局地的な台風がやってきた。
台風というのはハルヒに似ている、
奴が通り過ぎた後は跡形もなく凄惨な様子になる、というあたりで。
外の様子を見て誰よりもはしゃいでいるし、
俺のように電車が止まったらどうやって帰ろうという心配すらしていないようだ。



台風の方がマシなのは、数日後には去ってくれるというところだな。










「雨、止みそうにないですね」

俺の心を癒やすスイートエンジェル、
朝比奈みくるさんは似合いすぎてノーベル賞を出してもいいと思うほどのメイド服に身を包み、
窓に手を当てて外を見ている。なんと絵になる光景だ。
いや、いささか外の嵐がひどすぎる気もするか?





「この後はさらにひどくなるようですよ」

隣の部からありがたくいただいたノートパソコンでネットをしていた古泉が、
全く大変ではなさそうな笑顔で言った。




「ふぇぇ・・・」
「今日は早めに解散した方がいいかしら」
「ああ。どう考えても今すぐ帰るべきだろうな」
「キョン!あんたに言われなくても分かってるわ!」



解散命令がくだされ、先に席を立ったのは長門だった。
お前、いつものように本を読んでたけど、早く帰りたかったんだな。




「あたしはみくるちゃんを送っていくわ。
 こんな嵐の中に可愛い女の子を一人で帰すわけにはいかないからっ」


それは俺が買って出たかった役目だぜ。先を越された。
仕方ない。



「気をつけて帰れよ、ハルヒ」
「・・・っ。当たり前じゃない。キョンも、古泉くんも、
 早く帰りなさいよ。じゃあね!」




学校からは既にほとんどの生徒がいなくなっている。
当たり前だ。こんな日に部活動なんて、バカのすることだ。


「あなたも、もう、帰られますか?」


部室に残った俺に、古泉はいつもの笑顔で問いかける。
いつも、より、嬉しそうだ。
俺がハルヒに、ああ言ったから。









俺と古泉は、
契約を交わしている。




古泉の存在意義は、世界の現状維持、つまりはハルヒのご機嫌取りだ。
機嫌が悪かった俺は、ハルヒを邪険に扱いがちな時期があった。
誰しも気の乗らないときがあるものさ。
そんな時に古泉がわざわざ俺の家まで来て、頭を下げた。


「お願いします、涼宮さんに、あまりきつく当たらないでください」




理由は簡単だ。
あいつが俺のせいで苛々するたび、閉鎖空間が現れる。
高校に入ってから減ったといつか喜んでいたが、
恐らく最近は連日発生していたんだろう。部室にもほとんど来ていなかった。
そしてそれが益々ハルヒを不機嫌にさせる。
負のスパイラル、ってやつだ。


「俺のストレスはどう解消してくれんだ」


いつもじゃない。
それでも、朝比奈さんに無茶をするときなど、
本当に殴ってやりたくなるくらい苛々するんだ。
俺はお前たちとは違う。ハルヒのために生きてるわけじゃない。

でもそれだけじゃない、
こいつがここにこんなことをわざわざ言いに来た、それも無性に、苛々した。



古泉は珍しく顔から笑みをなくして、しばらく考えていた。
いつもはもっともらしいことを言ってはぐらかすくせに、
この時だけは真剣な目で俺を見て、一言だけ、言った。





「・・・僕に出来ることなら、何でもします」








最初は宿題をやらせたり、テスト勉強に付き合わせたり、
なんでもないことばかり頼んでいた。

だけど苛々は収まらない。
ふと気付いた。


こいつの笑顔に、一番苛々することに。







「い、いたっ」

部室に二人の時、髪を引っ張った。

「何ですか」
「別に」


すぐに表情が戻る。こんなのじゃない。


翌週、また二人になったときに、
少し躊躇いを感じつつも


「緑茶でいいですか?」

笑顔で聞いてきた古泉を、思い切り突き飛ばした。



そんなことを予想もしていなかったであろう古泉は体を強く床にうちつけた。
目を見開いて、呆然としている。
ああ、何か、違う。
近いのに違う。
だけど違いが分からない。
俺は古泉に何がしたいんだ。


「危ないですね、割れたら怪我をしてしまいますよ」


転がった湯呑みを拾う古泉の笑顔はひきつっていて、
あと少し何かが足りないと、そう思った。







ハルヒに気をつけて帰るよう告げたのはそんな経緯があったからであり、
それを聞いてあまり見せないタイプの笑顔を浮かべた古泉に、
また俺は苛々した。


そう、こいつは世界どうのこうの以前に、ハルヒが好きなんだろう。
なのにハルヒの機嫌に直結しているのは俺だ。
だから俺に頼む。
彼女の心に平穏を。



それが気に入らない。
苛々する。
ハルヒのことばかり考えてやがって。
俺は、俺は。
いつもお前のことを考えているのに。


いつも。
いつも古泉のことを?










