たまに親の帰りが遅くなるとき、古泉がウチに来て、
俺と妹の飯を作ってくれたり、する。


「ハンバーグがいい〜!」
「はい、かしこまりました」



スーパーに行くときは妹のリクエストで右には俺、
左には古泉が手をつないで並んで歩くことになっていて、
傍目からどう見えるかは分からないが俺としては色々と意識しちまって顔が赤くなる。


二人はそんなことは気にもせず、楽しそうにしているから、何も言えない。





魔法




「先ほど見ていたカードは、これではありませんか?」

たくさんのカードの中から古泉が引き抜いて見せたのは、
確かにさっき俺たちが選んだカード、ハートの3だった。


「すごい、すごーい!古泉くん、魔法使いみたい!」
「お褒めに与り光栄です」
「もう一回やってー!」
「ええ、では」


何で分かったんだ、カード・・・あんなにぐちゃぐちゃに混ぜたのに。
イカサマが出来ないように、見張っていたのに。
透視能力は、ないはずだよな?




ここで一つ言っておきたいが、俺たちは友人という枠を超えてはいない。
俺が古泉に好意を抱いてしまっているのは、
く・・・悔しいが、認めざるを得ない。
古泉もそうなんじゃないかと希望的観測を持っていた時期もあり、
なんとかこいつに言わせようと何度も何度もチャンスを作ってみた。
部室でも二人きりになるようにとか、
こいつの登校時間に合わせて坂を登り始めてみたりとか、
休日に映画に誘ってみたり、
さらには家に遊びに行くやらウチに呼ぶやら、
これ以上はないというくらいチャンスを与えたんだ。
なのに何も言ってこない。
心臓が飛び出そうになるくらい顔を近くに寄せてくるくせに、
キスはしてこない。あと、数センチなのに。




いいけどな。
ここにお前がいて、
笑ってて、俺も、妹も楽しくて、
飯もうまいし、いつも手品とかゲームとか準備してきて、
献身的で、

ああでもこれは、
全部機関からの指示でやってるのかとか思うと、
どこか痛くなるけど、それでも。
こうして近くにいられるなら、いいけど、な。



母親が帰ってくると古泉とバトンタッチだ。
礼を言われるとき、こいつは他では見せない顔を真っ赤にして照れた笑顔で応える。
聞いた話では母親とは幼いときに別れ、だから、
母親世代に優しい言葉をかけられるのに慣れていないという。
そんな顔を見るとなんともいえない気持ちになる。




「それでは、失礼します」
「古泉くん、また魔法、見せてね!」
「はい、また違うものをご用意します」

妹と話すときは膝を曲げて、目線を下げるのもこいつらしい。

「今度はご飯、一緒に、食べに来てね」
「はい、ぜひ」
「じゃあ俺、送っていくから」



あの曲がり角まで古泉を見送る、すれ違う人はあまりいない。
何度も何度も、そう、作ったチャンスの分だけ、
俺だって気持ちを伝えたかった。
言えばどうなるか、今は分かるから、言えない。





俺を好きになればいいのに。
機関とかハルヒとか忘れるくらい、
好きになればいいのに。


あまりに障害が大きい上に意味不明すぎるから、
強引に口説き落とそうとか、思えないんだ。


「はあ・・・」


それほど好きじゃないとかそんなはずはない。
今だって手に触れたいし背中に腕を回したい。
ずっとずっと、変わらず・・・いや、強くなるばかりだ。



「どうしたんですか?ため息なんて」
「あ、いや。特に意味はない」


いいんだ。
今のままでも。
いい。



「あの、もしよかったら、これから僕の家にいらっしゃいませんか?」
「・・・何?」
「手品、最近凝ってるんですが、涼宮さんに見せられるレベルか
 分からなくて・・・明日見せられれば、謎が見つからなくても
 機嫌が悪くならないかな、と。練習にお付き合いいただけませんか?」




また痛い。
心臓の後ろのあたりが、痛い。
ハルヒか。
俺を家に呼ぶ理由はハルヒか。
分かってる。
分かってる。
それでいいんだ。




「・・・いや、これから行ったら帰りが遅くなるから」
「泊まっていただいても構いませんよ」




無神経だ。
俺の気持ちを知らないのか。
知ってて言ってるんだろ。
泊まったりなんかできない。耐えられるわけがない。




「親に言ってないし」
「電話をされては?」
「・・・。お前がしろ」
「僕が、ですか?」


無理だろ、
言おうとして古泉に目をやると、すでに携帯を操作している。
待て、待て!


