「ちょ、っと・・・これは、まずい、のでは」




ドレスのスカートってやつは、どうしてこんなにボリュームがあるんだ。
なんとか捲り上げることができたが、ぐちゃぐちゃになりそうだ、
だが、どうせ最初から色んな飾りがついてるんだから、
少しくらい崩れたって分からないだろう。


律儀に履いている太ももまでの白いタイツは少しだけ脱がせて、
指を這わせる。最近、準備でバタバタしていて、
ろくに触れていなかったツケが回ってきたようだ。
こんなに俺の心をかきたてるような姿を目の前にして、
何もしないなんて考えられない。





「古泉、すごく、綺麗だ」
「あ、りがとう、ございますっ・・・あ、だ、めですっ」





脱がせたら、もう、着せられないよな。
下だけで、我慢してくれ。
ずっと、触ってやらなくて、ごめんな。
お前も、好きなのに。

椅子に座ったままの古泉にスカートの裾を持たせて、
それでも余るスカートの中に潜り込んで口をつけた。
こんな格好はどうかと思うが、異様に、興奮してしまう。
俺にも、とんでもない属性がついてしまったものだ。
いやと言いながらも反応しちまってる古泉も、相当だけどな。




「汚すなよ、ドレス。ちゃんと、舐めてやるから動くな」
「あっ・・・あ、ん、んうっ・・・!だ、誰か、来たらっ・・・」



まあ誰か来たら、困るな。
一応お前は背を扉に向けているわけだが、それでも、なあ。
だけど、止められない。





古泉。
お前が好きだ。
今までもこれからもずっとそうだ。
俺は絶対にお前を裏切らない、そう、誓おう。





バージン・ロード(後)






「古泉、上、乗れるか?」
「は、いっ・・・・・・」



早急に求めちまって、ごめんな。
でも、お前も、大丈夫だろ?
変な、光景だ。
真っ白な古泉が、必死に体につかないようにドレスを持って、
俺の上に跨って、顔を真っ赤にしながら、入れていく。



「あ、ううっ・・・!!」



やばいくらい興奮していて、さすがに、キツそうだ。



「苦しいか、古泉」
「だい、じょぶっ、です・・・」





とんだ花嫁だ。
こんな格好で、跨って、動いて、感じて。
お前、俺以外、無理だな。
こんなお前をもらってやれるのは俺だけだ。
俺だって、誓ったんだ。お前だけだと。
分かってるよな。お前だって、そうだよな。






「あ、あっ、ああうっ、きもち、いいですっ」
「俺も、だ。こいず、み」
「すき、すきですっ」
「ああ・・・俺も、すきだ」
「ぼ、くっ・・・嬉しい、です」





体を起こして、古泉を抱え込んだまま、口付ける。
せっかくセットしてもらった髪は、もう、乱れている。
俺ができるだけ、直してやるから、
何も気にするな、俺のことだけ、考えてろ。







「ごっめーん、ハルにゃんたちがさーっ!」






ノックはなかった。
足音?また、聞こえなかった。





「わわわわわーーーーーっ!!!!」




勢いよくドアを開けた鶴屋さんは、同じ勢いでドアを閉めた。
叫び声だけが部屋に残る。





ああ、また。
前にも、見られたのに。
あの時は、未遂だったけど。




「は、ハルにゃんたち、キョンくんの友達の・・・谷口くん、が
 寝坊しちゃって、あと30分くらい、かかるにょろっ」


「そう、ですか」


「だから、また、後で呼びに来るからっ!!!!」









今度はしっかり、大きな足音が聞こえる。
古泉を見ると、少しだけ苦笑していたが、まだ、息は熱いままだ。
腰を持ち上げてから、また、奥まで突いてやれば、すぐに声を上げる。
見られても続けられる、よな。
もう今更、止められない。
ハルヒたちも、遅れるらしいから。





