ハルヒも、朝比奈さんも、さすがの長門も、驚いた。



一世一代の勝負を賭けたんだ、
ここで命果てるか、それとも幸せを掴み取るか。



ある、晴れた日のことである。






乾杯!






「結婚する」






土曜、SOS団活動日。
全員、集合。
天候、快晴!


ハルヒの話が一段落ついたところで俺は、切り出した。





「え?」


たっぷり10秒は沈黙が続いたのちに、ハルヒは間の抜けた声を上げた。





「結婚?」
「そうだ」
「どなたが、するんですか?」


朝比奈さんが、のんびりとした口調で尋ねてこられた。
すみません、朝比奈さん。
以前あなたにいただいた、お嫁にもらってくれますかという問いに、
こんな形で答えることになってしまいました。



「俺が、です」 




『えええええっ!?!?!?』





ハルヒと朝比奈さんの声がハモったのを聞けたのは、
後にも先にもこれ一回きりだったように記憶している。
いつもの喫茶店で言わなくてよかった。
この音波で店ごとつぶれかねない。
しかし屋外、この公園で言われても、行きかう人に
振り返られてかなり注目を浴びてしまっているが、な。



「ちょ、ちょ、ちょっと待ちなさい!!」
「ど、ど、どういうことですかぁ???」
「・・・・・・予測不可能な事態」



長門も、冷静に驚いた旨を伝えてくれた。
予想通りの展開である。
とりあえずまだ、俺は生きてる。続けられそうだ。




「キョン、結婚って言葉の意味、わかってる?
 使い方、間違ってない?」
「・・・意味は男女が夫婦になること」
「あー、分かってる。分かってる。ちょっと、間違ってるかも、しれん」
「ちょっと、って何よ」
「あのっ、あのっ、お、お相手は・・・?」




ああ、朝比奈さん、あなたからその質問を受けることになろうとは。
ハルヒも、「そう、それが一番問題よ!」と、
いつもより少し勢いを失いつつも突っかかってきた。



「相手、いたの?あんた、そんな暇、なかったじゃない」



そりゃあ、毎日毎日SOS団の活動をこなし、土日もお前にこき使われ、
それなりに楽しい日々ではあったが忙しい日々だった。
そんな中、全く別の場所で愛を育もうとしていたならば、それは、
谷口を総理大臣に仕立て上げるより難しいことだっただろう。




「まあ、なんだ。1年の時から、付き合ってる」



顔が熱い。
こんなことを言う日が来ようとは。
いやしかし、俺は決意したんだ。
この日に、言うのだと。



「そんな・・・!!!嘘でしょ?ありえないじゃないっ!」
「そ、それって、涼宮さん、じゃないんですか??」
「あたしじゃないわよ!なんであたしなのよ!まさかみくるちゃ」
「そんなわけないじゃないですかぁ、あ、あたしだってぇ・・・」
「じゃあ有希!?」
「・・・可能性は0%」
「ええと、じゃあ、誰よ!まさか、鶴ちゃん!?」
「つ、鶴屋さんはそんなこと一言も・・・」
「・・・違う」





ああ、実に騒がしい。
そして、この方々が本当に、全く、本来の相手を、
予想も想像も妄想もしていないんだなということが分かり、
ますます、言いにくい。





そろそろ、隣にいるのに一言も話さないメンバーのことを
気にかけてやってもいい頃だと思うが、
どうやらそんな余裕はないらしい。
話は喜緑さんや森さんや佐々木、果ては橘にまで回り、
各関係者の方々に謝罪をしなければならないかとも思うほどである。





「嘘ついて騙そうって魂胆ね、キョン?残念だけど、
 今日はエイプリルフールじゃないのよ!」


その方向で最終的にはまとめられてしまったらしい。
知ってるさ。今日が何月何日か、ってことくらい、
誰よりも俺が一番よく知ってる。4月1日じゃ、ない。




「嘘じゃない」
「相手は誰よ?あたしの知らない人?」



ハルヒや朝比奈さんは、非常に疑い深いまなざしを向けていて、
今にも大規模な閉鎖空間が発生しそうだ。待て、もう少し、待て。
長門は相変わらず無表情ではあるが、長年培った経験により、
楽しんでいるような雰囲気を読み取れる。
お前は、気付いたんだな。




「いや・・・お前も、よく知ってる奴だよ」
「あたしが知ってる選択肢は全部消えたわ」
「まだいるだろ」




はっきり言ってしまえ、言えば楽になる。
何度も唾を飲み込んで、
胸に手を当てて、
咳払いをして、
深呼吸をして、
心を落ち着かせて、

ああ、落ち着かん、
ダメだ、
長門、お前から言ってもらえないものだろうか・・・?