「バカ、冗談だ!」
「えっ?もう、かけてしま・・・あ、こんばんは。古泉です。
 実はですね、明日一緒に早くから出かけるので、僕の家に・・・」


伸ばしたやり場のない手が宙を舞い、
口は開きっぱなしで、何か言わないと、
と、ぐるぐる頭を回しているうちに会話が終わってしまった。



「許可をいただきました」


笑顔で、古泉は、言った。















「ん、んん、んううっ」


手品なんかいらない。
そんなもので誤魔化させたりしない。




何も疑わなかった。俺が手を拘束しても、
「どんな手品ですか?」
なんて笑顔で言いやがった。

俺が出来ると思うか?
コツコツそんな練習を、すると思うか?
思っていたらお前は、俺のこと、なにも、分かってない。



かかっていた制服のネクタイを手にとって口を塞いだあたりで、
やっと古泉の表情が曇った。



そのまま押し倒して、見下ろす。
まだ今なら戻れる、冗談だと笑って解けば、
きっとまたこいつは笑って飯を作ってくれる、
くだらないゲームだって、できる。



だけど指は離れない。
シャツのボタンを外して、中に着ていたTシャツをまくりあげて、
指を這わせる。
閉じられた口から聞こえる言葉にならない声と俺を見る目は、
戸惑いと恐怖で怯えている。



胸の突起に爪を引っかけると、体が跳ねる。抗議の声も、大きくなる。
もうやめられない。やめる理由なんかない。
どうにでもなればいい、こいつが俺を好きにならないなら、
ハルヒや機関を裏切れないなら、
無理やりこうするしかないじゃないか。
どうせハルヒにも機関にも報告できないだろ。
もういい。
好きにならないならいい。
身勝手に俺を振り回すお前に、
俺だって勝手なことをしても、いいはずだ。



体を押さえつけて舌を滑らす。
何度寝る前に考えただろう、こんな行為を。
刺激を受けて反応している、丁寧に舐めて、吸って、噛んでやると、


「んうっ!!」


声を上げて、顔を赤らめた。
口を塞いでいるからキスはできない、それでも、
ネクタイの上から唇を押し当てて、指は唾液でぬめらせながらくるくると回す。
唇とは全く質感が違う、でも、
ネクタイに染み込むこいつの口から出た唾液とか温度とか、
そんなものだけでも感じたいんだ。



「んーっ、んん、うっ」



何言ってるかわからないぞ、
お前のことは何も、わからない。



瞼も、泣きそうな目元も、額も、耳も、頬も顎も首筋も、全部、舐めた。
びちゃびちゃに舐めたら溶けてしまえばいいのに、
なくなってしまえばいいのに。



「うっ、んっ、んっ、ん」



足の間に手を伸ばして、じたばたと抵抗する足を封じて、
息をするのを忘れるくらいドキドキしながら、何度も何度も撫でた。
気付いたら古泉の目には涙が溜まっていて、
少しだけ力を入れて間を押してやると、
ぎゅっと目を閉じた瞬間に零れ落ちる。


泣き顔なんて初めて見る。いや、さっきから、見たことのない顔ばかりだ。



ベルトに手をかけて、ゆっくり下ろす間、
古泉はさらに涙を流して必死に何かを訴えながら、首を振った。
いつも整った髪がぐちゃぐちゃだ。
胸が痛む、こんなことはしたくない、そんな気持ちも、あるのは事実だ。





脱がせても古泉の体は萎えたままで、俺とは正反対だ。
当たり前か、こんな怖い思いをしていて、勃つはずもないか。
それにお前は、俺を好きじゃないからな。



唾液を手のひらに取って、古泉の足を上げて、塗り付ける。
初めて見る古泉の身体は、思っていた通り細くて白くて、
なめらかだ。そして、ここは、硬く、きゅうと閉じている。


どうしたらいいのかはよくわからない、きっと痛くしてしまう。






「なあ、古泉、力抜いてくれ」



やっと出た言葉はそれだった。
痛くしたいわけじゃない、できることなら、気持ちよくしてやりたい。


「んん、ん、んんっ」


でも古泉は首を振るばかりだ。
力を抜くような気配もない。
痛くたって知らないぞ、俺は、俺は。





「んうーっ・・・!!!」


人差し指を、入れる。
たっぷり濡らしたのに、指まで痛い。
古泉は目を見開いて、塞いでいてもこんなに出せるのかというくらい大声で叫んだ。


ぼろぼろと涙を流して、俺を見る。
言わなくても分かる、
どうしてこんなことを、
やめてください、どうか、もう、やめて。



抜いては濡らしてまた入れて、それを繰り返しているうちに、一気に古泉の力が抜けた。
力を入れ続けていることがもう限界だったんだろう、
その瞬間に指が奥までずぶり、と飲み込まれた。


