前々から思っていたことだが、古泉はかわいい。
ハルヒや朝比奈さんのようにぱっと見てすぐに分かるかわいさというより、
顔がいいのは認めるがそれだけではなく、
俺にしか見せない表情を見せたときに特にそう感じる。


俺が古泉を意識し始めてからよく見てみると、そんな表情があるとわかった。
例えば二人きりのときに不自然にならない程度に古泉を誉めると、
呆気に取られたようにした後に少しだけ頬を赤くして照れ笑いをする。
そのときの顔は、ハルヒにどれだけ副団長としての功績を誉められようと、
朝比奈さんと至近距離まで近付いて台詞を交わしあおうとも、見せたことがない。



ふだんのうさん臭い笑顔なんかよりずっとよくて、
ふだんは聞いてもいないことばかり話すくせに、
そういう時は礼くらいしか言わないのも、いい。




古泉は俺が好き、のような気がする。
で、俺も結構、好きだったりする。
確かめるにも男同士だから、そう簡単には聞けない。
ただひたすら気持ちを隠しながら、
今日は昨日より古泉と長く話せたとかそんなことで喜んだりするような、
我ながら青い日々を送っていた。




あいつが、突然あんなことを言い出すまでは。




キューピッド






恐らく古泉は、俺の好意には気付いていない。
ハルヒの手前、邪険に扱わねばならない状況もある。



というのも前にこれはほんの冗談のつもりで、
とあるイベント中にハルヒの目の前で古泉に好きだと伝えてみたのだが、
想像を絶する閉鎖空間が発生した。
それ以来、世界のためにも古泉のためにも、
ハルヒの前では迂闊なことを言わないように気を遣っている。



しかしあのときの古泉といったらなかった。
顔を真っ赤にしてその直後事態に気付いて青ざめるという信号もびっくりの早業を見せつけた。
抱き締めたい気持ちを何とか必死に抑えたが、
もしあそこで抱き締めたりしていたら世界は終わっていたな。


そんなわけでハルヒに気付かれることだけは避けねばならない。



が、長門には気付かれた。


あの少し後に、
「あれは本気」
誤魔化すことは許さないとでもいうようにきっぱりそれだけ呟いた。
気圧されて
「ああ」
すぐに頷いてしまったのは仕方のないことだろう。



その長門が、衝撃を持ってきた。








「あれ、今日は長門オンリー?」


部室に入るとSOS団のエンジェル朝比奈さんや古泉の姿はなく、
ハルヒは授業終了と共に外に飛び出したのを知っている、
というわけで静かに本を読む長門だけがそこにいた。



「そう」
「来るのが遅くなったかと思ったがそうでもないみたいだな」




・・・あいつも、さっさと来ればいいのに。
早くまたゲームでもやろうぜ、
俺の向かいに座って微笑んでいつもみたいに負けてみせてくれよ。


ああ、早く、会いたい。




「古泉一樹に?」
「・・・ん、なに?」
「会いたい、と」



くっ・・・口に出してたか、今!?



考えるだけに留めるはずが、なんということだ。
長門には知られているとはいえ、やってしまった、失態だ。




「ま、まあな・・・」
「彼もそう思っている」
「・・・古泉、が?」
「常にあなたの傍にいたいと」
「な、」
「あなたに触れたい、触れられたい、と」



言葉が続かない。
待て待て、なんなんだいきなり!




「そっそれは古泉に聞いたのか?」
「そう」
「そんな馬鹿な」



俺じゃあるまいし、古泉が腹の内を長門に伝えるとは思えない。



「真実。信じて」
「うっ・・・」


しかしこの長門が、そんな嘘をつくとも思えない。
どうなってるんだ。





古泉が、俺に、ふ、触れたい、
触れられたい?
いかん、顔が熱い。
変な汗が出てきた。
それが本当、なら、
俺だって、
古泉に触れたい、
抱き締めたい、
口付けて舐め回したい、
あと、それ以上も、やれるならやりたい、
と思うのが高校生ってもんだ。
あいつもそんな風に思ってる、ということなんだろうか。



「あなたの方が少し過激」



・・・また口に出していたらしい。
地底まで続く深い穴を掘って埋まりたくなった。



「長門っ、こ、・・・古泉は俺のことが好きなのか」
「それは知らない」
「聞いてくれたり、するか?」
「構わない」



ブラボー、長門!