「・・・ユニーク」



そこでその一言かっ!






「誰よ、はっきり言いなさい!!」
「キョンくん、あたしも、知りたいですぅ」
「ええと、ですね・・・」



拳を握る。
目を逸らしては、駄目だ。
何度も昨日、練習したじゃないか。




「言うぞ」
「言ってみなさいよ」
「き、聞きます」
「・・・言って」




隣を、見る。
真っ赤な顔で、こっちを見ていた。
いつもは長ったらしいフォローをするくせに、
こんな場面は弱いな、お前。
一言も話さないなんて、ありえないだろ。
しかし俺が言う、と言ったんだった。
今日、この日に。



お前が、18になる日に。









「・・・・古泉と」





男同士で結婚ができないなんてことは百も承知だ。
だが付き合っているなんて言ったところで何の意味もない。
これ以上ハルヒや、もしかすると朝比奈さんにも、
余計な希望を抱かせないこと、そして、
古泉を不安にさせないこと、色々考えて、この結論に至った。
本気だということを、分かってほしい、そして、
できることならハルヒ、お前に理解してほしい。
そうじゃないと俺たちは、たぶんお前に消される。
しかしそれでもいいと、思ったんだ。
お前に認められないんだったら、それでもいいと、二人で話したんだ。




泣きそうになっている古泉の手を握ってやる。
そんな顔を見せるな。それは、俺の前だけにしろ。

ハルヒはまじまじと、その、繋いだ手を見ている。
朝比奈さんは言葉も出ないようで、ただ口をぱくぱくと、
えさを待つ金魚のごとく開いたり閉じたりしていらっしゃる。











「おめでとう」


長い沈黙を破ったのは、長門の、小さな一言だった。







そこからは夜が更けるまで質問責めであり、
俺たちがぐったりするまで、喋り続けさせられた。
もっとも、意外なことに閉鎖空間は発生せず、
俺たちは無事、生きている。
そう、賭けに、勝ったんだ。








「最初はびっくりしたけど、話を聞いたら納得したわ。うん。
 いいんじゃない?あたしは普通の人間には興味ないから」


「す、すっごく、びっくりしましたあ・・そんなことあるのかなって。
 でも、ふたりとも、幸せそうで。。。あたし、キョンくんのこと・・・
 ううん。なんでもないんです。幸せに、なってください」


「ユニーク。・・・非常に興味深い。今後も観察を続ける」


「キョンくーん、古泉くーん、めがっさおめでとう!!もうね、
 みくるから聞いたときはあたし、お腹抱えて笑っちゃったさっ!
 あっ!悪い意味じゃないにょろ?あたしは前に遭遇したしねっ。
 よかったねえ、皆に言えて!あっはっは!」


「キョン、俺は・・・正直、度肝を抜かれている。しかし、お前が
 選んだ道だ。俺にとやかく言う権利はないだろう。ただ一ついいたい。
 古泉のような男を、俺のライバルから退かせてくれたことには
 感謝する。・・・ごゆっくり〜!」


「ええっと、キョン、と、古泉くん、おめでとう。これ、何言えばいいの?
 お祝い?うーんとね、びっくりしたよー、でも、面白いから、
 いいんじゃないかなー。今度、手料理でも、食べに行かせてください。じゃあねー」





ハルヒが撮ったというビデオメッセージが家に届けられ、
俺たちは顔から火が出るんじゃないかというくらい恥ずかしい思いをした。
谷口、国木田には言ってなかったのに。
そりゃまあ、時期を見計らって、とは思っていたが、ハルヒ、お前が言うのかよ。


更には、どうやってコンタクトを取ったのか?
森さんや新川さん、多丸兄弟までメッセージを残しており、
古泉は溶けてなくなるんじゃないかと思うくらい汗を流していた。
そして、その汗は冷たかった。
古泉、ドンマイ。








そんなわけで俺たちは今、一緒に住んでいる。
戸籍は別々だが、鶴屋さんの力を借りて、なぜか式まで挙げた。
それはそれは恥ずかしくて拷問のようだったのだが、
その話はまた別の機会に、回しておこう。






幸せかって?
そりゃ、言うまでもないことだ。









thank you !

「駆落」の後に読むと切なさ倍増!!な話になりました!(どーん!)
ハルヒが障害になる話が普通なんですが、あえての公認。
いっちゃんの誕生日が4月1日じゃありませんように!

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