僕は、走っていた。
階段を、駅までの道を、改札までを、電車から降りて、
彼の家までの道を。




土曜日の朝に来たメール、

「風邪引いた。家族が出かけてる、見舞いに来い」

涼宮さんからの呼び出しも今日はかかっていないし、
もしかかっていたとしても、
今日ばかりは彼を優先させてもらいます。




彼が待っている。早く、早く、行かないと!




走・恋せよ乙女





「おー」
「お邪魔、します!あの、起きてて、大丈夫なんですか?」


パジャマ姿で(ああ、新鮮です)玄関に出てきた彼は、
気だるげに鍵を閉めて、スリッパを1組、差し出してくれました。



「だるいけどな、別にそこまでひどくはない」
「そうなんですか・・でも、無理はしないでください。
 ええと、お腹空いてます?何か、作りますけど」
「ああ、空いてる。頼んでいいか?」
「勿論です!」



彼をベッドに横にしてから、僕は持参したエプロンをつけて、キッチンへ。
彼の家で料理をするなんて、緊張します。
でも、彼のために何かできるなんて、幸せです。
僕を頼ってくれたのも、すごく嬉しいです。



なんでも使っていい、とのことでしたので、まず、ご飯を炊いて・・・
風邪を引いているので、きっと、おかゆのほうがいいですね。
水、多めにしておきます。
味付けは、冷蔵庫にある梅干でいいんでしょうか。
喉が痛かったら、あまり刺激のあるものは、良くないですよね。
では、こちらの鮭を拝借することにしましょう。



何度も目の前までは来たことがある彼の家。
まさかこんな形で入ることになるとは、驚きです。
ご両親がいらっしゃれば、ぜひとも挨拶したかったのですが・・・
もう、妹さんは仲良くさせていただいています。
とても素直で、元気で、可愛らしい方です。
彼とは少し、性格が違うような気もします。でも、どちらも、好きですよ。



鮭が焼ける間、ご飯が炊ける間、居間を眺める。
家族写真ですね、これは。彼はいつものように、あまり笑ってません。
カメラを向けられて笑える奴の気がしれない、と前に言われました。
僕は得意ですが・・・。
それでも、微笑ましいものです。

うらやましい、な。








「失礼します」


ドアを小さくノックして、声も潜めてドアを開ける。
横になっていた彼はそれでもすぐに気付いて、起き上がった。


「起こしてしまいました?」
「いや、起きてた」
「よかった。あの、ご飯、できました」
「悪いな」



手を引きながら階下へ降りる。
触れた手はあたたかい。いつもよりも温度が高い。
いつも少し、僕より体温が高いけど、今日はもっと、ですね。


「どうぞ。おいしくできていれば、良いのですが」



味見はしましたが、緊張します。
いつも、僕の家でご飯を食べてくれるので、大丈夫だと思いますが、
口をつける瞬間は毎回、ドキドキします。
彼のためにたくさん練習しました、いろんな料理を覚えました。
彼の好きなものも知っているし、もっと、増やしたい。
ああ、僕、あなたが、好きです。
あなたのことをもっともっと知りたいです。
もっと、大好きになりたいです。



「またあっちの世界にいってるな、お前」
「・・・えっ!?」
「うまいぞ」



な、何を言われたんでしょう??
お、おいしいと言われたところは聞き取れました。
よかった。






1滴も残さず食べて、薬を飲んで、彼はもう一度、横になる。
僕は少し汗ばんだ額を冷たいタオルで拭いてあげてから、食器を片付ける。
片づけが終わってから部屋に戻ると、彼は眠っていた。
布団を彼の肩までかけて、隣に座る。
辛くないでしょうか、早く、治りますように。



彼の部屋は整頓されていて、無駄なものがありません。
僕の部屋とはまた雰囲気が違う。少し、大人っぽい。
いつも、彼がいる空間。
彼が生きている空間。
そこに今日は、僕がいる。
ど、動悸がします・・・!





「・・・こいずみ・・」
「あ、は、はい!」



胸を押えていると、背後から彼の声が聞こえてきて、体が跳ねました。
別に、悪いことをしていたわけでも、ないのに。



「大丈夫、ですか・・・?」




頬が赤いです。触れてみると、熱くて・・・額も、熱いです。
持ってきておいた洗面器と氷水で、タオルは冷やしてます!