「まだ帰らない。俺の相手をしろ」
「相手、ですか?どちらのゲームで遊びますか」
「ゲームじゃない」
「・・・そう、ですか」



古泉の表情に、緊張が走る。
そろそろお前も、学習しろ。


ここのところ、二人になるとしてることがあった。
もう突き飛ばしたりはしていない。
きっちりと一番上までボタンを閉められたシャツの下の肌に、
それと分かる痕をつけてやってるだけだ。
どうしてそれを始めたかはよく分からない、
本か何かで見たんだったか?

ただそうする時に出す声が好きだった。
制服を握って耐えている顔も好きだった。
こいつに俺の証が残るのも好きだった。
俺が求めているものに近い気がした。





「ネクタイとボタン、外せよ」
「・・・・・・はい」



白くて長い指が首もとにかかり、古泉の首元が露になる。
何度目かの行為だ、頭のいいおまえだからとっくに理解しているだろ。
抵抗しないこと、抗議の声をあげないこと。
隣に移動して肩をおさえて、唇をつけた。



「っ・・・・」



息を飲むような小さな声。
強く吸っても、声は上げない。



真っ赤な痕がつけば、ある程度満足できていた。
だけど、
その痕は少し経つと、消える。
この前つけたのは、まだうっすらと残っていたけど、
どんなに強くしても、消えてしまう。



どうすればもっと、古泉に俺を刻めるんだろう。
やっぱりこんなものじゃ、足りない。








そう、
本当は、
分かってる。


チャンスがなかっただけだ、今まで。






ボタンを全て外した後に、古泉はやっとそれに気付いた。



「え、えっ?あの、何を、しているんですか?」
「見りゃ分かるだろ」



中に着ているTシャツをまくりあげて、
腹から胸まで、舌を這わせる。何の味もしない。
朝比奈さんのような柔らかな胸があるわけでもない。
こんなものを舐めたって何も楽しくないのに、
それでも、そうした。
歯を立てて強く噛むと、さすがに声を上げた。




「い、痛っ・・・!!や、やめてください」
「相手しろって言っただろ」
「でも、こんな」
「黙ってろ」



椅子に座ったまま、古泉の背中が震える。
首筋よりも吸ったときの反応が大きい。
だけど、本みたいに、気持ちよくなったりはしないんだな。



強くしすぎたのか、唇を離すと、その突起は真っ赤に腫れていて、
見たときに体の奥が熱くなるのを感じた。




「!!!何をするんですか!?」



ベルトに手をかけたとき、すぐに手が伸びてきてそれを阻んだ。




何でもするんだろ。
お前が、そう言ったんだ。



「相手しろよ」




血の気が引いている。
動揺した目で俺を見て、唇を震わせた。




「どういう、意味ですか」
「抵抗しないで俺の言うとおりにしろ」
「で、も」
「契約だろ」



抗議の声を飲み込む。
そう、それでいい。






椅子から立たせて、
ベルトを外してそのまま手を離すと、重力で床に落ちる。
そのまま下着も、脱がしてやった。
古泉は泣きそうな顔で口元を手で押さえている。

その顔、好きだ。
近いと、思う。俺の、求めているものに。
たぶんこれからすることで、こいつは泣くだろう、
イヤだと言って叫ぶかもしれない、
でももうこの旧棟には誰もいない。嵐の音が聞こえるか?
こんな嵐の中、お前の弱弱しい声じゃ、誰にも届かないさ。




俺は椅子に座ったまま、シャツをめくって、足の間に手を伸ばす。
自分以外のなんて見たことがない、こんな風には、な。
掴んで擦ってやれば、生理現象だ、少しして、反応し始めた。



「っく、っ・・・・!!」


顔が赤い。目には涙が溜まっていて、もう少しでこぼれそうだ。
手の甲に歯を立てて噛んで、必死に羞恥に耐えている。



ぞくぞくと、背筋を何かが走った。
泣かせたい。



「っ!!!い、いやっ・・・!!!」
「黙れ」



先端に口をつける。
滲んでる液体は苦くて、今までのどれとも違う味がする。
唾液を垂らして掴んでいる指も濡らして擦りやすくして、
舐めながら動かしていると、足をがくがくと震わせ始めた。



