古泉の声が、好きだ。

こいつがとてつもなくつまらない、
全く俺が理解をしていないのに楽しそうに長々と話しているとき、
内容は何も聞いていないわけだが、
それでも打ち切ろうとは思わない。
聞いていると何だか安心する。
ずっと昔から、知っていたような、
ずっと昔から、そばにいたような。




クラスの合唱なら俺は常にバス、
こいつはもしかすると中学くらいまでソプラノに混じっていたかもしれない。
高めの音、たまに、真面目な声を出すときはやや低めだが、
どちらも甘い響きがする。


柔らかくて甘い声、誰に対してもそうだ、
こんなので囁いたらどんな女子だってすぐに恋に落ちるんだろうな、
全く忌々しい話である。




俺的片想い








「あの・・・聞いてます?僕の話」
「いや、聞いてない」
「・・・。そ、そうですか」




がっくりと首をうなだれて、古泉は話をやめた。
なんだ、もう終わりか?
何の話だったか結局分からなかったから、
もう一度最初から話してくれないか。
たぶんまた、内容は分からないだろうけど。



「あなた、僕の話をいつも聞いてないですよね」
「そんなことはないぞ」
「空返事しか返ってきたためしがありません」
「そうか?」




まあ、そうだろうな。
お前の声を聞いてると頭がぼーっとするんだ。
眠たい、に似てる、けど、眠いわけじゃない。



しょうがないよな、心地いいんだから。



ついでに言うならば、見た目も、嫌いじゃない。
同性相手に見た目の好き嫌いなど普段なら考えないが、
谷口やら国木田以下に考えたことだってないが、
古泉は、うん、好きだ。


白い肌、いつも綺麗だ。
肌荒れなんぞとは無縁の生き物なんだろうか。
ゲームをしているときに見る手も、
いつだって滑らかで、ついつい撫でたくなる。






「やっぱり、聞いてませんよね」
「・・・・・・は?」
「・・・もういいです・・・」



がっかりしたような落ち込んだ顔すら嫌いじゃない。
けど何も言わなくなるのは、困るな。




手を伸ばして頬に触れた。
ぴくりと動いて、固まる。
そのまま見つめていると、頬を少しだけ染めて、手から離れた。






「・・・話、聞いていないのに、僕の何がいいんですか」




何が、って?
声だろ、顔だろ、あとは、体だな。




「最低ですね」





聞かれたから正直に答えたのに、
古泉は泣きそうな顔でそう言って下を向いた。

ダメだったか、今のは。
全部好きなんて滅多にないぞ、お前はどれも満点なんだ。




「今日、家行ってもいいよな」
「・・・今の流れでそう思えるのは素晴らしいです」
「嫌味なら効かんぞ」
「お断りします」
「は?何でだよ」



怒ってる顔もいいな、たまにしか見れないが、そのレアさがいい。




「僕はあなたが好きじゃないからですっ!」



はっきりきっぱりそう叫んで、
鞄を持って部室を出て行ってしまった。







何だ、まだ俺に惚れてなかったのか。
毎日俺と二人の時間を作りたがるから、とっくに落ちたのかと思ってた。









掻い摘んで振り返ってみると、
満点の古泉を俺は好きになって、
古泉にそれを言って、
勢いで体の関係まで持った。
一度だけだが、最高だったわけだ。



古泉は何やら逡巡したのちに、

「僕も、あなたを好きになろうと、思います」

何故か、やったときよりも顔を赤くして言ってきた。
それから古泉はやけに俺と二人の時間を作りたがり、話したがる。
俺としてはそんなことよりもキスがしたい、体に触りたい、
出来るなら最後までまたやりたい、
そんな気持ちを抱いているんだが、受け入れられた試しがない。







何が悪かったんだろう、
ああ、中身が好きだと言われたかったのか?
だってお前、ハルヒが望むような男子高校生を演じてるだけなんだろ?
そんな演じてる古泉がいいなんて言う方がおかしいじゃないか。