頬と、額と、首元を拭ってから、もう一度、タオルをしぼって、



「!!」



額に、のせようと、思ったんですが。
腰に手が回ってきて、だ、だ、抱き締められて、います。



「お前、冷たくて気持ちがいいな」
「そ、そっそそ、そうですか?」



あ、あなた、は、熱すぎです。



さっきまでドキドキしていたのに、もっと、鼓動が早まって、
心臓が口から出てきそうな気がします。
わ、耳、舐めないで、ください・・・!



「ふ、あっ・・・!」




すごく熱い。
舌先も、吐息も。
この、タオル、どうすればいいんでしょう?
ダメです、ちゃんと、寝ていないと・・・
早く、治さないと・・・




「古泉」
「は、いっ」
「すげー、したい」





!!!!!!!





タオルが落ちる。
濡れているのに、布団の上に。
拾わ、ないと。



ああ、体が、動かない。




「こいずみ・・・」
「あ、のっ、え、ええと、」
「お前を抱きたい」





あああああああ・・・・・





僕の、熱まで、上がりそうです。
ダメです、ショートしちゃ、ダメです。
ここで気を失ったら、彼に迷惑をかけてしまう。
氷水に頭を突っ込みたい気分です!

あなたは、こんな、熱があるのに、なんてことを!!







「だっ、駄目です。ちゃんと、眠って、治さないと」
「嫌だ」
「い、嫌って・・・!」
「やらせてくれ」





一度、部室で、そんな雰囲気になって、僕はできなかった。
彼は、待つと言ってくれて、
僕は、そんな彼に甘えて、のんびりと心の準備を・・・
そう、もう、あれから、2ヶ月くらい、経っているような気もします。




「あの、でも、今は、熱・・・」
「もう、我慢できない」





僕の、せいです。
熱で、きっと、本音が出やすくなっているんでしょうか。
こんなに待たせてしまって、すみません。
だけど、今日は、風邪を引いているんですから、
無茶なことをしては、駄目だと思います。




「すみ、ません・・・」
「お前、俺のこと、好きじゃないのかよ」
「そんな、好きです、よ」
「俺も好きだ」
「え、あ、あ、は、い・・・・」
「好きなんだよ」




いつの間にか、頭が枕についている。
熱い彼の手のひらが頬に当たって、
強く押さえつけられているわけでもないのに、動けない。




だ、駄目です。




「古泉、古泉」
「治して、から・・・」



目を、合わせられない。
彼の目を、見ていられない。
そんな、真剣な目で見るなんて、駄目です。
怖いんじゃなくて、
したくないんじゃなくて、
今は、今は、駄目なだけなんです。



「っ・・・!」



逸らした視線を追って、彼が近づいてくる。
唇の端に舌が触れて、熱くて、鳥肌が立った。




「こいず、みっ」



名前を呼ぶ彼の声は、余裕がなくて、
熱のせいなのか、それとも。分からない、です。
頬に触れた、それから頭を撫でる指に、
力がこもっていて。彼の気持ちが、伝わってくる。



ドキドキして、本当に、ドキドキして、
体が熱くて、胸の奥からすごく熱くて、
このまま、流されてしまいそうです。



でも、あなたは、今日は・・・




「いや、ですっ・・・!」



なんとか腕を伸ばして、体を離します。
触れた体だってこんなに熱いのに、やっぱり、できません。
ちゃんと治して、元気になってほしいから。
ああ、なのに、どうして、そんな顔をするんですか?








「・・・・・・・・・分かった」




そんな声を、出さないで、ください。
あなたがこんな状態じゃ、無理じゃないですか。







「あの、治ったら、いいです、から」
「いや、悪かった。すまん、寝る」




彼は、壁に体を寄せて、布団を頭までかぶってしまいました。
落としてしまったタオルをもう一度濡らして、額にあてたいのに。





ベッドから離れても、胸が高鳴ったまま、戻らない。
全然、元に戻りません。
僕も、僕も、本当は、あなたと。
いやじゃ、ないんです。




僕は、2回もあなたを、拒否して、
あなたは2ヶ月も待っていてくれたのに。
ごめんなさい。
あなたの、全部が好きなのに。
きっと、・・したら、あなたのことをもっともっと、
好きになると思います。
好きになりたいです。









次はきっと、僕から。








thank you !

キョンをむらむらさせるのが楽しい。ただそれだけ(それだけかい)
そろそろ結ばれてもよさそうな。。。(´∀`)


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