悲鳴を上げながらも古泉にはもう抵抗するだけの力が入らない。
二本目も突き入れて、なるべく柔らかく受け入れられるように、押し広げていく。






「んんうっ、んん・・・っ!」



力が入らなくてもずっと声は上げていた。
きっと声、掠れちまうな。
明日ハルヒに、何て言い訳をするんだ。



「古泉」



声が聞きたい。
キスがしたい。



「大声出すなよ」



古泉がやっと首を縦に振ったのを見てネクタイを外してやる。
何度も呼吸をして乱れたそれを整えてから、
やっぱり少し掠れた声で、古泉は予想通りの言葉を並べた。



そんなものはいらない。
頭を押さえつけてキスをする、
柔らかくて熱くて、一気に気持ちが爆発した。

左手で口を押さえて右手で、古泉に、あてがう。
首を振ることもできないくらい強く頭を押しつけられて、
古泉はがたがたと震えて泣いている。




力を入れて、押し込む。やっぱりキツい、これだとこっちまで痛い。
だけどもう待てない、我慢できない、
痛くてもなんでもいい、
強引にぐ、ぐ、と、押し進めていく。



押さえた手の下で古泉が震える。
体にも手にもさらに力を込めた、古泉の声が漏れないように。



「あ、っく・・・こい、ずみっ・・・」





痛い。
体だけじゃない。


俺は古泉を抱いている。
すべての今までの幸せを壊して。
魔法みたいだ。簡単に消せる。
消すのなんて簡単なんだ。



途中まで入れてから、さすがにキツくて、引き抜いた。
古泉の姿を見ながら自分で動かすと、あっという間に吐き出した。
それをまた塗り付けてやると、さっきよりも柔らかく、
するりと指を受け入れるようになる。
また俺は痛いほどに反応していて、すぐに挿入すると、
古泉の体はすんなり俺を受け入れた。キツいのには変わりがないが、気持ちもいい。



しかし古泉はそうではないらしく、涙は止まらない。
少しだけ抜いて、強く奥まで突き入れる度、涙が溢れている。




足を左右に広げて左足だけ押さえて、
奥まで、できるだけ奥まで届くように打ち付けた。
出したばかりなのにありえないくらいの量が出て、全部、古泉の体の中に流し込んだ。









「うっ・・・っく、うぅっ・・・」


終わってしばらく、口を押さえたままの左手を離せなかった。
やっと離すと古泉はむせながら息を繰り返して、
嗚咽まじりの泣き声を上げた。
ずっと背中の下に押しやられていた腕は結んでいた箇所が真っ赤にこすれて痛々しい。
両手で口を塞いで、もう、1時間くらいずっと、泣いてる。


そのまま俺も何も言わず、シャワーを浴びてから、ベッドに横になった。
古泉もふらふらとシャワーに向かっていき、
俺は寝たふりをしようと目を閉じたらそのまま、意識を失った。













「おはようございます」


焼けたパンのにおいがして目がさめる。
見慣れない天井の部屋で起きあがると、
古泉が朝食の準備をしていた。


「あと少しで目玉焼きができます、顔を洗ってきては」
「・・・おう」



普通だ。
まるで今まで通りだ。
ここで朝を迎えるのは初めてだが、こうなるだろうという予想と同じだ。
古泉は俺より早く起きて、朝食の準備をする。
それはいいにおいがして、味も、いい。




何もなかったわけじゃ、ない。
あいつの声は、掠れている。
だけど、何もなかったように、振舞っているんだ。



「醤油とソース、どちらがいいですか?」
「醤油だな」
「僕もです。・・・今日は良い天気になるそうですよ、探索日和ですね」




そっか。
お前は何もなかったことにしたいんだな?


昨日のことも。
俺のお前への感情も。





待ち合わせの駅まであと少し、
ハルヒや朝比奈さん、長門の姿はすでに見えている。
やれやれ、俺と古泉で奢りか。二人で割り勘ならいいけどな。


手を振る古泉が振り返ったとき、俺は少し手を引いて、
耳元で伝えた。




「俺は忘れないからな、昨日のこと」






消させたりしないさ。お前が勝手に消すことなんか許さない。
俺の気持ちは変わらないしきっとまた、同じことをする。
やっぱりお前の体も、好きだから。




「そ、れ、は・・・」



忘れていない証拠に古泉が青ざめる。
俺は走ってハルヒたちに駆け寄って、その先を聞かなかった。




普段通りに振舞って、きっとこれからも、
妹の手をつなぐし部室では笑って俺とゲームをするだろう、
だけど俺は俺で、やらせてもらう。
なんだ、
古泉が俺を好きになるより、
こっちのほうがどっちも手に入るんじゃないか。





きっと、俺の気持ちを打ち明けることは、
ないんだろうけど。


thank you !

ゲーム戸惑・手品ネタで思いついたのがコレという・・
あれ?最初はBLっぽい空気で進めていくと思ったのに?
おかしいなあ。。。


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