「じゃあ」


彼は僕に、膝をつくように指で指示を出す。
いつもは涼宮ハルヒが座っている椅子、
そこにいる彼の前に膝をついて見上げた。
僕だけに向けられる視線と声、これが、欲しかった。



「一人でしてみせろよ」
「っ!」


それはっ・・・、


「何でもするんだよな?」
「・・・はい」



僕が言うことを聞けば、嫌がらなければ、彼は満足してくれる。
きっと嫌わずにいてくれる。



大丈夫




彼の前でそんな姿を見せるなんて考えたこともない、
それにずっと・・・彼にされていたから、一人で、なんてしばらくしていない。
この1週間は辛かった。
彼を想ってするのは悪いことのように思えて、ひたすら、我慢した。
だから、きっと、できなくは、ない。


気は進まない。
だけど異常なこの状況に、興奮はする。服の上から触るだけで、鳥肌が立った。


「っふ・・・」



キスしてほしい、触って欲しい、
できれば、優しく。
恥ずかしくて彼を見ていられない、
だけどちらと目線を動かせば、
彼が僕をじっと見つめているのがわかる。
顔が熱い。
恥ずかしい。
でも、ドキドキする。
好き、だから、がんばります。



ベルトをはずして、少しだけ下ろして、
彼の、前に・・・もう何度も見られてはいても、
こんな形だと話は別だ。



「あ、うっ・・・」



右手でゆっくり動かす。
久しぶりの刺激で、すぐに出してしまいそうで、
なるべくゆるやかに、上下に動かした。



「古泉」
「・・・は、いっ」


僕の名前を、呼んでくれた。
嬉しい、です。




「こっち見ながらしてみろ」
「あ、あっ・・はいっ・・・」


こんなときの顔を見せろ、なんて、
こんなの、見られたくないのに、
でも、あなたが望むなら。


彼はあまり表情を変えない。
ただずっと、僕を見ている。
目の前で、一人で、あなたを想いながらしている僕を。



「は、あっ、ん、うぁっ」





いつの間にか右手が濡れている。
力がこもって、息があがる。
閉じてしまいそうな目を、強く意識して、開いた。
彼を見ていないと。



「ああっ、うっ、あ、も、もうっ・・・」
「早いな、お前」
「ごめ、なさっ・・・あ、や、ああぁぁっ」


我慢したかったのに無理だった。
意志に反して手はその動きを早めて、
彼が見ているところで、達してしまう。
恥ずかしい、だけど、気持ちがいい。





「古泉」



まだ、呼吸の整わないうちに、彼の手が僕を呼ぶ。
床に手をつきながら、もっと近くへ。
ああ、次は何をしたらいいんだろう、
なんとなく、動かない頭で考えて、彼のベルトに手をかけた。
そういえば、彼から、しろ、と言われたことがない行為が、一つだけあった。
どうして言われなかったんだろう。
よく分からない。
今、彼が求めているのは、これ?



下着の上から口付けて、舌を伸ばす。
あなたが、望むなら、僕は全然、構わない。




「古泉・・・それは、いいから」



髪が引かれる。頭を持ち上げられて、舌を離した。
しなくて、いいんでしょうか・・・
僕には、されたく、ないんでしょうか。



「早く脱いで、上に乗れ」
「・・・は、い・・・」



唾液を垂らして、自分で濡らして、彼をあてがう。
今までも何度かさせられたことだけど、
今は、怖くない。
彼は僕の全てを知っている。僕のどんな表情も知ってる。
いまさら怖いことなんてない。



「ふ、あっ・・・!!」



まだ、少し、苦しい。
だけど、彼に腕を回して、座って繋がっていられるのは、
すごく幸せで、胸が詰まる。
恐る恐る、彼の唇に触れるだけのキスをしてみると、
すぐに口を開けるよう舌が伸びてきた。



「んっ、うっ、ぁっ・・・んんん」



1週間していなかっただけなのに、中毒にでもなったのか、
彼の唇がもっと欲しい、もっと深くまで入りたい、
何も考えられなくなるくらい、彼で満たされたい。
そんな感情に駆られて、体を動かしながら、必死に舌を伸ばした。
このやり方だと、すごく、体の奥まで彼を感じる。


「あぁ・・・」



腰に手が回されて、更に、動きが早くなる。
ぎりぎりまで抜かれて、一気に奥まで突き入れられて、
そんなことを繰り返されて、体がおかしくなったんじゃないかと
思うくらいにめちゃくちゃに、感じた。