しかし、あんな風に怒らせたまま帰られるのも具合が悪い。
古泉から遅れることおよそ3分、
部室を急いで飛び出して追いかけた。
あいつは足が長いから歩くのが早いんだった、

でも、追いつくだろ。
あいつだって、追いつかれたいはずだ。









「古泉!」


予想以上に学校から離れたところでやっと追いついた。
途中、追い越したのかと思ったぞ、本気で。
もう少し加減しろ。



「何ですか」
「そう怒るなよ」
「・・・もうその話はいいです」



今度は拗ねたか。
たぶん本当のお前は、ハルヒが望むお前より、子どもっぽいんだろうな。

かわいい奴だ。



「悪かった。俺はお前の性格も嫌いじゃないぞ」
「とってつけたように言わないでください」
「そりゃまあ、分かりやすいところの方が好きなのは仕方ない」
「はあ・・・・・・」
「ため息つくなよ」




もうすぐ古泉の家につく。
さあ、部屋に入れるかどうか。
あれ以来、入れてもらえてないからな。





 −心の準備が出来るまで、待ってください。


キスをしようとした俺を突っぱねて毎回言う、
俺も別に古泉を無理やり犯したいわけではないから、
OKサインが出るまで待っているのに一向に出ないんだ。 





そろそろいいよな?




「もう、ここで結構です。送っていただきありがとうございます」
「おいおい、ここまで来て帰すのか」
「当然です。あなたを家にあげたら何をされるか」




何だ、その言い方は。
前のだってちゃんとお前の合意を得たじゃないか。
好きだと何度も何度もしつこいくらいに言って頼み込んだら、
お前が分かりましたと頷いたんじゃないか。
それをまるで無理やりやったみたいに言いやがって・・・
お前があと少し可愛くなかったら冷めてるところだ、全く。



「じゃあやらないから、茶くらい出せよ」
「信用出来ません」
「お前、結構、ひどい奴だな」
「あなたに言われたくありませんよ」




こいつ、何か俺を誤解してないか?
そんなにいじけるような、
なんだ、お前、



「俺が話を聞いてなかったことにムカついてんのか」
「・・・別に」
「お前、ハルヒのことばかり話すじゃないか。よくわかんねえ話ばっかりだし」
「今日は・・・最初は、そうでしたけど、途中からは、違います」
「そうだったのか?それは、悪かった」





古泉は少しだけ辺りを見回して、誰もいないことを確認、したようだ。



「僕は、あなたをもっと知りたいんです」



何?もう十分すぎるくらい知ってるんじゃないのか。



「書類上でならたくさん知っています、ですが、あなたと話して、
 そこから本来のあなたを感じたかった」



ほう。



「だけど、あなたはいつも僕の話を聞いてくれないし、何を聞いても答えてくれません」



なるほど、
それは、
悪いことをしたな。





「つまりお前は、俺を好きになりたいから、話がしたいんだよな」
「・・・まあ、そうです」
「好きになる、理由が欲しいわけか」
「そう・・・ですね」



ってことは、
お前、



「俺が好きってことか」




そうだよな、古泉。
いい加減、気付けよ。そう意識してる時点でお前は、俺に惚れてるんだよ。









「・・・頭が痛くなってきました」
「じゃあ休もうぜ、立ち話もなんだろ」
「何かしたらすぐに出て行ってもらいますから」
「分かった、分かった。語らいを大切にするって」





眉間に皺が寄りっぱなしの古泉についていき、
部屋に入ることに成功した。
古泉のにおいがするこの部屋、やっぱり、落ち着くな。



適当に腰掛けると紅茶が差し出され、
古泉は俺と対角線上に座った。
とことん警戒されている。



「で、何を知りたいんだよ」
「え?あ、そうですね、ええと」
「何もないんじゃないか」
「違います、もっと自然な会話の中で気付きたいんです」
「わがままな奴め・・・」




そんなことよりも肌を合わせた方が確実に情が移ると思う、
が、こんなことを言ったらまた怒られる。










とりとめのない話をした。
妹のこととか、昨日の夕飯の内容とか、数Aの教師の物真似とか、
特に意味のない話を繰り返した。
何が楽しいのか、俺が話している間、古泉は常に笑っていた。
いつもの笑顔よりはもう少し砕けた、とんでもなくかわいい笑顔で。
何度押し倒したい衝動を抑えたことか。我ながら、我慢強さに拍手を送りたい。




