ちょっとした手違いだった、
としか言いようがない。



「好きです、付き合ってください」



なんて台詞を真っ赤な顔で言われた、
人生で最初の相手は男だった。
しかも、古泉、だというのは、
どういった情報の齟齬なんだ、長門。



そしてそこで、
常に張り付いたままなのかと思っていた笑顔が吹っ飛んだ古泉が、
かわいいかもしれないなどといった気持ちになってしまい、
何を血迷ったのか首を縦に振ってしまった。



「ほ、ほんとですか・・・?うれしい、ですっ」


泣きそうな顔で抱きついてきた古泉を抱き返したのも間違いだ。
間違いに違いない。
その後日求められるがままにキスをしてしまったのも事故だし、
体をまさぐりあって興奮してしまったことは何かの偶然だ。




こんなのはただ一時の気の迷いに違いない。
そうさ。そうに決まってる。




一時一生




一週間前から、
放課後に非常階段で、部室に行く前にいつもやっている。



昼休みになれば購買に行くような、
授業が始まれば眠気に襲われるような、
それと同じような感覚でやっていた。
二言三言交わした後に、古泉が前かがみになって俺に唇を押し当ててくる。


自分からしてくるくせに震えているから俺が頭を抱えてやって、
唇を開かせて舌を入れて、
舌の先から奥まで味わって、
気付けば息をするのも忘れるくらいに古泉を求めたりしていて、
そのうちに何をやってんだ俺はという考えが消えていき、
きっちりと締められたネクタイをやや強引に緩めさせてボタンを外す。
唇を離す頃には古泉のことで頭がいっぱいになって、
首筋に噛み付いて舌を這わせる。
びくびくと反応して力がこもる古泉の指がたまらない、
吐かれる息も、もっと熱くしてやりたいし、



「ふ、ぁっ」



声ももっと聞きたい。
シャツを捲って直接肌に触れて撫でる、
一週間で分かった敏感なところを爪で引っ掻いて、
古泉の呼吸を荒げていく。



「あ、あっ、あう」
「古泉、気持ち、いいか?」
「はい、はいっ・・・もっと、したいですっ」
「ん・・・」



階段の踊場に押し倒す。
冷たいコンクリートだから、ちょっと可哀想だけど、
すぐ熱くしてやるから、我慢しろよ。


足を割って入って、
古泉なんぞで興奮しちまった下半身を押し付ければこいつだって同じ反応をしてるから、
擦れ合うともうどうにでもなれ、
気持ちいいものは気持ちいいんだから仕方ないだろと自分自身に言い訳をして、
声を抑えきれなくなっている古泉の口を唇で塞いでやる。



さすがにこれ以上はこんな場所ではやれないが毎回ギリギリで、
古泉を先に部室に行かせて便所に駆け込むことも少なくはない。



「ん、んう、うっ」



まだこれ以上のことはやってない。
古泉に何度か家に誘われはしたが、断ってきた。
男同士なんだから、やりすぎはよくない、
告白を受けるのも付き合うのも素肌に触れるのも
古泉が初めてになっちまったのはもう戻せないことだから諦めるが、
そんな経験まで古泉で済ませるってのはさすがにまずい。


と思ってたはずだ、
こいつにキスしたり触ったりしなきゃ、冷静に考えられるのに、
だんだん頭がぼんやりしてきて、
やってもいいかとか思い始める自分がいる。
何を失うわけでもない、童貞なんか守ったって仕方ないし。




「ん、こい、ずみっ・・・」
「ふあ、あっ、すき、すきですっ」
「今日、さ、お前んち、」
「は、はいっ・・・」



いやいやいやいや。
やっぱり駄目だろう。
相手は古泉だぞ、男だぞ、
俺と同じ体なんだぞ、
俺ならイヤだ、
女みたいに扱われるなんて絶対にイヤだ。
どうやるのかも知らないし、
そんな知識を得たくもない。



ぶるぶると頭を振って、古泉から体を引き剥がした。



古泉の腕を引いて起き上がらせてやると、
赤くなった頬と濡れて光る唇と少し潤んだ目で、俺を見てきた。
なんだその顔は、
そういうのは男がするものじゃないぞ。
分かってるのか?
お前、男なんだぞ。
俺にこんなことをされて喜ぶなんて、どうかしてる。



