どうして好きじゃないのにキスしてるんだろう。
どうして好きじゃないのに体を重ねたりしたんだろう。
好きだ、なんて耳元で囁かれても、
鳥肌が立つだけで別に嬉しくなんかない。



流動性質





「これ、やる」
「はあ・・・どうも」


僕は女子じゃないから、プレゼント責めなんて効きません。
しかもどうしてこういつも、甘いものばかりなんでしょう。
昼休みにクリームパンをくれたりだとか、
部室に遅れて来たかと思えば涼宮さん達が帰った後にケーキを渡してきたりとか。
拒否したりはしませんが、特段甘いものが好きなわけじゃないんです。
あなたの中でイメージしている僕と、
実際の僕は違うんじゃないかと、思います。



「今日は何でしょう」
「購買新発売のプリンパンだぜ、俺で売り切れだった」
「ずいぶんと甘そうですね」
「茶でも入れてやるよ」



今日もまた僕は流されて、
部室でこうして昼食を共にしている。
参考書を取りに来ると長門有希がよくここで本を読んでいたのに、
あるとき彼と二人でここに来て、鉢合わせになり、
「・・・譲る」
小声で呟かれてからは、一度も会わなくなった。
どうか変な気遣いをしないでください。僕は、そんなのじゃなくて。



「ほら、茶」
「あ、・・・いただきます」
「俺も、」
「は・・・っ、ちょっと・・・!」



横にいた彼の手がいつの間にか頭に回っている。
どこからそんな力が出てくるのか、
僕が抵抗する間も隙もないうちに押さえ込まれて、唇が押し当てられる。


抗議の声をあげようとしたのが間違いだった、
開けてしまった口にすぐに入ってこられて、
舌が全部捕らえられる。
体を押しのけようとする腕になぜか力が入らない。


舌が動くたびに頭の中が白くなっていく。



「ん、んん、んっ・・・!」


いつもこうだ、駄目だと思っているのに、
それにそう言っているのに、聞いてくれた試しがない。
たぶん休み時間の半分はこうしてる。
やっと離したときには彼も、たぶん僕も、唇が真っ赤になって、
唾液でありえないくらい濡れている。
ぼんやりとしていると彼はまた近づいてくるから、
僕は頭を振って意識をはっきりさせないといけない。






「お、お昼ごはん・・・食べ、ましょう」
「・・・おう、そうだな」


ティッシュで雑にふき取って、もうすっかり冷めている緑茶に口をつける。
飲み込むと先ほど口の中に流し込まれた、彼の、
まで一緒に飲み込んでしまったような気がして、眩暈がした。


「う・・・」
「どうした、古泉?」
「いえ、何でもありません・・・」



ああ、やっぱりもう、やめてもらおう。
こんなことを続けていたって何の意味もない。
彼にとってはあるのかもしれないけど、
僕はもうこの続きをするような気は一切ない。
あんな恥ずかしいことは二度としたくないし、
気持ちよくなんかなくて痛いだけだったし、
それに何より、
彼は、
僕をそういった対象としてしか見ていない、それが嫌だ。
涼宮ハルヒや朝比奈みくる、長門有希に出来ないことを、
僕にしているだけだとしか思えない。
そうじゃなきゃ彼がこんなことをする理由はない。
僕ならそんなに問題ないと、思ったんだろう。


確かに、誰かに話したり、普段の態度が急変したりとか、
そんなことはしませんよ。
あなたも今までどおりだし、
このくらいなら許されるかと近くへ行ってみれば気色悪い、
ですからね。


好き、なんて、嘘だ。
こうしたいためについている嘘に、決まってる。



分かってもらおう、
もうこんなことはやめてほしいと。




「うまい?それ」
「予想していたほど甘くないですね。意外と食べやすいです」
「俺も明日はそれにしよう」
「わざわざ買ってきてくださってありがとうございました」


代金をきっちり手渡そうとすると、彼は首を振る。


「いらねえよ、そんなの。俺が勝手に買ってきたんだから」
「そういうわけにはいきません。奢っていただく理由がありませんし」


オセロだってチェスだってベースボールゲームだって僕が負けっぱなしです。


「理由って・・・いつものことじゃねーか。俺はお前が喜べばそれでいいんだよ」
「何ですか、それは。僕が喜んでどうするんです」
「今更その話題か」
「今更も何も。ちょうどいいので、聞いてください」