携帯が震えて、母親からのメールを受信する、
夕飯が出来たからどこかほっつき歩いているなら早く帰ってこいというお達しであった。



「いつの間にか遅くなってしまいましたね。気がつかなくてすみません」
「それは、いいけど」



何もしないうちに時間切れかよ。



「どうだ、好きになったか」
「・・・即効性を求めないでください」




あんなに、笑ってたくせに。
俺は常に、ドキドキしっぱなしだった。
お前のことが本当に好きなんだ。
早くもっと俺に惚れろよ。
傍にいたらいてもたってもいられないくらい好きになれよ。






「それでは、また、部室で」



追い出されるように玄関まで歩かされ、鞄を押し付けられる。
ご丁寧に下には機関タクシーを呼んでくれたらしい。



「古泉」



にこやかに送り出そうとする古泉の、手を握った。
何もどこにも触れないなんて、不可能不完全燃焼極まりない。
帰りたくない。
もっと古泉の傍にいたい。一緒にいたい。
この際話をするだけでもいい、
いややっぱり触りたい。
いや、いや。




「好きだ」




たちまち赤くなる顔、
力の入る腕、
なんだよ、
やっぱりお前も、好きなんだろ。
素直になれよ、ちゃんと、そう言ってくれ。
俺がここまで、素直になってるんだから。




「なあ、キス、したい」
「・・・・・・・・・」



いけるか?いけるよな、たぶん。




手を引いて、体を寄せる。
困ったような顔で、頬を染めて、俺を見ている。
かわいくて、くらくらしてきた。
するぞ、してやるぞ。






あと、1ミリ、というところで、チャイムが鳴って、
俺は心臓が止まるかと思うくらい、驚いた。
それは古泉も同じようで、
なぜか俺を思い切り突き飛ばした後、心臓を押さえている。
ドアを睨みつけると外から声が聞こえた。


「新川です、遅かったのでお迎えに上がりました」






く・・・空気読んでくれ!!



「こ、古泉っ」



雰囲気が台無しだ。
あともう少しだったのに、何なんだ、このお約束の展開は!



「・・・お待たせしては、いけませんから、さあ」



慌てていたくせにすぐ笑顔に戻り、鍵を開けて、
俺を新川さんに突き出した。
お前、いいのかよ。お前だって、したかったんじゃ、ないのか!









タクシーまで押し込められて、新川さんの手前、
強引に戻ることもできない俺は、
笑顔の古泉に見送られながら帰路についた。
なんてこった。




家について、新川さんに頭を下げて、
お袋に文句を一つ二つ言われながら夕飯を食べていると、
携帯がまた、鳴った。
この音は、この色は、古泉だ。





『今日は、ありがとうございました。話が出来て、よかったです。
 また、明日。』






・・・なんでこんなに、ドキドキするんだ?こんな短いメールで?








ああ、そうか、俺は、古泉からメールを貰うのは、初めてなんだ。
いつも俺からしか、してない。
古泉から、自主的に来たことなんて、なかったんだ。





「やばいな・・・」
「キョンくん、ご飯、おいしくないの?」
「・・・ん?いや、違う、違う、」



こら妹!お袋が睨んでるじゃないか。
それに、俺のこの幸せなひと時を、邪魔するんじゃない。







あいつだって、俺を好きなんだ、
そうに違いない。
明日こそ、キスをしよう。きっと、できるはずさ。

それにしても不思議だ。
あいつを前に抱いたときよりも、今のほうが嬉しい。
こういうものなんだろうか、精神病ってやつは、恋ってやつは。




俺にはまだよく分からないけど、
悪くはない、感覚だ。




thank you !

キョン片思いネタ別バージョン、こっちの方が先に書いていたんですが・・・
片思いのくせに思い切り俺様なあたりがなんとも。
そしてこっちは下心ありまくりです。

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