「・・・来ませんか?今日」



言われると思った。
誘われると思った。
物足りないと顔に書いてある。
こいつはもっと俺とやりたいと思ってるんだ。
というよりは、やられる、
今までの流れからいって古泉が下なのは明らかだ。
やばいだろ。
これからずっと男しか相手にしない気か。



「いや、遠慮しておく」


見ているとまたおかしな気持ちになりそうで、目を逸らした。
傾きかけている太陽なんかを見て、
雲ひとつない晴天を見て、
自分の行為の愚かさを反省しよう。


やめたほうがいいんじゃないか、こんなことは。
責任なんか取れない。
いくらこいつがやりたいと言っても、だ。
直接やりたいなんて言われたことはないが。
これが全部俺の考えすぎて、
古泉の家に行ったら茶を飲んでゲームをするだけ、
だったら笑い種だけどな。




「来てください」



いつもはすぐに引き下がるのに、今日に限って、
古泉は俺の腕を弱々しく掴んできて、
しかもその顔は先ほどよりも赤くなっている。
こりゃ、ゲームをやって終わりって顔じゃない。



「古泉・・・」
「したいです、僕」
「簡単に言うなよ」
「だって、我慢、できません。毎日これだけなんて、つらいです」



正直にも程がある。
そりゃ俺だってつらくないことはない、
しかし、
この先がお前にとって気持ちいいかどうかなんて分からないじゃないか。
やるってのはだな、
俺のをお前に入れるってことだぞ、
絶対気持ちよくなんかない。
痛いに決まってる。誰が考えたって分かる。
何が悲しくてお前に痛い思いをさせなくちゃいけないんだ。



なんてことを、全部言ってやらないとわからないのか、こいつは。



「来て、ください・・・」



泣きそうになるな!

ああくそ、


なんでまた抱き締めてるんだ。


駄目だと思ってるのにまた口付けて、



「ん、うっ」



体にこもった熱がまた上がっていく。
泣くな泣くなと思いながら必死に頭とか背中を撫でて、
口の中を溶けそうになるくらい舐め回してから、
耳を噛んでから小さく、
分かったから、じゃあ、今日は一緒に帰るぞ、と
言ってやると、
その耳まで赤くして抱きついてきた。
単純な、奴だな。
どうなっても知らんぞ。
なるべく頑張るけど、俺、わかんねえし。
それで全然駄目だったからって簡単に見限るんじゃないぞ、
何回かやりゃ俺だってうまくやれるようになるだろうからさ。



部室に二人で向かう間、古泉はやたらと足取りが軽く、
後ろから見ている俺の方が照れる。
そんなに嬉しいものなのか。
俺は不安で仕方ないよ。
お前がどうやったら痛くなくなるのか、良くなるのか、
想像もつかないんだ。
お前が少しでも調べたんだったら恥ずかしがらずに言ってくれよ、
痛い思いなんかさせたくないし泣かせたりしたら最悪だ。



全く、
なんでこんなに俺がお前のことで頭がいっぱいにならなきゃいけないんだ。
お前とのことなんて何かの間違いなのに、
若さゆえの、過ち、と言ってしまうのは抵抗がある、
抵抗があるってことは過ちだと思ってないのか?
そんなまさか。




部室でもぼーっと古泉のことばかりを考えていると、
ハルヒと朝比奈さんが何やら騒がしくしていて、
内容は全く分からなかったのに、
ただ一つの台詞だけが聞こえてきた。




「みくるちゃん!一時の気の迷いなんて、そんなものはいつだって
 一生モノになっちゃうんだからね!!」




マジか、それは。
一生モノって、勘弁してくれ、ハルヒ。




お前がそんなことを言う前に、
俺もそんな予感がしてたんだ。
やっぱり、そうなるのか。


気の、迷いが。



笑顔でこちらを見ながら完全に負けゲームを楽しんでいる古泉を、
愛しいとか思っちまうこの感情が。




thank you !

流されツン古泉を書いたので流されツンキョン・・(´∀`)
しかしまあうじうじしてますねツンキョン。
服着たままハァハァする様子が書きたかった話です(変態です)

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