僕はこんなことはもうやめたいと思っています。
こんなこと、というのは、
あなたに頭を抱えられて強引にキスをされること、の意です。
代償とでもいうように食べ物を与えられるのも、
愉快な気分にはなりません。
大体僕は女性じゃありません。
あなたがその役割を僕に求めるのは間違っています。
甘いものを食べて歓喜の声を上げたりもしません。



だから、困ります。
僕にそんな期待をされるのも。求められるのも。



「分かっていただけました?」
「うーん・・・つまり、お前は、俺とキスしたくないってのか」
「・・・そうで」
「ああ、強引にされるのが嫌なだけか。今度からは許可を取る」
「あ・・・あなたは・・・」
「それに女扱いなんてしてない。
 何が悲しくて俺よりでかい男を女扱いしなきゃならんのだ」
「そうでしょうか」
「甘いのが嫌いなら別のもん買ってくるし」




おかしい。
さっき僕はあんなにちゃんと考えて話したのに、
あっさりと全部交わされてしまった。



「もう食べ終わったよな、昼休み終わるまで、しようぜ」
「は・・・?」
「キス」
「し、しません!」
「何で?」
「何で、って・・・」



それは、それは・・・
何で、
何で、でしたっけ?
理由ならたくさん、あるはず、



「お前も好きだろ、するの」
「そんなわけ、ないじゃないですか」
「嘘つくなよ。いつも気持ち良さそうなくせに」


なんですか、その笑顔は。
普段は笑顔なんて見せてくれないのに、ずいぶん楽しそうに。


だか、ら、
強引にされるのは、イヤだって・・・




「ふ、うっ・・・んう・・・」



頭じゃなくて、今度は背中まで腕が回ってくる。
座ったままの僕を立っている彼が抱き締めてきて、
また唇に熱が戻る。
絡まってくる舌から逃げようとしても、
彼はどんどん深く入り込んでくるから、無駄だ。


「ん、んん・・・!」


彼の舌と、僕のが触れると、すごく変な気分になって、
反射的に体がびく、と跳ねてしまう。
それでも、
その感じは嫌いじゃなくて、
もう少しだけ口を開こうとしたときに、唇が離れた。


「は、あ・・・・・・っ」


もう、やめるんですか、
ああ、別に、残念なわけじゃなくて、




「あっ・・・、や、やめ・・・!」


熱く濡れた唇が、首筋を這う。
こんな、ところで、何を。
もうすぐ授業も、始まるのに。



「あうっ・・・!」



首を吸われると、意識が遠くなる。
目を開けていられないくらい、刺激が強い。
もう少し弱ければくすぐったいだけで、
もう少し強ければ痛いだけなのに、
どうして、知ってるんですか、あなたは。


「ん、んう、ううっ」
「首弱いな、古泉」
「や、やだっ・・・」
「耳も弱そうだし」
「やめ、てっ」


べろり、と耳たぶを舐められてまた鳥肌が立つ。
もうとっくにチャイムが鳴ってもいい時間だと思う、
何時だか分からないけど、
もしかすると気付かないうちに鳴ってしまったんだろうか。


「あ、ああ、や、や、だっ」
「古泉、古泉」
「喋ら、ないで、くださっ・・・」
「気持ちいいんだろ、古泉」
「ふあっ・・・!」



耳元で、その声で、名前を呼ばないで、
おかしくなってしまう、
頭も体も。



「俺はさ、お前が良けりゃ、いいんだ」
「あ、あうっ、あっ」
「もっと気持ちよくしてやるから」
「あ、ちょ、ちょっと、ま、待って」


体に力が入らないまま彼の腕に支えられて、床に倒される。
起き上がりたいのに、やっぱり力が入らない。



「ま、って、嫌です、僕、す・・・するのはっ」
「やらねえから、心配すんな」
「で、も」
「このまんまじゃ辛いだろ、どのみち」
「ひ、うっ!」



彼のひざが当たってくる、
キスをして、首と耳を舐められて、
そんなことを彼にされているのに、
やめてほしいと思っているのに、
それなのにこんな風に反応してしまうなんて、
すごく恥ずかしい。