「あうっ、ううっ、っう・・・・!!」




ついに涙が流れて、頬を伝って、床に落ちた。
俺も立ち上がって、古泉の体を机に押し付け、後ろから手を回して
続きをする。もう、こいつは限界だろうと、分かる。



「やめ、て、くださいっ・・・!!」



お前の言うことなんか聞いてやる義理はないんだ。
さっさと、出しちまえ。





「う、あっ、や、だっ・・・!ん、んうううっ」




歯を食いしばって我慢なんかできないように、口の中に指を突っ込む。
古泉は噛まない、俺に危害は加えない。



「ふ、ああ、あ、は、あああっ」



掴むものも見つからずに机の上を這っていた指が、ぎゅうと握られる。
そうだ、我慢なんて無駄だ。もう、出る、な。




「ん、っ、う、ああああっ・・・ひ、あっ・・!!!」



口に入れていた指を抜いて、出てきたものを床に垂らさないように、
受け止めてやった。ああ、やっぱり、全部は無理か。
でもこれだけあれば、じゅうぶんだ。





「こんな、ので、いいんですかっ・・・?」


上半身を机に預けて荒い呼吸を繰り返しながら、
古泉が問いかけてくる。
ああ、もちろんだ。
ただ、まだ、足りないけど。



「!?」


少しだけ左手の液体を指にとって、塗りつける。
上体を起こして振り返る古泉の顔は、先ほどより青ざめている。




「な、に、なに・・・・!!」
「そのまま動くな」
「ま、待ってください。それは、それは嫌です」
「何でも、するんじゃなかったのか?」
「そう、ですが、それは、無理ですっ・・・」
「じゃあ、契約は無効か」
「それ、は」



軽く、いつもハルヒが座っている椅子を蹴り飛ばした。
簡単に床に転がって、
椅子にかかっていた腕章が床に落ちる。





古泉はそれを見て、ぼろぼろと涙を流した。








「ぼ、く・・・手、と、口なら、構いませんからっ・・・」
「足りないんだよ、それじゃ」
「そんな・・・」
「どうする?どっちが大事なんだよ、ハルヒと、お前と」




ハルヒのために、俺にぶっ壊されても、構わないのか?




答えを聞く前から、また、指で撫で始める。
古泉は堪えることも出来ずに涙を流して、息を吐いて、
涙声で小さく、言った。




「・・・・・すずみや、さん、です」

















遠慮なんか、しなかった。
どんなに足が震えても苦しそうに指がもがいてるのを見ても、
どんなに泣き叫んでも、無理やり奥まで突っ込んで、
腰を強くおさえて、後ろからただただ、犯した。
犯す、という言葉が似合う、
俺は途中から、古泉をまるで物みたいに扱っていた。


古泉、だということを、忘れたわけじゃない。
俺の目に写るのは古泉の泣き顔で、
俺の耳に聞こえるのは古泉の悲痛な泣き声だ。



だけど俺の心は、冷え切っていた。



すずみやはるひ。




俺はあいつには、勝てないのか。
あいつ以上の存在になるなんて、そりゃ、考えてなかったが、
誰か一人にとってなら、なれる気がしていた。

全部、幻想だった。






「っう、っぐ・・・あ、う、あああっ!!」
「出すぞ、古泉」
「や、めて・・・や、あ、い、たいっ・・・!!」




中で出した瞬間は、確かに、一人でやるよりもだいぶ気持ちが良かった。
でもな、顔見て、やればよかった。
ずっと顔を伏せたままじゃ、意味がない。
俺はこいつの泣いて歪んだ顔が見たいのに。
その顔が一番、見たいのに。
それをたぶん、求めていたのに。




ああ、
もう、どうでもいいんだ。
求めていたとかなんだとか、もう、いいんだ。
あいつに勝てないことが分かったら、どうでもよくなった。




床にひざをついて必死に泣き声を抑えている古泉の頭を小突いて、



「明日もやるから、先に帰るなよ」



それだけ言って鞄を持って、部室を出た。









窓の外はまだ嵐だ。
真っ暗で、何時なのかも分からない。



どうせいつか、嵐は去る。


去ったときに跡形もなくなれば、いい。







thank you !

いわゆるお題「9」シリーズの最初のようなイメージです。
他の作品もこれで少しは救われ・・・ないか。
最後ちょっと抽象的ですいません。

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