どうしようもない僕に





「10月31日が何の日か分かっているわね?
 当日、SOS団は全員仮装すること!衣装は各自持参!
 つまらなかったら死刑だから!!」




10月下旬、大方の予想通りのハルヒの達しに従い、
俺と古泉はデパートのイベント用品売場にやってきた。
売場はオレンジと黒の2色で染まっていて、
ところせましとかぼちゃの形をしたアイテムが置かれている。
10月31日、ハロウィン。
日本ではそこまで浸透していないイベントの気がするが、
それでも無理やり盛り上げようとしている、という印象だ。



「衣装は・・・こちらですね」



まず目に飛び込んできたのは魔女のような衣装で、
どこかで見たことがある。ああ、長門か。
長門は学園祭のあの衣装でいいんじゃないか?
自前なのかどうなのか、知らんが。

古泉、お前はあのときの衣装じゃ、ダメだろうな。


「そうですね、割と地味でしたから。男性向けはこちらのようですよ」


指差す方を見ると、死神だとか海賊だとか、
フランケンシュタインのような衣装など、各種丁寧に揃えられている。
コスプレを楽しむなんぞ、朝比奈さんのを見るだけで十分なんだが、
どことなくテンションが上がらんでもないな。





ぼんやり目線を動かしていると、古泉がかぼちゃの帽子をかぶせてきた。



「あはっ、似合いますよ」
「お前なあ・・・」



全く嬉しくないぞ、かぼちゃが似合うと言われても。
こいつの場合はどの衣装を着ても様になるだろうから、腹が立つ。
無駄に見た目がいいんだ。スタイルも。声も。
それに引き換え俺と言ったら、特筆すべき点が何もないぜ。
何を選べばいいのやら・・・ん?



「これ、吸血鬼、だっけ」
「ハロウィンの定番ですね。牙までついています」
「ふーん。俺これにしよう」
「あなたがドラキュラ、ですか・・・」



不服でもあるのか、古泉は額に手をあてながら考え込んでいる。
こいつならなんでもいいだろうが、
どうせなら、一風変わったものがいいよな。
俺が悪役なんだから、お前はこんなのでどうだ?



「天使ですか」
「似合いすぎて笑えそうだな」
「それ以前に、こちら、女性物ですよね」
「まあ、そうだな。でもお前ならいけるだろ」
「同意しかねます」
「いいから、これにしておけって」
「いや・・・ちょっと・・・」
「ハルヒも喜ぶぞー、面白いし」
「あなたが面白がらせてあげてください」
「じゃあ俺はこの帽子も一緒にかぶってやるよ」



古泉チョイスのかぼちゃの帽子、
こんなものかぶってるドラキュラにだけは、血を吸われたくないものだな。



結局古泉は俺の指示に従って、渋々ながらも天使に決めた。
まだ時間もあるし、外で遊んでもいいんだが、
どうしてもその姿を見たくなった俺は、古泉の家に上がりこんだ。




「ほら、早く着てみろって」
「相当恥ずかしいんですが、分かってて言ってます?」
「もちろんだ」
「はあ・・・」



観念したようで、衣装を持ってトボトボと、トイレへ行った。
別に目の前で生着替えでも構わんぞ、俺は。
せっかくだから俺も着てみるか。

黒いベストに黒いパンツ。なぜかシャツが、赤紫だ。派手だな。
マントがでかくて歩きにくそうだが、まあ、悪くないか?
無難といってしまえば無難な選択だからな。
牙をつけてみるとさらにそれっぽいが、喋りにくい。
かぼちゃの帽子は、本番だけでいいだろう。



さて古泉、お前はどんなもんだ?







「あ、あの・・・・」


ドアから顔だけを出して、古泉はおびえきった子兎のような
目でこちらを見て、呼びかけてきた。
肩が大きく露出されていて、俺と比べると随分寒そうだ。
おいおい、随分露出度の高い天使だな、そりゃ。



「早く出てこいよ」
「そ、それが・・・これ、短い、んですけど」
「短い?」
「その・・・丈が」


なんだそれは、お前の足が長いってことを言いたいのか?
悪かったな、どうせ俺はピッタリだったよ。
ジーンズを買うときはたまに裾を上げてしまうくらいだよ。
それが普通だろ!



「いえ、そうではなくて、ですね」
「なんだよ」
「スカート、が」
「はっ?」
「み、短いんです・・・」




みるみるうちに古泉の顔が赤くなっていく。
スカート?
それが短いって?