「こんな、こと、しないで、くださいっ」
「キツそうだな、ここ」
「や、やだ、触らないで・・・!」
「いいから、お前はおとなしくしてろ」



ベルトが外される、脱がされる、それが分かるのに、
うまく抵抗できない。
学校で、よりによって部室で、こんなのは、おかしい。
キス以上のことなんてしたくないのに、
やめてほしいと言ったはずなのに、
どうしてこんなことになっているんだろう。



「うあっ・・・!」



直接、右の手のひらが触れる。
左手は、僕の頭の下にあって、
彼は僕のこんな様子を見ながら、右手を動かす。
そんなに、近くで見ないで、
こんな僕を見ないで、
恥ずかしいです、
こんなの、見られたくない。



「顔隠すなよ」
「っ・・・」
「腕も噛むな。ちゃんと見せろ」
「むりです、そんな、ああっ」
「じゃあ、キスしたいから、腕離せ」



キス、していれば、
声を上げなくて済むとか、
どうしてそんな風に考えてしまったのか、
僕は言うとおりに腕を離して、唇が重ねられるのを待った。


「ふうっ・・・」



押し当てられた唇の熱で溶けてしまいそうで、
何もできない、何も考えられない、全部が気持ちいい。
理性を保ちたいのに、できない。
少しだけ気を緩めてしまったら、
もうそこからは、戻れなかった。




「んんん、んううーっ・・・あ、あうっ」
「古泉・・・気持ちいいか?」
「う、あああ・・・」
「気持ちいいよな?」
「は、は、いっ・・・!」
「かわいいな、お前は」



ドキドキする、
彼に何か言われるたびに、心臓までおかしくなりそうだ。
抵抗なんかできなくて、僕は残った力で必死に彼の腕を掴んで、
至近距離で見られるのがたまらなく恥ずかしいから目を閉じて、



「あ、や、やあっ・・・も、もう、だ、だめ」
「我慢しなくていいぞ」
「う、うーっ・・・!声、でちゃう、からっ」
「ん?」
「く、ち・・、塞いで、くださいっ・・・ふ、ああ、」
「素直にキスしたいって言えよ、仕方ないな」



ああ、もう、だ、め・・・



「ん、ん、んうううー・・・っ!!」


体が、震えて、
意識が遠のく。
どうして、こんなに、
僕は、
もしかすると、
僕は・・・








「・・・・・・・・・」
「おい、何に怒ってるんだよ」
「・・・自分自身に、です」
「はあ?」



どうしてこんなことに。
今日こそはやめてもらおうと思っていた、それなのに。


携帯を見ればもう5時間目の授業が終わるところだ。
せめて次は出よう、それでなくても最近は神人退治で
授業を休みがちだというのに、こんなことで休むなんて、
もう、頭が痛い・・・。



「いいんじゃねえの、お前、楽しそうだったし」
「楽しくありませんっ!」
「んなわけないだろ、あんだけ気持ちよさ」
「やめてください・・・!」


両手で口を塞いで、彼の言葉を遮る。
僕はどうかしてる、
この部屋で、彼の思うがままに、されるがままになるなんて、
本当に、どうかしてる。


5時間目が終わるチャイムが鳴る少し前に部室を出ようと
ドアノブに手をかけると後ろから抱きすくめられて、阻まれた。


「何ですかっ・・・!」
「素直じゃないよなあ、お前は。とっくに俺に惚れてるって気付けよ」
「寝言は寝てから仰ってください」
「まあ、そんなところもかわいいけど」
「・・・っ!」


何を言っても無駄だ、そんなことは分かっていた。
腕を振り払って、足早に部室を出た。
彼は鍵をかけてから走り寄ってくる。
僕も足を早めたけど、すぐに追いつかれた。



「今度はもっと気持ちよくさせてやるよ」



ありえない捨て台詞を吐いて、彼は僕よりも先に階段を下りていった。
僕はその場から動けなくなって、結局6時間目も出席できなかった。
顔が熱くて、鏡なんか見なくても、赤くなっていると分かる。

どうして、どうして。


・・・とっくに、彼に?
まさか、そんなはずはない、
僕にはそんな趣味なんてない、

彼の声や、指や、匂いや、温度は好きだけれど、
でもそんなこと、あるわけない。



次は、絶対に、流され、ません!




thank you !

ツン古泉を書きたくてしょうがなかったんですが、
私が書くとどうも駄目ですね・・基本・受属性全開な。
キョンがオッサンみたいな台詞ばっかりですみません。

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