「古泉・・・我慢、できるか?」
「あ、ん、っ・・・がま、んっ・・・?」
「その格好で、出したら、汚れる、だろっ」
「は、あっ・・!で、でもっ」
「俺がいった、あとに、口で、してやるから」
「ん、んう、ああ・・・は、い、我慢、しま、あっ」



いい子だ。
もうちょっと、我慢してくれ。




古泉の動きに合わせて、腰を突き上げる。
すごい熱さだ、しばらく、してなかったもんな。
飽きたとか思われていたら心外だ、お前との行為を、
面倒だと思ったことも楽しくないと思ったことも一度もない。







「ああああっ、もう、だめ、ですっ」
「わか、った・・・こい、ずみっ、中、出すっ・・・」
「はっ、あ、ああ、ああーーっ・・・・」




強く、古泉を引き寄せて、古泉の中で、達する。ああ、古泉、古泉。
ちょっと強く抱きしめすぎたかもしれない、痛かったらごめんな。


「あああ、好き、好きですっ・・・」
「古泉・・・、足、辛いだろうけど、立ってろ」




足も、こっちも、だいぶ辛そうだ。
俺も余韻で頭がぼーっとするんだが、ちゃんと、してやらないとな。
口に含んで、舌を絡ませて、指は、先ほどまで受け入れていた場所に
入れてやると、足をがくがくと震わせた。




「あ、っく・・・!で、でちゃい、ますっ」
「んー」
「ああああああっ・・・!!」




両手で頭をおさえられて、喉の奥に、出された。力入れすぎだ、古泉!
飲むのは慣れてるから平気だけどな、倒れるなよ。
最後まで吸ってやってから口を離すと、案の定、
足の力を失って倒れそうになったので、抱きとめてやる。



「しっかりしろよ、古泉」
「は、はいっ・・・・・」




終わった後はいつも古泉は軽く気を失いかけて、
ふわふわとその辺を漂ってるような、そんなイメージで、
俺はそんな古泉の頭を撫でつつ横になるのが好きなんだが、
今日はそうも言っていられない。
時計を見る、あと、10分くらいか?ハルヒたちが到着するのは。
おそらく谷口はハルヒによる死刑寸前だっただろうが、
俺達にとってはありがたい寝坊だった。

瞼が下がり気味の古泉の足や周りを吹いて、中からも出してやって、
脱げかけていたタイツも戻してやって、椅子に座らせる。
髪、これ、どうすりゃいいんだ?
とりあえず、梳かしておけばそれっぽくなるだろうか?
見ると俺も崩れまくっている。
しわひとつなかったパンツが、変によれていて、心の中で新川さんに謝った。












今度ははっきりと分かりやすいノックが聞こえて、
鶴屋さんが頬を赤くしながら俺達を呼びに来た。


「青春、うん、いいじゃないか、ねっ・・・あははっ」

この方の乾いた笑いを聞くことになろうとは。実に、レアだ。


「ハルにゃんたちが到着して、準備もばっちりだよっ。
 そろそろ、入場といこうかっ」

「はい、よろしくお願いします」


開き直りに近いが、俺達は逆に爽やかな笑顔で後についていく。
古泉も気合で通常時に戻して、自分で髪を整えて、
ドレスもうまいこと誤魔化せている。
やっぱり、綺麗だ。
俺の目に間違いはなかった。








「それじゃ、オルガンの音が鳴ったら、入ってきてねっ!」


オルガンはハルヒが担当しているんだったな。
あいつはほんとに、何でもできるから、すごいもんだ。
他には、朝比奈さん、長門、俺の妹、谷口、国木田、
森さん、新川さん、多丸兄弟、あと、なぜかシャミセン。
そんなメンバーが、見守っているらしい。
ハルヒは佐々木達も呼ぼうとしていたが、
収拾がつかなくなるのでやめさせた。
SOS団だけでいいじゃないかと言ったのだが、
機関の皆様は古泉の勇姿をぜひ見たいと願い出てきたとか、なんとか。
愛されてるな。




オルガンの音が響く。
綺麗な、音だ。
ハルヒの指から紡ぎ出されているとは、にわかに信じがたい。
扉が開かれて、俺達は手を繋いで、一歩ずつ、進んだ。



「おめでとうございます、キョンくん、古泉くん!」
「祝福する」
「似合ってるよ、一樹くん」
「キョン、背高くなってないか!?」
「厚底だよ、谷口。キョンの気持ちを察してあげなよ」
「すごおーい、古泉くん、ドレスだぁ」
「ニャー」



なんだこのこっ恥ずかしい感じは!!