「あうっ、ああ、あああ、す、すごくっ・・・・」






いつもは彼女が座っている場所なのに。
神聖不可侵な、彼女が。
その場所で、僕は、彼女の、鍵となる人と。





「なんだよ、古泉」
「きっ・・・、気持ち、いいですっ・・・」



彼の顔が、少し歪む。
でも僕は、気にしていられなくて、腰を動かした。
前は、触ってないのに、もう、我慢できそうにない。



「バカだな、お前は・・・・」




耳元で小さく呟いたその言い方が、優しくて、
それは僕の希望から優しく聞こえたのかもしれないけれど、
嬉しくて、僕は彼を強く抱き締めながら、また、



「ああああああっ・・・!」



体を大きく震わせて、精を吐き出した。
同時に体の中に、あたたかいものを感じて、僕はしばらく、動けない。
座って抱きしめたまま、呼吸を何度も、何度も、繰り返す。




「古泉」
「・・・っは、い・・・」
「これ」



やっと腕を伸ばして、体を引き剥がすと、
彼の制服にべったりとついた、白い跡。


血の気が引く。





「ご・・・・ごめんなさい・・・!!」


何をされても、本当に、文句が言えない。
じっと俯いて、彼の言葉を待った。



「今日はお前の着て帰る。洗っておけよ」
「・・・・はい・・・・」
「この分は、明日だな」



殴られてもおかしくないと思ったのに、
彼は、なぜか、優しかった。





嬉しくなってしまう。
僕は彼が、好きだ。
やっぱり、好きだ。
明日から、どうなったって、僕は彼が望むなら、何でもしよう。





****************************




結局、
優しかったのは、その日だけだった。







「あぅっ」


彼女たちが帰った後、彼の手が僕を押して、
座っていた椅子から床へ叩きつけられた。


「い、いたっ・・・」



起きあがろうとするとまた、押しつけられて、
床に打ち付けた頭がじんじんと痛む。



今日の彼は不機嫌だ。
涼宮ハルヒにはなるべくそんな素振りを見せないようにしながら、
僕を苛々した目で見てきた。言われなくてもメールが来なくても分かる、
今日は、帰らずに残っていろ、と。



「い、いたい、ですっ」


強く押さえつけて、何度も何度も床に擦りつけて、彼は僕を傷つける。
頭は、危ないから、できればやめてほしい。
だけど、抵抗はしない。できない。



「あぐ、うっ・・・!」

彼は何も言わない。表情もほとんど変わらない。




僕はただ必死に、耐えて、痛いということだけは分かってもらえるように、
伝え続けるしかない。


「う、あ・・・」
「お前、腹立つ」
「ご・・・ごめん、なさいっ、あ、やだっ」


いたい。
そんな、ところを殴られたら、彼女にも見えてしまう。







今日はどうして怒っているんだろう、
彼女たちがいたときは何もなかったのに。
普段と同じで、僕がしたのは、あなたのゲームの相手と、
涼宮ハルヒに頼まれた今度のイベントの話を、彼女としただけだ。
彼が不機嫌になるような内容じゃない。



「ごめんなさい、ごめんなさい・・・!」



鈍い痛みを感じる額に、彼はさらに拳を押し付けてくる。
殴られたら場所の、傷をさらに深めようと。
悲鳴を上げたいくらいに痛い、けど、ダメだ。


手の甲を強く噛んで、悲鳴を堪える。
嫌われたくない。
彼の言うとおりにしないと。
彼がしたいように、しないと。













毎日、毎日、
同じような日が続いた。
涼宮ハルヒは上機嫌だ、おかげで閉鎖空間は現れない。
だから僕は毎日、彼と過ごした。
学校で、もあれば、僕の家にも、来る。
たまに、ふつうの会話もしてくれる。
だけど、いったん雰囲気が変わってしまうと、
彼が優しく僕を抱くことは一度もなくなった。
ただ痛めつけるだけのときもある。
制服が冬服でよかった、頭の怪我の言い訳は出来ても、
体についている痣は説明しにくい。








「やっぽー!あれれっ?古泉くん、なんか痩せたかいっ?」


廊下ですれ違った鶴屋さんにそう言われるまでは気付かなくて、


「そうですか?そんなことはないと思いますが」
「うーん?顔色も良くない感じだよっ。無理はだめだぞー!」


教室で席について、窓ガラスに映った自分を見て、少し驚いた。
どうして気付かなかったんだろう、ゆるくなった腕時計も、
ベルトも、いつからか二つも違う穴を使っていた。


ずっと食欲もない。
昼食はここのところ、とっていない。
睡眠時間も、短い、と思う。
眠る頃に明け方になっていることも多い。



どうして、だろう。












「・・・・・あ、」



彼に、いつものように突き飛ばされて、壁に体を打ちつけた瞬間、
喉の奥に違和感がこみ上げた。
そんなに、強くぶつかったわけじゃない。
なんだろう、と、堪えきれず吐き出すと、
手のひらが赤く染まった。


これは、血?



