「なんつー人の数だ」
「すごいですね、皆さんどこから来たんでしょう」


12月になれば街全体が浮かれ出す、年末にあるイベントのために。
普段は何でもない通りにもきらきらとイルミネーションが輝いて、
その辺の店に入れば赤と緑の装飾で溢れ返っている。
イベントごとなんか興味ないし、面倒だと思っていたが、
一帯では有名な王道すぎるイルミネーションスポットに古泉と来ているのには、ワケがある。



stairway step1




「きっと僕たちみたいな人がたくさんいるんでしょうね」



一人で納得して頷いているが、
俺たち、みたいなのは、あまりいないと思うぜ。
男二人でこんなロマンチックな場所に来るようなのはな。
ナンパ目的で男同士で来ている奴ならいるかもしれん、谷口みたいな奴のことだ。
だけど俺たちはそうじゃない。




少なくとも俺はこいつに只ならぬ感情を抱いている。
普通なら打ち明けた途端に友情が破綻しそうな感情だ。




つまりは、
好きだ、という。
ライクじゃなくて、ラブの方。





元々は朝比奈さんのように優しく長門くらい小さくて
ハルヒみたいな美人な女子が好きだったはずだ、

はず、なんだが、



俺よりデカい上に常に笑顔で本心がちっとも見えてこない、
その割にはやたらと俺に近づきたがって懐いてくるもんだから、
だんだん古泉が近くにいることが当たり前になって、
近くにいないと物足りなくなってきて、
更には常に古泉の笑顔や揺れる前髪や指の長さばかり思い浮かべるようになり、
はたと気付いたときには後戻りできないくらいに古泉に惚れていた。





バレないように極力古泉にだけは冷たい対応を心がけていたのに、
ただ一度だけ、古泉がそれで寂しそうな顔を見せてきたことでぶっ壊れた。


「勘違いするな、俺はお前が好きだから冷たくしてるんだ」


なんてバカ正直なフォローをしたら腰を抜かして驚いて、
そこまで驚くことかよと苦笑しながら手を差し出せば、
頬を染めて何やら呟きながらその手を取った。
古泉が何を呟いたのかは聞き取れなかった。




「もう隠す必要もないな。そういうわけだ、俺と付き合え。古泉」


開き直って伝えた乱暴な愛の告白に、
古泉はすぐには横にも縦にも首を振らず、


「少し、・・・考えさせてください」



困惑:笑顔=7:3の割合で、そう答えた。






のが、つい1ヶ月ほど前のことで、
俺はほぼ毎週末古泉を遊びに誘っている。
古泉は全て断らずについてきて、
俺にだけ笑顔を見せる、俺はそのたびに好きだと思う。
また誘おう、今度は何をしよう何を話そう何を食べようなんてことを常に考えて、
考えた結果、クリスマス本番よりは少し早くこのイルミネーションを見に来ることにした。
この時期にこんなに人がいたら当日はどうなることやら。

しかしこのくらいの混雑は計算の内だ。
これだけたくさん人がいて、
両端から真上にかけてまばゆい光のアーチが出来ていれば、
誰もほかの奴が何をしているかなんて気にしないだろう。





手を、繋ぎたい。
そろそろ次へ進んでいいと思う。
こいつだって遊びに行くときは楽しそうにしてるからな。
満更でもないんじゃないかと、思っている。




「古泉、はぐれるなよ」
「イルミネーションに見とれていたら本当にそうなりそうですね、気をつけます」
「ん・・・」



変に意識してしまい、手を出しかけては引っ込めてる。
白いコートから伸びる手、寒いのにポケットに入れる素振りはない。
きっと、繋いでもいいってことなんだよな?



高まる心拍数を感じつつもやっともう一度、手を伸ばした。



「古泉」




少しだけ前を行く手を握る。
その手は冷えきっていて、触った瞬間あまりの冷たさに離してしまいそうになった。
よくこんなで、寒そうな様子を見せずにいられるな。
俺のほうが体温高いみたいだから、俺が、




「あの、何ですか?これ」
「え?」
「手。はぐれたりしませんから、離してください」









・・・・・・撃沈。




周りの輝きには負けないくらい綺麗な笑顔で言われ、
手はすぐに離した。
体温が急激に下がっていく。
一歩後ろを歩きながら、古泉が話すことに以降反応出来なかった。





「今日もお疲れさまでした。ではまた、学校で」


いつもと同じ別れの言葉を放って古泉は帰っていった。





別れた場所で立ち尽くしながら、
今までの1ヶ月間を思い出す。
古泉が俺に言った言葉を思い出す。
どうして今まで気付かなかったんだ。
どこへ行って何をして、俺がどんなに幸せな気持ちになろうと、
古泉から「楽しかったです」「またどこかに行きましょう」
なんて言われたことは、一度もない。
ないじゃないか。
俺が楽しかったから、古泉もそうだと勝手に思ってた。





じゃあなんであいつは俺の誘いを断らないんだ。
嫌なら、楽しくないなら、
・・・・・・。
これも機関から与えられた命令の一つ、ってことか?
だから一度も俺といるときに閉鎖空間に向かったことがないのか。
最中ハルヒから電話がかかってきて、
古泉との時間を邪魔されたくなくてかなり機嫌を損ねさせてから切ったことがあった。
切った後にまずいと気付いたが古泉が呼び出されることは、なかった。
その代わり平日は毎日のように駆り出されている・・・
俺とこうして二人でいることが、お前の任務なのか?