分かった、じゃあ俺は今日は早く帰ろう。
朝比奈さんが帰るタイミングに合わせて帰ろう。
古泉は引き止めて長門と二人きりにしなくては。




「しかし長門、どうやって古泉から聞き出したんだ」
「あなたと同じ。あなたが来る前にあなたが座る場所を見つめて呟いた」
「それはそれは」



聞かなくたって分かる。
古泉は俺に惚れてるんだ。
そうじゃなきゃそんなこと考えるものか、言うものか。
一応確認はしておきたいが。
しかし、まさか、古泉まで、


「長門、心の中を読んだりしてないよな?」
「していない」


うっかり考えてたことを口に出すようなところまで俺と同じというわけか。
これは付き合った方がいいな。そうするべきだ。





「みんないるっ!?」


その時ハルヒが部室の扉を力強く開けて登場して、
その傍らには涙目の朝比奈さんの姿もある。



「あら?古泉くんだけ、まだみたいね。まあいいわ、
 今日はみくるちゃんの撮影に行ってくるから自由!」
「あ、あの衣装は恥ずかしいですぅ〜」
「SOS団の躍進のためよ、我慢しなさいっ」
「あうぅ・・・」
「ハルヒ、俺も手伝う。荷物持ちが必要だろ」
「いい心がけね、ちょうどあんたに頼もうと思ってたの。
 じゃあ有希、古泉くんによろしくね!」
「了解した」



かくして俺は自然に三人で部室を出て、
あとは古泉さえ部室に現れれば作戦成功、といった状況を作り出せた。


頼むぜ、長門。








朝比奈さんの際どい撮影もしっかり楽しませていただいたのち、
帰ってからすぐに長門に電話をかけた。


『・・・』
「長門、俺だ。聞けたか、例の」
『聞いた』


心拍数が上がる。
結果は分かっている、
心配いらない、
だけど緊張する。



「で、古泉は何と」
『あなたが好きだと言った』



だ、よな。
そうだよな。
好きだよな。
あー・・・

携帯を持つ力すら抜けそうだ。感動で。





「サンキュ、長門」
『あなたの』
「ん?」
『あなたの考えも知りたいと言っていた』




それは俺から言うよ。
こんなのは初めてだからどうしても不安だったんだが、
これで自信を持てた。俺が言おう。正直に。




鉄は熱いうちに打たなければいけない。
長門との電話を切ってすぐに古泉に電話をかけた。



『はい、古泉です』
「古泉、俺だ」
『ええ、分かります。何かありましたか?』



俺から電話をかけるなんてあまりないから、やや緊張した声色だ。
違うんだ古泉、俺は、またハルヒのことで相談したいわけじゃなくて、




俺とお前のことで、

俺、


「お前が好きだ」



こんなに直球ど真ん中に打つことなんかないから、聞いてくれ。



『え、えっ?』
「俺はお前が好きなんだ、めちゃくちゃ好きだ、あー、好きだ」
『え、え、え』



普段は動揺など見せない古泉が電話口で慌てている。
やっぱり直接言えばよかった、そんな表情も見たかった、
でも一秒だって我慢出来なかった。


だって両思いだぜ。それを確信したんだ。
伝えずにいるなんてもったいないじゃないか。




『あ、あの、僕、古泉ですけど、間違ってません?』
「間違えるかよ。俺は古泉が好きなんだ」
『すず、みやさん、じゃ』
「ハルヒじゃなくてお前だよお前」
『そんな・・・』
「他のことはもうなんでもいい、なんとかなるから、・・・お前も好きだろ」




