに見える制服の、ブレザーの下・・・
を、どこぞから手が伸びていて、触っている。
ありえん。こいつはどう見ても男だぞ。俺よりでかいぞ。
男だと分かってて、触ってるってことか!?



やめろ、と言おうとして、古泉の表情を見て口ごもった。
ここで大事にすると、恥ずかしいのはたぶん、古泉だ。
相手がどこにいるのか俺からは見えないし、逃げられでもしたら、
「痴漢された男子高校生」だけがその場に残ってしまう。
それは、かわいそうだ。


しかしこのまま放っておくわけにも、いかないだろうよ。



「古泉!」


耳元で呼ぶ。びくっと肩を震わせて、目線だけを向けてきた。


「少しでも、動けるか?」


何度も、小さく頷いている。
よし、ちょっとでいいから動いて、その場から離れろ。
俺も、出来る限り、後ろに下がってやるが、下がれて、1歩だ。
しかたない。
古泉の腰に手を回して、こちら側に引っ張ってやる。
古泉も俺にしがみついて、というか、抱きついてきた。
ち、ち、近すぎる・・・!



古泉の肩には俺の顎が乗っているような状態で、
古泉の顔は俺の頭にくっついている。
さすがに、誰かしらん奴の、手も離れた。
そりゃそうだ、電車の中で抱き締めあってるような、
傍目から見ると危ない高校生には、手を出さないだろう。
そうだよな、古泉、これも計算の内なんだろ・・・。
いつもは使わない路線で良かった。
高校生などほとんど乗っていないし、
知り合いに見られる可能性も限りなく0に近いだろう。




しかたない、にしても、この状態はどうかと思う。
腰が想像以上に細いなだとか、
伝わってくる体温は低めで、やっぱり、首筋からいいにおいがするとか、
頭の中がどんどん古泉でいっぱいになる。
もう離れてもいいだろう、いい加減、そう思っているはずなのに、
腰に回している腕をほどけない。



ドキドキ、する。
ああ、認識しちまった。
無視していれば、そのままやりすごせたかもしれないのに。
そう、思ってしまうと、止まらなくなるじゃないか!

何なんだ、この状況は。
どうして、古泉を抱きしめてドキドキしなきゃならんのだ。



そして、
なんで、





俺も、お前も、興奮しちまってんだ。



ありえん!!!



両手で頭を抱えてもんどりうちたいところだが、
ここは満員電車の中だ。そんなことはできない。
古泉、お前もどうかしてる。
さっき触られてたときは、怖そうに怯えていたじゃないか。
どうして俺と、こうなってから、そう、なる!



人のことを言えないのは分かってる。



まだ、乗って、10分経ったころだろうか。
この満員具合は、一体いつまで続くんだ。
次の駅で解消されるならいい。
けど、到着したホームにはまた人が溢れかえっている。
日本の会社員の皆さん、働きすぎです。



「っ・・・」



古泉の腕に力がこもる。おい、なんだ、やめてくれ!
頭にかかる吐息が熱い。古泉、落ち着け、落ち着いてくれ。
お前がそんなんだと、俺も、落ち着けなくなる。




腰に回していた腕を背中に持っていく。
力を入れて強く抱きしめると、腕の中の古泉がびく、びくと震える。
交互に重なった足を、少しだけ動かすと、更に震えた。
やばい、これ、やばい。
古泉も震えながら、足を押し付けてくる。思わず俺も、体が跳ねる。
まずい、まじで、まずい。



「・・・っく・・・」







あー、ダメだダメだ、ダメだ!



「古泉・・・次、降りる」
「・・・・へっ?」




間の抜けた声を出すな。
迷惑そうに俺達をにらむサラリーマンは無視、
人をかき分けて、無理やり、名前も聞いたことのない駅で降りた。



「あ、あのっ・・・ここは?」
「しらん!!!」



知るか!
駅名すら読めん!


きょろきょろ辺りを見回したが、駅にもトイレはあるが、
どうも人通りが多い。改札の外、行くか。



「え、出るんですか?」
「で・・・出るって、何がだよ!!」
「いや、あの、改札を」
「・・・・・・そうだ」



お前だって平気じゃないくせに、そんな顔で聞くな。
容易に出るとか言うな。ああ、苛々する!
周りの目も気にせず、俺は古泉の手を引いて知らない街を歩いた。










結局、知らない街で最適な場所を見つけるほうが難しく、
つまりは、電車の中以上のことをやろうと思っていたんだが、
探している間に俺も冷静に戻り、闇雲に歩いたゆえに道に迷い、
道を聞いても駅からだいぶ離れてしまったようでわけがわからず、


「・・・呼びましょうか」


新川さんに二度目の出張をお願いしてしまった。






「結局、なんだったんですか?あんな駅で降りて」
「うるさい・・・」


しれっと聞かないでくれ。
分かってるだろ。
もう何も言わないでくれ。



何で俺、古泉と、あんなことに・・・!!



そんな気なんか、なかったんだ!
俺は・・・ノーマルの、はずだ!!





thank you !

思ったよりエロくならず、残念です!(なんだそれ)
痴漢×受はある意味ロマンですよね。
もうちょっとちゃんとした痴漢プレイも書きたいです(ちゃんと・・・?)


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