いや、古泉のほうが、恥ずかしいよな。
俺より確実に視線を集めてるもんな。
でも、大爆笑なんて誰もしてないぞ、似合ってるから。
俺は谷口・国木田に笑われているが。あいつら、後で、見てろ。



オルガンを弾くハルヒの後姿も、美しかった。
ピンと伸びた背筋、肩にかかる黒髪、薄いブルーのワンピース。
まるで女神のように見えちまった。
どんな歓声が聞こえても、後ろを向くことなく、
鍵盤を見つめて指をしなやかに動かしている。
卒業まであと少しだな、ハルヒ。
3年間、お前と過ごせてよかったよ。本当だ。


これからも、よろしく頼む。







「健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、
 悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、
 これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、
 その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?」



ドラマやなんかで、聞いたことのある、ありふれた誓いの言葉。
自分の立場になったとたん、その言葉は重みを増した。
どんなときも俺達は一緒にやってきた。
そしてこれからも。
変わらない。
命ある限り、お前を守ろう。



「誓います」
「誓います」








ベタな演出はやめろと言ったのに、誓いのキスまでプログラムに組み込まれ、
全員がカメラを向けているのを感じつつも、抗えない空気を作られた。

真っ赤になっている古泉の、
ああ、後で考えれば額でも頬でもよかったんだ、
なのに俺はしっかり、唇に誓ってしまった。
頼むから脅しのネタには使わないでくれ、その写真。





「では、指輪の交換を」


「・・・指輪?」
「はい、キョンくん、古泉くん!」


リングガールをつとめるのは俺の妹だ。
嬉しそうに、妖精のようなピンク色のドレスに身を包んで、
リングピローを持ってやってきた。
もう中学生になった妹だが、背があまり伸びず幼い顔立ちのままで、
このような役回りも自然と似合ってしまっている。




「サンキュ」
「てへっ」
「こ、れは・・・・・・」




指が震えてるぞ。
オーダーメイドの傑作だ、落とすなよ?




「左手」
「は、いっ」


き、緊張するな、大丈夫だよな?サイズ。
俺よりもだいぶ小さかったんだが、合ってるよな?




ああ、大丈夫だ。
何度も、確かめた甲斐があった。



「どうして・・・」
「お前が、喜ぶかな、と思って」






本日、三度目か?
涙腺崩壊。




かわいいな、本当に。
誰も見てなけりゃ、すぐに抱きしめたいんだが、
そうもいかん。
準備してよかった。
筋肉痛と戦った毎日も、この瞬間のおかげで全て美しい思い出さ。





古泉はぐずぐずと涙を零したまま俺の指にも通し、
両手で顔を覆いながら、これまたベタなフラワーシャワーの下を、
一緒に駆け抜けた。もう、なんでもこい!











式の後は鶴屋邸にて信じられないほど豪華な食事がふるまわれ、
俺も古泉も恐縮しきりで、

「お祝いするのが楽しいから、気にすることないよっ!!」

何度も何度も味わったこの方の器のでかさに、改めて感謝をした。
先ほどは、本当に、すみませんでした。




「古泉、おめでとう。目、まだ赤いわね、少し」
「森さん、ありがとうございます。フルートの演奏、
 とてもお上手でした。森さんにあんな特技があったなんて、
 僕、知りませんでしたよ」
「私も、あなたにドレスが似合うとは知らなかったわ」
「うう・・・」
「一樹君、おめでとう!いやー、すごいものを見れたな」
「うん、兄さん、結構見惚れてたよね」
「それはお前だろう」
「兄さんだよ」
「まあまあ・・・」