息を飲む音。
古泉が言葉に詰まる。
不安にはならない。
長門の言葉は短いながらも信用できるものだから。



急かしたりせずにただ待っていると、
古泉が息を吸った。




『すき、です』



ああ、知ってる。




『ば、罰ゲームとかだったら、僕、怒りますから』
「そんなのじゃねーよ、馬鹿」
『・・・いつから、そんなふうに・・・』
「前に好きだって言ったときはもう、だな。それよりだいぶ前からだ」
『そんなに、ですか』





参った、
今すぐ会いたい。
抱き締めたい。
古泉、古泉、古泉。



「今から会えないか」
『は・・・はい、僕は、何時でも。
 あなたは平気ですか?こんな時間に外出なんて・・・』
「何とかするさ。いつもの駅前で」
『はい』





玄関先でちょっと出てくるとだけ叫んでから走って家を出た。
帰ってからオフクロに叱られたって構いやしない。
自転車に飛び乗って下り坂をハイスピードで駆け下りる。
新幹線だって追い越せるような勢いだ。


駅に着くとそこにはもう、古泉の姿があった。
俺もかなり飛ばしてきたのに、早いな。
俺に早く会いたかったんだろうかと思ったら体の奥のところが何やら熱くなる。



「こいず、み、待ったか、すまん」
「いえ、先ほど着いたところです。息切れてますよ、大丈夫ですか」
「もちろん」
「・・・本当に来てくれたんですね」



また、照れたように笑う。
俺の好きな古泉だ。
時間も遅くて大して人通りも多くはない、
多かったとしても俺を止めるものは何もなかった。



「・・・!」



(仕方ないので)少し背伸びをして、古泉の体を抱き締めた。
古泉の体温が伝わってくる。
古泉の匂いもする。


ずっと俺は、こうしたかった。
で、相手が古泉じゃないと駄目だったと、はっきり思う。



「だ、誰かに、見られ、たらっ・・・」
「うるさい。知らん、そんなの」



ハルヒにさえ気付かれなきゃ、いいさ。
そんなのは簡単だ。
要はお前を守ればいいんだろ。
やってやろうじゃないか。




「だ、だめです、こんなところでっ」


頭を両手で固定して唇を近づけようとすると、顔を背けられた。


「それに、も、もっと、ゆっくり・・・」
「・・・お。おう」




急すぎたか。
そりゃそうか。
俺はずっとしたかったけど、
こいつにとっては俺の気持ちを知るのも初めてだし、
長門が言うには俺の願望の方が過激らしいからな。
出来ればこの後古泉の家にでも行って、
やれるもんならやっちまおうとか思っていたわけだが先走りすぎたようだ。
仕方ない、今日は一人でやることにしよう。



「あの、でも、嬉しかったです。これから・・・よろしくお願いします」
「ああ」



こんなときまで丁寧な奴だ。こっちまで赤くなってくる。


飛び出してきたものの古泉が隣にいて、
こっちもあっちも気持ちが分かった状態で、
何もしないというのは耐えられないので名残惜しみながらも帰路についた。
改札に入った古泉が見えなくなるまで見送って。
俺はまた、自転車に乗ったが、さすがに行きほどのスピードは出ない。




いつになったら先へ進んでいいものか。
あいつはどんなときにキスしたくなるんだ。
そんなことばかり、
火照った顔を夜風で冷ましながらずっと考えていた。





また長門に、聞いてみるか。
結局あらゆることで長門の世話になってる気もするが、
今までの付き合いから分かる。

あいつもちょっと、楽しそうじゃないか?




thank you !

長門が好きだけどうまく登場させられてないし、使ってみよう、と思って書いてみました。
ギャグで落とそうと思ってたのに見事に馬鹿二人(好きすぎ)ですみません。
オチも意味も何もないバカップル話になってしまいましたよ・・・

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