そりゃ、見ないわけにはいかないな。
いつも完璧な格好をしてるお前のそんな姿を最初に見れるなんて
光栄だよ、古泉。




「こ、来ないでくださいっ」
「いいじゃないか、見せろって」
「ほっ、本当に恥ずかしいんですよ!!」
「だから見たいんだろ」


古泉の家のトイレには鍵がかからないため、
即座に隠れたところで、開けることができる。
観念しろ、古泉。



「開けないでくださいいいっ!」
「ドア壊れるぞ、古泉」
「い、いやですっ!!!」



力比べで俺に勝てると思うなよ、古泉。
いったん力を抜いて安心させてから、一気に引っ張ってやった。


「う、わっ!!!」






ドアノブを掴んだまま、真っ白な服に、
背中に羽を生やした古泉が舞い降りてきた。というか、転んだ。




「っ・・・・・!!!!!!」



直視できない。
これはやばい。
即座に、反対方向を向いて、回避モードだ。




「ひ、ひどいですっ・・・・」




爆笑だけはこらえて、肩を震わせている俺に、
古泉は泣きそうな声を飛ばしてきた。
頼む、喋らないでくれ、もう、声だけで笑える。



意を決して、もう一度見てみると、やっぱり吹き出した。



「あ、あはは!お前、それはまずい!!」
「だから、言ったじゃないですか・・・」
「腹痛い・・・!!!!!」
「もう、着替えます!」
「まあ待て、とりあえず、待て、っく・・・!」



肩にかかっているのは細い紐のみ、
朝比奈さんほどのボリュームがあればまた見違えるだろうが、
古泉の何もない胸には虚しすぎる、谷間を強調したデザイン。
ウエストはきゅっと締まっていて、そこから短いシフォンの
スカートが伸びている。膝上、15センチくらいまで。


その場にへたり込んでいる古泉からは、
太ももが露出されているのは勿論のこと、背中も随分と肌が見えている。
羽がまた、おもちゃみたいなもので、ちゃちで、笑いを誘う。
これは、ハルヒに見せたら、逆に世界がぶっ壊れるんじゃないか?



購入時に、古泉が見ていたロングスカートの天使の衣装と、
近くにあった別のものを差し替えていたのだ。遊び心というものである。
まさか、ここまで短い衣装だとは思わなかったよ。




「に、に、似合ってる、ぞ」
「僕は心底あなたを恨んでいます」
「そう、言うなって」
「笑わないでください!」



見れば見るほど面白い。
こいつの笑顔だとか振る舞いだとか、そんなものを見ていたら、
案外天使の衣装も似合うんじゃないかとか、
むしろ、
夕暮れ時にたまに見せるお前の憂いを帯びた表情は、
本当にこいつは天使じゃあるまいな、
突然俺の目の前に現れたから、去るときも突然とか言うなよ、
と思ったことが少なからず、あった。
勿論、口に出したことはないけどな、そんな恥ずかしいことを。
だから、選んだわけだが。




似合わないわけじゃない、
結構、似合うんだ。
割と、悪くないんだよ、それが面白いんだ。




「古泉、ほら、こっち来いって」
「いやです」
「そう拗ねるなよ」
「誰のせいですか!」
「まあ俺だけどな、ほら」



いじけて座ったままの天使・古泉を抱え込んで、
スカートを指でつまんであげてみると、やはり残念なものが見えた。



「何するんですかっ!」
「下はどうなっているのかと・・・」
「履いてますよ!履いてます!!」



まあ、格好を天使にしたところで、性別が変わるわけでもないよな。
別に、どっちでもいいんだけど。



腰を両手で持ち上げて、向かい合うように座らせて肩を撫でると、
鳥肌を立てて俺をにらんできた。
おいおい、天使がそんな顔をしたら駄目だぞ。



「何ですか!」
「そう、怒るなって」
「あなたが、ん、うっ!」



牙がやたらと邪魔だが、天使の唇に口付けた。
血は吸えないけど、他のものなら、何でも吸おう。




「あ、あな、あなた、な、なんでやる気満々なんですか・・・!」
「たまにはこんなのもいいだろ、古泉」
「困ります!いやです、僕はこんなのはいやですっ」



日も暮れた、ここには十字架もないし、炎もない。
俺を止めるものは、何も、な。




thank you !

なんじゃこりゃ!(驚愕)
ハロウィンだし・・無理やりやってみたんだけど・・・
無理やりもいいところですねwすいませんww
いつき衣装のイメージ:ttp://bcimg2.dena.ne.jp/bc21/u5994360/imgs4/402027.jpg

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