「あ、うっ、」



喉が、苦しい。
何度も咳き込んで、でも、部室の床に垂らしてしまわないよう、
必死に両手で押さえた。
くる、しい。



「すみ、ませ・・・」



彼を見ることもできず、口を塞ぎながら、部室を飛び出した。
トイレに駆け込んで、吐き出す。
真っ赤な液体が、汚れた洗面台に飛び散って、眩暈がする。
無視していた罰だ、ずっと、体は不調を訴えていたのに。


うまく吐けない。
生暖かくて気持ちの悪い液体が喉のあたりにあるのに、
口を開けても、出てこない。どうしたら吐けるんだろう、
今までにこんなことがなかったから、分からない。




「・・・古泉っ」


鏡を見ると、いつの間にか後ろに、彼がいた。
どうか、今は、殴らないで。
あなたの服を、手を、汚してしまう。
こんな口じゃ、キスもできない。
あなたに近づいたりできない。
早く、早く、治さないと。どうやって?
今夜はきちんと眠ろう、
食べたくなくても、食事をしないと、いけない。



「は、あ、・・・」




顔を上げていられたのは、ほんの数秒だった。
上を向いていると気持ちが悪い。
でも、舌を伸ばして吐きたくても、うまくできない。
ごめんなさい、もう少し待って、
僕、頑張りますから。
何度も口をゆすいでから、戻りますから。




「うあっ・・・!?」




口の中にいきなり、指が入ってくる。二本。彼の指だ。
それで舌を押さえつけられて僕は、さすがに抵抗した。
頭を振り回して、指を抜く。



「や、いや・・・、やめて、ください」
「お前・・・、いいから、我慢しろ。自分で吐けないんだろ」
「いや、いやです、くる、しい」
「我慢しろ」


頭が掴まれる。そしてまた、口の中に指を押し込まれる。
奥まで入ってこようとする指を舌で押し返そうとしても
力で勝てるわけがなくて、喉の奥に、指が入り込んでくる。


「っ・・・・!!!!!」




洗面台を握っている指に力が入りすぎて、爪が割れそうだ。
やめて、やめて、ください・・・!




どこかに彼の指が触れたとたん、
強烈な吐き気に襲われて、足の力も抜けて、ずっと、
吐きたかった分の液体を出して、その場にひざから落ちた。
それでも彼は指を抜いてくれなくて、
もう嫌なのに、何度も何度も、吐瀉させられる。








体に力が入らない。
頭の中がぐるぐる回っている。
彼に体を預けて、きっと、すぐに気を失う、と分かった。



「古泉」



抱きかかえる腕。僕を支えてくれている。
ぼんやり、最後に少しだけ、彼が見えた。



「・・・・ごめん」



気を失う直前に、彼は、

なぜかひどく悲しそうな顔をしていた。











それから、彼は、僕に怪我をさせるようなことはしなくなった。
同時に、血を吐くようなことはなくなったし、
それ以上腕時計がゆるくなることも、なかった。
相変わらず抱くときは腕を縛るし、口もふさがれることが多い。
やり方は強引で、いつも、自然と涙が出てくるくらい、辛い。
だけどずっと、いい。
殴られるより、突き飛ばされるより、
彼と繋がっていられるほうが、いい。





彼は、僕が涼宮ハルヒと話をしたとき、殊更、
彼女の希望を叶えようと僕が調整し始めると、機嫌が悪くなる。
彼女の言うとおりの行動を取るのが、嫌いらしい。
それが彼女を想うせいなのか、それとも。
一つの勝手な考えが、浮かんだ。



ずっと辛くて開けていられなかった目を、開けた。
ずっと恥ずかしくて見ていられなかった彼を、見た。
終わった後に僕に向ける顔は、いつも、辛そうだった。
知らなかった、こんな顔をしていたこと。
今まではずっと、泣きながら俯いているばかりだったから。







僕はずっと、何か間違っていた?





あんな始まりだった。
涼宮ハルヒの名を出して、何でもするからと、彼に抱かれた。
好きだと伝えたこともない、そう、常に彼女の機嫌を気にして、
彼の前でもとことん彼女に尽くした。

もし、彼が。
もし、そうなら。
どう思うかなんてことは明白だ。


契約破棄を取り消した日、彼は、
僕の気持ちに気付いたんじゃないかと思っていた。
そしてきっと、そうだったんだと思う。
だけど次の日僕は、ほとんどの時間を彼女との会話に使った。
それで・・・




きっと彼に聞いたところで、本心を教えてくれることはない、
だけど、
もし不安に思っているなら。
そう、思っているなら。
僕は伝えよう、何も、不安になる必要はないということを。








「僕は、あなたが、好きです・・・」



言うタイミングなんて、いつでもよかった。
終わった後なら、いつでもよかった。



「だから、大丈夫・・・」



彼が辛い顔をしているのを見て、僕は、
腕を伸ばして頬に触れて、伝えた。
もっと早く言えばよかった、
拒否されたっていい、嫌いだと言われてもいい。
それでも彼は僕を離さない。
縛られるのは痛いし、慣らされないうちに入れられるのも
辛くて苦しくて嫌だけど、あなたが望むなら、構わない。




「あなたがしたいことを、してください・・・」





彼は、何も、言わなかった。
酷い言葉は何一つ、言わなかった。









thank you !

これ・・・衝動に繋がりますかね・・・?
かなり強引に持っていってしまいました!ごめんなさい!



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