まだ、俺の予想でしかない、外れてくれればありがたい。
確かめるしかないな、古泉に。






電話やメールなんかで聞くのは無理だ、
顔を見ていたって本心が掴みにくいのに見ていなかったら
何も分からないに決まってる。
呼ばれたことはないがどこにあるかは大体分かる、
古泉の家に向かった。

もう夜も遅い。
迷惑になるだろうとは思ったがこんなもやもやとした気持ちのまま、
明日を迎えられない。





おそらくはここだろう、というマンションの目の前で古泉に電話をした。


『はい、古泉です。どうしました?こんな時間に』
「悪い、遅くに。あのな・・・今、家の前にいるんだが」
『はい?・・・誰の、ですか』


うっ。怒っている、ような、気がする。


「・・・お前の」
『どうして?』
「いや、話がしたいと思って」
『電話で十分じゃないですか。遅いですから、帰宅された方がよろしいかと。
 車、出しますよ。待っててください』
「いらない、話がしたいんだ、直接。少しでいいから」


くそ、なんで俺がここまで必死にならないといけないんだ。
惚れた弱みか、分かってる。



『はあ・・・分かりました。少々お待ちを』





外の寒さも相まって震えてきた。
これで尚更嫌われる、なんてことはないよな。
・・・なくはないか。
自分で呼び出したくせに冷や汗が流れてきて、
緊張しすぎて帰りたくなってくる。
それでもマンションの入り口から古泉が出てくるのを見て、
背筋を伸ばして姿勢を正し、待ち受けた。




「本当に来ていたんですね」
「そりゃ、嘘じゃないだろ」
「大丈夫ですか?震えてますけど」
「平気だっ」
「そうですか。では、外で構いませんか?近くに公園がありますから」



しまった、寒いと正直に言っておけば家に上がれたかもしれないというのに。
今更言えないから我慢、しよう。





すぐ近くの公園で、ベンチに座って、
そのベンチでも微妙に俺との間に距離を置いている古泉にショックを受けつつ、
俺は心を奮い立たせて聞いてみた。



「お前さ、・・・俺とのこと、機関に話したか?」
「ええ、話しましたよ。涼宮さん関連で僕の独断は許されませんから」


悩む間もなしかよ。
少しはためらってくれ。



「どんな風に?」
「あなたから好意を持たれているようですと。
 僕の上司は、現状維持が最大の目的ですから。
 断ることもせず、かといって受け入れもせず、現状を維持しろとの命令でした」





はっきり言いすぎだ・・・。



さすがに落ち込む。
先ほどの予想通りすぎて、落ち込む。




「分かっていただけました?ですので、あなたとどこかへ出かけたりする
 分には構いませんが、それ以上のことは遠慮させてください。
 僕も男なんで、ね」





笑顔だけはいつもと同じだ。

その笑顔が、
こんなことを言われれば、
憎たらしくもなるはずなのに、
ここまではっきり拒絶されりゃ諦められるはずなのに、
なんでだ、
それでも、



好きだ。






俺が何も言わないから話が終わったと思ったのか、
立ち上がって「では」と歩き始めようとした古泉の腕を掴んだ。



「俺は諦めないぞ」
「はい?」
「お前が俺に惚れるまで口説いてやる」
「は・・・」
「また毎週誘うからな!覚悟してろ!」





呆気に取られている古泉を置いて、
俺はその場から走り去った。
ちょうど古泉が見えなくなったあたりで、
緊張から開放されて気が緩んで転んだが、
見られていないはずなのでOKだ。




あいつの気持ちは分かった。
いつも断られなかったからいいのかと甘えていた俺が悪い。
これからはもっと本気で、古泉に接することにする。
現状維持?そんなこと言わせないぜ。
打破してやる、こんな現状は。
諦められないんだ。
俺はお前のこと、マジになっちまったんだ。
やれるところまでやってやるさ、
少なくともこれは第一歩だ。
階段で言えば一段上がったところさ。





頂上目指して、
どんなに時間がかかっても上りきってやる!





thank you !

またツン古泉に挑戦したくなって・・・(´∀`)というかノンケ古泉。
キョンが奮闘する予定です。キョンはとことん古泉がダイスキです!そしてポジティブw

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