そうだろう、そうだろう。
こいつが俺の、花嫁です。



「キョン!やべーよ、これ、すげえうまい」
「古泉くん、ちゃんと食べれてる?」
「ドレスはそんなに締め付けてないからさっ!食べてね、二人ともー!」
「ええ、もちろんいただきます」


こちらのトリオは色気より食い気だな、分かってるけど。
しかし本当にどれも、旨い。
古泉の手料理ほどとまではいかないけど。



「キョンくん、わたしも、大人になったら古泉くんみたいな
 ドレスが着たいなあ」
「ふふっ、きっと、似合いますよ、ね、キョンくん」


シャミを抱いた妹と朝比奈さんは、仲良く食事を取りつつ、
結婚への憧れを語っていたようだ。
そうだな、もう少し、というかだいぶ、
大人になってからなら、似合うかもしれんな。
朝比奈さんはいつでもOKでしょうが、
他の男が隣に立つかと思うと複雑です。俺が言うのも、何ですが。



「有希!それ、すっごい美味しいんだから、全部食べちゃ駄目よ!」
「制御不能」
「何よそれ!!もう、あたしも食べるってば!」


こっちも、食い気か。
長門、お前の胃袋は底なしだな。


「ハルヒ、演奏、ありがとうな」
「別に、あのくらい大したことじゃないわ。団長なら当然よ」
「今日の式が出来たのはお前のおかげだよ」
「涼宮さん、話は伺いました。本当にありがとうございます」
「いいのよ。二人が幸せならそれでね。あたしも楽しかったし。
 あのバカが寝坊しなきゃ、もっと予定通りだったのに」


にらまれている谷口は、こちらにしっかり背を向けて、
首筋に汗を流しながらも鶴屋さんたちと会話を続けている。
ハルヒの声は、届いているらしい。



「そのかわり!これからもちゃんと、大事にしなかったら、
 死刑だからね!!」



もちろん、と答えるより前にハルヒは走って、奥にある料理のテーブルへ行った。
それは少し上ずった声だったから、俺達は目を合わせて頷いて、
後を追いかけたりはしなかった。










その夜は全員、鶴屋邸に泊まらせてもらった。
俺と古泉は勿論同じ部屋で、ようやくタキシードを脱いだわけだが、
一気に疲れが来た。今日一日と、今までの準備の分で。
だが、心地の良い疲れだ、
今までに感じたことのない幸せな、疲労感だ。




「本当にありがとうございました」


古泉も残念なことにドレスを脱いでしまったわけだが、
あの姿は俺の記憶にしっかり刻み付けておいたので、いいだろう。
寝る準備をしてベッドに腰掛けたとき、
改めて頭を下げて礼を言ってきた。こいつらしい。



「楽しかったか?疲れただろ、俺は疲れた」
「とても楽しかったですし、嬉しかったです」
「そうか」
「あなたがずっと、帰りが遅かったのは、今日のためだったんですね」
「まあ、な。悪かったな、何も言ってなくて」


大きく首を振って、俺の手を握る。


「何も悪くないです。式も、指輪も、本当に、嬉しくて」
「そりゃよかった」
「あなたを愛しています、これからも、ずっと」
「・・・照れるからやめてくれ、真顔で言うな」
「どうしても言いたかったんです」
「そ、か」





俺だってそうさ。
もう言わなくたって十分、分かってるだろ。
一応、手を強く握り返して、おくけどな。




「僕、幸せです」



古泉。
俺だって、幸せだ。お前より、幸せかもしれない。





ずっと、一緒にいような。






thank you !

なんつーラブラブ具合!恥ずかしい!恥ずかしい〜!
とか言いつつ楽しませてもらいました。本作の神は鶴屋さん。


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